表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒歴史ノート持って異世界へ  作者: くま太郎
2/19

異世界に憧れたのは昔なんです

 俺が今いるのは、多分林道だと思う。自然が豊かだから、国定公園説が濃厚……周りの木は見た事ない位大きく、得体のしれない虫も飛んでいるけど、絶対にここは日本だ。

 この道を真っ直ぐ進めば、事務所兼お土産屋と値段の高い自販機がある筈。

 俺は例の外国人に拉致されて、林道に捨てられたんだ。

 時計を確認すると買い物を終えてから十分も経っていない。でも、見上げると透き通るような青空。そして悠々と空を飛んで行くドラゴン……!?

(おいおい、白線を踏み外したから、異世界に転移したのか?……明日大事な契約があるんだぞ)

 落ち着け、先ずは現状把握だ。俺の装備は量販店のスーツに合皮の革靴。右手には通勤カバン、左手には食糧がたんまり詰まったエコバック……嘘?エコバックがぺしゃんこになっている。

 転移の衝撃で中の物を落としたんだろうか?

 なにより、ここはどこなんだ?……明日の取引き間に合うよね。

 深呼吸をして、気持を落ちるかせる。

 ここが異世界ならする事は一つ。

 異世界転移と言えばチート能力だ。きっと俺にも凄い能力が与えられた筈。それを確認しておかなくてはおけない。

 息を深く吸い込み、丹田に意識を集中させる。


「ステイタスゥーウィンドォウオォープッン!」

 気合を入れて大声で叫ぶ

 しかし、待てど暮らせどステイタスウィンドウは現れず。俺の叫び声だけが森に木霊するだけだった。

 まあ、普通に考えて異世界転移なんてあり得ないよな。さっきのドラゴンも見間違えだと思う。

 転移じゃなくて拉致でも大問題なんだけど……。

 今、一番大事なのは現状把握だ。鞄の中に大事な書類が入ってないか、確認しよう。

(なくしたらまずい書類はなし。入っていたのはボールペン・付箋・クリアファイル・財布・サプリメントケース・スマホとバッテリー・車の鍵……そして黒歴史ノート)

 今は会社帰りだし、こんなもんだよな。ちなみにスマホの電源を入れてみたら電波が届いておりませんでした。

 現状は把握出来た。かなり目を逸らしたい現実だけど……きっとここは、物凄い山奥なんだと思う。そうであって下さい。

(問題は前に進むか、後ろに進むかだよな)

 下手をしたら、山に迷い込んで遭難ENDの可能性もある。それに脱水や餓死の危険性もあるのだ。

 木を登る……落ちたら骨折ですまない高さなので、却下。

 木の枝を投げて、枝が指した示す方向に行く……俺は運が悪いので、これも却下。

 影の向きを見て方角を知れば……その方角に町やお土産屋さんがあるって限らないよな。

 手詰まりである。ゲームやラノベなら、何らかのイベントがあるんだけど。

 (お約束パターンだと若い女の子の叫び声が聞こえてきたり、伝説の武器を手に入れたりするんだけどな)

 無手だと不安なので木の棒ならぬ、その辺に落ちていた太めの木の枝を装備。エコバックは通勤カバンの中に入れておいた。

 とりあえず前に向かって歩いてみる……もう、三十分位歩いただろうか。周囲の風景も道も変化なし。人が歩いた痕跡位あると嬉しんだけど。


「だ、誰か助けて下さいー!」

 聞こえて来たのは若い女性の声。これは色んな意味でチャンスである。

 声のする方向に駆け付けてみると、そこにいたのは金髪の美少女と見た事がない生き物だった。身体の色は緑色で背丈は小学校高学年位。ゲームに出て来るゴブリンそのものだ。

 問題はゴブリンの武器。ゴブリンが手に持っているのは棍棒。どう見ても俺が持っている木の枝より強そうだ。俺がゴブリン以下の装備なのを知った少女の顔にはあからさまに落胆の色が見えていた。

