一か八か
これがゲームならクレーム殺到しているぞ。出来るなら俺もここを作った神様にクレームを入れたい。
「あいつ滅茶苦茶だ。壁を壊してきましたよ」
薬師君の言う通り、ロックゴーレムは洞窟の壁を壊しながら近付いてきた。
ロックゴーレムはチュートリアルダンジョンに出現するには、規格外する強さだ。攻撃力も桁外れだし、スピードも俺達を上回っている。
ついでに魔法防御力も高いらしく、俺の魔法も一切効かない。
「もう一度、私が斬りつけてみます」
重吾が俺達を庇う様にして立ちはだかる。でも、その身体はロックゴーレムに何度も殴られてもう満身創痍だ。
「重吾、止めろ。お前の剣は刃こぼれして役にたたないだろ!」
重吾は何度もロックゴーレムの攻撃を仕掛けていたが、その度に岩の鎧に剣を弾かれている。
「でも、このままでは試練の洞窟をクリア出来ません。何より生徒を守るのは私の使命です」
この頑固教師が……確かに、このままじゃいずれロックゴーレムに倒されてしまう。
「陽向さん、ロックゴーレムの弱点を知りませんか?」
魔物の勉強をしていた陽向さんなら、何か知っている筈。
「た、食べられる魔物を中心にお勉強していたので、あまり詳しくないのですー」
陽向さんのジョブは料理人だ。だから、食える魔物を中心に勉強していたと。
確かにロックゴーレムは食べられないもんな。
「ロックゴーレムの弱点は打撃です。強い打撃を加えれば、身体が砕けちるそうです」
王子様、ナイスフォロー。打撃か、俺のストーンブリットじゃ、効果はなしのつぶてだ。
命あっての物種だ……こうなりゃ一か八か、あれに賭けるしかない。
「陽向さん、レイン王子逃げながらで良いですから、ロックゴーレムの気を引いて下さい。その間、薬師君は重吾の傷を出来るだけ回復。重吾は傷が治ったら、詠唱が終わるまで俺を庇え。まず俺が逃げるぞ」
ちょっと格好悪いが、先頭をきって逃げる。ある程度距離を取れた所で、エコバックからお目当ての物を探す。
「任せて下さい。恐らく、今回の原因は王家にもありますので」
王子、王家ってより貴方のお兄さんが、原因だと思います。
「ここをクリアしたらー、美味しい物を食べさせてもらいますからねー」
陽向さん、俺がごちそう出来る物ならなんでもおごります。
「薬師君と重吾も頼んだぞ」
仲間から離れてエコバックに手を突っ込む。取り出したのはジャイアントボアの魔石。レイン王子と陽向さんが適度な距離を保ちながら、ロックゴーレムを引き付けている。
「平野さん、石動先生の傷と体力回復しました」
薬師君の言葉が終わるや否や重吾が飛び出していく。
「レイン王子様、陽向さん後ろに下がって下さい。光牙さん、任せましたよ」
重吾の顔には笑みが浮かんでいる。あれは子供達を安心させる為の偽りの笑みだ。
それならもう一人のおじさんも頑張ろう。
右手にジャイアントボアの魔石、左手には黒歴史ノートを持つ。
俺は大人だ。信じてくれた子供達……いや、仲間を守れないでどうする。
「我、願う。汝はかつての強敵手。しかし今は友。友よ、我が危機に,その絶大なる力を貸し給え。汝の名はジャイアントボア……レントアタック」
一発二十万の高コスト魔法だ。魔石に魔力を篭めると、淡く発光し始めました。
『変わった人間じゃの。魔物たる儂を友と呼ぶか。あれは我が家族の仇。仇討ち機会を与えてくれた事を感謝するぞ。人間いや友よ』
やたらとダンディな声が頭の中に響く。それと同時に光が猪の形に変わり、ロックゴーレムに体当たりした。
一瞬にしてロックゴーレムは粉々に砕け散る。
(あれはジャイアントボア?俺が殺したのに、なんで?)
良く考えればレントアタックはえげつない魔法だ。殺した相手に力を貸せって言っているんだから。
『友よ、気にするな。お主のお陰で儂はまた家族に会えるのだからな……息子達にお前達の仇は討ったぞと大足を振って会いに行ける』
とりあえず、助かった。ちなみにロックゴーレムは魔石を落とさず、大赤字となりました。
◇
ようやく最深部まで戻ってこれた。ジャイアントボアが力を貸してくれなかったら、まじでやばかったと思う。
「この扉の向こうに礼拝所があるんですね」
重吾はそう言いながら、扉に手をかけた。頼むから、これ以上魔物は出ないで下さい。
「ミゲーカ様……」
レイン王子はそう言うと、涙を流しながらその場に跪いた。そこにあったのは洞窟の入り口にもあったミゲーカ様の像。
形は似ているが、神々しさが違う。気付けば全員ミゲーカ様の像に向かって跪いていた。そして優しく暖かな光が俺達を包んでいく。
徐々に光が弱まっていく。ゆっくりと目を開けると、予想もしなかった光景が飛び込んできた……ここ礼拝所だよね。
(め、面接会場?日本に戻って来たのか?)
