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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
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第8話、美少年女装男子美少女


 ――ボクは、いつもどおりの朝、いつもどおり登校をし……


 そう、いつもどおりにボクが在籍している2年2組の教室へ入って行ったのだった。


 ――教室内に居るクラスメイト全員へ、ボクは腹式呼吸の大きな声で挨拶をかましてみちゃったりして……


「えへへ……2年2組のクラスメイトのみんな!! おはよう!!」


「うん、おはよう……って? あれ? ねぇ、誰アレ?」


「誰って、知らない人だわよ……あ、えっと、あの……おはよう」


 ――ああ、良かった。クラスメイトのみんな、ボクに挨拶を返してくれてるよ……


「はい、おはよう……じゃなくて、うーわ! マジで? メチャクチャ可愛くね?」


「あ、おはよう……っていうか、ホントだ。マジ有り得ないんだけど? だって、可愛いなんてもんじゃねぇーじゃん! あんな美少女、ウチのクラスに居たっけか?」


 ――実はさ、ボクからの挨拶なんてね、クラスメイトのみんなから無視されちゃうかもって心配してたんだよ……


 いやはや、そう思ってしまうのはイジメからのトラウマが原因だったりする。


 ――イジメってね、した方は忘れてもね、された方は、残念ながら……半永久的にキズは消えないもんなんだよ……


「うそ? 有り得ない! メチャクチャ綺麗でお人形さんみたいな女の子みたいな……えっと、あの……おはよう」


「おはよう……うんうん、同感、同感! 歩く綺麗なお人形さんみたいよね」


 ――だからね、イジメなんてのはね、易々としちゃいけないもんなんだよ……なんて話はオイトイテ……


「あれじゃん? もしかしてドッキリかなんかみたいな……」


「それってさ、平凡な中学校に激マブ美少女モデル乱入特集ドッキリみたいな?」


 ――あはは……みんなボクを見てる、見てる……


「そうそう、そんなんみたいなドッキリとかみたいなアレなんじゃん?」


 ――ああ、何て気持ちイイんだろう……


「ねえ? あの綺麗な女の子、誰だか知ってる?」


「知らないけど、もしかしたら転校生じゃないの?」


「ええ? 転校生だったら、普通、担任の先生が教室に連れて来ない?」


「あ、そっか……うん、そうよね」


「じゃあ、あの美少女……誰?」


「あの綺麗なお人形さんみたいな女の子、誰ぇー?」


「あの美人……誰なんだ?」


 ――あはは! みんな、ボクだよ、ボク、ボク……


「何か知んないけど、普通に教室ん中に入って来たけど……」


 ――オレオレ詐欺ならぬ、ボクボク詐欺なんかじゃなくてさ……みんな、ほら、お馴染のボクだよ!


「うん、普通に入って来たわよね」


 ボクはクラスメイト全員からの熱くて篤い視線を浴びる中、いつもどおり自分の席に座ったのだった。


「えぇー!? うっそぉー!? あれ……まさか!! 浅間君なの!?」


「有り得ないけど……メッチャ有り得ないけど、浅間君が女の子になっちゃったの?」


 ――ボクさ、ちゃんと浅間秋の自分の席に座ったんだよ。ほら、ほら、ほら、解り易いでしょ?


「でも、あの美少女、男子の制服を着てるけど……」


「だから、浅間君って男子だし」


「あ、そっか、浅間君って男子だったんだよね。前から女の子っぽかったけど」


「うん、うん、うん……前々から女子っぽかったわよね、浅間君って」


 ――え? ボクって、以前から女の子っぽいみたいに見られてたの?