 見捨てるって選択もあるが、少女は大事な情報源だ。俺がゴブリンに勝っているのは腕のリーチ。 

 逆に負けているのは装備と戦闘経験……正直、めっちゃ不利です。

 幸いな事にゴブリンは俺の存在に気付いておらず、無防備な背中をさらけ出している。


「うぉりゃっ!」

 無言で近寄り、ゴブリンの頭に向かって木の枝を振り下す。

 結果、木の枝が真っ二つに……そして激きれしたゴブリンさんは、ターゲットを俺に変更。


「グ、グギャー!」

 武器を持っていない俺に出来る事はただ一つ……逃げるしかない。でも、この悪路じゃ直ぐに追いつかれる。旅の恥は搔き捨て。少女と、会う事はもうないだろう……はったりをかましてやる。

 通勤カバンから黒歴史ノートを取り出して、大袈裟に身構える。


「そは全てを焼き尽くす物。その名は、炎。汝に我が魔力を捧ぐ。その代わり、ここに集え。炎の精よ、球に変じて、我が敵を打ち砕け!……ファイヤーボール」

 ……嘘だろ。呪文を唱えると炎が現れ、ゴブリンに向かっていった。一瞬にして炎に包まれるゴブリン。辺りをキョロキョロと見まわす挙動不審な俺。

 俺って魔法使えたんだ……これは眠れる才能が目覚めたんだろうか?


「魔法使い様、危ない所を助けて頂きありがとうございました」

 そしてさっきとは打って変わって、喜色満面の笑みで近付いて来る少女。

(そういや見た目は外国人だけど、日本語を話しているな……って事は、やっぱりここは日本か。でも、そうなるとさっきのゴブリンみたいなやつはなんだ?)