そこには面接会場と書かれた案内板が置かれていたのだ。
恐る恐るドアをノックする。
「どうぞ、お入り下さい」
聞こえてきたのは、優しそうな女性の声。
声に従いゆっくりとドアを開ける。
そこにいたのは四人の美女。神々しいまでの美女四人が、椅子に座っていた。
四人とも、髪の色も瞳の色も違う。ついでに座っている椅子も違っていた。
「ようこそ、加護付与面接会場へ。これから簡単な面接を行わせてもらいます」
声を掛けて来たのは黒髪の女性。二十代後半位の清楚な美人だ。
加護もらうのに、面接が必要なの?ネットや新聞もチェックしてないどころか、予習すらしていないんですが。
「平野光牙、三十五歳です。本日は宜しくお願い致します」
四人の美女に向かって、頭を下げる。待てよ、履歴書を持って来ていないんですけど。
「平野さんですね。どうぞ、椅子にお掛け下さい」
純白の髪の美女が椅子に座る様に促してきた。この人は二十代半ば位で、妖艶な魅力があった。
視線の先にあったのは、何の変哲もないパイプ椅子。スーツを着たサラリーマンがパイプ椅子に座って面接を受けている。
どう見ても転職の面接だ。
(俺、転職活動してないんだけど……こんな所、部長に見られたらやばいって)
「はい、失礼します」
もう一度頭を下げてパイプ椅子に腰掛ける。
「見た目は今回来た異世界人の中で、一番パッとしないな。こんな奴のどこが良かったんだろうな」
赤い髪の美女が不思議そうに呟く。赤い髪をショートカットにしており、活発な印象を受ける。
加護をもらうに、容姿も関係するんですか?それだと、俺が一番不利なんですけど。
「お姉ちゃん、好みはみんな違うの……今までの行動を見ていたけど、僕は合格で良いと思うな。ママも合格だって言ってたし」
次に口を開いたのは、茶髪の少女。可愛らしい顔立ちをしており、みんなのアイドルって感じがする。
「俺が契約する訳じゃないしな。下手な事を言えば姉貴にぶっ飛ばされるか。それじゃ俺も合格にしとくよ」
赤髪の少女も合格にしてくれた。ところでお姉さんってどんな人ですか?
「それじゃ、合格で良いわね。平野光牙さん、貴方に加護を授けます。詳しい結果は、紋章にてお知らせ致しますので……これで面接を終わります」
今の流れで加護がもらえるの?
◇
光が納まると、礼拝所の前だった。
(今のは夢……だよな?って、熱っ)
右手の甲が熱くなっている。見てみると手の甲が金色に光っている。
俺の紋章は金色に輝く鳥であった。金色の鳥の周りには、火や水を現しているかの様なマークがある。マークは全部で七個。
その下には解読不明な文字が書かれていた。ちょっとゴテゴテしているけど、きっとDランク辺りだと思う。
でも右手の甲って、目立つ過ぎだろ!魔法を唱える度の俺の手は金色に輝くと……勘弁して下さい。
「光牙さんも加護を頂けたようですね」
重吾の話では、全員加護を授けてもらう事が出来たとの事。
「なあ、みんなも面接を受けたのか?」
全員がキョトンした顔になる。結果、物凄い変な空気になりました。
「面接ですか?疲れて夢でも見たんじゃないですか……それじゃ、戻りますよ」
重吾君、待って。このままじゃ、俺だけが痛いおじさん扱いになっちゃうんですけど。
◇
入り口に辿り着くと、クーネルマ団長が駆け寄って来た。
「王子、良くご無事でお戻りになられました。これも、皆様のお陰で御座います。感謝致します」
クーネルマ団長は余程嬉しいのか、号泣しまくっている。
「危ない場面もありましたが、皆様のお陰で無事に加護を授けて頂く事が出来ました。ありがとうございました」
レイン王子はそう言うと、胸元を寛げた。そこにあったのは、岩のマーク。丸の中に三角が描かれており、その中に岩を模している様なマークがあった。
「王子、流石でございます。それは丸の三角岩、先々代の王がお授かりになったという由緒田正しきBランクの紋章でございます。属性は全てを支える大地。レイン王子様こそ、王位を継ぐに相応しいお方でございます」
紋章って、家紋みたいなノリなのね。そして岩は大地属性の証と……俺の紋章にも描かれているけど、気にしないでおこう。
何しろ俺の紋章は丸どころか剥き出しのままだ。きっとBランク以下だ。
明日も七時に更新します