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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
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第6話、おでんスタジオin


 ――いきなりだけど、ゴメンなさいって言わせてね。だってさ、バンドとかやったことない人には全然ワカンナイ用語だらけかもしれないから……


「秋ちゃん、あのね、サビからブリッヂに入るオカズの頭だけど、もっと強くクラッシュを叩いてほしいのよ」


「え? イイの? おるこちゃんの歌声にカブっちゃって、クラッシュの音が歌声のマスキング現象とかんなってさ、サビのケツの歌声が聴こえにくくなんない?」


「いやん、秋ちゃんったら、あたしの声量をナメないでね」


 ――確かに、おるこちゃん、流石は演劇部で鍛えた腹式呼吸のビックリ声量だから……


「うん、もっと強くクラッシュ叩いても大丈夫かもね」


 ちなみに、曲のサビというのは、昔からある日本語のワビサビが語源で、その曲で最も盛り上がるアレのこと。


 ――解り易く例えれば、カラオケなんかで一番熱唱しちゃって、唄ってる曲の中でも一番盛り上がる部分のことかな……


 さらにちなむと、ブリッヂというのは楽曲中にある間奏のことで、オカズとはドラムという楽器で言うならフィルインのことだったりする。


 通常、ドラムは一定の決まりきったリズムをモクモクと叩いているが、曲の要所要所にてオカズと呼ばれる変則的なリズムを叩いたりする。


 ――その変則的なリズムをオカズって言ったりしてるんだけど……一定のリズムはゴハンみたいな、んで、変則的なリズムはオカズみたいな……


 そして、クラッシュとはドラムという楽器に装備されたクラッシュシンバルの略語。


 ――あのね、クラッシュシンバルとか、サイドシンバルとか、スプラッシュシンバル、チャイナシンバル、ライドシンバル……などなど、シンバルにも色々な種類があったりするんだよ……


「ねえ、デン? 今あたしが秋ちゃんに言ったトコで、あんたのシンセ、ペダル踏んで少しだけ音量を足してくれないかしら?」


「え? うん、薫子、分かったわ」


 今おるこちゃんが言ったペダルというのは音量調節用のボリュームペダルのこと。



 鍵盤楽器の演奏は両手を使うから、足で音量を増減できるフットペダルなんていう、手を使わないで音量調節可能なオプションもあったりするからヤヤコシイ。


 ――ってかさ、仕切り屋さんのおるこちゃん、バンドでも仕切る仕切る!


「あ、そうそう、おるこちゃんが呼んだデンちゃんというのはデン子ちゃんのことなんだけど……」


 そのデン子ちゃんというのは、河鹿薫子と一番仲良しな同じクラスの女子であり、ボクとも同じクラスである2年2組の女子のこと。


 ちなみに、デンちゃんは『おるこちゃんバンド』の作曲を全てしちゃう、凄腕メロディメーカーだったりする。


 ――もちろんね、デン子ちゃんっていうのはニックネームでさ……


 本当のフルネームは田頭久美子ちゃんという。


 ――えっとね、デンどうクミ子だから、それを略してデン子みたいな感じみたいな……


「っていうか、仕切り屋おるこちゃんだから、てっきりバンドのリーダーになってるのかと思ったら……」


 意外や意外、バンドのリーダーは田頭久美子ちゃんに任せていたりする。


 ――目立ちたがり屋さんで仕切り屋さんのおるこちゃんがリーダーをしなかった理由を知りたい?


