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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
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第3話、イジメられっ子アイドル


「浅間君も知ってのとおり、近々、新しい生徒会役員を選ぶ選挙期間がやって来ます。時分は、新入生は入学をし、浅間君はめでたく2年生に進級をした、とても晴れやかな春の頃合いでありまして……」


 ――あぁーあ……今、ボクは生徒指導室に居たりして……


「そこでですね、是非とも浅間君には生徒会長を……」


 ――んで、今会話をしてる相手は教頭せんせだったりして……


「っていうか、教頭先生、アレですね? ウチのクラスの学級委員長を推薦する役目みたいなの、是非ともボクがしなさいということ……ですよね?」


 よりによって、『2年2組の浅間秋君、生徒指導室へ大至急来るように』と、教頭先生から校内放送で呼び出されてしまったから厄介な話だ。


 ――ってかさ、どうしてボクが生徒会長の推薦作業までやんなきゃなんないんだか……


 ボクは教頭先生と会話をしているが、教頭の隣には学年主任が居て、その斜め後ろにはウチの担任のガンジーが居たりする。


 ――そんなのって学級委員の仕事じゃんか。だってさ、まかり間違ってもさ、そんな仕事は部活動なんかじゃないし……


「浅間、お前、生徒会長してみるか?」


 ――それでなくともさ、学校側から押し付けられてるギャラリーのプロデュースとディレクションで手一杯なのに……


「っていうか……はい?」


「浅間、お前、生徒会長してみないか?」


 ――はたまた……唐突に、予期せず……


「我がクラス担任から訳の解らない言葉を浴びせられたボクみたいな?」


 ――えっと……『アサマ、オマエ、セイトカイチョーシテミナイカ?』って聞こえた気がするみたいな……


「っていうか、えぇー!? ガンジーせんせ!?」


「こら! 真面目な話をしている時に俺のことを『ガンジー』なんて呼ぶな!」


 教頭と学年主任という上司に当たる人が居る手前、『クラス内で喋っているつもりで呼ぶな』とばかりに、ガンジーは苦笑しながらボクの失言を軽く叱ってくれたのだった。


「浅間君、立候補が恥ずかしいのであれば推薦で良いのだよ」


 ――今の発言は学年主任からだったんだけど……


「えっと……え?」


 ――学年主任は教頭の笑顔に無理やり合わせて笑顔になっているような……


「浅間君に懇意を抱いている人から推薦してもらいなさい」


「っていうか、あの……はい?」


 ――いかにも意味ありげな笑顔っていうか、一種ヘンテコな笑顔でボクに語り掛けている学年主任みたいな……


 教頭の顔色を伺いながら、相も変わらず学年主任は、

「ですから、クラスメイトの誰でも良いので、浅間君を推薦してくれる人を募って、浅間君は生徒会長に……」

なんて、見るからにヘンテコな笑顔のまま、まるで事前に用意されているシナリオを丸暗記して棒読みするかのような言葉をボクに向けていたのだった。


「えっと……え? ボクは生徒会長になる人を推薦するっていう、そういう役目を果たすんじゃないんですか?」


「浅間、あのな……お前が生徒会長をするんだって言ってるのに……お前が他人を推薦してどうするっていうんだ?」


 ――どうするも、こうするも、ニッチもサッチも……


「三浦先生……ボク、訳ワカンナイんですけど……」


 ――ってかさ、よりによってさ、何で劣等生のボクが生徒会長に?


