第4話、学校公認ラブラブ
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「あれ? おかしいな……」
「秋ちゃん? どうかしたの?」
河鹿薫子とボクは、さっきのキスの余韻を引きずりつつ、心地好く寄り添い合いながら、もう誰も居なくなって人の気配がなくなっているギャラリーの真ん前に来ていたりする。
――こんなこと、恥ずかしくておるこちゃんには言えないけど……
「ねえ、秋ちゃん?」
――ボク、おるこちゃんとのキス……
「ねぇーってば、ねえ? 秋ちゃん?」
――気持ち良過ぎだから、もう癖になりそうだよ……
「ねぇーってば、ねぇーってば!! 秋ちゃん!? 秋ちゃん!?」
――あ、しまった! 余計なこと考えてないで……ちゃんとボク、おるこちゃんの質問に応じてあげなきゃ……
「えっとね……だってさ、ボクが閉めるはずのギャラリーのシャッター、何だか勝手に閉まってるからさ」
「とっくの昔に下校の時刻が過ぎちゃってるから、先生か誰かが閉めちゃったみたいな感じなんじゃないの?」
――うーん……ギャラリーの重量シャッターを開け閉めする電動スイッチは、それ専用の鍵を差し込まないと起動しない仕組みなんだけど……
「あのね、シャッターの鍵……電動シャッターのマスターキーはボクが持ってるんだよ」
「下校の時刻を過ぎても秋ちゃんが閉めに来ないから、スペアキーか何かで、先生とか用務員さんとかが閉めちゃったとか?」
「あ、スベアキーか……うん、その可能性はアリアリかもね」
ちなみに下校の時刻とは、それは校舎内に生徒が居て良い時刻と居てはいけない時刻の時間的概念におけるボーダーラインのことだ。
――えっと、ほら……さっきさ、ウチのクラス担任ガンジーが言ってたアレのことみたいな……
部活の顧問など、保護管理責任を担える者の管理下にあるなら生徒は校舎内に居残り可能なのだが、保護管理責任を担える者の管理下にないまま生徒だけで校舎内に居ようなものなら、それは校則違反の現行犯になってしまうアレのことだ。
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「っていうか、あれれ? シャッターを閉めきったギャラリーの中に……人の気配がするみたいな?」
「あ、うん……中に誰か居るみたいよね」
――耳を澄ますとギャラリーの中から、微かに、何となく……しわ枯れた男性二人の会話が聴こえてきてるみたいな……
「教頭、あなたは本当に浅間秋君を生徒会長に据える心積もりなのですか?」
「いた仕方がありません。学校長からの命令です」
――なぁーんだ……ギャラリーの中に居るのは教頭と学年主任じゃんか。っていうかさ、話題の主はボクだし!
「いやはや、しかし、校長は、何故ゆえ、よりによって浅間秋君を生徒会長に?」
「仕方ありません。教育委員会による我が校視察の際、その役員様のお一人が浅間秋君の仕事内容を絶賛せしめ、『浅間秋君こそ我が校の生徒会長に相応しいであろう』と言い残して帰られたのですから」
「浅間秋君の仕事? 彼はギャラリーにて作業しかしていないのではないですか?」
「学年主任、あなたは仕事と作業の区別もつかないのですか?」
「いや、あの、その……」
――仕事と作業の区別、そんなものボクにだって簡単に違いが判るのに……
学年主任は教頭からの質問に対して言葉を返せないという失態に、思わずボクは笑いを堪える羽目に陥っている。
「あら? あらら? 秋ちゃん? 仕事と作業って違うの?」
「全然違うよ、おるこちゃん。解り易く言うなら、例えばさ……」
「うん、秋ちゃん……」
「今彼らが言ってるところの作業ってのはさ、他人から与えられた仕事を言われた通りに片付けるだけって意味なんだよ」
ボクの説明に河鹿薫子は『はてな?』という顔をしながら、まばたきの数をいたずらに増やしつつ、更なるボクの説明を待っている様子だった。
「いや、だからさ……今時の一般論で言い換えるとさ、仕事ってのは頭脳でする無形のクリエイトなんだよ」
「えっと? え? あの……秋ちゃん?」
「んでさ、作業ってのはさ、どういう仕事にするか企んでから行う肉体労働なんだよ」
「秋ちゃん、あたし、全然ワカンナイかもだわ」
「だからさ、頭脳労働でする無形の企てが仕事で、企てた内容を肉体労働によって有形にするのが作業なんだよ」
「秋ちゃん……あたし、よけいにワカンナイ……」
――なんて会話をしていたら、ギャラリーに居る二人の会話が再開したし……
ボクは河鹿薫子の発言を制し、再びギャラリーの中で繰り広げられようとしている大人二人の会話に聞耳を傾け始めた。
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「浅間秋君はですね、彼にしかない独特なセンスをギャラリーにて発揮してくれておりますよ」
「はて? 教頭が仰るような、浅間君の独特なセンス、このギャラリーにありますかね?」
またまたボクは笑いを堪える羽目に陥ってしまう。
――学年主任はパカタリなのか? それとも、そのギャラリーを観て感じるものがない不感症なのか?