 勿体振らずに暴露すると、バンド名のために田頭久美子ちゃんであるデン子ちゃんがバンドのリーダーになったのだが、バンドの名前は『おでん』だったりする。


 ――昔ってさ、おきぬさんとか、おぎんちゃんとか、女性の名前の頭に「お」を付けて呼んでいたらしいけど……


 デン子ちゃんの頭に「お」を付けて「おでん」という、相変わらず訳の分からない発想だらけな河鹿薫子、彼女が意気揚々と名付けたバンド名だったりする。


 ――でも、意外とインパクトがあるらしくてさ、『おでん』というバンド名、一度で誰もが覚えてくれるから便利かも……



「っていうか……ねえ、おるこちゃん? 少し休憩しない?」


「え? 秋ちゃん、どうして?」


「だってさ、みんな疲れ果ててヘタレちゃってるじゃんか」


 ――はっきり言って、有り得ない位、おるこちゃんってさ、体力的にもタフだし、精神力もタフだし、集中力もタフそのものみたいなアレだし……


「おるこちゃんみたいにさ、みんなはタフネスじゃないんだしさ……」


 バンド活動をしている時の彼女は、ある意味、化けものみたいなスタミナを炸裂させる、言うなれば、おっぱい星人のパイコちゃんの様相だったりする。


 ――ラクダはコブにスタミナを仕舞ってるって言われてるけど、おるこちゃんは大きな二つのおっぱいにスタミナを仕舞ってんじゃないかなぁーってな位に、有り得ない位に持久力のカタマリおっぱい星人パイコちゃんなんだよ……


「イヤだ、あたしったら、気づかなかったわ。みんなゴメンね。じゃあ、ちょっと休憩にしようかしら」


 ――っていう、仕切り屋おるこちゃんの言葉に、バンドのメンバーみんなは、もう、ソッコーで安堵した顔になったし……


 それを見た瞬間、ボクは今の提案が間違っていなかったと細く微笑んでしまっていたなんて、そんなことは内緒ばなし。


 ――というわけで、長々と三時間も休む暇なくレンタルスタジオにて演奏をし続けていたバンドのメンバーたち……


 やっとこさっとこ休憩にありつけたのだった。


 ――あ、そうだ。スタジオって呼んでるコレ、何だかワカンナイよね?


「遅ればせながら、レンタルスタジオの説明をすると……」


 ――今ボクたちが居るタイプのレンタルスタジオとは……


「アマチュアバンド活動をする人々が音合わせの練習をするためにあって、んで、比較的に安く借りられる防音対策が施された小部屋のことで……」


 都市部の市街地の中には必ず一つ二つは在る、アマチュア音楽家には欠かせない防音設備完備のレンタル部屋みたいなものだったりする。


 ――ところでさ、中学生なんて親からお小遣いをもらってアマチュアバンド活動をするから、中学生みたいな子供にはレンタルスタジオを一時間や二時間しか借りられないのが普通だけど……


 そう、ボク達のバンド「おでん」の様に、五時間も六時間も、そんな長時間をもレンタルスタジオを借りるなんて、そんな中学生バンドは滅多に居やしないことが普通だったりする。


 なぜならば、そんなに長時間レンタルスタジオを借りようなものなら支払うべきものが払えなくなるからである。


 ――バンドの練習なんてさ、月に何回も音合わせとかしなきゃ、そのバンドは意気投合をした上手な演奏をできやしないんだよ。でも、安いレンタルスタジオだって、中学生なんていう子供にとっては、何時間もの長時間を月に何度も繰り返し借りられるお小遣いなんて、まあ、普通は持ってやしないし……


 正直に暴露してしまうと、ボク達のバンド「おでん」のスタジオ代金はボクが全てを出してしまっていたりする。


 ――だってさ、ボクはスタジオ代をさ、ボクの会社の経費で落とせるし……


 小生意気な話で恐縮だが、ボクは自前の作品を売りさばいて、我が浅間家の借家の家賃から、ボクのアトリエの家賃まで、もう悠々と支払える利益を出せる有限会社を経営したりしている。


 ――そんなこんなでさ、中学生という子供のくせにさ……学校が休みの日は、六時間とか八時間とか……


「とてつもない長時間をもレンタルスタジオを借りては、楽しいバンドの練習で耐久レースみたいなことを可能にしていたりするみたいな」


 ――あ、そうそう、ボクは会社を経営してると言ったけどさ……代表取締役はボクの母で、ボクはチマチマとヘッポコ会社役員をコソコソとやらかしてるみたいな……


 現代日本における企業の社会的信用というものを他社達から得るため、ボクの会社の社長は、ボクが尊敬する我が母に任せていたりする。


 ――中学生が社長じゃ、どんなに黒字経営してようと、まあ、会社の運転資金を銀行は貸し渋りするもなんだよね。やっぱりさ、経営には大人同士の社会的信用っていうのが大切なんだよ……