「浅間、お前な、『どうして自分が生徒会長にならねばならないのか』と思っているだろう?」


「うん、ガンジーの言うとおり、思いっ切りボクは……」


「こら!! だから、ガンジーと呼ぶな」


「あ、三浦先生ごめんなさい」


「そういえば、お前……」


「へ? 三浦先生?」


「最近、急に河鹿薫子と仲良くなっただろ?」


「え゛? あ゛っ!! えっと、あの……」


「おいおい、浅間、担任の俺の目は節穴じゃないぞ」


「あの……えぇーっと、その……」


「なあ、浅間?」


「はい? 三浦先生、何ですか?」


「河鹿なら喜んで推薦してくれるんじゃないか?」


「えぇー!? そんな、あの……って、え゛ぇー!?」


「河鹿だってな、自分の彼氏が生徒会長だなんて、そりゃ鼻高々だろう?」


「うわぁ……そう来ましたか」


 ――っていうか、それ以前にさ……


「千載一遇のチャンスがあるなら、お前、やらなきゃ勿体無いと思わないか?」


 ――いや、だから、それ以前にさ……


「こんなチャンスなんてな、そう簡単に得られるもんじゃないんだぞ」


 ――だから、それ以前に……どうして、ボクが生徒会長なんて、そんな『大それたモンになれ』みたいな話になっちゃってんの?


「三浦先生、推薦については、その全てをあなたに任せて宜しいですかな?」


 ――もしかして、大人の世界にありがちな策略みたいなアレとか?


「はい、教頭、何も問題はありません」


 ――は? ガンジーせんせ? 教頭せんせにシレーっと『問題ありません』とか言ってくれちゃってるし……


「それなら話は早いですね。三浦先生にお任せしますので、後の首尾は宜しくお願いします」


 ――え? え? え? 何がどうなっちゃってんの?


「はい、学年主任、お任せください」


 ――って、ガンジーせんせ、ちょっと待って!! ボクの意思は? 張本人の意思は?


 何が何だかサッパリ解らないまま、そこまで話を勝手に進められたと思ったら、

「では、浅間君、是が非におきましても、必ずや……必ず生徒会長に当選してください」

なんて宣いつつ、教頭は意味不明な笑顔でボクを生徒指導室から追い払うような仕草をし始めたのだった。


「え? いや……あの……」


 ――生徒会長とか生徒会役員とか、普通、優等生がやるもんじゃないの?


「浅間君、何をしているのです? もう帰ってよろしい」


 ――いや、だから、教頭せんせ、ちゃんと説明してくんなきゃだし!


「浅間君、放課後だというのに時間を取らせてすまなかったね。さあ、用事は済んだから、もう帰りなさい」


 ――うーわ! 学年主任! だから、ちゃんと説明してよ!


「浅間、お前な、たまには人生に勝て」


 ――三浦先生っていうか、ガンジー!! その発言の意味、全然ワカンナイし!!


 とにもかくにも、いつまでも生徒指導室から退出しようとしないボクだったりする。


 ――だってさ、訳ワカンナイまんま……このまんま退室できるわきゃないし! ボクの進退、勝手に決められちゃ堪んないし!


「話は終わりました。さあ、早く帰りなさい」


 学年主任は出入口扉の引き戸を開けると、ボクの背を軽く押して強制的に廊下へと退出させたのだった。


 ――うぅーわ!! うぅーわ!! うぅーわぁー!! 何が何だかワカンナイまま退出とかできないってば!!


「ちょっと!! あの!? 教頭せんせ!? 学年主任!? ガンジーせんせ!?」


 ――いや、だから、だから、だから……ちゃんと説明してってばさ!!


 そして、学年主任はボクから目を反らしつつ、そそくさと引き戸を閉めてしまったのだった。



 ――ああ、もう……全然意味ワカンナイし!! 何でボクが生徒会長やんなきゃなんないの?


