表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒歴史ノート持って異世界へ  作者: くま太郎
4/19

意外な再会

三話欠落部分を追加しました

 改めて見ると、中々シュールな光景だ。騎士が取り囲む石造りの部屋にいるのは、制服を着た八人の高校生と二人の教師。それに安物のスーツを着たサラリーマン……どう見ても騎士の方が強いと思うんだけど。本当に俺達が必要なのか?


「それで王の部屋にご案内致します」

 フィルさんの案内で部屋を出る。そこに広がっていたのは、正にファンタジーな世界。

 リアル騎士の他に魔法使いや神官もいる。

 そして、もちろんリアルメイドさんまでいました……これは俺専属のメイドさんがつくパターンなのでしょうか?

(しかし、騎士さん達の視線が痛いな。逆に魔法使いは誇らしげと……異世界も人間関係がギスギスしてんな)

 まあ、騎士にしてみれば戦力外通告をされた様なものだ。逆に魔法使い達は無事異世界人を呼ぶ事ができ得意満面なんだろう。

 一際、厳重な警備が敷かれた部屋の前に来ると、フィルさんの足が止まった。


「フィル、ご苦労様でした。謁見の間で王がお待ちです」

 話し掛けて来たのは、高価そうな服を着た青年。イケメンな上に、侵し難い高貴なオーラを纏っている。


「ジード王子、勿体ないお言葉……身に余る光栄でございます」

 そう言って微笑むフィルさんの頬には朱がさしていた。イケメン+王子では、どう足掻いても勝てません。


「二ホンの皆様勝手なのは承知ですが、王の言葉を聞いて下さい」

 そう言うとジード王子様は、優しく微笑んだ。でも、その目は笑っていない。まるでゴキブリかどぶネズミを見る様な目だ。

(お偉い王子様にしてみりゃ、異世界人なんて下賤の者とは関わりたくないってか)

 平民にお願いをするのは嫌なのか?それとも異世界人その物が嫌いなのか?

 どっちにしろ、あまり関わらない方が賢いと思う。

 ジード王子の先導で部屋の中へと入る。

 豪華絢爛、その言葉しかない。壁や柱には細やか装飾が施されており、金や宝石が惜しげもなく使われている。

 警護している騎士はイケメン揃いで、居並ぶ侍女は選りすぐりの美女ばかり。しかし、肝心の王様は残念というか何と言うか。

 顔は整っているが、内臓が悪いのか肌の色が悪い。何より目がドロリと澱んでおり、生きる屍の様に見える。


「勇者様達、私がこの国の王バリイでございます。フィルから話を聞いていると思いますが、プレローは魔族の侵攻により、未曾有の危機に直面しています。しかし、異世界の勇者様がおれば、魔族なども恐れるに足らず。皆様の手でこの国に平和を取り戻して下さい……あっさり、信じおって愚か者が」

 王様、本音が駄々洩れですよ。しかし、俺以外には聞こえていないのか、全員ノーリアクションである。


「良いぜ。魔族だか何だか知らねーが、俺がしばいてやんよ」

 威勢の良い発言をしたのは、龍児君だ。君の自信はどこから、来てるんですか?


「争いは嫌いですが、平和の為ならこの勇籐いさふじただし、剣を振るいましょう」

 続いたのは正統派の美少年だった。凛とした雰囲気を纏っており、優等生って感じだ。


「流石勇者様、頼もしいです。さあ、この後は歓迎のパーティーを用意しております。どうか我が臣下と語らい、安心させてやって下さい……女をあてがえば、もっと調子にのるだろうな」

 おいおい、日本組だけじゃなく騎士もノーリアクションかよ……いや、良く見ると騎士の口元が醜く歪んでいる。つまり、プレローサイドは王が何を言っているか分かっていると。


「フワ殿、今は大事な客人をお迎えしておりますので」

 訳が分からず混乱していると、ジード王子の慌てる声が聞こえてきた。


「大事な客人って書いて日本人って読むんでしょ?きちんと、令状もあります……こりゃ、大勢連れて来たな……王様、この中から数人預からせてもらいますよ」

 部屋にズカズカと入って来たのは、髭面の大男……どこかで見た事があるよな。


「ゲンジ殿、王家には王家のルールがございますので」

 王様、超不機嫌。でもゲンジって奴に、遠慮しているのが分かる……フワ・ゲンジ……?


