表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしたちが「おでん」です。  作者: 千葉あんず
20/30

第20話、おでん絶賛不足中


 ――昨日のまりんぱ忘年会ライブ本番からの熱が冷めやらぬまま……


 ボクは睡眠不足の頭を抱えつつ、クリスマスが目の前に迫ってきている、冷え込み厳しい月曜日の朝を迎えていた。


「ねえ、秋ちゃん?」


「おるこちゃん、なぁーに?」


 ――あ、そうそう……おるこちゃんとボク、今は肩を並べて登校中みたいな……


「昨日、どれくらいチケット売れたの?」


「あ、しまった……」


「え? 秋ちゃん? しまった?」


 ――昨日のライブ会場の撤収、何だかんだで日付が今日になったところでヤットコ終わったんだけど……


「会場からの帰りは母さんが運転するマイカーの中で爆睡しちゃったし、家に着いたらサッサと寝落ちしちゃったし……」


「それで? ねえ、秋ちゃん?」


 ――今朝は寝坊しちゃったボク、寝起きのまんま、頭が雀の巣のまんま……


 ニッチもサッチも、慌てて登校してきてしまった有り様だったりする。


「何だかんだでさ、ボク、母さんから訊くの忘れてたみたいな」


「いやん……秋ちゃんのお母様、チケットの売れゆき、秋ちゃんに教えてくれてないの?」


「おるこちゃん、ゴメン。まともに母さんと会話してる暇なかったからさ」


「いやん、もう! ちゃんと訊いてくれなきゃだわ! だって、チケット完売してたら、あたし、秋ちゃんのvirgin奪える権利獲得なんだから……」


「どわっ!! そんなことを通学路で大きな声出して言っちゃちゃダメらし!! ふにゃ、ぎゃふん!!」


 ――あ痛たたぁー!! 思わず舌噛んじゃったし!!


「あたし、昨日のライブの時、チケット売れるように色々と頑張ったのよ」


 ――うん、おるこちゃんは親の仇みたいに釈迦力んなって頑張ってたし……


「でも、ちゃんと売れたのかしら?」


 ――あ、そうそう、通学路の途中には大きな公園があったりするんだけど……


「うん、ボクも忘年会ライブの本番中に予定外の宣伝MC入れたりしてさ、とにもかくにも、一生懸命、販売促進に尽力をかましまくったけどさ……」


 ――おるこちゃんとボク、公園を突き抜けて近道しながら学校に向けて歩いていたりして……


「でもさ、素人お子様バンドおでんがイキナリ本選に参加できる程度のバンド合戦のチケットだよ」


「え? 秋ちゃん?」


「普通ならさ、予選みたいなアレとかあってさ、その予選みたいなアレに合格して通過できたバンドだけがバンド合戦の本選に出場できるみたいな……」


「あ、そっか。予選のオーディションに合格しなきゃバンド合戦の本番に出らんないのが普通だもんね」


「それとさ、昨日の忘年会ライブは顔見知りも来てくれて盛り上がったけど、チケットとかなくて無料のタダで観れるアレだったから……」


「秋ちゃん? だから?」


「うん、だから……タダだからさ、あんなに沢山の見知らぬ人々も観てくれたって話でさ」


「うーん……そっか、タダだと人は集まるもんだもんね」


「それにさ、ボクたちみたいな中学生には素人バンド合戦のチケットが500円ってさ、意外と高く感じちゃうもんじゃん?」


「え? 秋ちゃん?」


「いや、だってさ、中学生だとアルバイトできないし、親がくれるお小遣いなんてさ、たかが知れてるし……だから、買いたくても買えないみたいなアレにもなるかもだし」


「あたし、お小遣い、月に5千円ポッチしかもらえない」


「いやいや、おるこちゃん……普通さ、世間一般の中学生のお小遣いなんてさ、そんなもんだよ」


「そっか、少ないお小遣いなんだし、500円は確かに買いたくても買えないってなるかもだわ」


「うん。そうなるかもだよ」


「そぉーねぇ、あたしなら、クリスマスバンド合戦のチケット、300円くらいなら買ってもイイわ」


「は? おるこちゃん?」


「ねえ、秋ちゃん? どこかでチケットの安売りしてないかしら? あたし、300円なら買えるし」


「って、どわっ! おるこちゃんは買わなくてイイから! バンド合戦の出場者なんだから!」


「でも、そっかぁ……」


「え? おるこちゃん?」


「うん、あのね……中学生にアマチュアバンドのチケット500円は高く感じて買いたくても買えなかもっていうアレ……あたし、秋ちゃんに言われて気づいたわ」


「うん、そんな現実がアリアリかもだよ。だからこそ、クリスマスバンド合戦のチケットを買ってくれたみんなに感謝しなきゃだよ」


「うん、秋ちゃんの言うとおりだわ。あたし、ちゃんと感謝しなきゃだわ」


 ――おるこちゃんとボク、公園を突き抜けると……


 目の前にある大通りを横断するために、偶然に青信号が点灯している押しボタン信号の横断歩道を急いで渡った。


 ――この信号を渡ったら、後3分とか4分とかで学校に着くんだけど……



「あっ!! 秋ちゃん生徒会長だ!!」


「秋ちゃん生徒会長! チケット売ってくださぁーい!」


「秋ちゃん生徒会長、お願いします!! 俺にも売ってください!!」


「って、みんな? 急にボクとおるこちゃんに集まりだして……どうしたの?」


「薫子副会長! もうチケットは売らないんですか?」


「薫子副会長、お願いします!! あたしにも売ってください!!」


「いやん、みんな! 危ないから、ちゃんと歩道を歩かなきゃだわ! ほら、そこ! 車道にハミ出ちゃダメだし! 通勤を急ぐ車たち、道を譲ってなんかくれやしないんだから!」


 ――うわぁ……何だか知らないけど、おるこちゃんとボク、いきなり生徒の皆さん達からモミクチャにされ始めちゃったし!!


「そう、学校の正門が向こうに小さく見えてきたと思ったらさ……」


 通学路を登校している生徒達の一部から突然よろしく囲まれてしまったのだった。


「もうすぐバンド合戦の日なのに、オレまだチケット買えてないんです」


「あたしも! まだあたしも買えてないんです!」


 ――うわぁ……みんな必死の形相になってるし……


「秋ちゃん生徒会長のウエディングドレスお姫様コスプレ、あたし見たいのに!」


「あたしも美少年女装男子美少女ウエディングお姫様秋ちゃん生徒会長見たいです!」


「ちょっと待って。みんな、そんなこと、どうして知ってるの?」


「え? おるこちゃん? 『どうして知ってるの?』ってさ、それ、どういう意味?」


 ――っていうか、解った! おるこちゃんが言った『どうして知ってるの?』っていう意味が解った!


