第12話、おでん生徒会
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――今は放課後で、ココは生徒会室なんだけど、校長せんせが生徒会の役員全員を連れて来てるみたいな……
「さあ、浅間秋生徒会長、さっそく会長席の椅子に座ってください」
「はい、校長せんせ。ボクは会長席に座りました」
本来であれば前年度の三学期に次年度の生徒会選挙が行われる我が中学校だったりする。
「朝間生徒会長、ご覧ください。会長席にはノートパソコンがあります。会長の業務は会長専用のノートパソコンを使い執り行ってください。ちなみにですね、朝間生徒会長にしか教えていないパスワード、それを打ち込まないとですね、このパソコンは起動しない設定になっております」
――どんな理由があるんだかワカラナイんだけど、前年度の三年生達、とっくの昔に卒業しちゃててさ……
「そして、生徒会室にはもう一台のノートパソコンがあります。副会長、書記、会計、総務の役員の皆さんは、会長専用のノートパソコンではなく、こちらにありますノートパソコンを使い業務を執り行ってください」
実は、前年度に生徒会長をしていた先輩、既に高校生になっていて我が中学校には居なかったりする。
「いやはや、しかし……本来であれば、生徒会役員同士で引き継ぎをして頂かねばなのですが……」
――なんて、校長せんせは宣ってるけどさ、前年度の生徒会役員達、とっくの昔に全員卒業しちゃて居やしないし……
「いやはや、諸々の事情がありまして、生徒会役員の引き継ぎは学校長である私がすることになりました次第でして」
――その諸々の事情っていうやつなんだけどね……
なぜなのだか、頑として学校長はボクたち新生徒会役員の面々に語ろうとしない有り様だったりするから、もう、本当に厄介な話だったりする。
――あ、そうそう、忘れないうちに言っておくと……とてつもなく、スコブルをも、シコタマのこと、イキナリな話で申し訳ない話なんだけど……
わたくしこと浅間秋、実は生徒会長に無投票で当選していたりする。
――んで、おるこちゃんは副会長に、やはり、無投票で当選していたりして……
更に付け加えるなら、正規の生徒会選挙にて、生徒会の書記には江澤さんが当選し、生徒会の会計には田頭久美子ちゃんが当選し、生徒会の総務には卜部さんが当選していたりもする。
――何だかんだでさ、我がバンドおでんのメンバー全員がね、生徒会役員に全校生徒の皆さんから担ぎ上げられちゃったみたいな……
「……である訳なのですが、浅間秋生徒会長? ご理解頂けましたかな?」
ボクが勝手気ままな楽屋ばなしを展開する中、学校長は生徒会に関するウンチクを宣い続けていたのだった。
――しまった! ボク、全然校長せんせの話を聞いてなかったし!
「はい、校長先生、大丈夫です。朝間秋、キチンと全てを理解できました」
――なんて、ボクはシレぇーっと解ったフリしまくりみたいな……
「そうですか。それは良かった。では、業務について疑問や質問などがありましたなら、生徒会役員室にある内線電話機を使って私に内線電話をください。という訳で……」
――なんて、そこまで校長せんせは宣うと……
逃げる様に学校長はソソクサと生徒会室から出て行ってしまったのだった。
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「ああー、やっと俺様は校長せんせから解放されたぞ」
そう溜め息混じりに言ったのは江澤さんだった。
「知らなかったけど、意外と生徒会室って狭かったんだね」
田頭久美子ちゃんは会計の椅子に座りながら呟く様に言った。
河鹿薫子は副会長の椅子に座ったままボクの顔をのぞきこみつつ、
「うふふ、あたしは生徒会室でも秋ちゃんの隣の席で嬉しいわ」
と、嬉しさ有り余る満面の笑みをボクに見せている。
「外は五月晴れの夕方ね。でも、5月に生徒会選挙するなんて、私たちの学校、変な学校だと思わない?」
卜部さんは生徒会室の窓を開けて空を仰ぎつつ疑問文をボク達に投げ掛けていた。
「ああ、俺様のゴールデンウィーク! カムバック!」
「エザちゃんさあ、ゴールデンウィークなんてさ、もはや半月も前の話だぎゃ」
「デンちゃんが言うとおりよ。だって、もうすぐ6月だもの」
「トベちゃんの言うとおりだぎゃ。ゴールデンウィークは生徒会選挙のために右往左往して終わっちゃったけど、でも、おでんのメンバー全員が当選できたんだから悔いはないぞな、もし」
「っていうかさ、エザちゃん、デンちゃん、トベちゃん、三人は自分がしなきゃなんない業務について把握OKなの?」
「そう言う浅間君は把握OKなのかえ?」
「デンちゃん、ごめんなさい。ボクはさ、これからだよ。テヘペロ、なんて、ニヤリ……あはは……っていうか、あれ?」
笑いをとろうとボケて言い放ったボクの言葉を聞くや否や、
「あぁーあ!! あぁーあ!! ブウー!! ブウー!!」
なんて、江澤さん、田頭久美子ちゃん、卜部さんの三人は溜め息混じりに荒げた声をボクに投げて返したのだった。
「おでんのみんな! 秋ちゃん生徒会長にブーイングしてる場合じゃないって気づいてくんなきゃだわ!」
「は? 薫子? どうしてだぎゃ?」
――デンちゃんってさ、ときたま語尾が、『だぎゃ』とか『がや』とかになるけど……それ、どっかの方言なのかな?