「女の子っぽかった美少年の浅間君って、何だか、女装した美少女の方が似合ってない?」


 ――そういえば、おるこちゃんは『みんなが見てるから気持ちイイんじゃないのよ』って……


「うんうん、似合ってる、似合ってる……」


 ――おるこちゃん、まるで口癖みたいに言ってるけど……


「っていうか、女装男子の浅間君、トンでもなくハマってるし」


 ――みんなが見てるから気持ちイイって意味、ボクは少しだけ解った気がするかも……


「だよね……浅間君の美少女姿、メチャクチャ、はちゃめちゃハマり過ぎだわよね」


 ――っていうか、教室のアチコチから……ボクが女の子っぽいとか、女の子っぽかったとか、そんな声がこだましまくりだし……


 ボクはクラスメイト全員からの注目を浴びる中、いつもどおり自分の席に座ってくつろいでいたりする。



「あ? あ!? ああぁーああぁぁあ……秋ちゃん!?」


 そんなシチュエーションの中、見るからにアタフタした様子の河鹿薫子、教室の片隅からボクが座る席に駆け寄って来たのだった。


 ――あれ? おるこちゃん、今頃登校してきたんだ……遅刻ギリギリじゃんか……


「おるこちゃん、おはよ」


 いつもどおり、河鹿薫子へ、愛情こめてニコやかに朝一番の挨拶をするボク。


「んもぅ! 呑気に『おはよう』じゃないわよ」


「え? んじゃ、こんにちは」


「朝から『こんにちは』だなんて、朝から昼時日本列島になっちゃうわよ」


「おるこちゃん……んじゃ、ご機嫌よう」


「秋ちゃんったら、朝から釜山港に帰っちゃダメだわよ」


 ――うわぁ……おるこちゃん、ホントにツッコミが上手だなぁ……でも、相変わらず訳ワカンナイけど……


「あぁああ……あぁー秋ちゃん、ちょっと?」


「はい? おるこちゃん、どうかしたの?」


 ボクは笑顔のまま河鹿薫子と話をしているが、そんな中、教室のアチコチから、

「可愛いー!!」

とか、

「激マブぅー!!」

とかという声が、惜しげもなくボクに向けて飛ばされていたりする。


「ああぁーあ……秋ちゃん?」


「うん? だからさ、おるこちゃん? どうかしたの?」


「だって、その髪型とか、眉毛とか、まつげとか……全部どうしたの?」


「どうしたのって? ボク、何か変?」


「変じゃないのよ、逆なのよ。変の逆だからビックリしちゃってるんだもの」


「は? おるこちゃん、変の逆でビックリって……意味ワカンナイし」


「薫子が言いたいのは……きっとアレよ。朝間君が美少女らしく綺麗で決まり過ぎてるっていう意味の言葉を言いたいんだと思うんだけど……」


「あ、デンちゃん、おはよ」


「うん。おはよ、浅間君」


 河鹿薫子とボクの会話の中に入ってきたのは田頭久美子ちゃんだった。


 ――田頭久美子ちゃんのニックネームはデンちゃんだよ。みんな覚えてくれた?


 田頭久美子ちゃんはボクの周りをグルリと一周し、ボクの髪型を前から、横から、後ろからと、まるで品定めをする様相で眺めながら、

「ねえ、ねえ、朝間君? その綺麗な髪型、どうしたの?」

と、少し愉しそうな声色でボクへ訊いてきた。


「デンちゃん、あのね、ボクの母さんが切ってくれたんだよ。いつもボサボサ頭だから、ボクに似合うようにって、母さんが綺麗に切ってくれたんだよ」


 田頭久美子ちゃんはボクの真後ろに回り、

「とっても綺麗なショートカット……朝間君、すっごく似合う似合う」

と、ボクの後頭部から声をかけてくれている。


 そんな中、続けて田頭久美子ちゃんは、

「浅間君のうなじ、無駄毛が全然なくってツルンって……羨ましい位に綺麗な襟足ねぇ」

と、溜め息混じりに言ってくれたのだった。


 ――無駄毛って、もしかして、女の子にとっては一大事なもんなのかな?