「ねぇ、秋ちゃん……あたし、お願いがあるの」


「え? おるこちゃん、なぁーに?」


 バンド「おでん」のメンバー達はスタジオから出て休憩をしていて、今スタジオ内に居るのは河鹿薫子とボクだけ。


「秋ちゃんからキスして欲しくなっちゃったの、あたし……」


 河鹿薫子はボクに抱きつきながら、まるで愛らしくて無邪気な子猫みたいに、ボクの胸元へ彼女の顔をスリスリと擦りつけている。


 ――おるこちゃん可愛い。そんなにボクへ赤裸々に甘えてくれる愛らしいおるこちゃんが大好き……


「でも、おるこちゃん、あの……バンドのメンバーに見られたらハズイから、今は……」


 ――なんて、ボクが言いかけたところで……、


 河鹿薫子、ボクに熱く激しいベーゼをかまし始めてしまった。


 ――みんなの前では絶対に見せない、ボクだけが知ってる甘ったれおるこちゃん……


 そんな河鹿薫子が、愛おしくて、可愛らしくて、ボクは強く彼女を抱きしめてしまう。


「あたしの秋ちゃん……ん! もっとキスして! あん……もっと秋ちゃんのキスが欲しいの」


「うん、おるこちゃん……もっとキスしちゃうから」


「あたし……ん! あん! 秋ちゃんのキス気持ちイイ……」


 ――おるこちゃんの息遣い、とても熱い息遣い……それはボクへの想いの証だから、ボクは有り得ない位に幸せかも……


「うふふ……素敵なキス、ありがとう秋ちゃん。あたし、元気復活できちゃったわ」


「え? 今のキス、ボクからしたんじゃない……」

と、そこまで言いかけたところで、

「んもぅ、ばかぁ……細かいことなんてイイのよ」

なんて、河鹿薫子はボクへの想いを強調するかのように言葉を挟んでくれたのだった。


「っていうかさ、おるこちゃん、どうしたの? そんなにボクを見つめたりしてさ」


「いやん、もっと秋ちゃんを見つめさせて」


 熱烈で過激なキスが終わった後、河鹿薫子は真っ赤に染めた顔に幸福感をアリアリとにじませながらボクの顔を見つめてくれている。


 ――っていうか、おるこちゃんも耐久レースみたいなスタジオinに疲労困憊してたんだ……


「おるこちゃん……」


「え? 秋ちゃん、なぁーに?」


 河鹿薫子、ボクに抱きついたまま、彼女は今しがたの激しいキスの余韻に浸っている表情を見せつつ、ボクの顔を見上げている。


「おっぱい星人パイコちゃんなんて言ってゴメンね。おるこちゃんも人の子だもんね」


「は? 誰がおっぱい星人パイコちゃんですって?」


 河鹿薫子、急に怒りに満ち満ちた表情になり、

「うわっ!! おるこちゃん痛い痛い!! ゴメンなさい、ゴメンなさい!!」

と、ボクが平謝りしちゃうくらいの鉄拳を、シコタマの雨アラレとボクのオデコに授けてくれている。


 ――しまった……おっぱい星人パイコちゃんって、ボク、言葉に出してなかったんだった。心の中で思っただけだったんだった……


「秋ちゃんのばか! 秋ちゃんのばかぁー!」


「おるこちゃんゴメンなさい! おるこちゃんゴメンなさい!」


 ――情けない子供っていうか、オコチャマなボク、女心は未だまだ勉強中みたいな、未熟者丸だしちゃんみたいな……トホホみたいな……



 さてさて、束の間の休憩時間が終わり、再びバンドの練習を始めたボク達。


「浅間君、薫子は、その、えっと……気にしてるから……」


「デンちゃん? おるこちゃんが気にしてるって、何を?」


 デンちゃんがボクにコソコソと内緒ばなしをしている。


「だから、薫子、あの大きなバストを気にしてる……」


「って、デン! ウルサイわよ! それと、秋ちゃん! あたしへの謝罪の意味で唄いなさいよ!」


