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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
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第7話、浅間秋子誕生


「秋ちゃん、ちょっと! じっとしててちょうだい!」


「おるこちゃん、だってさ、ボクは恥ずかしくてさ……」


 何だかんだで、バンドのメンバー達から強引に連れこまれて、今ボクは、デンちゃんこと、田頭久美子ちゃんの自宅に居たりする。


 ――そう、何だかんだでさ、ボクはバンドのメンバー達からデンちゃんの部屋に拉致られちゃったみたいな……んでね、おるこちゃんがボクの顔に化粧品とかでメイク中なんだけど……


「秋ちゃん男なんだから、もっと我慢の子になりなさいよ」


「おるこちゃん、意味ワカンナイし……」


「だから、男らしく女装されなさいって言ってんのよ」


「は? よけいに意味行方不明になったし……」


 ――おるこちゃんは演劇部の部長さん。だから、メイクはお手のものみたいな……


「朝間君ってさあ、見れば見るほど美少年で、思わず俺様はビックリしまくりだぞ」


「エザちゃん、恥ずかしいから、そんなこと言わないでよ」


 ――そういえば、ボク、デンちゃんの家が学校の真ん前にあったなんて初めて知ったよ……


 そう、田頭久美子ちゃんの自宅は、ボク達が通っている中学校正門の真正面にあったりする。


「朝間君、綺麗な小顔でイイなぁ……」


「トベちゃんまで、そんな……恥ずかしいからヤメてよぉー」


 ――あ、そうそう……実は、デンちゃんとおるこちゃん、大の親友同士だったりして……


 田頭久美子ちゃんからの内緒ばなしによると、田頭久美子ちゃんの自宅に河鹿薫子は頻繁に外泊しているとか。


 ――だから、こんなにさ、デンちゃんの部屋に演劇部の衣装とかさ、メイク道具とか、小道具類とかとか売るほどアリアリみたいな……


「んもう、秋ちゃん! じっとしてなさいよ! 動くから上手く行かないじゃないのよ!」


「おるこちゃん、だってさぁ……もう化粧とかされるの飽きちゃったんだもん」


 ちなみに、田頭久美子ちゃんの家はお金持ちみたいな感じだったりする。


 ――だってさ、デンちゃんの自宅がある辺りってさ、ボクが住む街の高級住宅街なんだよ……


「っていうかさ、おるこちゃん……ボクさ、もう化粧とかされるの飽きちゃったよ」


 ――化粧って5分くらいでチャッチャと終わるもんかと思ってたらさ、まさか、こんなに長時間も……大人の女の人って、毎日こんなに長時間も化粧とか大変だなぁ……


「秋ちゃん、ツマンナイ洒落言ってないで、ほら、じっとしてなさいってば!」


「え? ツマンナイ洒落って? おるこちゃん、全然意味ワカンナイ……」


「あはは! アキちゃんがアキちゃったって、ホント詰まらない洒落よね」


 ――あ、なるほど。そういうことか……


「デンちゃん、洒落なんかじゃないよぉ……」


 ――内緒だけど、おるこちゃんがするメイクは派手だ。そんなおるこちゃんからメイクアップされたボクの顔は派手炸裂中ナウで洒落になってないみたいな……


「っていうかさ、ボクの顔、洒落になってないじゃんか」


「そう? 朝間君、とっても綺麗だけど?」


「デンちゃん、綺麗とか言われてもさ、ボク、男だし……」


 ところで、ボク達が通う中学校の正門から歩いて5分位のところに地下鉄の駅があったりするのだが、田頭久美子ちゃんの自宅も駅から間近にあり、しかも、彼女の自宅は見るからに豪邸そのものだったりする。


 ――んでね、ボク達が通う中学校の間近にデンちゃんの豪邸があるし、デンちゃんの自宅から駅まで歩いて5分位だし……さらに、間近には我が市内でも一番大きな公園があったり、さらのさらに、間近には商店街やショッピングセンターがあったり……


