ノートを活かす条件は?
三話に欠落か所あり追加しました。すいません。
黒歴史ノートの研究が終わるまで、これからの事を話し合う事になった。
「お前達、四人にはうちのギルドに所属してもらう。こうすりゃ、国も手を出せない」
源治の言葉を聞いて胸を撫で下ろす。しかし、油断は禁物だ。
「それは助かるよ。でも重吾ならともかく、俺は戦力にならないぞ」
重吾は剣道の経験があるから、即戦力になるかも知れない。でも俺は格闘技の経験どころか、喧嘩すらまともにした事がないのだ。ついでに極度の方向音痴だから採集クエストなんて行ったら、絶対に行方不明になる。
「その点は心配するな。異世界から来た人間には、強力な加護が与えたられるんだ」
前も聞いたけど、神使のメリットは何なんだろうか?普通なら自分を信仰する人間に加護を与えると思うんだが。
「加護をもらうには、神使に認めれないと駄目ってオチじゃないだろうな?」
逮捕された事も警察の厄介になった事もないが、俺は清く正しい人間ではない。人を憎む事あれば、妬む事もある普通の人間だ。神使様に好かれる自信なんて、これっぽちもない。
「光の字、どこで神使様の話を聞いたんだ?俺は神使が加護くれるなんて、一言も言ってないぞ」
「ギルド金色の風に所属する戦士のケイン・スフィ―ルって子から聞いたんだよ。そういや銀貨三枚っていくら位なんだ?」
しばらくこの世界で生活しなきゃいけないと思う。その為には貨幣価値を知っておく必要がある。
とりあえず、ケインさんと知り合った経緯を伝えた。
「金色の風……チーケアさんのとこか。これは一万ストーン硬貨だ。ちなみに、ゴブリンを倒せば百ストーンの報酬だぜ」
ゴブリン一匹百円かよ。冒険者って実入り悪くないか?
「つまりこれは口止め料込みって事か……しかし、ゴブリンの報酬って安いんだな」
ケインさんが受けた依頼はコーリン村周辺の魔物退治と村人の安全確保。もしマリーさんがゴブリンに殺されたら、依頼は不達成になるしギルドの評判も落ちると思う。
「後は彼女を守ってくれたお礼だな。ゴブリンは素材としての価値がないし、取れる魔石も小さいんだよ。それと外では神使様って呼べよ。こっちの世界の人間は信仰心があついんだ。神使なんて言葉聞かれたら、殺されても文句言えないぜ」
素材か。まさか魔物の肉を食べる習慣なんてないよな。グロ耐性ないから血抜きなんて無理だぞ。
「魔石?宝石みたいな物か?」
あの時ゴブリンは消し炭になって石なんて残らなかったけど。
「魔石は魔族や魔物の体内で精製される石だって言われている。物によっては宝石より価値があるぜ。使い道も様々。燃料にもなるし、触媒にもなる。当然、宝飾品としても値段がつく」
「源治さん、頼みます。神使様と契約する方法を教えて下さい。私には生徒を守る責務があるんです」
重吾はそう言うと源治に頭を下げた。ある意味自分も巻き込まれた様なものなのに、骨の髄まで先生なんだから。
「重の字、頭を上げろ。神使様の加護を受けるには、あるダンジョンの最深部で祈りを捧げる必要があるんだ。出る魔物は弱い奴ばかりだけど、きちんと鍛錬を積んでから挑戦してもらう」
鍛錬って俺はなにすれば良いんだ?今から剣を習っても、実戦で使える様になるには時間が掛かると思う。
「それならコウガ殿は儂が鍛えるとするか。ゲンジ殿、良いな?」
声を掛けて来たのはイーロヒさん、その手には黒歴史ノートが握られていた……まさか?
◇
イーロヒさんに連れられてやって来たのは、ギルドの鍛錬場。人型の石像が何体も置いてあった。
「この魔導書には、数多のオリジナルスペルが記されておった。威力が強いだけでなく、多岐にわたっておる。上手く使いこなせれば、一角の戦力になるじゃろう」
つまり僕の考えたさいきょ―魔法が、実際に使えると……絶対に嫌です。
こっ恥ずかしい詠唱ばかりなんだぞ。
「それじゃ光の字は試練のダンジョンに行かなくてもいいのか?」
それが良い。俺は大人しく荷運びのバイトでもしている。
「いや、今使えるのは一部の魔法だけじゃ。神使様の加護が与えられて、初めて本来の力が発揮されよう」
されなくて良いです。今使える魔法を工夫して、なんとかしますので。
神使の試練に合格したら、冒険に出なきゃいけないんだろうか?無理です。俺は安全第一なので。
「ちなみに今使える魔法って、なんですか?」
頼む。詠唱が恥ずかしくないやつであってくれ。
「ファイヤーボール・アイスジャベリン・ウィンドブレイド・ストーンブリット・ライトアロー・フォトンレーザーの攻撃魔法六種。万能翻訳魔法、どこでもナビ・ちょっと小休止の支援魔法三種。暑くても寒くても快適に過ごせるスーツとシャツ・魔法を防ぐマジックシールド・無限収納袋のマジックアイテム三種じゃ」
光属性だけ、二つ使えるらしい。光牙だけに、光属性が得意なんだろうか?