「お願いします。チケット売ってください。俺は薫子副会長のウエディングドレスお姫様コスを見たいから……」


 河鹿薫子は彼女を取り囲む生徒達から揉みくちゃにされつつ、

「いやん! みんな、どうして? どうしてそんなこと知ってるの?」

と、彼女は彼女を取り囲む面々を見渡しながら再び言い放ったのだった。


「うん、なるほどね。おるこちゃんが言い放った『その質問』は最もだよね」


 ――なぜならさ、まりんぱ忘年会ライブ会場に我が中学校の生徒もチラホラ居たけどさ……


 しかしながら、今、河鹿薫子とボクを取り囲んでる生徒達はライブ会場には居なかったからだ。


「みんなさ、まりんぱ忘年会ライブに来てなかったのに? おるこちゃんやボクのウエディングドレスお姫様姿とか、どうして知ってるの?」


 河鹿薫子がした質問を、河鹿薫子とボクを取り囲む面々に向かい、思わずボクもしてしまわずにはいられなかった。


 ――そんなテンヤワンヤな真っ最中だってのに……


 ボクの携帯電話機にメールが着信したのだった。


 ――ボクは制服の上着のポケットからガラケーなんて呼ばれているケータイ電話端末機を取り出して、ソソクサと着信したメールの内容を確認しようと見てるんだけど……


「いや、だってさ、重要な用件のメールかもしれないし」


 ――っていうか、何だコリャ?


「はあー? 幸福の手紙? 不幸の手紙みたいないたずらメールかいなコリャ?」


 ――朝から誰だよ、ボクにいたずらメールとか送ってくる暇人は?


「秋ちゃん生徒会長? わたしにも幸福の手紙ってメール来ましたけど……」


 ボクの右脇に居る一年生の女子生徒が彼女の持つスマートフォンを見せてくれた。


「あ、ホントだ。ボクと同じ幸福の手紙だね」


「あら? あたしのケータイにメール来たみたいな?」


「まさか、おるこちゃんにも幸福の手紙ってメール来た? っていうか……」


 ――気がつけば、通学路のアチコチから着信メロディが聴こえて来てるみたいな……メール着メロ大合奏響きまくりサラウンド状態みたいな?


「秋ちゃん生徒会長! オレのケータイにも幸福の手紙来てるんですけど、ほら」


 ――どうやら三年生と見受けられる男子生徒はボクに……


 彼の携帯電話機にある液晶画面を見せながら言ったのだった。


「先輩、ケータイの画面を読ませてもらってもイイですか?」


「秋ちゃん生徒会長ならイイですよ。その代わり、俺にサインください。おでんのボーカル秋ちゃんの大ファンなんです!! 美少年女装男子美少女秋子ちゃんLOVEなんです!!」


 ――うわ! 秋子ちゃんラブとか言われちゃったし! 朝から赤面しまくりだし! っていうか、今は照れてる場合じゃないし!


「えっと、あの……あ、そうだ。先輩、ありがとう。うん、サインとか差し上げちゃいますよ」


「うっしゃ、やったぁー!! じゃあ、はい。俺のケータイ、どうぞ」


 ――えっと? どんな文面なのかな……って、はい?


「このメールを受け取ったら友達10人にメールしないと幸せになれません。しかも、チケットを買わないと本物のウェディングドレスお姫様は見れません。添付した写真の実物を目の当たりにしたいならチケットを買いましょう……って、何だコリャ?」


 その男子生徒が見せてくれた文面を読むや否や、ボクはボク自身の携帯電話機にある画面を大急ぎで見たのだった。


 ――うわ……男子生徒のと同じ文面だし……


「あら、あたしのケータイに来たメールも、秋ちゃんが読み上げた内容と全く同じ内容だわ」


「は? おるこちゃん、そうなの?」


「気味悪くてたまんないわ。何なのかしら、これ?」


 ボクは自分の携帯電話機を河鹿薫子に手渡すと、頭上に沢山の疑問符を浮かべた様な顔になっている河鹿薫子は、彼女の携帯電話機をボクに手渡してきたのだった。


「あ、ホントだ。全く同じ文面だし」


 ――やっぱり、このメール、不幸の手紙みたいなチェーンメールなのかな?


「いやん! 何よ? この添付画像! どうして? 何で? お姫様写メが?」


「え? おるこちゃん?」


 ――おるこちゃんとボク、同じモバイル会社で、しかも、同じメーカーが造った、いわゆる同じ機種を使ってるんだけど……


 そう、河鹿薫子は真っ赤な端末でボクは真っ黒な端末という、二人は色違いの同じ機種を使っている。


 ――だから、おるこちゃんは容易くボクの携帯電話を使いこなせるみたいな……勝手に添付画像を開いちゃったみたいな……


「っていうか、勝手にボクのケータイいじくり回さないでよ」


「秋ちゃん、呑気なこと言ってないで! 早くあたしのケータイ返してくれなきゃだわ!」


 河鹿薫子は自分の携帯電話機をボクの手から奪うと、彼女はボクの携帯電話機をボクへ手渡してきた。


「おるこちゃん、何を慌ててるんだか知らないけどさ、ちょっとは落ち着いて……」


「んもう、秋ちゃんったら!! 落ち着いてなんて呑気なこと言ってらんないって気づいてくれなきゃだわ!!」


 ――またまた、おるこちゃんはさ、何かにつけて大袈裟なんだから……


「っていうか! アンビリバボぉー!!」


 ボクは手渡された自分の携帯電話にある画面を見るなり叫んでしまっていた。


 ――幸福の手紙、そう題うたれたメールには……


「ウェディングドレスお姫様姿をしたおるこちゃんが、ウェディングドレスお姫様姿をしたボクを、ニコニコしながらお姫様抱っこしちゃってるという……」


 そう、昨日の忘年会ライブ会場で撮影されたとしか思えない写真が添付されていたのだった。


 ――あのウェディングドレスは試作品だし、某結婚式場で貸衣装に採用できるかどうか反響を見るための作りかけ衣装だったんだし……


「その某結婚式場から会場音響エンジニアの委託をされている中井川さんがツテになって……」


 1000人以上が集まるまりんぱ忘年会にてアンテナを立ててみようと、某結婚式場は母さんに試作品のウェディングドレスを貸し出していたという経緯がある衣装なのだった。


「反響を見るために、昨日の忘年会ライブ、その某結婚式場の関係者もコソコソ来てたんだよ」


 ――なんて、ノンキに楽屋ばなしかましてる場合じゃなくなってきちゃったみたいな……


「秋ちゃん生徒会長……有り得ない位に綺麗だし、夢に出そうな位に美しいし……このライブ衣装着てる実物の秋ちゃん生徒会長をマジ見たいし!」


「薫子副会長、女神様みたいに美少女かましまくりで……オレ、どうしても本物を見たくなったから!」


 ――うわっ! よくよく見たら、おるこちゃんとボクを取り囲んでる皆、雁首並べて血眼みたいな、マジマナコみたいな!