 女心を勉強中のボク、まだまだ中学生の子供であり、田頭久美子ちゃんの溜め息の意味なんて解るわけがなかった。


「それにしても、浅間君のお母さん、カット上手ねぇ」


「あ、そうだ。んじゃさ、デンちゃんもウチの母さんに切ってもらう?」


「浅間君のお母さんにカットしてもらったら、あたしも美少年女装男子美少女の秋子ちゃんみたいな綺麗なうなじになれるかな?」


「え? ボクのうなじって綺麗なの?」


「男子にしておくのが勿体無いくらいツルンとしてて、エステ行ったみたいにお肌ツルツルだし、とっても綺麗で羨ましいくらいよ」


「へぇ……知らなかったよ、ボク」


「まぁーねぇ、自分自身のうなじなんて自分自身が一番見えないもんだし、知らなくて当たり前かもね」


 田頭久美子ちゃんとボクが会話を弾ませている中、

「そんなノンキなこと言ってる場合じゃないわよぉ……」

と、河鹿薫子は泣きそうな声色でボクの視界の外から言葉を投げ掛けてきた。


 ――ボクは顔を右にパンポットして……


 そして、ボクの視界に河鹿薫子を入れるや否や、彼女の有り様に驚いてしまったのだった。


 ――だってさ、おるこちゃん……ボクの予想外に、何だかガックリうなだれちゃってるし……


「薫子? どうしたの?」


「どうしたのって、あんた……デン、今日って何の日か覚えてるかしら?」


「は? 薫子? 今日って、何かある日なの?」


「ああ、もう……デンったら、覚えてないのね」


「うん、覚えてないけど……覚えてなきゃマズイこと、何かあったっけ?」


「いやん、もう……覚えてなきゃマズイことアリアリなんだわよ」


 ――なんていう、おるこちゃんとデンちゃんの会話に……


「今日はさ、生徒会選挙演説の日だよ」


 ――って、、ボクはくちばしを突っ込んだりしたりしちゃったみたいな……


 そのボクの発言を聴いた河鹿薫子は、彼女自慢のポニーテールを激しく揺らしつつ、

「あぁーあぁーあ……秋ちゃん? 解ってるのに分かってないじゃないのよ! いやん、もう……」

と、彼女は何度も首を横に振りつつ、か細く呟くように言ったのだった。


「おるこちゃん? 言ってる意味、ボク、ワカンナイんだけど?」


「秋ちゃん、ワカンナくっても分かってくれなきゃだわ」


「は? そんなの無理だし……っていうか、その物言い、何気に無茶苦茶だし」


 ――相変わらずおるこちゃんは意味不明な発言が得意だし……


「あのね、秋ちゃんはね、生徒会長の選挙に男子生徒として立候補してるのよ」


「あれ? ちょっと待ってよ。おるこちゃん、あのさ……」


「え? 秋ちゃん、何よ?」


「だって、おるこちゃん、あのさ……ボクね、立候補した覚えないんだけど?」


「ああ、そうよね……秋ちゃんが立候補したんじゃなくって……そうそう、あたしが推薦したんだったわね」


「うん、そうだよ。おるこちゃんの推薦でボクは……」


「なんて、細かい話は、この際、ドぉーでもイイのよ」


 河鹿薫子、ボクが座る席の隣にある彼女の席でガックリと机に突っ伏してしまった。


「あ……あはは! おるこちゃんのポニーテールに寝癖を見つけちゃったよ。今朝は遅刻ギリギリで登校してきた位だからさ、ちゃんと髪の毛をセットしてる余裕もなかったみたいな?」


