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あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
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第21話、バンド合戦おでん前日


 いよいよ明日にバンド合戦が迫った、今日は12月23日の天皇誕生日。


 皆々様ご存知のとおり、この天皇誕生日は法定休日であり、もちろんのこと、巷にある普通の公立学校は公休日だったりする。


 ――ちなみにさ、バンド合戦っていうのはさ、南習志野コミュニティセンター大ホールで開催される、例のバンドコンテストのことだよ……


「あたし綺麗?」


「デンちゃん、だからさ……都市伝説の何とか女みたいな言い草ヤメろって」


「エザちゃん可愛い。わたし、エザちゃんにキュンキュンしちゃう」


「トベちゃん! あんたは百合系か? 俺様を見つめる目が妖し過ぎだぞ!」


 ――いよいよさ、バンド合戦を明日に控えた我がバンドおでんなんだけど……


 実は今、メンバー全員揃ってステージ衣装合わせを施されていたりする。


 ――中井川さんが個人経営しているお店のバックヤードでさ、ボクの母さんがメイクアップとドレスアップをしてくれたんだよ……


「トベちゃんはファッションショーのモデルさんみたいだがや。んでもって、エザちゃんは子役モデルみたいだがや」


「デンちゃんさあ……それ、俺様がチビだって強調してんのか?」


「おやおや、エザちゃんは被害妄想し過ぎだがや」


「いやだわ、エザちゃんは被害妄想なんてしないで。だって、ロリロリしてて可愛らしくて、白百合みたいな妹キャラ花盛りなエザちゃんラブリーで……わたし、どうしたらイイのか判んなくなっちゃう」


「だぁー! いきなりトベちゃん抱きついたりすんなよ! しかも、女同士で……俺様のそんなトコ触んなよ! やっぱ、トベちゃんは百合系炸裂ちゃんだぜ!」


「って、いやん、もう! デン、エザちゃん、トベちゃん! うるさいわよ! 打ち合わせになんないから静かにしてくんなきゃだわ!」


 そう、河鹿薫子が怒り叫んだように、我がバンドおでん、衣装合わせと同時に打ち合わせなるものもしているのだった。



「秋子ちゃん? 何だかんだ言っても、やっぱりね、俺は最初の開口一番からさ、秋子ちゃんを含めたメンバー全員がステージに居た方がイイと思うよ」


「うーん……中井川さん、そうかなぁー?」


「だって、秋子ちゃん……今回のバンドコンテスト、たったの二曲分しか与えられた番組枠がないわけだよ。それ、すなわち、時間的に顔見せできるのは短時間しかないっていうことになるわけだよ」


「でもさ、一曲目はおるこちゃんがメインボーカルなんだし、二曲目はボクがメインボーカルなんだし……ボクは二曲目からステージ入りする方がインパクトあると思うんだけどさ」


「秋子ちゃんは舞台演出にこだわり過ぎだよ。バンドコンテストなんてね、作詞作曲の良し悪し、演奏の良し悪し、そんなモンしか審査対象にしてないもんなんだよ」


「じゃぁーさ、こんな動き辛い舞台衣装、演奏や歌唱の邪魔しかしない様な衣装、何のために着なきゃいけないのかって話になるじゃんかさ」


「え? 秋子ちゃん?」


「いや、中井川さん、だからさ……今時のバンドコンテスト、ビジュアル面のプレゼンテーションとか、舞台衣装やら舞台演出やら、そういうプレゼンテーション的な要素も審査員を引き付けるアレだからさ……」


「うんうん、秋子ちゃん、それで?」


「中井川さん、それで、だからさ……演奏や歌唱に邪魔クサイけれどもインパクト炸裂で贅沢な衣装とかワザワザ着てるんじゃないの?」


「うん、まあーね。確かにさ、秋子ちゃんが言う『それ』は一理あると思うよ」


「中井川さん、それにさ、今回のコンテストって観客も審査員になるわけじゃん。チケット買って来場した客席に座る素人審査員なんてさ、突飛もなくて予想外な展開ヤラカス舞台演出に食い付き易かったりするもんじゃん?」


「いや、でもね、秋子ちゃんさあ……」


「いやいや、だから、中井川さんさあ……」


 中井川さんとボクは舞台演出について真っ向から異なる意見をぶつけ合っていた。


 ――そう、我がバンドおでんはお子様素人バンドだけど……でも、ステージに立つとなったら、もう、とことん準備万端にしなきゃ気がすまないみたいな……遊びなんかじゃなく、もう、プロ根性丸出しの本気でバンドやってるみたいな……