「やばい! ヤバイ! マジやばい!」


「秋ちゃんホントだわ! マジヤバな雰囲気になってきちゃったわ!」


「薫子副会長! バンドコンテストのチケット売ってください!」


「秋ちゃん生徒会長! クリスマスバンド合戦のチケット買います! お願いだから買わせてください!」


「オレ、何がなんでも、激鬼バリ、ウェディングドレスお姫様衣装見たい!」


「チケット、どこで売ってるんですか? 駅前のチケット屋さんで売ってなかったんですけど?」


「あたしなんて、ポスターにある問い合わせ先に電話したら……『sold outしました』とか言われちゃったんです!」


「この前みたいに学校でチケット売らないんですか?」


「どうしても欲しい! どっかにチケット余ってないんですか?」


 ――うぅーわ!! そんなにイッペンに質問されまくっても、ボクは売り物用のチケット持ってないし……ボクにはチケットの所在なんてワカンナイし!!


「はわわわわ……秋ちゃん、どうしよう?」


「よし、おるこちゃん! とっとと逃げるよ!」


「え? 秋ちゃん? いやん、秋ちゃんったら! 通学路で、そんな……いやん!」


 ――ボクは急いでおるこちゃんをお姫様抱っこすると、ニッチもサッチも、どうにも……


 何はともあれ、取り巻きを強行突破し、脱兎よろしく走り出したのだった。


 ――だってさ、ニトロをチャージしたガソリンエンジン全開の様相で走るしかバカ避け対策が思い付かないんだもん!!


「きゃー! 秋ちゃん生徒会長が薫子副会長をお姫様抱っこした!」


「写メ! 写メ! 二度と見れないかもしれないし!」


「俺も写メ撮る!」


「撮り逃したら一生後悔する光景だわ!!」


「オレにも撮らして!」


「お願い、邪魔しないで! そこ、どいて!! あたしにも撮らせて!!」


「うわぁ……パパラッチみたいなカメラマンたちに取り囲まれちゃった……」


 ――スキャンダル抱えた芸能人みたいになっちゃったみたいな?


「っていうか、逃げ出すおるこちゃんとボクを追いかけるのも忘れ、通学路にワラワラ居る生徒達は……」


 揃いも揃って写真を撮ることに夢中になっていたりする。


 ――歩いたり走ったりして写真撮ったら手振れピンボケ写真になるから、みんな棒立ちの直立不動になってるみたいな……


 これは好都合とばかりに、ボクは河鹿薫子を抱えたまま校舎内へ、とにもかくにも、全力疾走で姿を眩ますばかりだった。


「あ、浅間君と河鹿さん、おはよう」


「って、トベちゃんさあ、普通に朝の挨拶してる場合じゃないぞ」


「え? エザちゃん? どうして?」


「いくらラブラブな浅間君と河鹿さんだからって……普通、彼氏が彼女をお姫様抱っこして登校しないし……彼女はアタフタしてて彼氏は息切れして青ざめてるし……百歩譲っても普通のシチュエーションじゃないからだぞ」


「でも、浅間君と河鹿さんに普通なんて似合わないみたいな……あはは」


「あっちゃあー! トベちゃん? それを言っちゃオシマイなんだぞ!」


 ――おるこちゃんをお姫様抱っこしたまま昇降口に駆け込んだら……


 下駄箱に外履きのスニーカーを仕舞いつつ上履きに履き替えている卜部さんと江澤さんに出くわしたのだった。


「浅間君さあ、朝から河鹿さんをお姫様抱っこして駆け込んで来るなんて……また何かハプニングから逃げてきたんじゃないのか?」


 ――エザちゃん、無理! 喋れない、返事できない! 息苦しいし!


「秋ちゃん、早くあたしを下ろしてくんなきゃだわ。ゼェーゼェー息切らしちゃって苦しそうだし」


 河鹿薫子からの言葉を受け、ボクは大切に抱きかかえているボクの彼女を静かに床へ下ろした。


「ってか、河鹿さんさあ……朝っぱらから何があったんだ?」


「それがね、エザちゃん……」


 河鹿薫子は上履きに履き替えつつ、江澤さんと卜部さんへ、今さっき出くわしたスッタモンダを事細かに説明している。


 卜部さんは息を切らしながら昇降口にあるすのこへ座り込むボクの下履きを脱がすと、面倒見のよい彼女はボクに上履きを履かせてくれていたのだった。



 ――あぁーあ、さてさて……何はトモあれ……


 朝一番の予鈴のチャイムが鳴り終わった今、我が2年2組の教室内外、いつもどおりの朝の風景に戻っていたりする。


「予鈴のチャイムが鳴る前までさ、河鹿さんが説明してくれたまんまの大騒ぎだったな」


「うん、エザちゃんが言うとおりだったわ。わたし、驚いちゃった」


「トベちゃんが驚くのも無理ないがや。なんせ、さしものあたしでも驚き桃の木ちょちょ切れちゃったがや」


「デン、あたしなんて、もうクタクタだわ」


「うん、おるこちゃん。ボクも朝からクタクタんなっちゃったよ」


 ――実はさ、今朝方の登校時に通学路でおるこちゃんとボクが遭遇した出来事が……


 そのまま我が2年2組の教室の前にある廊下でも繰り広げられてしまっていたから始末に負えない有り様そのものだったりする。


「しかもさ、廊下で大騒ぎしていた生徒の皆さんのうち……」


 ――その一部が2年2組の教室ん中に雪崩れ込んできたから……


「ニッチもサッチも、どうにも、はたまたテンヤワンヤ百倍だったし!」


「浅間君、あたしゃ失敗したよ」


「え? デンちゃん? 何が失敗なんだって?」


「チケット仕入れておけば、例え千円で売ろうとも、我先にみたいに争いまくりながら、もう、飛ぶように売れたはずだがや。朝間君と薫子を歩く広告塔にして……うはは」


 ――ああ、もう!! デンちゃんはハプニングを楽しんでるし!! 相変わらずなデンちゃんだし!!


「おいおい、デンちゃん……2倍の価格とかさ、高売りすんなよぉ。相変わらずアコギなんだからさあ」


「エザちゃん、何を言うんだぎゃ。あたしゃ、おでんでバンド活動するために高売りするんだがや」


「っていうか、スゴイね、デンちゃんは」


「秋ちゃん? 秋ちゃん? スゴイって? 何を感心したりしちゃってるの?」


「おるこちゃん、あのさ……デンちゃんは、我がバンドおでんの活動資金を、いわゆる、マネーストックしておいてさ……」


「は? 浅間君? ストイックなデンちゃんなのか?」


「いや、だから、エザちゃん……いつでもね、そのマネーをフローさせて……」


「えっと? 浅間君? ストイックな風呂?」


「いや、だから、トベちゃん……バンドのメンバーから出資させずにさ、バンドのメンバーの財布を守りつつ……」


「あぁあーああ、秋ちゃん? ストイックな風呂ストック? 部屋のアチコチにストイックな風呂だらけ?」


「いや、そうじゃなくてさ……おるこちゃんの財布も痛ませず、デンちゃんは我がバンドおでんのためにマネーのストック&フローを考えて……」


 ――って、ありゃ? エザちゃん、トベちゃん、おるこちゃん、ハテナ顔になっちゃってるみたいな?


