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黒歴史ノート持って異世界へ  作者: くま太郎
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密かな決意

 俺は仕事の都合上、出張が多い。だから分かる……ここは絶対にお高いホテルだ。


「へえ、結構立派なホテルですね。本当にここで良いんでしょうか?」

 重吾がホテルを見て、不安そうに呟く。

 俺達が来ているのは、最初に尋ねたホテルと同系列だというホテル。

 重吾の不安な気持ちを良く分かる。どう見ても予算オーバーです。ちなみにここを運営しているのは、全国に宿泊施設を持っているホテルギルドだそうだ。


「良くお越しし下さいました。私は当ホテルの支配人をしているキーユ・ルーハでございます。行き違いがあったとはいえ・こちらに来て頂き安心いたしました。フワ様の手紙を読ませて頂きましたが、不思議なスキルをお持ちの方がいらっしゃるそうで」

 みんなの視線が俺に注がれる。日本の常識で考えたら、みんなも不思議な力をお持ちですよ。


「不思議かどうかは分かりませんが、自由度の高いスキルを持っている者はおります」

 重吾君、それは誰の事でしょうか?俺、プレッシャーに弱いんだぞ。


「それは有り難い。ゴーストを浄化させるスキルとかはありますか?」

 支配人自らお出迎えで好待遇と思ったら、なにかきな臭い事を言っています……退治じゃなく、浄化か。


「よろしければお話を聞かせてもらえますか?」

 キーユさんの話によると、ホテルの一室に帰らずの森で亡くなった使用人に幽霊が出るそうだ。


「ゴーストが出るのは使用人の方がお使いなる部屋です。しかし、その部屋に泊まりたいとおっしゃる申し出が殺到しておりまして」

 これだけ高級なホテルだ。そんな色物商売をしたら、離れて行く常連客もいるだろう。しかし、金や権力のある客の申し出も無下には出来ないと。


「退治ではなく、浄化なんですね。それには理由があるのですか?」

 今ディーフェには多く冒険者が来ている。ましてや、その殆んどがアンデッドの出没する帰らずの森に行く。

 対アンデッドスキルを持つ人は絶対にいる筈だ。


「……ここではあれですので、私に部屋に来て頂けますか?」

 キーユさんの顔から笑みが消えて、真剣な表情へと変わる。乗りかかった船だ。やるだけ、やってみよう。

 ◇

 さすがは高級ホテルの支配人の私室だ。連れて来られたのは、簡素だけど掃除が行き届いた居心地の良い部屋。


「実はその幽霊は友人の息子なんです。このホテルで礼儀作法を学んだ私にとっても、子供みたいな存在でして……」

 キーユさんは、そう言うと涙を一粒こぼした。

 その人の名はトム・ガーディス。ガーディス家は代々ある貴族に仕えてきたそうだ。

 シカトリス子爵、勇猛な当主が多い事で有名らしい。

 しかし、今の当主がオカルトにドはまりし、トムに無茶振り。真面目なトムは冒険者と共に帰らずの森へと行ったが、トロルに襲われて亡くなったそうだ。


「冒険者はトムさんを見捨てて、逃げてきたのですか?」

 契約不履行ってレベルじゃないぞ。


「使用人の給金では冒険者は雇えませんので、トムは荷物持ちとして同行したんです」

 荷物持ちなら護衛の責務はない。むしろトムさんを囮にして、逃げた可能性もある。

 自分の使用人が幽霊になったなんて世間に広まったら家名に泥を塗るようなものだ。

 早く退治しろと、キーユさんに圧力を掛けていると思う。


「やれるだけ、やってみましょう。今晩、その部屋に私を泊めて下さい」

 ホラーは苦手だ。でも、真面目な若者が苦しんだまま、成仏出来ないなんて切なすぎる。

 使用人もサラリーマンも似た様なもんだ。俺も上司の無茶振りに苦しめられた事がある。

(帰らずの森用に作った魔法が、こんな所で役立つとはね)


