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黒歴史ノート持って異世界へ  作者: くま太郎
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修羅場?

 次の日、俺達は馬車の停留所に来ていた。まだ朝早いというのに、停留所は活気に満ち溢れている。人や荷馬車が息つく暇もなく、行き交っていた。

 俺達が目指すのは、ディーフェという町。ディーフェは帰らずの森の近くにある町で、王都から馬車を使っても十時間は掛かるとの事。

 意外な事にディーフェ行きの馬車を利用する人は大勢いた。ギルドで聞いた話では、積極的に行きたい町ではないんだけど。


「今、プレローの貴族の間では、ちょっとしたオカルトブームが起こっているそうです。使用人に帰らずの森の近くまで行かせて、心霊体験をさせてくる。その話をパーティーで披露させるのが、流行っているそうですよ」

 話をしながら重吾の顔が険しくなっていく。自分は安全な場所にいながら、恐怖を味わう。その感覚の方が、よっぽど怖いんですが。

 ちなみに一番怖い話をした使用人には褒美が出るそうだ。中には心霊体験が出来ず、森の中に入ってトロルに襲われた人もいるらしい。

 俺ならバックれるんだけど、プレローでは先祖代々貴族に仕えている一族も少なくないそうだ。

 逃げたら家族だけじゃなく、親類一同がお叱りを受ける。それも考慮して逃げそうもない人をわざと選ぶ貴族もいるらしい。特権階級って、怖いです。


「森の中で拾った物を高値で買う貴族もいるそうですよー。特に虚ろ石は大人気でー、市場価格が上がっているそうですよー……その所為か虚ろ石の盗難や強奪が相次いでいるそうですー」

 そうなると困るのが、召喚師や魔術師だ。今回の依頼も虚ろ石が手に入らずに困った召喚士からの依頼らしい。


「虚ろ石を手に入れたら、エコバックに入れて知らない振りをするのが得策だな。しかし、アンデッドか……正直、会いたくないな」

 俺はグロ耐性が低いる人のだ。それに亡くなってまで、辛い目に合っている人は見たくない。


 ◇

 馬車は隣の人の息が掛かりそうな位ぎゅうぎゅう詰めである。サラリーマン時代に培った満員電車耐性が、こんな所で生きるとは思わなかった。

(しかし、色んな人がデーフェに行くんだな)

 服装も年齢もバラバラで、まさに老若男女問わずって感じだ。

 声高に自分の勇気を吹聴する男もいれば、恐怖に震えている少女もいる。

 一番多いのは、浮かない顔をした中年男性。得意先に謝罪に行く時の自分を思い出してしまう。


「おい、外見てみろよ。あれ、王族の馬車だぜ」

 乗客の俺も男が大きな声をあげる。身なりや荷物から推測すると、商人だと思う。

 その言葉に釣られて、外に目をやると一台の馬車が猛スピードで賭け抜けていった……王族サイドに付かなくて良かった。

 一言で言えば族仕様な馬車。車体のカラーリングは黒、そこに金色や銀色で龍や鬼が描かれている。異世界に暴走族がいたら、こういう馬車を作るだろうなって感じだ。

 でも、俺は馬車より違うモノに目を奪われていた。


「あれ、異世界から来た餓鬼の馬車らしいぜ。特例で交通法を守らなくても、違反にならないんだとよ」

 答えたのは、隣にいた男性。この男性は手が分厚く、所々に火傷の痕が見える。多分、鍛冶屋だと思う……今度、黒歴史ノートに鑑定魔法を書いてみよう。

 彼の言葉から察すると、残留組はあまり良い印象を持たれてないらしい。異世界から来たってだけで、特別待遇を受けているのは気に入らないんだと思う。

 俺達が納めた税金で良い暮らしをしやがって、そんな感じだ。


「止めておけ。どこで、誰が聞いてるか分からないぞ。それに聞いた話だと、格安で討伐任務を請け負ってくれるらしいぜ」

 商人が鍛冶屋をたしなめる。耳聡い商人の情報は、依頼で役に立つそうだ。

 残留組には、強力なパーティーメンバーをあてがわれている。つまり、確実に依頼が達成出来るって事だ。しかも格安となれば、今までギルドに来ていた高難度の依頼は残留組に流れていくだろう。

 依頼料が安くても残留組に経験を積ませられるし、王国の人気も高まる。

 逆に言えば受けても、イメージがアップしづらい依頼のみが、ギルドに来る。ギルドとしても、依頼料が多少安くても顧客確保の為、仕事を請け負う。

 ケインさんのギルドが忙しかったのは、その為だと思う。

(今回の依頼者も、いつも請け負ってくれるギルドに断られてうちに来たって話だしな)