「ねぇー? みんなさ、どう思う?」


 中井川さんとボクの二人で意見を対立させていても埒が明かないので、ボクはバンドのメンバーに話を振って客観的な意見を請うてみたのだった。


「俺様的には浅間君が最初からステージに居てくれた方が助かるぞ」


「え? 助かる? えっと……エザちゃん? どうして?」


「だって、浅間君さあ、いつも必ず踊りながら唄うじゃん」


「は? ボク、踊りながら唄ってんの?」


「え? もしかして、浅間君さあ、唄いながら無意識に踊ってんのか?」


「えっと、ボク……踊りながら唄ってる自覚ないや……」


 そんなエザちゃんこと江澤さんとボクのやり取りに、

「浅間君は唄いながら正確なリズムを刻んで踊ってるの」

と、トベちゃんこと卜部さんが言葉を挟んだ。


「浅間君は元々ドラマーだから、唱う時も朝間君はドラムを叩く時みたいにリズムを最優先にしてるんだなや」


 ――なんていうデンちゃんの言葉に続けて……


「秋ちゃんってハンパないリズムキープしちゃう人なのよ。唄ってる時もメトロノームみたいに正確なリズム刻んじゃう人なのよ」


 ――って、おるこちゃんはデンちゃんを補足するみたいに言ってくれちゃったんだよ……


「俺様は浅間君の後ろ姿を見ながらベース弾いてるのが一番安心なんだぜ。何しろさ、朝間君は正確にリズムキープしながら踊ってるからさ」


「おや……エザちゃん、そうだったんだ」


「わたしもエザちゃんに同感。だって、演奏している時、正確なリズムを刻む浅間君の後ろ姿ばかり見ているもの」


「おやおや……トベちゃんもだったんだ」


「あたしも同感だえ。あたしゃ、浅間君が正確なリズムを刻んで踊る後ろ姿を見ながらリズムを拾いがちなんだがや」


「デンちゃんまで、おやまあ……へえ、そうだったんだ」


 我がバンドおでんのメンバーが各々の意見を屈託なく出す中、ボクたちの頼れるお兄さん的存在の中井川さんは笑顔で見守ってくれていた。


 そして、中井川さんは我がバンドおでんのメンバー全員の顔を見渡すと、

「やっぱりみんなのカリスマ秋子ちゃんは凄いね。秋子ちゃんはバンドのメンバーみんなの太陽なんだね」

と、彼は嬉しそうにボクを見つめて言ったのだった。


「中井川さん、それだ! 浅間君は俺様達の太陽だったんだ! 中井川さんが言ってくれて、俺様、初めて気づいたぞ!」


「え? エザちゃん?」


「うん、そうなのよね。浅間君はわたし達の太陽なの。だって、わたし達は浅間君の周りを回る星たちだもの」


「えぇー? トベちゃん?」


「星が一つ二つと消えてゆくのを見ていると、遠いところへ、ゆきたくなります」


「デンちゃん? それ、『ねむり』っていうタイトルのボクが作詞した曲の歌詞だし」


「あたし達の太陽の浅間君が遠いところへ行ったら……あたし達のバンド、星が一つ二つと消えちゃうがや」


「ほえ? デンちゃん? 意味ワカンナイし……」


「いやんもう、秋ちゃんったら! ワカンナイ人なんだから……」


「へ? おるこちゃん?」


「太陽の秋ちゃんがステージに居てくれないと、あたし達おでん、誰を頼りにして演奏したらイイの? あたし、誰を頼りにして唄ったらイイの? 太陽は星達の中心に居てくれなきゃなのよ。あたし達の太陽の秋ちゃんなんだから、いつでもあたし達の中心に居てくれなきゃなのよ」


「うわぁー、そんな……そんなことを……おるこちゃん……」


「どう? 秋子ちゃん、結論が出たよね?」


「あ、中井川さん……うん、結論が出たよ」


 ボクは嬉しかった。嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


「みんな、ありがとう。ボク、みんなと一緒にステージに立つよ。最初から終わりまで、みんなから見つめてもらえる様に、ボクはバンド合戦の初めから終わりまで……ありがとう。みんなからボクは絶対に離れたりしないよ」


 ――ボクはあまりの嬉しさに……恥ずかしい話だけど、幸せ過ぎてさ……ボク、ちょっとだけ泣いちゃった……


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