「源治!なんで、お前がここにいるんだよ」

 顔を見て確信した。こいつは、高校で同級生だった不破源治だ。


「ああん?お前、こうの字か!老けたし、太ったな」

 そりゃ十八年近く経っているんだ。老けるのは、当たり前だ。それと太ったんじゃない。貫禄が付いたって言って欲しい。


「中年太りさ……そうだ、重吾もいるぞ」

 でも源治や重吾には、無駄なお肉がない。それでいて俺以上に立派に見える。脂肪転移魔法とかないかな。


「おー、じゅうの字だ……しかし、光の字も転移してきたか。かなり、まずいな」

 源治はそう呟くと、王様に近寄り耳打ちをした。そして青ざめる王様の顔。まずいと言われて俺の顔も青ざめる。


「ゲンジ殿、それは誠か!」

 王様は源治の無礼を咎めない……もしかして、十数年前に来て魔族を撃退した異世界人って源治の事なんだろうか?


「おっと、それ以上はアウトですよ。コウガ・タナカとジュウゴ・イスルギの二名はうちのギルドで預からせてもらいます。文句はないですね」

 俺としては王様より源治の方が信頼出来るから、ありがたい。


「ちょっと待って下さい。私は生徒から離れる訳にはいかないんです」

 しかし、重吾は反対した。さすがは堅物先生。俺なら秒で見捨てると思う。


「だったら元屋先生に付いて行く生徒は城に残る。重吾に付いてく生徒は、源治のギルドに来る。それで良いんじゃないか?」

 きっとあの、龍児って生徒とは元屋の方に付いていくだろう。実は、それが狙いの提案だったりする。

 結果、重吾に付いて来たのは二人。眼鏡を掛けた気弱そうな少年と丸顔で癒し系の少女。二人に共通しているのは、大人しそうだって事くらいだ。


 ◇

 まじで、ここは異世界だったんだ。建物は石やレンガで作られており、外国の古い町並みの様だ。

 しかも、地球のどこの国でも見る事が出来ない人がいたのだ。


「ギルド長、やっぱりニホン人がいたのかい?」

 源治を迎えに来た馬車を操っていたのは二十代前半の女性。切れ長の目を持った中性的な美人である。

(獣耳がある……本物の獣人だ)

 空の様に真っ青な髪から、猫の様な耳が生えていたのだ。眼鏡の少年も獣耳に気付いたらしく、感動しいてるのが分かった。


「全部で十一人もいたぜ。でも、早めに動いて良かったよ。こっちの堅物がジュウゴ・イスルギ。そっちの何の特徴もないおっさんがコウガ・ヒラノ。二人共、俺のダチだ」

 説明適当過ぎるだろ!俺をランクで表現すると顔D・頭脳C・運動神経Dそんな感じになるだろう。

 特徴は、良く優しそうですねとは言われる。早い話が特段褒める所もないおじさんなのだ。源治の説明、合ってるじゃん。


「ルイネ・サンダー、虎人だ。よろしく頼む」

 虎人、いわゆるワ―タイガーって奴か。ルイネさん、キラリと光る牙の迫力が凄いです。


「石動重吾、数学教師をしています。眼鏡を掛けている男子生徒は、二年生の薬師くすしゆう。美術部に所属しており、成績も優秀です。優しいのは、良いんですが少し積極性に欠けるのが心配ですね。女子生徒の名前は陽向ひなた珠美たまみ。料理部に所属している二年生です。誰とでも分け隔てなく接しますが、人に気を使い、自分を殺す所が心配ですね」

 詳しいので重吾のクラスかと思ったら、違うらしい。


「田中光牙、しがないサラリーマンです……独身、彼女なしです」

 やばい、言う事が見つからない。趣味を言っても意味ないし、異世界じゃ光の牙って書いてコウガって掴みも使えない。

 良く考えたら、俺が独身なんて情報いらないよね。


「光の字は、独身か。それなら安心だ。それで、なんで転移して来たんだ?」

 源治は俺が独身だと聞くと、露骨に安堵していた。まあ、日本に女房子供がいたら大変だし。


「源治も独身だぜ。源治のクラスにやって来た留学生が原因みたいだぞ。俺は巻き込まれただけさ」

 良い年したおっさんが白線踏み外したから、異世界に来ちゃったなんて言える訳がない。

 重吾の話によると、例の空き家にはプレロー王国の人間が住んでいたらしい。

 龍児の付き添いで家に行くと他に生徒が数名いたとの事。

 龍児を始めとする生徒や元屋先生は個別に勧誘されていたらしい。重吾だけは生徒が心配で保護者として付いてきたそうだ……重吾、はめられたんだな。


「フィル・フネ―トルは宮廷魔術師の一人娘さ。召喚は禁止されているけど、自らの意思で来たのなら、違反ではないとか言うつもりなんだろ。とりあえず詳しい事は、うちの魔導士が対応する」

 宮廷魔術師、それグレー過ぎだろ!