「いやん、もう! うふふ……あたし、絶対に推薦しちゃう!」


「え? 誰?」


 閉じられた生徒指導室の扉を茫然自失と眺めているボクの背後から聞き慣れた声が聴こえたので、ボクは声がした方へ体ごと向きを変えた。


「うふふ……あたし、頼まれても推薦しちゃうし……」


 ――あれ? おるこちゃんが、何だか知らないけど、メッチャ嬉しそうにニコニコしながら立ってるし……


「えへ、あはは……頼まれなくたって推薦しちゃうもん!」


 ボクは恐る恐る河鹿薫子へ、

「中での会話、まさか、聴いちゃった?」

と、囁きかけるように訊くと、彼女は、

「うん、まさか、聴いちゃったわ」

なんて、まるで自分事のように嬉しそうな笑顔で応えてくれる。


 そして、おもむろに河鹿薫子はボクの右手を握りしめると、足早にボクを引っ張りつつ、どこかへ向けて強引に歩き出したのだった。


「おるこちゃん、おるこちゃん? どこに行くの?」


「もちろん、ウチのクラスよ」


「え? どうして?」


「決まってるじゃない。みんなが教室で待ってるからよ」


「は? こんな時間だし、もう、みんな帰っちゃって居ないんじゃないの?」


「帰るわけがないじゃないのよ。みんな教室に居残って秋ちゃんを待ってるのよ」


「へ? 待ってる? どうして?」


「秋ちゃんったら、もうイイ加減に自覚してくんなきゃだわ!」


「はい? 自覚って、何を?」


 ――なんて会話をしているうちに、ボクたち二人は……


 とっくの昔に放課後になり切って、普通なら誰も居ないはずの我が教室、2年2組の教室へと辿り着いてしまったのだった。



「うふふ……秋ちゃん、覚悟してね」


「えっと……え? 覚悟? おるこちゃん? どんな覚悟?」


 ――おるこちゃんから覚悟とか言われても……全然意味ワカンナイし……


「覚悟はイイ? あたし、教室の扉を開けるわよ」


 ――だから、覚悟とか言われても……何を覚悟したらイイんだかワカンナイし……


 河鹿薫子はボクに満面の笑みを見せつつ、ボクの右手を彼女の左手で握りしめたまま、彼女は右手で教室出入口の引き戸を開けたのだった。


「えぇー!? 何だコリャぁー!?」


 ――我が教室に入るなりボクの視界へ一番に飛び込んだのは……


 黒板の真上に掲げられた、見るからにクラスメイト達の手作りであろうという不器用な横弾幕だった。


 ――うーわぁ! 『我等がアイドル! 必勝ゲット生徒会選挙!』とか書いてあるし!!


 それは横弾幕に書いてある毛筆の大きな文字だったりする。


 ――我等がアイドル? ウチのクラスでアイドルってったらさ……そりゃ、もちろん、河鹿薫子しか居ないし……


「へえ……おるこちゃんさ、生徒会選挙に出馬するんだね?」


 ――っていうか、おるこちゃんは全校生徒のアイドルだし……


「いやん、もう、秋ちゃんったら……本当に、イイ加減に自覚してくれなきゃだわ」


 ――なんて、何が何だか皆目のこと微塵も解らないんだけどさ、おるこちゃんはボクを背後から抱きしめながら嬉しそうに言ってくれちゃってるし……


「おるこちゃん? だから、ボクは何を自覚しなくちゃなの?」


 ――っていうか……おるこちゃん、恥ずかしいし……


「おかえり! 浅間君!」


 ――クラスメイト達の前で抱きつかないでよ……


「我等のアイドル浅間秋、必勝! 生徒会長! 絶対に当選できるようにクラス一丸になって頑張ろうぜ!!」


 ――しかも、ボクの背中におるこちゃんは顔を隠してズルイよ……


「ラブラブのアイドルコンビ、うらやましいー!」


 ――ボクだけみんなから顔を見られてハズイし……


「河鹿さんに続く、新たなスター誕生目指すぜ!」


 ――っていうかさ、クラスメイトのみんな、何だって勝手に盛り上がっちゃってんだか……


 はたまた、クラスメイト達の異様な盛り上がりの意味が、皆目のこと、どうしても見当もつかないボクだったりする。


 ――っていうか、ボクがアイドル? イジメられっ子のボクがアイドル? はてな? はてな? どうして? 何で?


「キスしろ! キスしろぉー!」


「河鹿さん、ほら、推薦者は誓いのキスしなきゃ」


「そうよ、河鹿さん。未来の旦那様にキスキス、早く早く!」


 ――うげっ! 何だか訳ワカンナイこと宣っちゃってるクラスメイト達だし! どいつもこいつも、みぃーんな、揃いも揃ってパカタリなのかいな?