今まで内緒にしていたが、実はボク、意外や意外な毒舌吐きだったりする。
――いや、ただ単に物事に対して歯に衣を着せずに表現する人なんだっていうか……本音と建て前を器用に使い分けできないガキんちょの子供でしかないというか……
とにかく、ボクの表現は真っ直ぐというか、そのまんまストレートばかりだったりする、なんていうことは内緒ばなし。
――ってかさ、学年主任は文化の世界的定義を知らないのか? 知らないから文化の一構成要素であるところの芸術というものが理解できないんだな……
「なんて思わずにはいられない、何だか笑止千万な質問ばかりをしているイイ年こいた学年主任みたいな」
「秋ちゃんって、ホント、時々、メチャクチャ口悪いわよね……あはは!」
「おるこちゃん、余計なお世話だから……」
「学年主任、ここに彼が描いた風景画がありますね」
「教頭? まさか、この絵を浅間君が?」
「そうです、これは浅間君の作品ですよ。いやはや、素晴らしい水彩画ですね。この水彩画は某絵画コンクールにて文部科学大臣賞を受賞していますよ。しかもです、この額縁も浅間君の手造りなのですよ」
「ああ、これが例の文部科学大臣賞受賞作品……それに加え、この見事な彫刻が施された額縁までも浅間秋君が?」
――あはは! 見事かどうかなんて鑑賞した人の主観じゃんか。っていうか、その彫刻は、かの有名なゴシック様式なんて呼ばれてるアレを模っしてるなんて言っても、あの学年主任にはワカラナイんだろうなあ……
いつの時代も大多数の大人達なんて知ったかぶりばかりなことは嫌というほどに知っているボク。
――そう、解りもしないくせに解ったふりをする恥ずかしい生き物、それがさ、平凡と呼ばれるタイプの大人達さ……
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「ねえ? 秋ちゃん?」
「おるこちゃんゴメン。もう少しだけ、少しだけ我慢して黙ってて」
「うん、イイけど……あのね、あのね、秋ちゃんと手を繋いでもイイ?」
「うん、おるこちゃんイイよ」
河鹿薫子からの愛らしい申し出に、ボクは彼女の右手を優しく握って、そして、彼女の唇にフレンチキスをしてしまう。
「いやん……秋ちゃんからのキス、あたし、すごい嬉しい……秋ちゃん、あのね、あのね……秋ちゃんの背後で微笑む女神様なんだけどね……」
更に言葉を続けようとする河鹿薫子の唇に、ボクは再びフレンチキスをして、
「お願い、もう少しだけ静かにしてて」
なんて、彼女の背後から彼女を抱きしめながら呟いたら、
「うん、秋ちゃん、分かったわ」
と、ボクから抱きしめられている彼女は、ボクに彼女の体重を嬉しそうに預けながら、唐突に少しだけ激しいキスを返してくれたのだった。
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――あ! しばらく沈黙をしていたギャラリーの中に居る二人、また会話を始めたし!