「浅間君、あたしゃ、あたしがバンド活動する資金が欲しいだけだがや。高売りした差益は全部あたしのフトコロ貯金だがや」


「って、デンちゃん! そう来ましたか!」


「しっかし、まあ、浅間君、浅間君……そんだけ経営学的な頭脳がありながら、どうして数学は赤点なんだがや? もっと脳ミソは巧みに応用して使った方が……」


「って、デンちゃん! 余計なお世話だし! んで、ボクは赤点取ったことないし!」



「はい、2年2組の皆さん、席に着いてください。さあ、朝のホームルームを始めますよ」


 ――ホームルーム開始を報せる予鈴のチャイムは鳴った後だけどさ、まだ本鈴のチャイムは鳴ってなかったから、教室内で席に着いてないクラスメイトばかりみたいな……


「っていうか!! 何で校長先生がホームルームするんですか!?」


「浅間生徒会長? どうかしましたか?」


「いや、あの、校長せんせ……それ、コッチのセリフみたいな気がするんですけど……」


 ――だってさ、全国津々浦々、右見ても左見ても、普通、公立中学校の朝は担任の先生がホームルームという名の朝礼をするもんだし……


「なのにさ、我が2年2組の教室へ出席簿を持って入ってきたのは……」


 ――担任でも副担任でもなく、学年主任でも教頭でもなく、よりによって学校の頂点に立つ校長先生だし!!


「はい! 校長せんせぇー!」


 河鹿薫子、教卓に出席簿を置きつつ、黒板を背にして教壇に立つ校長に向かって、元気いっぱいに声を張り上げながら挙手している。


「河鹿副会長、発言をどうぞ」


「チケット売ってください!」


「って! おるこちゃん! そう来たか!! っていうか、そうじゃないだろ!!」


「浅間生徒会長、発言するなら、先ずは挙手してください」


「あ……校長先生、すみませんでした」


 ――って、校長せんせもさ、そうじゃないだろ!!


「では、出欠を取りますので、2年2組の皆さん、氏名を呼ばれたら大きな声で返事をしてください」


「いやん……チケットの話はスルーされちゃったみたいな?」


「うん、おるこちゃん……思いっ切りスルーされたね」


「浅間生徒会長、私語は慎んでください」


「はい、すみません……校長先生」


 説明するまでもないが、朝のホームルーム、通常は各クラスのクラス担任が行うものだったりする。


「さて、それでは、さっそく出欠を取ります。浅間秋君…………」


 ――なのに、我がクラス担任のガンジーこと三浦せんせは来ないし、よりによって校長先生が出欠取りだしちゃったし……


「ん? 浅間秋君は欠席ですね? それはそれは、真に残念です」


「って! 校長先生! ボクが居るって判ってるはずじゃないですか! こんだけ激しく校長先生に突っ込み入れてるんだし!!」


「浅間生徒会長、私語は慎んでください」


「はい、校長先生すみません」


「では、気を取り直し、改めて出欠を取ります。浅間秋君」


「はい、元気です」


「以下、同文……という訳で、ホームルームを始めるに当たりまして……」


「って、校長先生! 表彰状の授与式ですか! っていうか、出席名簿の先頭にあるボクしか出欠確認してないし!」


「浅間生徒会長、いちいちボケなくてよろしいのですよ」


「うわ……ボケてるのは校長先生ですから」


 ――いやはや、しかしさ、何で? どうして校長せんせが朝のホームルームを?


「担任が欠勤したなら副担任が……担任も副担任も欠勤したなら学年主任が来るのが、ウチの学校的に、普通な流れみたいなアレなのにさ……」


 ――校長が特定のクラスの朝礼をするという突飛過ぎる出来事に遭遇しちゃったクラスメイトの皆は……


 雁首を揃えて絶句するがごとく黙りこんでいたりする。


 ――あの海千山千なデンちゃんですらさ、目を点にさせながら黙りこくってるし……


「はい、はい! 校長せんせぇー!」


 ――うわ……おるこちゃん、また挙手してるし……


 河鹿薫子、疑問が湧いたなら、彼女自身が納得ゆくまで根掘り葉掘り質問攻めにする行動は日常茶飯事だったりする。


「河鹿副会長、発言を認めます」


「チケット売ってください!」


 ――くわぁー! おるこちゃん、とことんマイペース諸出し! しかも、とことんKY炸裂させまくり!


「全校生徒のみんなのうち、あたしと秋ちゃんの二人合わせて77名のみんなからチケット売って欲しいって署名もらってるんで、その77名の在校生に売ってあげてくんなきゃなんです!」


「ああ、さて……2年2組においては一時間目の授業は体育ですが……」


 ――あれ? 校長先生、おるこちゃんからの質問を、またまたスルーしちゃったみたいな?


「本年度は三浦教諭が2年2組における男子生徒の体育の授業を受け持っております」


 そう、ボク達2年生男子の体育の授業は、ガンジー先生こと、三浦教諭が受け持っている。


「が、しかし、本日は三浦教諭に自宅謹慎処分を与えました」


 ――は? ガンジーせんせ、校長せんせから自宅謹慎処分とか食らったの? っていうか、何で!?


 校長先生の発言を聞くや、2年2組のクラスメイト達、お互いがお互いの顔を見合せつつ、ザワザワと雑談をし始めては動揺をしていた。


「はい、はい、はい! 校長せんせ?」


 そんな中、果てしなくマイペースな河鹿薫子、またまた挙手をしたのだった。


「河鹿副会長、またですか?」


「はい、はい、はい! 校長せんせ、また質問です!」


「仕方ありません……河鹿副会長、発言を認めます」


 河鹿薫子から話の腰を折られてばかりな校長先生、あらかさまにウンザリも極まりないという表情を最前面にさらけ出している。


「校長せんせは、まりんぱ食品の南習志野工場長さんみたいに秋ちゃんファンですか?」


 ――は? おるこちゃん? 何だソリャ?


 河鹿薫子が校長先生にした、あまりにも脈絡がなく、あまりにも突拍子もない質問を聞くや、我がクラスメイトたちは河鹿薫子の顔を訝しげに見つめ始めたのだった。


 ――そりゃそうだよ。ボクを含め、クラスメイトのみんな、自宅謹慎食らったガンジーのことについて知りたいはずなんだし、その空気を無視してマイペース質問かましまくりなおるこちゃんだし……


「校長せんせは、教育委員会の役員さんで、秋ちゃんの才能に惚れ込んでいる役員さんみたいに、秋ちゃんの才能開花のために秋ちゃんを応援してくれてる人なんですか?」


 ――あれ? おるこちゃんが続けてやらかした質問の言葉を聞いたクラスメイト達、急におるこちゃんを応援するみたいな眼差しに変わった?