 なんて、冷ややかにクラスメイト達を見渡すボクだったが、そんなボクの態度なんてお構いなしに、河鹿薫子はボクの背後から彼女の両手を妖しくボクの顔へ回すや否や、半ば強制的にボクの顔を左に向けた。


 ――うわ! おるこちゃん、真っ赤に染めた顔をボクの背後から近づけてきたし!


 そして、河鹿薫子はクラスメイトが注目する中、何の躊躇もなくボクの唇を塞いでくれたのだった。


 ――アンビリバぶべぼぉー!! おるこちゃん!? 何をしてくれちゃってるのさ!!


「きゃあー! うらやましいー!」


「これで、やっとツマンナイ中学生活が楽しくなるぜ!」


 ――っていうか、まだ唇を塞がれてるボクだし……


 そう、河鹿薫子のキスは思いのほか長いものだったのだ。


 ――また舌が!? おるこちゃんの舌がボクの中に!


 ボクはキスというものは舌を絡ませてするなんてことを河鹿薫子から生まれて初めて教わっていたりする。


 ――あ、ヤバっ!! ボクのアレがアレしてきちゃった!! 社会の窓の辺りがパンパンになっちゃってるのなんて見られたら取り返しつかないくらいにハズイし!!


 加えて、ボクはキスというものが気持ち好いものだなんて、やはり、生まれて初めて河鹿薫子から教わっていたりもする。


 ――ああ、でも、でも、でも……おるこちゃんのキス、メチャクチャ気持ちイイし……


 夢中になってボクにキスをする河鹿薫子から与えられている快感に、ボクは、既に脳みその半分以上がトロケているなんてことは内緒ばなし。


 ――おるこちゃんからする女の子女の子した香りも有り得ない位に気持ちイイし……


 いやいや、ボクの脳みそは、もう取り返しがつかないくらいに、熱を加えてトロトロのデンデロリンになったトロケるチーズみたいになっている。


「はあ……あたしの秋ちゃん……はぁーーー」


 河鹿薫子はボクの唇から彼女の唇を離すや否や、ボクの名を呟きながら、彼女は長い長い深呼吸をしていた。

 

 ――いや、ボクも彼女に負けずに長い長い深呼吸をせざるにはいられないし……


 そう、それほどに河鹿薫子からのキスは長かったから。


「河鹿さん? もしかして、キスしながら呼吸とかしてないの?」


 クラスメイトの女子の一人が河鹿薫子に質問をしている。


「え? キスしながら呼吸とかしてイイの?」


 ――なんて、おるこちゃんは質問してきた女子にハテナ顔しながら言葉を返してるみたいな……


「河鹿さん? キスしながら呼吸とか、普通しない?」


 質問をしてきた女子はクスクスと笑いながら河鹿薫子の疑問に答えていた。


「もしかして、河鹿さん……キスとか初めてしちゃった?」


「うん……あたし、秋ちゃんが初めてだもん……えへ、あは、うふふ……」


 ――えぇー!? おるこちゃん、ボクとのキスがファーストキスだったの!?


 河鹿薫子は耳まで真っ赤に染めながら呟くように答えたが、彼女の呟きを聞くと、なぜだかクラスメイト全員は拍手喝采を彼女へ捧げ始めたのだった。


 ――いや、ボクもおるこちゃんがファーストキスだけど……


 中学2年生のファーストキス、それが早いのか遅いのかなんてボクには分からない。


 ――でも、まさか、執拗にイジメをしてくれていたおるこちゃんからキスされるなんて……少しっていうか、かなり複雑な気持ちを抱きまくりみたいな……


 一方で、全校生徒の美少女アイドルであり、みんなの憧れの河鹿薫子からキスされるなんて、ある意味では誇らしいみたいな、ボクはメチャクチャ複雑な気持ちを抱えている。


 ――もちろん、なんてことは、極秘中の極秘な、社外秘どころか社内役員秘レベルの内緒ばなしだよ……


 そんな中、突然にクラスメイトの男子の一人が、

「キスバージン卒業おめでとうー! 河鹿ぁー! ついでに、みんなの前でヤっちゃえー!」

と、大声で訳の解らないことを叫んだ。


 ――うわぁ……その言葉を聞くや、おるこちゃんは鬼の形相に豹変しまくりみたいな……


「ナマイタ本番!! みんなの前でヤっちゃえー!」


 ――ぶっ!! 生板本番って、オッサンか、アイツは!?