「え? ボクが唄うとさ、どうしておるこちゃんに対する謝罪になるの?」


「んもぅ、四の五のウルサぁーイ!!」


 まだ怒りが収まらない様子の河鹿薫子、ボクを指差しながらマイクを使って怒鳴ってくれたのだった。


「おるこちゃん、そんなに怒鳴ったらさ、コンプ入ってないんだから、PAのヒューズが切れちゃうし……」


「って、秋ちゃんウルサイ! とにかく唄うのよ!」


「っていうか、何が『とにかく』なんだか全然ワカンナイし……」


 ――ちなみに、PAとは業務用の音響機材の総称みたいなもんで、PAアンプやら、PAスピーカーやら、家庭用のアンプやスピーカーよりも頑強に造られている音響機材みたいな感じで知っててもらえれば大丈夫……かな?


 コンプというのはコンプレッサーの略語で、音声を圧縮する、これもPA機材の一種。


 ――あまりにも大きい音は機材を壊しちゃうから、大きい音は圧縮して色々な機材に対して最適な音の大きさにする機材のことなんだよ……


「浅間君の歌声、あたし、聴いてみたいな。聴いたことないから聴いてみたいな」


「え? デンちゃん?」


 デンはちゃんは瞳をキラキラさせながら、ボクに唄え唄えと哀願するように訴えている。


「浅間君、あたしも聴きたいなぁー」


「うわ……エザちゃんまで?」


「うそ? 浅間君って唄える人だったの? あたしも聴いてみたい」


「えぇー? トベちゃんまで?」


 ――なんて、バンドのメンバー全員から言われてしまったボク……


 もう引っ込みがつかないから、仕方なく唄うことに腹をくくるしかなかった。


 ――ちなみに、エザちゃんとは江澤さんのことで、トベちゃんとは卜部さんのことだよ……


「秋ちゃん? 唄うのよね?」


 ――あ、大切なことを言い忘れてた。バンドのメンバー、ボク以外のメンバーは全員女子なんだっけ……


「秋ちゃん? ねぇ、秋ちゃん? 唄うのよね?」


「え? あ、うん。おるこちゃん……ボク、唄うよ」


 実は、この河鹿薫子、本当は「おでん」を女の子バンドにしたいらしいのだが、残念なことに彼女が求めるレベルでドラム演奏ができる同年代の女子を見つけられないらしい。


 ――そんな事情から、おるこちゃん、仕方なく男子のボクをバンドに誘ったなんて、そんな話をデンちゃんから内緒でされたから、この話、おるこちゃんには内緒……かな?


「じゃあ、行くわよ。ワン、トゥー、スリー、フォー」


 ――っていうおるこちゃんの合図と共に、バンドのメンバーによる演奏が始まったみたいな……



曲名、陽のあたる場所


作詞、河鹿薫子

作曲、田頭久美子


編曲、おでん


 ――そして、にわかボーカルのボク……


 ボクはドラムを叩きながら唄えないがため、ドラムはリズムマシーンと呼ばれる機材にボクの代行をさせている。


 ――あ、イントロが終わる……ボク、唄わなきゃ!


夢に絶望してぇー

街ふらついてる時もぉー

そこから逃げることぉーおー

考えてちゃいけなぁーいー


一度の失敗でぇー

諦めてしまえるほどぉー

あんたの追ってた夢は

小さいものだぁーったの?


今ならぁーまぁーだぁー

やり直せるよぉー

も一度だけぇー

思い切ぃーりぃー

ぶつかってみないか?


逃げていたぁらぁ

何もできなぃー


飛び出ぁーすのよ!

陽のあたる場所ぉーへ……


 何だかんだで、ボクは久しぶりに唄ってしまっている。


 もう、本当に久々の腹式呼吸で発声をしながら。


 ――っていうか、あれ? 曲の途中なのに? バンドのメンバー全員フリーズしちゃったけど、何で?