魔法の名前、英語辞書と格闘して考えたんだよな……重吾の視線が優しくて逆に辛いです。
でも、後から付け加えたのも、使えるのはありがたい。特にどこでもナビはありがたい。これで迷子にならず済む。
「もう五属性使えるのか……実際のどれ位の威力があるか見せてもらえるか?」
源治君、ここには生徒さんもいるんだよ。旧友に恥を掛けって言うのかい?
「僕、魔法見てみたいです。平野さんお願いします」
薬師君、そんなキラキラした目で見るのは止めて下さい。汚れきったおじさんには、眩し過ぎます。
「光の字、ライトアローを使ってみてくれ。お前の魔法が使い物になれば、試練のダンジョンの攻略が楽になる。いいか、これはギルド長としての命令だ」
源治はいわば社長だ。逆らえる訳がない。ここは覚悟を決めよう。
「光よ。矢に変じて我が敵を打ち砕け……ライトアロー」
詠唱を少しだけ、省略する。それでも恥ずかしさで顔が真っ赤だ。しかし、光の矢は現れなかった、これじゃ恥をかいただけじゃん。
「光牙さん、貴方……いいえ、お疲れ様でした」
重吾は最初ドン引きしていたが、直ぐに俺を労わってくれた。労わらなくて良いから、いじって下さい。それが救いなのです。
「駄目じゃ。魔導書とシンクロしておらぬ。もっと感情を籠めるのじゃ」
シンクロ?魔導書と同調なんて出来ないぞ。
「光の字、それを書いたのは、中坊の時なんだよな、それなら頭を中坊に戻せ。そうすりゃ、魔導書が応えてくれる」
ギルド長、三十五歳のおっさんに厨二なれと言うのですか?誰か助けてくれる人はいないかと辺りを見回す。
「……あの、ごめんなさいー。そのー……頑張って下さいねー」
陽向さんに救いを求めるも、申し訳なそうに目を逸らされた。
「光牙さん、頼みます。生徒の命が掛かっているんです」
重吾はそう言うと、俺に頭を下げてきた……やるよ、やりゃ良いんでしょ!
左手に黒歴史ノートを持ち、右手の人差し指で石像を指さす。
「汝は命を慈しみ育てる万物の母。その名は光。我、願う。ここに顕現し、光の矢へと変じて敵を打ち砕け……ルァイト-アロォッー!」
いっそうの事失敗してくれれば良かった……どう考えても、ど壺にはまったってやつだ。
「凄い!平野さん、凄いですよ。光の矢が、石像を打ち砕きました」
薬師君の言う通り、俺の放ったライトアローは石像を粉々に破壊した……きっと石像の耐久性が落ちていたんだ。
「流石だな……光の字はイーロヒの爺さんについて魔法の練習。重の字は、俺が鍛える。剣道で基礎が出来てるから、直ぐにものになるだろ。落ち着いたら、座学でこの世界の事を教える」
重吾君だけで十分だと思います。でも、そうは問屋が卸さず、俺はイーロヒさんのマンツーマン授業を受ける事になった。
五本の指に入る人から直接指導してもらって「やっぱり無理です」は通じないだろうな。
ちなみに薬師君と陽向さんは適性をみてから訓練するそうだ。転移時に、初歩的な加護は与えれているとの事。
「攻撃魔法は練習すれば問題ないじゃろ。まずマジックアイテムの検証をするぞ」
イーロヒさん、ウキウキです。これ位魔法が好きじゃなきゃ一流にはなれないのか。
俺が今使えるマジックアイテムは暑くても寒くても快適に過ごせるスーツとシャツ・魔法を防ぐマジックシールド・無限収納袋のマジックアイテム三種。でも持っているのはスーツとシャツだけだ。
「しかし無限収納袋を持っておるとは。あれは冒険者垂涎の代物なんじゃぞ」
そんな便利な物は持っていませんが。
「俺が今持っている袋はこれだけですよ」
通勤鞄からエコバックを取り出す。せっかく色々買ったのに、全部なくなった。
「それが無限収納袋じゃよ」
まさかエコバックが無限収納袋に変化?鯖缶と念じながら手を突っ込んでみると、鯖缶が出て来た。
転移した時にエコバックが無限収納袋に変化したのか。中の物は落としたんじゃない。収納されたんだ。
「それじゃマジックシールドは……まさかね?」
でも、それっぽい物一つしかない。
「その鞄がマジックシールドじゃよ」
イーロヒさんが俺の通勤鞄を指差す。服はスーツ、手には通勤鞄って、どう見ても通勤のサラリーマンじゃないか。
明日七時に更新します
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