「何だかんだで、不動産屋さんも絶賛したくなるような高級住宅街の一等地も良い所にデンちゃん一家の豪邸があったりするみたいな……」


「はい? 秋ちゃん? イキナリ何を言い出しちゃってるの?」


「おるこちゃん、タダの独り言だから気にしなくてイイよ」


「独り言はイイけど、ほら、秋ちゃん! んもうー! じっとしてなさいってば!」


 ――っていうかさ、デンちゃんの部屋、24畳なんてバカでかい洋室なんだよ。ボクはビックラこいちゃったよ……


「ボクと母さんの浅間家は借家。6畳と4畳半の二部屋しかない借家」


「秋ちゃん? 今度は何を言い出しちゃってるの?」


「おるこちゃん、気にしなくてイイよ。お馴染みのタダの独り言だし」


 ――6畳の部屋は居間で、4畳半しかない部屋が母さんとボク二人の寝室……たった二部屋しかないオンボロ借家……


 いやはや、我が浅間家の何個分の豪邸か、それを考えると、ボクは思わず目眩がしそうだ。


 ――良く考えたら、ウチの借家、デンちゃんの部屋にスッポリ入っちゃうかもしれない……


「うんうん、イイ子ね、秋ちゃん。やっと大人しくなったわね」


「大人しくなったっていうかさあ、朝間君、何か考え込んでるみたいだけど?」


「エザちゃん、細かいことなんて気にしないのよ」


 ――玄関とトイレと、台所と風呂場と、それらを全て合わせて6畳くらいの広さで、居間は6畳だし、寝室は4畳半で……


 ちなみに、我が浅間家にはダイニングキッチンが無い。在るのは狭い台所だけだったりする。


 ――台所で料理してたらさ、その後ろには食器棚でさ、料理してる人の後ろをね、やっと人が一人通れるかなっていう手狭さなんだよ……


「はあ……朝間君、綺麗……」


「トベちゃん、トベちゃん、もっと言ってね。もっと言ってイイのよ」


 ――おるこちゃん、トベちゃんの言葉にニコニコしながら応えてるし……


「あたしゃさ、朝間君をウチの床の間に飾りたいわ」


「デン、あんたの家はデカイから、こんなにコンパクトな秋ちゃんを飾ってもチンマリしちゃうわよ」


 ――っていうかさ……ボクと母さんの借家、16畳しかないし……やっぱり、ウチの借家丸ごとデンちゃんのデカイ部屋にスッポリ入っちゃうじゃんか!