「さてさて、こちらには艶やかに活けられた花が飾られておりますが……」
「教頭、まさか、この活け花も?」
「そうですよ、学年主任。この活け花は浅間君が今朝かた活けたそうです」
「なんて見事な活け花を……」
「浅間君は活け花を専門的に手習いしておらぬそうですよ」
「まさか! そんな! この見事な活け花を自己流で?」
「巷におわされます家元の皆様方も顔負けの素晴らしい出来栄えですね、この艶やかさ」
「信じられない……なんて素晴らしい仕事を、まだまだ子供でしかない彼が……」
「学年主任、やっと理解できましたね?」
「え? 教頭先生?」
「ですから、浅間君はギャラリーで作業を超越する、子供の域を遥かに超越した、素晴らしく卓越した仕事を毎日、登校したなら必ず、日替わりの変化をギャラリーに与える、他者には真似の出来ない仕業をやってのけてしまうのですよ」
「なるほど、仕事と作業の違い……」
ここで、またまたギャラリーの中に居る二人は沈黙してしまったのだった。
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「やっぱ、秋ちゃんってタダ者じゃなかったのね……」
「は? おるこちゃん? 何それ?」
相変わらず背後からボクに抱きしめられたままの河鹿薫子は、何だか知らないが、急に首を数回縦に振りながら呟いたのだった。
「ギャラリーの中の会話、聴けば聴くほど……あたしね、秋ちゃんってタダ者じゃなかったって再確認しちゃった感じなのよ」
「へぇ……でも、どうして?」
「もしかして、秋ちゃんに出来ないことって無いの?」
「はい? ボクは、出来ないことは出来ないし、出来ることしか出来ないけど?」
「あはは! 当たり前じゃないの、そんなのって」
河鹿薫子は、ボクの眼下で、彼女の黒くて艶やかなポニーテールを揺らしながら笑っている。
「ありゃりゃ? ボク、笑われちゃうようなこととか、何か言っちゃった?」
「秋ちゃん、細かいことなんて気にしなくてイイのよ」
――あのね、あのね、内緒だけど……ボクは黒い髪が好きなんだよ。クラスメイトの女子達って赤錆みたいな髪の毛ばっかりなんだけどさ……
「秋ちゃん、秋ちゃん……あたし気持ちイイわ」
河鹿薫子の愛くるしくも光輝くポニーテールを、ボクは無意識に、優しく何度も撫でてしまっている。
――おるこちゃんは脱色とかしてなくて、凄くすっごく綺麗な黒髪なんだよ……
「秋ちゃんの温かい手……あたし、もう気持ち良過ぎちゃうもん」
――すっごく艶つやした綺麗な黒髪のポニーテールが大好きなボクみたいな……
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「学年主任、これは学校長命令です。浅間秋君を優等生に育て上げなければならなくなりました」
「は? ボクを……何だって?」
「ちょっと、秋ちゃん黙って!」
唐突にギャラリーの中に居る教頭の口から出された言葉に対して合点のゆかないボクは、間髪を入れることなく、思わず激しく反応してしまっていた。
そんなボクの唇に河鹿薫子は右手人差し指を縦に軽く添え、ボクの発言を強制的に止めようとしている。
――あ! 唇に触れる指が……おるこちゃんの指が気持ちイイ……
「浅間秋君を優等生に? 教頭、お言葉を返すようですが、浅間君の成績は……」
「学年主任、あなたが言いたいことは既に調べて存じております」
「うーわ……はいはい、悪かったですね。ボクは偏差値50そこそこ程度しかなくってさ」
――どんなに頑張っても、ウチのクラスに居る、学年首席の成績を誇る偏差値70以上の優等生みたいになるなんて無理ですよ!