「まりんぱ食品の南習志野工場長さんは秋ちゃんとツーショット撮った時、まるで子供みたいな笑顔で大喜びしてくれてました」


 ――うん、おるこちゃんが言うとおり……工場長さんは童心にかえったみたいに手放しで喜んでくれてたよ……


「秋ちゃんに惚れ込んでる教育委員会の役員さんは、秋ちゃんが唄う歌を聴いた時、幼い頃にお母さんが唄ってくれた子守唄のように聴こえたって、少し涙ぐんでました」


 ――えぇー!? それは知らなかったよ……


「工場長さんは秋ちゃんが唄う歌声を聴くとストレスとか吹き飛ぶって、教育委員会の役員さんは秋ちゃんが唄う歌声を聴くと忘れていた心を取り戻せるって……」


 ――あれ? おるこちゃんの鼓動が聞こえる?


「まりんぱ工場長さんも教育委員会役員さんも、心から秋ちゃんファンなんです。あたしも心から秋ちゃんファンだから、二人の気持ち、心から解るんです」


 ――ありゃ? クラスメイトみんなの鼓動も聞こえるみたいな?


 真冬の曇り空が広がる窓の外では、厳寒の北風に枯れ葉が、何とも比喩し難い位の美しい円を描きつつ、まるで命を吹き込まれたかのように舞い踊っている。


 ――アルミサッシのガラスを閉め切った教室、その舞いの音色は届かず……


「色とりどりでいて、その色も鮮やかに舞い踊る枯れ葉たち……」


 まるで無声映画のようにサイレントな舞いを踊り楽しんでいたりする。


 ――っていうか、あれ? ボクの耳、おかしくなっちゃった? あんまり静まりかえってる教室の中だから、もしかして、変な錯覚とか起きてるのかな?


「いやん、あたし……秋ちゃんの心臓から聞こえてくる音が気持ちイイわ」


「え? おるこちゃんも?」


「あら? 秋ちゃんも?」


「うん、ボクさ、おるこちゃんから聞こえてくる鼓動の音が気持ちイイよ」


「いやん、うふふ……あたしも、秋ちゃんから聞こえてくる鼓動の音が気持ちイイもん」


 ――なんていう、おるこちゃんとボクのやり取りに、クラスメイトの皆は……


 物言わずに同感だと言わんばかりの雰囲気を方々からボクに与えてくれている。


 ――ボクの耳、おかしくなってなんかいなかった。だってさ、おるこちゃんも、クラスメイトの皆も、ボクと同じこと感じてるから……


 そんな、一種、摩訶不思議な空気に満ち満ちた中、

「申し訳御座いません!」

と、校長先生は教壇の台上に平伏し始めてしまったのだった。


 ――うわっ! 一気に現実へ引き戻されちゃったし!


 そう、校長の奇行を目の当たりにしたクラスメイト達、せっかく全員で共有していた摩訶不思議な心地好さを一瞬にして失ってしまったのだった。


 ――いや、あの……最も解り易い言葉で言うならさ、シラケちゃったっていうアレなんだけどさ……


「わたくしは私人と公人を混同させて私利私欲に走っておりました」


 ――校長が語り始めた赤裸々な話を沈黙しつつ聞いているクラスメイトのみんな……


「しかしながら、わたくしは生徒の皆さんへ迷惑をかけない様に努めつつ、あらかさまな私利私欲にならぬように心掛けてはおりました次第なのです」


 ――は? 校長は『あらかさまな私利私欲にならぬように心掛けてはおりました次第』とか宣った?


 その校長の言葉を耳にするや、河鹿薫子、見るからに憤慨した表情を顕にし始めた。


 ボクはボクの右隣の席に座っている河鹿薫子の左手を誰にも見えないように気をつけつつ、そっと握りながら、

「いや、ちょっと待って。おるこちゃん、まだ早いよ」

と、彼女の耳元で囁いたのだった。


「え? 秋ちゃん?」


 ――おるこちゃん、多分、校長が宣った、『あらかさまな私利私欲にならぬように心掛けてはおりました次第』っていう、その言葉に我慢できなくなったんだと思う……


「おるこちゃん、ボクも我慢して聞いてるんだよ。だから、おるこちゃんも、校長せんせの発言に反論したりするの、まだ我慢してほしいんだ」


「うん、秋ちゃん……あたし、まだ我慢して校長の話の続きを聞くわ」


 河鹿薫子、ボクの願いを聞き入れつつ、ボクが大好きな彼女らしい笑顔で応えてくれていた。


「えぇー、ああ、さて……体育科の三浦教諭は『幸福の手紙』なる電子メールを我が校にありますパソコンから、全校生徒の皆さんが持つ携帯型モバイル端末機へ無差別に送信をするという愚行を……」


 ――どわっ!! 幸福の手紙って、あのヘンテコなメール……実は、ガンジーせんせがチェーンメールで垂れ流してたみたいな!?


「きっと2年2組の生徒の皆さんも受け取ったと思われる、いわゆる、一つの、いけないチェーンメールなのですが……」


 その校長の言葉を耳にしたボク、何気なく教室全体を無意識に見渡していた。


 ――ありゃま……クラスメイト全員、ウンウンってうなづいてるし……


 どうやら、ガンジー先生が発信源のチェーンメール、我がクラスメイト全員のモバイル端末機に届いていた様子だった。


「あれ? でもさ、ボクのケータイに届いた幸福の手紙、デンちゃんのアドレスから来てるみたいな?」


「あら? あたしのケータイもだわ。デンのメールアドレスから届いてる……って、んもう! やらかしたわね? デンったら!」


「あぁーあ……おるこちゃんとボクからの視線に気づいたデンちゃん、ニヤニヤしながらVサインを掲げちゃってるし!」


 ――やっぱり、おるこちゃんとボクのケータイに、ガンジーが発信源の『幸福の手紙』を、それを愉快犯になって転送したのはデンちゃんだし!


 いやはや、よくよく考えてみたなら、どんなに頑張ってスパム的なメールを大量に送ろうにも、所詮、ガンジー先生は一人だ。


 ――しかもさ、ガンジーせんせが個人的に知っているメールアドレスなんて数が知れてるだろうし……


「何だかんだでさ、こんなに大騒ぎになるほどに、不特定多数の何百人もの生徒達へ……」


 ガンジー先生が一人で、短時間のうちに、件の大量なるチェーンメールを送信できるものではない。


 ――なるほどねぇ……『このメールを受け取ったなら10人にメールしないと』っていう、アレに便乗した愉快犯が発生しまくったみたいな……


「不幸の手紙が便乗した愉快犯の生徒達によって、あたかもネズミ講のように拡散するがごとく……この幸福の手紙もガンジー先生の意図に叶うかのように愉快犯から拡散されて大騒ぎになった……校長先生、そうなんですね?」


 そのボクからの問い掛けに、

「浅間生徒会長、そのとおりなのです」

と、平伏していた校長先生はフラフラと立ち上がりながら言葉を返してきた。


「校長せんせ? んじゃ、ガンジーせんせが発信源ですけど、ガンジーせんせは便乗した愉快犯たちの被害者にもなりませんか? そう考えると、ガンジーせんせが処分を受けるなら、ボク的には、便乗して被害を拡大させた愉快犯の生徒達も取っ捕まえて処分しなきゃ不公平だと思うんですけど」