 ◇

 後悔先に立たず……一人で泊まるなんて言わなきゃ良かった。

 トムさんの幽霊が出るって部屋は薄暗く、ジメジメしている。雰囲気満点過ぎて、ちびりそうです。

(どうする。何かして気を紛らわすか……新しい魔法を書けば……)

 でも、黒歴史ノートの残りページは、あまり多くない。ビビりながら書いて、誤字脱字で魔法が使えなかったら大損だ。

 やる事を見つけれず、ソワソワと部屋を歩き回る。

 ふと、時計を見ると、日付けが変わろうとしていた。


「悔しい、悔しい。誰か助けて……」

 背後から恨めしそうな声が聞こえてきた。恐る恐る振り向くと、そこにいたのは青白い顔をした青年。お約束で、向こうが透け見ています。


「あ、あ、あ、あのトムさんですよね?」

 勇気を出して話し掛けてみるも無反応。そりゃ、そうだ。

 トムさんの幽霊はキーユさんの問い掛けにも、無反応だったという。初対面、しかも霊能力のない俺の問い掛けに応えてくれる訳がない。

 ならどうするか。トムさんが反応する人を呼べば良いのだ。


「もし、私の声が聞こえるなら、答えて下さい。ここに貴方の親しい人います。しかし、その人は行き先を見失い、迷っています。どうか、私の問い掛けに応え、彼の人を、御導き下さい……迷子ロストチャイルドグリデードえ」

 俺は見ず知らずの人を導ける様な人格者じゃないし、他人に説教できる程偉くもない。

 だったら、どうするか。相応しい人にお願いすれば良いんだ。

 魔法を唱え終わると、部屋に暖かな光が現れた。


「トム、辛かったわね。苦しかったわね。でも、もう大丈夫。お婆ちゃんとお爺ちゃんが迎えに来たわよ」

 光の中から現れたのは優しそうなお婆さんと、厳めし顔したお爺さん。

 ……お爺さん、怒らないよな。


「トム、どこが痛いんだ?じいじはここにいるよ。さあ、私達と一緒に帰ろう」

 お爺さんはそういうと、トムさんを優しく抱きしめた。その声は幼子に話しける様に、穏やかで優しい。

 二人に抱きしめれると、トムさんは幼い頃の姿に戻っていた。暖かさと優しさに包まれていた遠い昔の姿に戻ったのだ。

 そして俺は涙腺が崩壊しまくっています。年の所為か、こういうシーンに弱くなりました。


「お爺ちゃん、お婆ちゃん……でも、まだ行けないよ。ご主人様に頼まれた物を届けないと……」

 お爺さんとお婆さんの視線が俺に注がれる……それを見つけてないと、トムさんが成仏出来ないんですね。


「あの……何を無くしたんでしょうか?良かったら、私が探してきますよ」

 どうせ、帰らずの森に行かなきゃいけないんだ。俺が頑張ってトムさんが成仏出来るんなら、なんでもやってやる。


「小さな人形です。帰らずの森で見つけたんです」

 帰らずの森は、広い。見つける方法はあるけど、ある程度絞れないときつい。


「多分、僕を食べたトロルのお腹の中だと思います」

 また地雷を踏んでしまった。暖かな空気が一転、気まずい空気に……お爺さん、お婆さん、きちんと見つますので睨まないで下さい。

 トムさんはお爺さんとお婆さんが一時期的保護してくれる事になった。

(よっし、鑑定魔法を作るぞ。そしてトムさんを食べ……襲ったトロルを見つけるんだ)

 鑑定魔法とどこでもナビをリンクさせて、条件を満たしたモンスターを表示出来る様にする。

 トロルはジャイアントボアと同じ位の強さらしいから、物陰から襲えば倒せる筈。

 そしてどこでもナビに表示されたのは、トムを食べたトロルを食べたキラーベアだった。

 アンデッド対策に加えて、熊さん対策も練らくては。


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