「秋ちゃんって、微笑む女神様から常に抱きしめられててタダ者じゃないけど……どうしてなんだか勉強の成績だけはタダ者だもんね」
「げっ! おるこちゃん……うるさいから……」
河鹿薫子は、さっきよりも激しい揺れを彼女の黒光りするポニーテールに加えつつ、ボクに彼女の愛らしい横顔を見せながら、一生懸命に声を堪えて笑っている。
「っていうか、おるこちゃんのウエスト細ぉーい!」
「いやん……秋ちゃん、どこ触っちゃったりするのよ!」
「何で? どうして? おるこちゃんのウエストってさ、どんなことになっちゃってんの?」
「あぁーん、気持ちイイ……あん! 秋ちゃん、いやん!」
――おるこちゃんのウエストは頭周りよりも小さいというか……
きっと帽子のサイズよりもウエストのサイズの方が小さいのではないかと、ボクは彼女を実際に触って、もう、リアルに感じざるを得なかった。
「いやはや、しかし、浅間秋君を優等生にですか……はてさて、どのようにしたら……」
「いやん! 秋ちゃん、ダメよ!」
「え? おるこちゃん?」
「だって、神憑りな秋ちゃん、すごく気持ちイイから……秋ちゃんの手、気持ち良過ぎぃー!」
「まあ、浅間君を生徒会長に仕立てたなら、彼を居残らせて補習を施すしかないでしょうな」
「っていうか、おるこちゃん、こんなに胸が大きいのにさ……何でウエスト、こんなに細いの?」
「教頭の仰る通り……まあ、したくはないですが、半ば強制的に補習を施すしかないですかね」
「あ、秋ちゃん、いやん……そこ、それ、気持ちイイ……」
「せめて、何とか、偏差値60は超えて欲しいですなあ」
「っていうか、おるこちゃんの胸、何だか硬いような?」
「いやん、ばか! だって、あたし、成長途中だし……」
「こんなに大きな胸なのに? まだまだ膨らんでるの?」
「だから、あたし……まだ成長途中……あん! 気持ちイイの!」
「膨らむ胸って硬いの? あ、そっか……」
「え? 秋ちゃん?」
「おるこちゃんみたいに硬い胸を張りがある胸って言うんだよね?」
「いやん、ばかん……そんなこと訊かないで、秋ちゃんったら!」
「しかし、浅間秋君は嫌がりませんでしょうか?」
「嫌ぁ……そんなに激しく? あたし、気持ち良過ぎちゃうし……」
「時間外に補習となれば、それは当然、浅間秋君は嫌がるでしょうな」
「いやん、嫌ぁーん!」
「おるこちゃんの素敵なおっぱい……ねぇ? 直に触ってイイ?」
「そんな、いやん! 秋ちゃんダメ!」
「ダメって言われても触っちゃうよ」
「ブラウスの中に手を? あ、秋ちゃん? いやん、ダメだってば! あ、あ、あぁ……ブラの中にまで手を?」
「うわっ、おるこちゃんのブラ、針金みたいなワイヤー入ってるし……っていうか、おるこちゃんの先っぽ見つけちゃった」
「きゃん! 胸の先が気持ちイイわ! あたし変になっちゃいそう!」
「不思議だ……おるこちゃんの先っぽ、硬くなっちゃったし……」
「だってぇ……秋ちゃんが指先で優しく触るからイケナイのよ」
「浅間秋君に補習を嫌がらせない餌が欲しいですね」
「おるこちゃん、キスしてイイ?」
「うん、秋ちゃん、キスして!」
「そういえば、教頭……」
「おるこちゃんのおっぱい触ってると……ボク、凄く気持ちイイ……」
「あたしも気持ちイイの……」
「浅間君は河鹿さんと……」
「ああ、存じておりますよ、学年主任」
「おるこちゃん? ボクから触られると気持ちイイの?」
「うん、とっても気持ちイイ!!」
「河鹿さんが浅間君を……もはや、とてつもなく好いておるようですな」
「じゃ、もっとモミモミとかしちゃうよ」
「うん、秋ちゃん! もっと、もっと、もっと! あたしをメチャクチャにして! あたしの胸、もっとメチャクチャにして!」
「うん、おるこちゃん……分かったよ」
「ん……ん! 秋ちゃん! 秋ちゃん! もっと激しくキスして……ん! ん!」
「仕方がありません。不純異性交遊、黙認しますかね」
「ですね。彼に与える餌として………」
「おるこちゃんの舌が……ん! 気持ちイイ……」
「秋ちゃんの舌だって……あん! とっても気持ちイイわ」
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ボクと河鹿薫子、すっかり夢中になって、ギャラリー真正面の廊下にて、長く激しく、そして、とても熱いキスを交していた。
――しかも、ボク、おるこちゃんのおっぱい、両方のおっぱい、直に触っちゃってるし。おるこちゃんの先っぽ、メチャクチャ硬くなっちゃってるし……
「あたし、あたし……秋ちゃんからメチャクチャにされて幸せ……あん! 気持ちイイの!」
――おるこちゃんとボクたち二人、すっかりエッチな行為に夢中になってしまっていたんだけど……
そこへギャラリーの小脇にある非常用扉から、なんと、教頭と学年主任が雁首を揃えて廊下に出てきてしまったのだった。
「うーわ! やばっ……」
「きゃん! 見ないで!」
――おるこちゃんは、ボクから肌蹴させられたブラウスから見え隠れするピンク色のブラを両手で隠しながら……
彼女は慌ててボクの背後に回り姿を隠そうと頑張っている。
「浅間君、河鹿さん、私達の会話、聞き耳を立てて聴いていましたね?」
「え? いや、あの……えっと……」
「浅間君……私達は途中から、あなた達の気配に……あなた達の存在に気づいていましたよ」
「げっ! マジですか?」
「河鹿さんの、その……何と言うか……」
「え? あたしの?」
「いけない甘い声が丸で聴こえてしまいましてな」
「いやん、あたしのエッチな声を……」
「あなた方が聴いていた通り、あなた方の不純異性交遊を見なかったことにしておきますから……」
「はい? 教頭せんせ?」
「いや、だからですね……私たち学校側は、その……黙認しますから……」
――うーわ……これって、もしかして……
「だから、我が校の模範となるような恋愛をするように……全校生徒の模範となるような恋愛をお願い致したい所存でありまして……」
――もしかしたら、もしかすると、学校公認ラブラブみたいな?