「なんて言う秋ちゃんとはビミョーに違う見解アリアリなあたしなんですけど……」


「え? おるこちゃん?」


「ガンジーせんせは上司の校長せんせの望んでる流れを叶えようって頑張りが過ぎただけだと思うんです」


 校長先生、先ほどから繰り広げている河鹿薫子とボクのやり取りを黙りつつ、少し神妙な面持ちで聞き入っている。


「ガンジーせんせがやったことってタダの宣伝だし、どこの民間企業だってやってることだし」


 ――んでもって、ボクは……


 河鹿薫子の発言を邪魔しないように、ボクは彼女の発言を尊重しながら聞いている。


「でも、あたしたちみたいな、何にでも興味津々になっちゃって、何も考えずに愉快犯になっちゃう子供を焚き付けちゃうみたいな……そんないたずらメールの発信源になったガンジーせんせは大失態の原因ヤラカシまくりだったと思います」


 そう言いつつ、河鹿薫子、彼女の右斜め前の席に座る田頭久美子ちゃんの顔を睨み付けた。


 ――おやおや、デンちゃんは申し訳なさそうな顔になっちゃったし……


「ハッキリ言って、あたし、全ての元凶は校長せんせだと思います。校長せんせが無理やり秋ちゃんを生徒会長にさせたところから元凶が始まりだしたって思ってます」


 ――あれ? おるこちゃんの言葉にクラスメイト全員が申し訳なさそうな顔になっちゃったみたいな?


「もちろん、秋ちゃんを生徒会長にさせるためにあたし……あたしも元凶の一枚を噛んじゃってますけど……」


 ――ありゃま、おるこちゃんまで申し訳なさそうな顔になっちゃったみたいな……


「でもさ、ボクね、生徒会長になって良かったって思ってるよ」


「え? 秋ちゃん?」


 ――しまった! おるこちゃんの発言を邪魔しないように気をつけてたのに……思わず言葉が漏れちゃった!


「劣等生だったボクを生徒会長にしたいって……もう、何ヶ月も前にさ、談合みたいなのをね、校長先生が教頭や学年主任を使ってさ、ボクを生徒指導室に捕まえて秘密裏にしてきた時は面食らったよ」


 校長先生をはじめ、クラスメイト全員、それに河鹿薫子、皆揃ってボクに注目し始めた。


「でもさ、みんなみんな、誰だって人間じゃんか。おるこちゃんにだって私利私欲はあるし……」


「え? 秋ちゃん?」


「いやいや、ボクにだって私利私欲はあるんだし、クラスメイトのみんなだってさ、もちろん、私利私欲はあって当たり前なんだし……」


「えっと? 秋ちゃん?」


「逆の話さ、私利私欲っていう欲があるからツマンナイ日常でも頑張れるんじゃん。世知辛くてヤッテランナイ日常でも自らの欲を満たすためなら頑張れるんじゃん。例えばね、ボクなんてさ、もっともっとおるこちゃんとラブラブになりたくてさ、身分不相応な生徒会長なんてのを頑張れるんだし」


「いやん! 秋ちゃんったら、そんな……えへ、うふ、あは」


「ちなみに、今回ガンジーせんせがやらかしたこと、法律とか色んな法規とかから見て、いわゆる犯罪に値するんですか?」


 ボクの質問に校長先生は、

「三浦教諭は不特定多数に向けて浅間生徒会長と河鹿副会長が写る写真をバラまきました。これは我が校の教壇に立つ者がやってはならない行為です」

と、厳格な面持ちで答えた。


「でも、勝手におるこちゃんとボクが写る写真を三浦ガンジー先生が世間にさらしたことに対して、おるこちゃんもボクも、苦情とか被害届とか、全然、全く、皆目のことドコにも出してないですよ」


「いや、だが、しかし……」


「しかしもカカシも、被害者が訴状を裁判所に出してないのに、裁判しようとする原告が居ないのに、校長先生は被告を勝手に決めて……原告が存在しない被告に有罪判決を食らわしちゃった大昔の絶対王政の暴君みたいになってませんか?」


「いや、朝間君……そうは言っても、しかしながら……」


「っていうか、万が一、学校のパソコンから許可なく私的なメールを送ったことが咎められるなら、学校のパソコンを使う授業の時、先生の目を盗んで許可なくメール送受信してる生徒全員が自宅謹慎処分にならなきゃ不公平だとボクは思います」


 ――なんていうボクの言葉を聞くや、ボクや校長先生から顔を背けたクラスメイト達、ワサワサ居るし!


「ああ、もうー! あたし我慢できない! 秋ちゃんったら、もっと単刀直入に行かなきゃだわ!」


「へ? おるこちゃん?」


 ボクが長々と講釈染みた話を垂れる中、河鹿薫子は座っていた椅子を蹴散らかしつつ立ち上がった。


「校長せんせぇーはチケットを売りたいんですか? 売りたくないんですか? チケットを買いたがってる生徒のみんなを、今更サラサラ裏切るんですか!?」


 ――どっひゃー!! おるこちゃんがブチキレちゃったし!!


「校長せんせぇーは、あんだけ全校生徒をそそのかしたくせに! ガンジーせんせだって、校長せんせからそそのかされなきゃ、幸福の手紙とか、そんなチェーンメールとか送信したりしなかったのに!!」


「うわっ! おるこちゃん落ち着いて……どうどう、はいドウドウ……」


「いやん! 秋ちゃんったら、あたしは暴れ馬じゃないもん!」


「あ、そっか。おるこちゃんは鼻息を荒らげて突進する暴れイノシシ……って、うぅーわぁー!!」


 ボクは河鹿薫子から握りしめた拳で叩かれていた。


「あ痛たたたぁ……ボクの脳天にタンコブ出来ちゃったし……」


 ――ボクは強火で焼かれて膨らむ餅のようにスクスク成長するタンコブをさすりつつ……


「私こと浅間秋は、生徒会長として、学校長へ、本日中に緊急の全校集会の開催を断固として要求します。そして、その全校集会にて、全校生徒と学校長による、教育委員会主催のクリスマスイベントのチケットの件について、全校生徒が納得ゆくまで質疑応答を行って頂けますよう頑なに強く要望します。さらに、その全校集会には我が校のPTA役員の皆々様方の出席を頑なに強く要望する次第です」


 ――なんて、胸の鼓動を激しくさせつつも、沈着にして冷静を装いながら……


 ボクの中でざわめく激しい感情を抑えて言葉静かに宣ってしまったのだった。


「えっと、えっと……秋ちゃん? 今何て言ったの? あんまり難しい言い方するから、あたし、半分も意味解んなかったの。秋ちゃんは解り易く言い直してくんなきゃだわ」


「うわちゃぁー!! おるこちゃん……ボクの雄姿が台無しになっちゃったじゃんか!! トホホのホだよ……」



 ――ああ、もう! なかなか纏まらないなぁー! ボクは論文調なんかで書き出すんじゃなかったよ。大失敗しちゃったよ……


 朝からスッタモンダがあったけれど、今は放課後になっていて、ボクは生徒会室にある会長席に座っている。


 ――午前中からお昼前までかけて行われた緊急全校集会の議事録を取り纏めていたりするボクみたいな……


「コンコンコン……」


 そんな中、河鹿薫子を含め生徒会役員達が誰も居ない生徒会室の出入口扉を誰かがノックした。


「はい、どうぞ。入室してください」


「浅間ぁ……今日は申し訳なかった。俺は何て礼を言ったらイイんだか……」


 ボクが入室を許可する声を出すや否や、この生徒会室に顔を出したのはガンジーこと、我がクラス担任の三浦教諭だった。


 いやはや、彼が喋っている言葉尻は、もう、いかにも普段から粗野な彼らしい、いつもの彼の言葉使いだったが、彼の態度は粗野な彼にしては珍しい位に畏まった様相だったりするから驚愕だ。