 ……こりゃ、アンデッドが怖いからって逃げる訳にはいかないな。


「しかし、良い女だったよな。色っぽいし、ナイスバディ!一回で良いから、あんな姉ちゃんに相手してもらいたいぜ」

 鍛冶屋の男はそう言うと、好色そうな笑みを浮かべた。

 俺も同意です。でも、馬車にいる女性陣が冷たい目で見ている事に気付きましょう。

 御者をしていたのは金髪のグラマラスな美女。年齢は二十代半ば位だ。

 確かに美女だけど、俺はお近づきになりたいとは思わない……身の程ってやつを、覚えていますので。


 ◇

 馬車を降りると、もう夕暮れ時だというのに町は熱気と喧騒に包まれていた。

 人、人、人、ディーフェの町には大勢の人が集まっており、活気に満ち溢れている。

 貴族に命令された使用人、護衛やオカルトアイテムで稼ごうとしている冒険者。

 そして彼等で一儲けしようとしている商人や娼婦。それらを支える様々な職種の人々。

 ゴールドラッシュならぬ、ゴーストラッシュと言ったところだろうか。


「凄い活気ですね。まずは不破さんが教えてくれた宿屋に行きましょう」

 源治は旅慣れない俺達の為に、わざわざ宿屋に紹介状を書いてくれた。

 その時は心配し過ぎだって、苦笑いしたけど……これは紹介状がなきゃやばかった。

 これだけ人が集まって入れば、宿屋は大忙しだと思う。予約をしてないから、泊まれない危険性もある。


「色んなお店が、ありますねー。食材もー、調味料もー色々売ってますよー」

 陽向さん、それ食い物関連だけですよね……ジョブが料理人だから仕方がないのか。

 一番多いのは、装備関連の店。武器屋や防具屋だけじゃなく、研ぎ直しや修繕を専門にしている店まであった。

 ある意味ディーフェらしいのは、アンデッド関係の店が多数ある事だ。

 憑りつきを防ぐアクセサリーや、アンデッドを追い払うマジックアイテムまで売っている。


「憑りつきを防ぐアクセサリーか……買いたいけど、種類が多すぎで迷うな」

 値段もピンキリで、効果を疑う物も少なくない。

 陶器製のてんとう虫バッチなんて絶対に効果ないだろ。


「買い物は後にしましょう。生活費を稼ぐのが先決ですよ。その為にはますは、宿屋の確保です」

 重吾の言う通り、宿屋を見つけないと野宿をしなきゃいけなくなる。帰らずの森というリアル心霊スポットが近くにあるから、それだけは勘弁して欲しい。


 ◇

 このパターンはまずい。源治が紹介してくれた宿屋に行くと件の暴走族仕様の馬車が停まっていた。

(随分と高そうな宿屋だな)

 そこは宿屋というより、高級ホテルって感じの建物である。絶対に予算オーバーだ。だって、ドアマンまでいるし……この世界ってチップ必要なんだろうか?


「すみません。竜姫の顎の者ですが」

 重吾が声を掛けると、ドアマンの顔が青ざめていった。


「申し訳ございません。現在、当ホテルは貸し切りとなっておりまして」

 この短期間でホテルを貸し切りに出来る程の金が稼げる訳がない。

 となると出所はジード王子……つまり税金だ。


「あれ?石動先生じゃないですか?お久しぶりです」

 声を掛けて来たのは少女の様に可愛らしい顔をした少年。

(敬語を使っているけど、完全に重吾を見下しているな)

 思いもしない力を手に入れて、優越感に浸っているんだろう……馬鹿な餓鬼に力を与えちゃ駄目だって典型だな。


「枝守、君の周りにいる女性は誰ですか?」

 こいつが枝守努か。可愛い顏とは裏腹に腹黒な性格で、自分を脅した先輩を罠にはめたって話だ。

 そして枝守はグラビアアイドルの様な女性をはべらせている。人数は全部で四人、その中には御者をしていた女性もいた。


「僕のパーティーですよ。全員、奴隷です。命懸けで僕の事を守ってくれる頼もしいメンバーですよ」

 そう言う枝守の顔は醜く歪んでいた。なまじ整った顔をしているだけに、余計に醜くみる。


「分かりました。別館か違う宿屋を紹介していただけますか?」

 正直、枝守と話す気にはなれず、ドアマンに話し掛けた。しかし、教え子がここまで歪んでしまったら、重吾にとってある意味修羅場だと思う。


「枝守、早く行くよ……ゆ、優君?なんでここにいるの?」

 枝守に声を掛けて来たのは、今風の少女。肩まである髪を茶色く染めており、世間で言うパリピってやつだ思う……今時ギャルになる娘は少ないって、最近知りました。


「希来里ちゃ……星空さん?」

 薬師君の顔が青ざめていく。ここにも修羅場が出現なのです。

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