「何てこと言うのよ!! この馬鹿!!」


 ――あぁーあ、馬鹿だな、アイツ……


「ぐわっ!! 痛ってぇー!! ゴメンなさい!!」


 ――あぁーあ……くわばら、くわばら……


 河鹿薫子、実は彼女、直情一直線のイケイケな性格だったりする。


 ――うーわ!! 叫んだ男子におるこちゃん、ゴッツンゴッツンって、鉄拳制裁を加えまくっちゃってるし……


 しかも、見るからに典型的な血液型O型の性格と行動をしまくる女の子だったりもする。


 ――ボクの血液型はB型。イケイケのO型女子にはついて行けないかも……


 ちなみに、血液型占いでは、O型の女の子とB型の男の子、かなり相性が良いらしい。


 ――しかし、そんな曖昧な統計なんて、所詮は現実世界じゃ通用しないモンだし……


 その典型例、それが河鹿薫子とボクだなんていうことは楽屋ばなし。



「おい、こら! 何だ、お前ら! とっくの昔に下校の時刻は過ぎてるんだぞ!」


 ――うわぁ……ヤヤコシイのが来ちゃったよ……


「部活で顧問という管理者が居る環境下なら校舎内に残っていても良いが!」


 ――相変わらず声デカぁ……態度もデカぁ……


「下校の時刻を過ぎたなら、教職員による管理者無しに生徒だけで校舎内に残っていたら、即刻、校則違反になるのを忘れたのか?」


 ――教室に入って来るなりグダグダと説教を垂れ始めた、シコタマのこと、スコブルもやかましい声の主は……


 我がクラス担任のガンジーこと、あまりあるぶっきらぼう炸裂させまくりな三浦教諭だった。


 ――どうやら、下校の時刻を過ぎた教室を見廻りに来たガンジーみたいな……


「ガンジーせんせぇー! ゴメンなさいぁーい!」


 ――なんて、クラスメイト達は声を揃えてガンジーに応えているけどさ……


 実は、この三浦教諭、まだまだ二十代前半の若い体育教師だったりする、我がクラスの担任ガンジー。


 ――意外や意外とさ、アレで生徒たちから人気がある教師だから不思議だ……なんていうことも内緒ばなしだよ……


「おい、こら! 窓の鍵は開いてないか? 開いてたらシッカリ施錠しろよ」


「はーい! 分かりましたぁー!」


 ――あれ? 気がつけば、窓の外は夕やけこやけになっちゃってるし……


「真冬なら、既に、真っ暗闇に包まれているはずの時分になっている頃合いなんだけどさ……」


 ――でもね、今は桜が終わった季節に突入してるから……


 そう、だから、まだまだ空の片隅には沈み行く真っ赤な太陽があり、風景は紅が支配している様相だったりする。


「お? 何だ、お前ら! 気が利くじゃないか!!」


 ガンジーは黒板の上に掲げられている、いかにも手作り丸出しの無器用な、件の横弾幕を指差しながら言っていた。


 ――何だか知らないけどさ……ガンジー、とても嬉しそうに声を弾ませてご満悦の様子なんだけど……


 しばらくの間、ガンジーは悦に満ち満ちた表情のまま横弾幕に見とれていた。


 ――と思ったら、何かに気づいたかみたいにさ、ガンジー先生、おるこちゃんの方へ歩み寄って行ってるみたいな……


 そして、怪しいヒソヒソ声で河鹿薫子へ、まるで念を押すかの様相で質問を投げ掛け始めた。


「河鹿? お前が浅間秋を推薦してくれるんだよな?」


「ガンジーせんせ、もちろんです」


「よしよし、イイぞ、河鹿」


「うふふ……それに、あたし、秋ちゃんを必ず当選させますし」


 ガンジーからの問い掛けに対し、河鹿薫子は、『当たり前のことを訊かないで』といわんばかりに、自信満々の笑みで応えていた。


「よしよしよし! 河鹿、でかしたぞ!」


 ――ガンジーは、おるこちゃんとクラスメイトの面前で、それにボクという張本人の面前でヒソヒソしながら堂々と……


 何だか怪しい談合をしている様相にしか見えないボクだったりする。


 ――訳ワカンナイけどさ……やっぱ、これってさ、談合ってやつの片鱗だよね?