「ぶっちゃけた話ですね……頼みますから、きちんと避妊をして、その……全校生徒達からは秘密裏にアレをするようにしなさいというような、特例的なお話をしている所存でありますから……」
――うひゃぁ……やっぱり、これってば、学校公認ラブラブだし……
「いやはや、この件につきましては、後日、また生徒指導室にて、その詳細をお話するということで……今日のところは、もう早く下校しなさい」
教頭が言いたいことを言うだけ言い終えた直後、教頭と学年主任の二人は、まるでソソクサと逃げるように、ギャラリー近くにある階段へと消えて行ったのだった。
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「おい、こら! お前ら本番なんて5年は早いぞ! 願わくは7年早い!」
「うわっ! ガンジーだ!」
――うーわ、うーわ、うわぁー!! 今度は我がクラス担任の三浦ガンジーせんせに捕まっちゃったし……次から次へとヤヤコシイ人々から捕まっちゃってるみたいな……
「胸だけは一人前に育っているようだがな、河鹿、お前は中学生なんだぞ。そんな大人びた下着を身に着けようとな、所詮は中学生なんだからな」
「いやん! 秋ちゃん以外は見ないで! 秋ちゃんだけのための勝負下着なんだから!! 見てイイのはおるこの秋だけなんだから!!」
「河鹿、あのな、浅間から食われそうになったらな……」
「え? ガンジーせんせ?」
「河鹿は意地でも避妊しろよ。ガキのお前がガキを産むなんて有り得ないんだぞ」
「いやん……ガンジーのバカ!」
「まあ、何だ……今のお前達は、いわゆる、一つの若気のいたりっていうヤツだな! 若いってイイもんだな。がはははは!」
――ボクは忘れてた。すっかり忘れてたし……ギャラリーから遠くない場所に……
いや、遠くない場所というか、ギャラリーの間近に体育教官室があること、それを忘れ果てていたボクだった。
「がはははは! 学校公認色恋沙汰とはな……うらやましいガキどもだな、こんちくしょーめ……」
――ってかさ、避妊とか、ガンジーせんせ、何気に詳しそうな……
「だってさ、ガンジーは保健体育科の教員だし」
――っていうか、何だか良く解らないけど……世知辛そうで、ある意味で憂いに満ちた笑いと共に去りぬみたいな?
そう、我が担任ガンジーは、気のせいか、双肩をガックリ落とす様相で、彼の拠点である体育教官室へ消えて行ってしまったのだった。
「ガンジーせんせ、何だかメッチャ可哀想だわ。きっとアレね、彼女とか居ないのね。きっとラブラブに飢えてるんだわね」
「こら、河鹿! やかましい!」
「いやん、ごめんなさい!」
――ボクは初めて知ったし……ガンジーは地獄耳だということを……
「ねぇ、ねぇ、秋ちゃん? 気持ちイイ続き、どこでする? あたしね、秋ちゃんから抱いてもらいたくて、熱烈ピンク勝負下着とか着てきたのよ……うふふ、えへへ……」
「だから、お前ら! ガキのお前らが本番なんて、少なくとも5年は早んだっての! 願わくは7年だ!」
「いやん、ガンジーせんせ、よけいなお世話だもん! 彼女とか居ないからって八つ当たりとか、よけいなお世話だもぉーん!」
「河鹿……本当にコンちくしょうだ……全く、この小娘は……あぁーあ、やってらんねぇ!!」
ボクは笑いを堪えつつ、河鹿薫子の右手を握りしめると、足早に昇降口へと、逃げるようにギャラリー前から消え去ったのだった。
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