「そう、バンドのメンバー揃い踏みで唖然とした表情をしながら、その場にメンバー全員が固まっちゃってさ……」


 この曲の二番、その演奏を放棄してしまったかのように、曲の一番が終わったところで演奏が中断してしまっていたのだった。


「みんな? どうしたの? ボクさ、二番は唄わなくてイイの?」


 ――事態を把握できないボク、多分、頓珍漢なことを言っているかもしれないけど……


「秋ちゃんったら、そんな、ウソでしょ?」


 河鹿薫子、まばたきも忘れてボクを凝視している。


「へ? おるこちゃん、『ウソでしょ?』って?」


 田頭久美子ちゃんは、まるで全身から力が抜けたように、パイプ椅子の背持たれにグッタリ寄りかかりながら、

「そんな、まさか……朝間君が、こんなに? 有り得ない」

と、ポツリと呟いた。


「デンちゃん、有り得ないって? もしかして、ボク、歌詞を間違えちゃった?」


「浅間君の歌声さあ、メッチャ男離れしていて、まるで女の子が唄ってるみたいで、俺様的に、有り得ない位にセクシーかも」


「え? エザちゃん?」


 エザちゃんこと江澤さん、椅子から立ち上がって直立不動になりながらボクを見つめている。


 トベちゃんこと卜部さんは、

「河鹿さんが作詞した歌、透明に透き通った声の浅間君が唄うと……有り得ない位にドキドキする」

なんて、フルートを唇に当てたまま囁くように言ってくれた。


「大変だわ! トンでもない未知との遭遇しちゃったわ! あたし、秋ちゃんの代わりのドラム、もう、急いで探さなきゃだわ!」


「え? おるこちゃん? やっぱり女の子バンドにしたいの? 男子のボクじゃ、やっぱりダメなの?」


「違うよ。朝間君はドラムなんか叩いてないで、高くて綺麗な声の浅間君に唄って欲しいんだよ」


「は? デンちゃん?」


「俺様もデンちゃんに同感だし……浅間君のセクシーな歌声をさあ、俺様はもっと聴きたいよ!」


「はい? エザちゃん?」


「浅間君には女言葉の歌詞が似合ってて……美少年なのに美少女みたいで……性別なんて余裕で超越した朝間君の歌声に、わたし、すっごくドキドキするの」


「えぇー? トベちゃん?」


 ――みんなさ、雁首を揃えてさ、何を言ってくれちゃってるの?


 正直に言って、河鹿薫子が作詞した曲は、やはり、河鹿薫子の喋り言葉なのだから、ボクは河鹿薫子本人が唄うのが一番だとしか考えられない。


「あ、そうよ……秋ちゃんに女装よ……」


「はい? おるこちゃん?」


「うん! 美少女みたいな美少年の朝間君には絶対に女装とか似合う!」


「え? デンちゃん?」


「元々美少女顔だし、女の子みたいな美少年顔だから、朝間君が女装とかヤラカシたらさ、有り得ねぇー位に凄く可愛くなること間違いねぇー!」


「はぁー? エザちゃん?」


「うん! 朝間君なら、もう、絶対に似合う! 溜め息が出ちゃう位の女装になると思う!」


「ととと? トベちゃん?」


 ――気のせいか、バンドのメンバー全員の目つきが変なような……


「秋ちゃん! 今すぐにスタジオキャンセル!」


「は? おるこちゃん? この後、まだ、三時間もスタジオキープしてるんだけど?」


 ボクは無意識にスタジオ出入口のドアに向かって後ずさりを始めてしまう。


 ――だってさ、みんなの目が……みんなの目つきがヤバ過ぎだし……


「みんな! 秋ちゃんを捕まえて逃がさないで! こうなったら、もう、連れて帰って女装させてみるしかないんだから、絶対の絶対に逃がしちゃダメよ!!」


 河鹿薫子の号令と共に、バンドのメンバー全員、ボクをガッシリと四方から捕まえてしまう。


「っていうか、女装? ボクが女装とかすんの? 何で、どうして?」


 なんていう、ボクの言葉は誰も聴いておらず、彼女達はヒソヒソと、何だか怪しい打ち合わせをにわかに始めていた。


「うん、決まりね。朝間君を拉致って、みんな、あたしんちに集合してね」


「うん、みんなデンの家に秋ちゃん拉致って集合よ!!」


「デンちゃん? おるこちゃん? 拉致? 集合?」


「それじゃ、撤収!」


 河鹿薫子の号令により、ソソクサとスタジオ内を撤収したかと思いきや、ボクはバンドのメンバー全員からデンちゃんの家に向けて強制連行されてしまったのだった。


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