「生徒指導室に始まり、今は自分のクラスの教室内で談合しまくりみたいな怪しい企み……」


 ――そんな類いのモノにボクは振り回されているんじゃないかなぁーなんて……


 小市民生徒のボクは大々的に陰で仕組まれていそうな企みに、ただただ、好き勝手に振り回されるだけのような気がして止まなかった。


「うんうん、よしよし! 首尾は上々の様だな」


「は? ガンジーせんせ?」


「うふふ……首尾は上々だもん」


「え? おるこちゃんまで?」


「よーし!! みんなご苦労さんだった!!」


「お疲れ様でぇーす!!」


「それじゃ、今日は解散するぞ!!」


「はぁーい!!」


 訳の分からないガンジーのヤカマシイ号令を聞くや否や、我が2年2組のクラスメイト達、クモの子を散らすように教室から出て行く。


 その散らばるクラスメイトの中には、帰路に着く者や、今更のごとく部活に行く者や、もう勝手気ままに選り取りみどりだったりする。



「秋ちゃん、ほら、一緒に帰るわよ」


 突然、河鹿薫子はボクの右手を握りしめると、そそくさと教室から廊下へとボクを引っ張り出した。


「おるこちゃん? うわっ! いきなりさ、そんなに強く引っ張らないでよ……」


 そして、彼女は昇降口へとボクを引きずるように導いているのだった。


「おるこちゃん、あのさ……」


「秋ちゃん、なぁーに?」


「ボク、今からでも部活に出たいんだけど」


「いやん、ダメ! 今日は一緒に帰りたいのよ」


「じゃあさ、管理を任されてるギャラリーに少しだけ寄り道させてよ。ギャラリーのシャッター、ちゃんと閉めて帰らないとさ……ボク、明日、校長とか教頭とかから怒られちゃうし」


 そのボクの物言いに対し、なぜなのだか、少し考え込むような様子をボクに見せ始めた河鹿薫子だった。


「うふふ、ギャラリーのシャッターを閉めちゃえば廊下から隔離状態だわね」


 ――は? おるこちゃん、今度は何を企み始めちゃったんだ?


「うふふ、誰にも邪魔されずに秋ちゃんと、あんなこととか、こんなことか……いやん、うふふ……」


 ――あぁーあ、独り言は声に出さない方が安全だと思うんだけどな……


 妖しく微笑みつつ、独り言を盛大に言っている河鹿薫子を、ボクは呆れた表情で見てしまう。


 ――ってかさ、ボクはおるこちゃんが企んでそうな妖しい要求には決して屈しまいと心に誓うしかないし……


「ねえ、秋ちゃん? ゴムとか持ってる?」


 河鹿薫子の発言が終わると同時に、ボクは思わず彼女の頭を叩いてしまっていた。


「いやん! ゲンコツなんて痛いじゃないの……」


「ついでにデコピンもお見舞いしてあげようか?」


「んもう、秋ちゃん? 何で怒ってるのよ?」


 ――ボクは河鹿薫子の手を引き、すっかり人の気配が無くなった廊下の片隅にある……


 薄暗くてちょっとした死角となっている場所へ彼女を引き込んでいた。


 そして、少し乱暴に彼女を廊下の壁へ押し付けながら、

「馬鹿ばかり言ってると、ほら、胸とか触っちゃうよ」

なんて、好き放題に彼女の胸をブレザーの上から揉みほぐすように鷲掴みにしてしまう。


「きゃっ……秋ちゃんったら、あん……どこ触ってるのよ」


 河鹿薫子は幼くも色香に満ちる声をボクの耳元で囁いている。


「いやん、ダメ……あたし、あたし……」


 ――うわ!! おるこちゃんのおっぱいデカっ!!