 ちなみに、ボクは生まれて初めて24畳もの広さがある部屋なんてものを見てしまっている。


 ――6畳の部屋4個分の部屋なんて、ボク的に有り得ない広さの部屋だし……


「あのさあ、河鹿さん?」


「エザちゃん? 何なに?」


 ――ああ、ボクんちはデンちゃんの部屋よりも小さいなんて……


「何だかさあ、河鹿さんさあ、メチャご機嫌そうだから」


「あはは! だって可愛らしいじゃない。秋ちゃん土台がイイからイジリがいがあるし」


 ――何だかさ、メチャクチャ、スコブル、シコタマ、ボクはヘコんじゃったよ……


「朝間君の顔の土台がイイから、河鹿さんもメイクのしがいがあるみたいな?」


「そうそう、エザちゃん、そのとおりよ」


 ――ボク、頑張って母さんに豪邸をプレゼントしなきゃ! だってさ、メチャクチャ理不尽に思えてさ……


「はい、出来上がり!」


 ――なんて、ボクの顔をイジクリ回していたおるこちゃんは……


 ご満悦の表情で、ボクの女装メイクアップの完成を宣言してくれた。


「うわぁ……とっても綺麗……」


 田頭久美子ちゃんは、鏡に映るボクの顔をマジマジと見つめている。


「綺麗っていうか、メチャクチャ可愛いぞ」


 江澤さんは、よりによって、彼女のスマートフォンのカメラ機能で、何枚も何枚も、パシャパシャとボクの顔を撮り始めるし。


「えぇー? ホントに女の子みたい……」


 卜部さんなんて、ボクの前に彼女の顔を出して、ボクの顔を至近距離から直視していたりする。


「はい? っていうか……鏡に映るコレ……誰?」


「誰って、これ、秋子ちゃんでしょ?」


 頓珍漢なボクからの質問に、河鹿薫子は満悦最高潮の様相になりつつ、彼女もスコブル頓珍漢に答えてくれていた。


 ――女の子顔のボクなんて有り得ない……ああ、有り得ないボクにされちゃったし……


「じゃ、次の衣装に着替えるわよ」


「あは! 着せ替え秋子ちゃんみたい」


 ――ボクは着せ替え人形と違うし! 秋子ちゃん違うし!


「っていうか、うわぁー!! おるこちゃん!! みんな見てるんだし、イキナリ脱がさないでよ!!」


「秋ちゃん、うるさいわね。イイから、さっさとコレに着替えてちょうだい」


 ――二人っ切りの時は甘ったれおるこちゃんなのに……


 二人っ切りじゃない時にはイケイケおるこちゃん。


 ――内緒だけど、ボクはね、そのギャップが大好きだったりして……


「ああ、もう……着替えたよ、ほら!」


「あたしの言うこと利いて、秋ちゃん偉いわね」


 ――こりゃ、後でデコピン喰らわさなきゃな……


「あ……え? 秋ちゃん? あたし、あの……」


 河鹿薫子、ボクの密かな殺気に気づいたらしく、みんなの前で弱気になりかけていた。


「おるこちゃん、ほら! ボク、ちゃんと着替えたんだから、余計なこと言わなくてイイし!」


「あ、あ……秋ちゃん、あのね……」


「おるこちゃんウルサイよ。いいからさ、ほら……」


「あ? 秋ちゃん?」


「だからさ、おるこちゃんが指定したウイッグ、さっさとボクに寄越しなよ」


「え? あ、うん……秋ちゃん、はい、これ」


 ――ほらほら、おるこちゃん。いつものイケイケおるこちゃんキャラを頑張れ!


 なんて、ボクは河鹿薫子に目で激励しつつ、ボクは河鹿薫子が指定した服に着替え、ウイッグも彼女が指定したものに替えた。


「えぇー!? 色っぽ過ぎだぜ!! モロに朝間君、エロカワみたいな!!」


 いきなり叫んだのは江澤さんで、その他のみんなはポカンと口を開けて絶句をしている。


 ――うわぁ……おるこちゃんなんてさ、ビックリ顔炸裂させながらさ、アングリと大口を開いちゃってるし……


「ねえ、みんな? あたし、綺麗?」


 ボクの中で何かが弾けたみたいな感覚があり、ボク的に有り得ない言葉使いを始めてしまっている。


「朝間君、綺麗っていうか……あの、えっと、えっと……」


 ――デンちゃんは続けて何かを言いたいそぶりなんだけどさ、何て表現したらイイか言葉が見つかんないみたいなアレにハマってるし……


「ねえ、朝間君? どうして女の子に生まれてこなかったの? どうして美少女の容姿で美少年に生まれることを選択して生まれてきたの?」


 突然、卜部さんが真面目な顔をしながらボクに向かって意味不明な質問をしてくれた。


 ――うーわ! トベちゃん、そう来ましたか!