 ◇

 同じ高校を卒業したのに、どこでこんなに差がついたんだ?


「でけえ……ここが源治のギルドなのか?」

 そこにあったのは三階建ての建物。玄関の上には、ドラゴンの紋章が掲げられている……ギルドって儲かるのね。


「ここが俺のギルド“龍姫の顎”だ。一階が受付けと共有スペースで、二階と三階はメンバーの居住スペースになっている。ルイネ、イーロヒの爺さんを呼んできてくれ」

 共有スペースは食堂と酒場を兼ねているそうで、幾つもの机や椅子が置かれていた。


「ゲンジ、待ちかねたぞ……ほう、面白い気を持っておるの」

 現れたのはフードを付きのローブを着た老爺。これぞ魔法使いって感じだ。


「イーロヒの爺さんは、大陸でも五本の指に入る魔導士なんだ……爺さん何か分かったか?」

 大陸か。この世界での移動手段ってどうなっているだろ?ドラゴンとか乗れたりして。

 でも大陸で五本の指に入る人だと、給料が高そうだ。そんなイーロヒさんを雇えるって事は、竜姫の顎は優良企業なのでは……コネをフル活用して雇ってもらおう。


「多分、移動が成功したのは、この男が原因じゃな。詳しい事は儂の部屋で話す」

 そう言うとイーロヒさんは俺を指差した……俺、巻き込まれただけで、何もしてないのに。


 ◇

 やばい、テンションが上がる。イーロヒさんの部屋には、様々な物が置かれていた。宝石のついた杖に巻物スクロール。驚く程巨大な鱗に、人の形をした植物の根。


「コウガと言ったの。どうやって、転移したのか詳しく聞かせてもらえるか?」

 部屋にいるのはイーロヒさんと日本組……白線踏み外したらは、流石に言い辛い。


「光の字、大事な事だから、出来るだけ詳しく話してくれ。悪い様にはしない」

 今の俺にとって源治は命の綱だ。もうやけだ。

 俺は意を決して白線を踏み外さなかったら、契約が成功。踏み外したら異世界に転移するっていう願掛けをした事を伝えた……そして、しばしの沈黙。


「光牙さん……白線を踏み外したら、異世界に転移って中学生じゃないんですから」

 重吾君、憐れみを持った目で俺を見るのは止めましょう。心が痛くなります。


「今回は大きな契約だったんだよ。マジで異世界転移するなんて思わないだろ。俺は巻き込まれただけ!異世界転移なんて偶然だって」

 成功すればヒラを脱出出来たかも知れないのに。ヒラの係長って、掴みが出来ると思ってたんぞ。


「分かります。僕も良くやりますよ」

 薬師君、フォローありがたいけど、俺良い大人なのよ。


「魔術に偶然はない。全ては必然じゃ……まだ何かあるじゃろ。鍵となったアイテムがある筈じゃ」

 鍵となったアイテム?いつもと違う物と言ったら、黒歴史ノート位だ。これ以上恥をかかなくてはいけないのか。


「絶対違うと思いますけど、こんな物を持っていましたよ」

 覚悟を決めて鞄から、黒歴史ノートを取り出す。みんなの視線が黒歴史ノートに集まる。顔から火が出そうです。


「光牙さん……今年で三十五ですよね」

 重吾先生、言い訳させて下さい。それを書いたのは中学生の時です。これ以上は耐えられないので、黒歴史ノートを仕舞おうとした瞬間、誰かに取り上げられた。


「凄い……これ程の魔導書は見た事がない。魔術学会に発表出来るレベルじゃよ。コウガ殿、しばし預からせてもらえぬか?」

 俺の黒歴史ノートが、本物の魔導書?でも、発表だけは勘弁して下さい。


明日七時に更新します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