「ガンジーせんせ、ヤだなぁー。ボクはガンジーせんせからお礼を言われるようなことしてないし」


「いやいや、そんなことはないぞ。何しろな、浅間生徒会長が学校側へ要求した緊急全校集会……」


 ――あ、そうそう、ガンジーが言った緊急全校集会なんだけど……


「そのお陰で俺の謹慎処分は不当だという無罪放免の運びになったんだから、俺は浅間生徒会長殿に有り難さひとしおの極みで、いやはや、何と礼を言えば気持ちを伝えられるのか……」


 その緊急全校集会、昼休み前の午前の授業を中止して、3時間目と4時間目の時間帯を費やして行われたのだった。


「ガンジーせんせ、ボクに気持ちは伝わってますよ。だって、お忍びよろしく、わざわざ生徒会室まで来てくれてるんだし。ガンジーせんせは、きっと、ボク以外の生徒会役員達が居ようとも、今みたいにお礼を言ってくれたはずだし。そんな男っぷり溢れるガンジーせんせだし」


 ボクの言葉にガンジーは、見るからに照れくさそうな表情をしながらボクに笑みを向けている。


「浅間、お前はさ、いつも天使みたいな優しい顔してるくせに……ヤル時ゃあー、もう、怒濤の仁王みたいにガツンとヤルよなぁー。俺は朝間秋生徒会長の仁王様には畏れ入ったぞ」


「いや、だってさ、ガンジーせんせだけ自宅謹慎処分なんて理不尽だし……ボク、そんなの許せなかったし」


「俺の頼もしい教え子……しばらく俺は浅間生徒会長殿に頭が上がらんな、こりゃ」


「いやいや、だってさ……ガンジーせんせが処分されるなら、その根元は校長せんせなんだし、校長せんせが元凶である主犯なんだし……校長せんせが裁かれて処分されないのにガンジー先生だけ処分喰らうなんてオカシイし」


「浅間、お前、いくら何でもな……あのな、学校長という我が校の頂点に対してだな、元凶な主犯と言ったりしたら、それは言い過ぎなんじゃないのか?」


「ガンジーせんせ、あのですね、元凶である主犯って言い出したのはPTA会長なんですけど……んで、PTA会長は、『今の校長は南習志野中学校に相応しくない校長だ』って、メチャクチャ怒りまくってましたけど」


 ボクの言葉を耳にするや、ガンジー先生こと三浦教諭、陸に打ち上げられたフグのように口をパクパクさせ始めた。


「あれ? ガンジーせんせ? オカに打ち上げられたフグみたいな膨れっ面をパクパクさせて……どうしたんですか?」


「そうなんだよ……実はな、最近なビールっ腹が酷くてな、顔までムクんで膨れっ面にフグみたいになってな……泣きっ面に蜂ならぬ、膨れっ面にフグで泣きが入りまくりな俺なんだ……」


「そうじゃなくって、どうして、ガンジー先生は顔面蒼白しながら口をパクパクしちゃったのかって、ボク、そういう意味で質問したんですけど?」


「って、朝間、こら! 誰が膨れっ面にフグだ!」


「っていうか、ガンジー先生、ノリ突っ込み遅ぉー!」


 ――我がクラス担任のガンジー先生、まだまだ二十代なんだけどさ……


 その若さですら、今時の十代のボケ&突っ込みのリズムは速くてついてゆけないらしい。


 ――なんてことは、楽屋ばなし炸裂な与太ばなしだからオイテイテ……


「いや、ちょっと待て……浅間ぁ、お前、まさか……」


「え? ガンジー先生? まさかって?」


「総勢たるPTA役員の面々、総勢たるPTA御歴々の面々……まさか、お前が緊急全校集会に呼んだのか?」


 体育科の教諭であるのにポヨンポヨンしたメタボリックなビールっ腹と、それに負けないくらいのメタボリックライクな脹れフグの顔をボクに近づけながらガンジー先生は言ったのだった。


「近い! 近い! 膨れっ面にフグが近過ぎですよ! フグ提灯セクハラですよ!」


「いやぁ、俺は驚いた。美少年女装男子美少女を至近距離で見てみて驚いた。浅間、お前、美人だなぁ……お前のお母さんも美人だが、お前はお母さんに負けず劣らず美人だよなぁ……」


「だぁーかぁーら、膨れっ面にフグが近過ぎですってば! それに、ボクは男子なんですから、美人とか、そんなこと言われても嬉しくないですよ!」


「今日の緊急全校集会にお母さんも来ていたが、相変わらず綺麗だったなぁ……こんなに大きな娘が居ながら、お母さん、まだ三十代前半なんだろ?」


「ボクは娘じゃないし! ボクは母さんの息子だし! まだボクの母さん、まだ30歳丁度になったばっかりだし!」


 ――ああ、もうー! ちぃーっとも話が進まないし!


「っていうか、ちなみに、PTA役員の皆さんを呼んでくれたのはボクの母さんなんですけど」


「ん? 浅間のお母さんはPTA役員だったか?」


「いや、違いますよ。でも、ボクは母さんしか頼りにできないし、母さんしか頼りにしてないですから……」


「おう、分かってるぞ。浅間秋とお母さんの絆は半端じゃないからな」


 ――うん! 自慢じゃないけど、母さんとボクの絆はハンパないし! っていうか、自慢の絆だし!


「そう……だから、緊急全校集会について、ボクはイの一番に電話で母さんに相談しただけなんですけど……そしたら、ボクの母さんは会社を早退してまで、そこまでして、PTAの役員さん達を引き連れて、午前中の朝っ腹から学校に来てくれたみたいな……」


「なるほど、『南習志野中学校にセンゲンあり』……だな」


「は? ガンジーせんせ? 何を言い出しちゃってるんですか?」


「たまげたな……『南習志野中学校にセンゲンあり』……その伝説は未だに健在ってところだな、こりゃ……」


 ――はてな? 南習志野中学校にセンゲンあり?