 ――ボクはおるこちゃんの寝癖の髪を撫でながら言っているんだけど……


「秋ちゃん、秋ちゃん、気持ちイイわ」


 ――なんて、おるこちゃん、机に突っ伏した姿勢のままボクに顔を向けてニコニコしてくれたんだよ……


「でも……あたし、どうしよう……はぁー!!」


 ――どうしようってさ、おるこちゃんは大袈裟だよ。だってさ、ボク、ちゃんと男子の制服着てるし……


「っていうか、あれ? おるこちゃんのニコニコは一瞬だけみたいな?」


「一瞬だけじゃないのよ。今も気持ちイイのよ。あたし、秋ちゃんから触られると気持ちイイのよ」


「でもさ、おるこちゃん……今、すっごい溜め息を漏らしちゃったけど?」


「秋ちゃん、秋ちゃん……だから、今はね、それどこじゃないんだもん」


「え? それどこじゃないの? ゴメン……じゃあ、撫でるのヤメなきゃ……」


「いやん! ヤメなくてイイのよ……秋ちゃん、そのまま抱きしめてキスしてくれてもイイのよ」


「は? ダメだよ、みんな見てるし……」


「いやん、ばかん……みんな見てるから気持ちイイんじゃないのよ。気持ちイイことは見せて、気持ちイイことは見られて快感倍増なのよ」


「えっとぉ…………はい?」


 いやはや、やはり、おるこちゃんの言うことは意味が行方不明なことばかりで、ボクは、もう、毎度毎度マイッチング炸裂ちゃんみたいな……



「おう! 我がクラスメイトのみんな、おはよう! さぁーて、早速な、景気よく元気に朝のショートホームルームを……始め……る……ぞ……」


 我が2年2組の毎朝恒例、朝から賑やかなウチの担任ガンジーこと、三浦弘志教諭は、やはり今朝も賑やかな登場だった。


「って、おいこら!! 浅間ぁー!! お前、何だ、そりゃあー!?」


 ――うわぁ……相変わらずウルサイ声を張り上げまくりなガンジーだし……


「っていうか、ガンジーせんせ? どうかしました?」


「どうしたも、こうしたも、浅間……お前、いつから女生徒になりやがったんだ?」


「はい? ボクは男子生徒ですけど? ご覧のとおり、ちゃんと男子の制服着てるし」


「何てこったい、河鹿より美少女に変身しやがって……中学生からニューハーフなんかトホホだぞ、俺は……」


 担任ガンジーの発言にクラスメイト全員が大爆笑をさせられている。


 ――っていうかさ、ニューハーフってヒドイなぁ……せめてさ、女装男子って言ってくんなきゃだし……


「しかし、浅間はアレだな……」


「へ? ボクがアレってドレ?」


「お前ってヤツは何やらせても器用なヤツだな。俺はトコトン感心するしかないぞ。そんじょソコラの美少女顔負けな女装をかましやがって、お前はドンダケ器用なんだか……河鹿よりも美少女ってな、そんじょソコラにゃチョイト居やしないってのに……浅間、お前はドンダケ器用なんだか……俺はトコトン感心するしかないぞ。ちなみにな、今の朝間はな、美少女女子中学生徒が男装するために男子生徒の学ランを着てる有り様になってるって言うしかない……」


「って、ガンジーせんせ!! セリフ長いし!! 長過ぎるから!! そんなに長ったらしいセリフは読者が嫌がるし!!」


 ――っていうか、はぁー!? おるこちゃんみたいな美少女よりもボクのが美少女とか言われちゃった!?


「はあ……あたしの彼氏、なんちゃって美少女になっちゃって……いやん、ばかん! 秋ちゃんったら、もう綺麗だし……あたし、美少年女装男子美少女の秋ちゃんからノックアウトされた気分だし!」


「え? おるこちゃん?」


 河鹿薫子のボヤキにクラスメイト全員は更なる爆笑をさせられてしまっている。


 ――おるこちゃん、嬉しそうなんだか悲しそうなんだか、見るからに複雑極まるヤヤコシイ表情をボクに向けながら……


「んもう、秋ちゃんったら……はぁーあーーー!!」


 彼女は深呼吸のようなため息をついたのだった。


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