 思わず感動しながら、ボクは彼女の両胸を鷲掴みにして揉みくちゃにしてしまう。


「秋ちゃん、あ……秋ちゃんってば、いやん!」


 ――ボクはビックリだよ。おっぱいってさ、見た目よりもボリュームがあるもんだったんだ……


「あ、あ、あ……秋ちゃん!」


 ――だってさ、見た目よりもさ、実際に触った感じの方がデカイみたいな……


「秋ちゃんってば! 気持ちイイからヤメて……」


「ヤメて? 洋服の上からさ、ブラウスの上から少しおっぱい触っただけなのに? おるこちゃん、その程度でさ、そんなこと言うならさ、ゴムとか必要ないじゃんか」


「いやん、ばか……あん! あ!!」


 ――おるこちゃんは、ボクからブレザーの上着を肌蹴させられちゃって……


 彼女は真っ白なブラウスにピンク色のブラを透けさせ垣間見せつつ、中学生にしては育ち過ぎた二つの胸の膨らみをブラウス越しに露にしながら、もう、今にも泣きだしそうな表情でボクを見つめている。


「おるこちゃん……豪快な言葉吐きなくせにさ、意外と意気地なしみたいな?」


「だってぇ……もう、ばかぁ……」


 普段はイケイケみたいな物言いと有り余る大きな態度が当たり前の河鹿薫子。


 ――そんなおるこちゃんが体をこわばらせて泣きそうになっているなんて、もう嘘みたいに可愛いし……


 ボクは河鹿薫子の肌蹴たベストとブレザーを着付け直し、そして、彼女のオデコにフレンチキスを御見舞いしてあげたのだった。


「いやん、もう……あたし、びっくり……」


「は? おるこちゃん、何が?」


「だって、あたし、あのね……あたし、秋ちゃんには敵わないかもだもん」


「は? どうしてさ?」


「だってぇ……時々、有り得ない位にメチャ強引とかなっちゃう秋ちゃんだし……強引になった時の秋ちゃんに、あたし、秋ちゃん女神様からの言い付けみたいに従いたくなっちゃって逆らえないし……」


 気が強くて負けず嫌いな河鹿薫子で、男子にも平気な顔をして鉄拳を加えるくらいに暴れん坊な河鹿薫子。


 そんな彼女が、顔を赤らめながら、嬉しそうにモジモジしつつ、ボクに敗北宣言を初めて宣まった瞬間だった。


 そんな可愛らしい彼女の唇を奪おうと、ボクは彼女を優しく抱きしめると、

「え? 秋ちゃんからキスしてくれちゃうの? うそ……秋ちゃん女神様からキスしてくれるなんて……」

と言いながら、慌てて瞳を閉じる河鹿薫子に、ボクからの初めての激しいキスをお見舞いしてあげた。


 ――前にボクからしたのは唇が触れるだけのキスだったけど……


「ん……ん! ん……」


 ――なんて、おるこちゃんから微かに声にならない声がもれちゃうくらいに激しいキスを今は……


 河鹿薫子はボクからの激しいキスを受けながら、彼女の嘘みたいに細い腰を妖しく動かして、まるでキスの快感から勝手に腰が動かされているような様を垣間見せてくれていた。


 ――ボクなんかの下手くそなキスに?


「ん……んーーー! んあ!」


 ――もしかして、おるこちゃん……感じちゃってる?


 まだ腰をクネクネと妖しく動かしている河鹿薫子だった。


 ――そんなおるこちゃんにさ、ボクは何だか良く解らない感動というか、初体験な感動みたいなものに包まれちゃったみたいな……


「秋ちゃん……あたし、幸せ……」


「うん、ボクも幸せ」


 ――キスが終わると顔を夕日に負けないくらい真っ赤に染めながら……


 河鹿薫子はボクの胸に顔を埋めつつ、彼女はボクの制服の上着に顔を擦りつけるように甘えた仕草をしているのだった。


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