「ガンジーせんせ? 何ですか、それ?」


「まあ、俺は巷から聞こえてくる噂としてしか知らないんだがな……」


「ほえ? ちまた? うわさ?」


「いや、何しろな、俺が我が校で教師になる以前の伝説だろ」


「へ? 伝説?」


「それに、センゲン伝説がリアルタイムに起こされていた頃はな、俺は幼い小学生だったし……」


「えっと? センゲン伝説? 何の話されちゃってんだか全然ワカンナイんですけど?」


「朝間さあ、お前のお母さんは凄いな。我が校を卒業して10年以上経過した今でもセンゲン伝説を微動だにしないなんて、有り得ない位に凄いよなぁ……今でも高嶺の花みたいなカリスマ炸裂させているセンゲンさんなんだなぁ……」


「えぇー!? ガンジーせんせ? ちゃんと説明してくんなきゃ、全然、全く、少しも、ちっともワカンナイ話になってるんですけど?」


「おっと、イカン。俺は野球部を放ったらかしにして来てたんだ」


 ――あ、そっか。ガンジーせんせ、野球部の顧問やってるんだっけ……


「浅間すまん。俺はグランドに戻るぞ」


「えぇー!? ガンジーせんせ、センゲン伝説の説明は!? ボクの母さんが高嶺の花みたいなカリスマだっていう説明は!?」


「浅間生徒会長、今日は本当にありがとう。俺は浅間生徒会長に感謝して止まない。本当にありがとう……」


 そう言いながら、ガンジーは生徒会室の出入口扉を開けると、ボクに丁寧な一礼を捧げて生徒会室から出て行ってしまったのだった。


 ――今のボク、クシャミが出そうで出ないみたいな、シャックリを止めたいのに止まんないみたいな、そんな気持ち悪い中途半端な状態になってる心境なんだけど……



「秋ちゃぁーん! 遅くなってゴメぇーン! 待った? 待ってた? 待ちくたびれちゃった? 大丈夫よ、あたし、ちゃんと秋ちゃんに帰ってきたもん!」


 ――ガンジー先生が生徒会室から居なくなって3分と経たないうちに……


 生徒会室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは河鹿薫子だった。


「おるこちゃん、ドア開けっぱなしだし! そんなに乱暴にドアを開けたら傾いじゃうし!」


 河鹿薫子、生徒会室に入るや否や、椅子に座るボクの背後からボクに抱きついてきていた。


「秋ちゃん? キスは? あたしにご苦労様のご褒美キスは?」


「おるこちゃん、ドア開けっぱなしだし! ボクは締まりがないのは嫌いなんだっていうの、おるこちゃんは知ってるでしょ?」


「うん! あたし、ちゃんとドア閉めるもん。ちゃんと締まりあるもん。だから、秋ちゃんの気持ちイイご褒美キス! あたしに頂戴ね……えへ、うふふ」


 河鹿薫子、生徒会室の出入口扉を閉めるや、何を思ったか、扉にある鍵を施錠していた。


 ――いや、何を思ったか解り切ってるボクなんだけどさ……


「あたしね、絶賛不足中のチケット……」


「ありゃま、相変わらず絶賛不足中なんだ」


「うん、そうなのよ。でね、あたし、一生懸命に売って本日売り切れにしてきたのよ」


「え? また売り切れちゃったの?」


「あたし、頑張って完売しちゃったんだもん。だから、ご褒美にキスして……ちゃんとカギ閉めたから……」


 ――はいはい、何を思ったかって、キスしてほしいと思ったからみたいな……


「ってかさ、また教育委員会からチケット仕入れなきゃだね。教育委員会もさ、チマチマしてないでさ、我が校が欲してる数を満たすチケットを一度に仕入れさせてくれればイイのに……」


「秋ちゃん、秋ちゃん。あたし、頑張っちゃったんだから、秋ちゃんからのご褒美キス欲しくて頑張っちゃったんだから……キスキスキス、早く早く早くぅ……いやん! もう待ちきれない! あたしからしちゃう! ん……んん……」


 ――あぁーあ、おるこちゃんから生徒会室でキスされちゃったし……


「んもう! 秋ちゃん?」


「おるこちゃん? いきなり何を怒りだしてんの?」


「だって、秋ちゃんは……あたしの中に一度も舌入れてくれたことないんだもん!」


「だってさ、そんなキスとか恥ずかしいし……」


「ねぇ、秋ちゃん? ほんの一瞬でイイの」


「えぇー? でもさぁ……」


「ほんのちょっとでイイから、あたしの中に秋ちゃんの舌チョロチョロって欲しいんだもん!」


「やっぱりさぁ、恥ずかしいってばさぁ……」


「ね? ね? お願いなの、お願いなのよ。ねぇ、秋ちゃんったらぁー! 秋ちゃんってばぁー!」


「ああ、もう……おるこちゃん、分かったよ」


 一度言い出したがお仕舞い。言い出したことは頑として譲らない河鹿薫子。


 ボクは仕方なく、彼女がおねだりする恥ずかしいキスをすることにした。


 ――っていうか、せざるを得なかったってのが正解なんだけど……


 河鹿薫子は目を閉じてボクからのキスを待っている。


「おるこちゃんってさ、やっぱり美少女だよね。可愛い系と綺麗系の両方がミックスされてて、不思議な色っぽさが魅力的な和風の美少女だよ」


「え? 秋ちゃん?」


 目を閉じていた河鹿薫子、ボクからの脈絡もない言葉を聞くや、彼女は円らな瞳を真ん丸と開いてボクの顔を見た。


「美少女ってさ、目を閉じても美少女なんだね」


「は? 秋ちゃん?」


「だってさ、おるこちゃん、目を閉じても可愛いし」


「えへ、うふ、あは……秋ちゃんったら。いつもハッキリ言ってくれるから、あたし、嬉しい」


 河鹿薫子は再び目を閉じてボクからのキスを誘うように顔を近づけてきた。


 そんな愛らしい仕草をしている彼女の唇にボクの唇を触れさせると、ボクは彼女の唇をペロっと舐めてしまった。


「ん! んん……ん!」


 ――うわ……おるこちゃん、可愛いんだけど色っぽい声とか出しちゃったし……


 その可愛らしくもお色気に満ちた声から後押しされるかのように、ボクは彼女の口の中へボクの舌を這わせ入れてしまう。


 ――どわっ! おるこちゃんの口の中でおるこちゃんの舌に触れた瞬間ビリビリ電気来たぁー!


「ん……んん!? いやん! 秋ちゃん? 何なに? 何それ?」


「え? 何それって、何が?」


「だって、あたし、体中に電気みたいなの走り回ったんだもん」


「え? おるこちゃんも?」


「あら? 秋ちゃんも?」


「ボクさ、おるこちゃんの中でおるこちゃんの舌に触れたら電気ビリビリした」


「うん。あたしもビリビリしちゃった。力抜けちゃったもん……だって、あんまり気持ち良くて」


 その言葉どおりに力が入らなくなってしまった様子の河鹿薫子、ボクに彼女の体重を預けるかのようにボクへもたれ掛かりつつ寄り添っているのだった。


 ――訳ワカンナイことはがりやらかしちゃうおるこちゃん……でも、ボクはおるこちゃんに夢中……


 ボクは愛らしく寄り添ってくれている河鹿薫子の髪を撫でつつ、時間も忘れて彼女の温もりに酔いしれるばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