 政府や企業が秘密裏に作った生物だったりして。賠償問題にならないよね。


「いや、俺魔法使いじゃないし、出来れば今の事は忘れて欲しいんだけど……ところで、ここはどこですか?」

 頼む、関東近県。最悪でも日本であってくれ。外国じゃ取引きに間に合わないんだ。


「コーリン村近くの林道です。あっ、コーリン村と言っても分かりませんよね。コーリンはプレロー王国の王都から少し離れた場所にある田舎の村です」

 小林こりん村なのだろうか?それにプレロー王国ってなんだ?そんな国あったっけ?昔流行った外国の街並みを模した観光施設に期待しよう。

 でも、これは目の前の美少女と仲良くなるチャンスだと思う。少女は無理でもお姉さんや従姉なら、ワンチャンあるはず。


「マリー、大丈夫か?」

 良からぬことを考えていると、一人の青年が近付いてきた。一目見たで白旗を上げてしまうイケメンです。

 青年は銀色の鎧が憎い程、似合っている……鎧?コスプレか映画の撮影だと信じたいです。

 もしくはケインさんとマリーさんはユーチューバーで、どっきり動画を撮っているとか……どっちにしてもスマホは使えるか。


「ケイン、ゴブリンに襲われたけど、こちらの魔法使い様が助けて下さったの」

 ケインさん、早くドッキリのネタバレをして下さい。


「だから一人で森に行くなと行っただろ……申し遅れました。私はギルド金色こんじきの風に所属する戦士のケイン・スフィ―ルと申します」

 ギルド?戦士?俺はファンタジーゲームごっこに巻き込まれたんだ。きっと、そうだ。

 背中に冷や汗が流れ始めたけど、そうだと信じたい。


「あのここ日本ですよね?あっ、日本って分かりますか?」

 今や世界に関たる日本だ。きっと知っているはず。


「これは珍しい二ホンの方ですか。知ってますよ。王都にも二ホン人がいますので……でも、そうなるとまずいな」

 リアルこんな所に日本人!?でも、まずいってなにがまずいんだろ。日本と国交がないのか、ジャパンバッシングの真っ最中だとか。


「ケイン、まずいってなにかあるの?」

 マリーさん、ナイスアシスト。おじさん、花丸をあげちゃいます。


「これはあくまで噂なんだけど……今朝、王都で大規模な異世界召喚が行われたらしいんだ」

 異世界召喚?まさかあの時の光がそうだったのか?……そして、ここはやっぱり異世界なんですね。帰る方法を見つけないと、取引き失敗どころかクビの危機じゃん。


「あの異世界って、ここはどこなんですか?」

 おじさん、格闘技どころか喧嘩の経験も碌にないんですが。生きていけるか心配です。


「やはり召喚されたばかりなんですね……ここはエスフェルドという世界です」

 エスフェルド?エスフェルドって、あのエスフェルド?

(エスフェルド、本当にあったんだ…いくら探しても見つからない訳だ)

 そうなるとルーチェは異世界人なのか?異世界まで追って来たと思われたら最悪だ。

 絶対にドン引きされる。

 でも、異世界か……魔法も使えたし、俺って選ばれし者だったりして。

 これが異世界から来た遅咲きのヒーローコウガ、伝説の幕開けであった……以上、脳内ナーレション終了。


「ケイン、それ本当なの!異世界召喚は神使様が禁止した筈よ」

 青ざめた顔のマリーさんがケインさんに詰め寄る。もしかしなくても、とんでもない事に巻き込まれたのでは……とりあえず遅咲きのヒーローはキャンセルで。


 ◇

 とりあえず、コーリン村へと移動。コーリン村はのどかな農村だった。

 おじさんとしては、もう少し異世界要素があると嬉しいんですが。でも、子供が元気に遊んでいる姿には癒されます。


「ここ数年、魔物や魔族の動きが活発になっているんです。コーリン村の周辺でも魔物が現れ、うちのギルドに依頼がきたんです」

 ケインさんは村に常駐し、魔物を討伐していたそうだ。そしてマリーさんと親しくなったとの事。やっぱり、イケメンって得ですね。


「あのよろしかったら、異世界召喚が禁止された経緯を教えてもらえませんか?」

 ケインさんから聞いた話をまとめると、十数年前にも魔族の動きが活発になった事があったそうだ。その時日本から来たという男性が強力な魔族を退治したとの事。

 なんでも異世界から来た人間には、神使が特別な力を授けてくれるらしい。それを羨んだ周辺の国は召喚魔法を研究し、数人の日本人を召喚したそうだ。


「でも、その召喚術は対象者を無理矢理呼び寄せる物でした。国によっては召喚された人に催眠魔法を掛けたって噂もあるんです。結果、魔族は撃退出来ましたが、殆んどの二ホン人はお亡くなりになったそうです」

 強い力を持っているばかりに苛烈な戦場に送られる人が多かったらしい。しかも褒賞を満足に与えなかったり、暗殺されたりした人もいたそうだ。

 うん、笑えない。


「あまりの酷さに天界の神使様はお怒りになり、召喚を行った国の王族に天罰をお与えになりました。そして生き残った二ホン人の方を元の世界に戻し、異世界召喚を禁止したそうです」

 マリーさん、追撃情報ありがとうございます。つうか、神使ってなんだよ。本当にいるんなら、俺の召喚を止めろよ!

 今回の取引きの為に休みの日にゴルフの送迎をしたリ、キャバクラで盛り上げ役に徹したんだぞ。

 でも、これだけは言っておかなきゃいけない。


「ケインさん、マリーさん俺が日本人だって事は内緒にしておいて下さい。王国にバレたらまずいでしょうし」

 俺は王国にとっておおやけにしたくない人間だと思う。絶対に隠したい存在だ。この親切なカップルを巻き込みたくない。

 目標、王都に行って最初に来たという日本人に保護してもらう。こうなりゃ、下働きでもなんでもしてやる。


明日七時に更新します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