「そうそう、それだぎゃ! 朝間君は、何で、どうして美少女の容姿で美少年に生まれることを選択して生まれてきたんだぎゃ?」


 卜部さんの言葉を聞くや否や、田頭久美子ちゃんは卜部さんと同じ質問をボクへ浴びせてきた。


 ――うわぁ……デンちゃんまで? 『ブルータス、お前もか?』状態みたになっちゃったし……


 思わず、ボクはふと頭に浮かんだ、

「毒を喰らわば皿まで……」

という言葉を、バンドのメンバー全員を見渡しながら呟いてしまったが、

「え? 秋ちゃん?」

と、ボクの呟きに間髪入れず言葉を返してきたのは河鹿薫子だった。


「っていうか……トベちゃん、デンちゃん? あたし、そんなに女の子の方が似合う?」


 ――内緒だけど、すっかりボクは女言葉を気持ち良く使ってしまっていたりして……あはは!


「似合うも何もさあ、女装した朝間君……どっから、どぉー見ても、そのまんま女の子だぜ」


 そう言ったのは江澤さんだった。


「うふふ……みんな、はじめまして。あたしは浅間秋子です」


 ――ああ、女の子のボク……メチャクチャ気持ちイイ……


 ちなみに、ボクは声変わりと呼ばれるものを中学1年生の時にしてしまっていた。


 ――なのに、声変わりをしたはずのボクなんだけど……


 なぜかソプラノと呼ばれる音階まで悠々と声を出せてしまったりするから不思議だ。


 ――まあ、骨細で華奢な体格のボクだし……声変わりをしたのに地声は高いからさ、そのせいでね、逆に男らしい低音ボイスが発声できないんだけどさ……


「ねえ、みんな? あたし、バンドの時は秋子になるからヨロシクね」

なんてボクが言うと、河鹿薫子は、

「秋ちゃんの声、その作り声……あたしには女の子の声にしか聴こえないわ……」

と、何だか嬉しそうな表情でボクを見つめながら呟いてくれた。


 ――いや、あの……意識してさ、無理にね、ワザと1オクターブ高い声で喋ってるだけなんだけど……


「もしかして……ウチのバンドの新しい女の子ボーカル誕生しちゃった?」


 そう言ったのは田頭久美子ちゃんだった。


「うん、ウチのバンドに新しい美少女ボーカル誕生だわ」


 田頭久美子ちゃんの言葉に応えたのは河鹿薫子だった。


「ねえ、みんな? やっぱり、あたしがボーカルをやるの? 女装をしてること観客には内緒にしてライブとかやるの?」


 ボクは悪戯心満載の質問をバンドのメンバー全員に向かってかましてしまう。


「いやん……もう、秋ちゃん?」


「おるこちゃん、なぁーに?」


「あのね、あのね……秋ちゃん?」


「だから、おるこちゃん? 何を言いたいの?」


「もう、秋ちゃんは男の子に戻ってイイのよ」


「うふふ、おるこちゃん……」


「いつまでも秋子ちゃんのまんまじゃなくて、もう男子の秋ちゃんに戻ってイイのよ」


「うふふふふ……あたし、そんなの嫌だもん」


 ――ああ、気持ちイイ! 秋子のボク、女の子のボク……


「あ、あ、あ……秋ちゃん? もしかして、無理矢理に女装とかさせちゃったから怒ってるの?」


 ――女装男子のボク、もう癖になっちゃいそう……


「うふふ……おるこちゃん、そう思う?」


 ――あはは! おるこちゃんゴメンね……


「あぁーあ、あ……ぁあ、秋ちゃん? あたし、謝るから、謝るもん! だから、あの……怒らないでほしいの」


 ――ボクね、女の子のボクが大好きになっちゃったみたいな……はぁーーー、気持ちイイ!


 何だかんだ言って、河鹿薫子の悪戯心から施されたボクの女装だった。


 ――そんなこんななんだけどさ……女装男子のボク、もうヤメられないかも。女子の姿のボク、こんなに気持ちイイなんて知らなかったんだもん……


 いやはや、ボク達のバンド「おでん」は、今日を境にトンでもない方向へと迷走を始めようとは、この時、バンドのメンバー全員、全く予想もしていなかった。


「うふふ……浅間秋、中学二年生の男子だったり、なんちゃって美少女の浅間秋子だったり……うふ、変わるわよ」


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