「んもう、デンったら……だって、秋ちゃん生徒会長のマニペストはイジメ撲滅、そのタダ一つじゃないのよ」
――デンちゃんの語尾が方言なのか何なのか、今は訊ける空気じゃないから……後で訊いてみようかなぁ……
「河鹿さんさあ、マニペストじゃ病気の名前みたいだぞ。それを言うならマニュフェスタじゃなかったか?」
「エザちゃん? それじゃ、手動のフェスティバルみたいに聞こえるけど? だって、それ、マニュアルのフェスティバルみたいで……」
――どわっ!! 手動のフェスティバルって、どんなフェスティバルなんだか訳ワカンナイし!
「トベちゃんの言うとおりだぎゃ。それを言うならマニフェストだぎゃ」
――そうそう。デンちゃんが言うとおりマニフェストが正しいんだよ……
「デンちゃん……ところでさあ、マニフェストって何だ?」
「って、おい! エザちゃん! そこからかい!!」
――なんて、思わずボクは我慢できなくて……
河鹿薫子、江澤さん、田頭久美子ちゃん、卜部さんの四人の会話にクチバシを挟んでしまったのだった。
「むーん……そういう浅間君は意味解ってんのか?」
「エザちゃん、あのさ……マニフェストっていうのは、最も解り易く言うなら、この場合の和訳は選挙公約みたいなアレになるよ。でさ、マニフェストは英単語でさ、manifestoって書くんだよ」
ボクは生徒会室の片隅にあった適当な紙へ、
「manifesto」
と、綴りを書きながら江澤さんへ説明している。
――っていうか、あれ? おるこちゃんも、デンちゃんも、エザちゃんも、トベちゃんも、四人揃ってフリーズしちゃったみたいな?
「おーい? おでんのメンバーのみんな? どうしちゃったの?」
「なんてこったい!! 落ちこぼれだったはずの浅間君が賢くなってるがや!!」
「うげっ! デンちゃん! 落ちこぼれって言われるほどボクの成績は悪くなかったし!」
「悪くなかったとか言っちゃってるけどさあ、英語のテスト赤点が常連の浅間君だったはずじゃん?」
「エザちゃん、あのさ……ボクは一度たりとも赤点なんての、全ての教科で取ったことないんだけどさ」
「浅間君が優等生になったら大変だわ。だって、季節外れに雪が降りそうだもの」
「って、トベちゃん、もうすぐ6月なんだし……五月晴れ真っ盛りの時季に雪が降るなんて、ココは南極じゃないんだし!」
「いやん! 今日から生徒会室は北極だわよ! 秋ちゃんは北極の白クマだわよ!」
――あぁーあ、ボクは南極だって比喩ったのに、おるこちゃんは何でか北極って、ワザワザ意味不明に言い換えちゃってるし……
「っていうか、おるこちゃんまで酷いよ。あのさ、確かにボクは優等生なんかじゃないよ。でもさ、生徒会長になっちゃったんだし、ちょっとは勉強してオバカサンを卒業しなきゃさ、他校の生徒会ども達からバカにされんじゃんかさ」
おでん生徒会役員の四人、目をパチクリさせながらボクの話を黙って聞いている。
「ってかさ、我が校の生徒の皆さんだってさ、勉強がカラッキシできないバカ丸出しの生徒会長の言うことなんて利いちゃくれないはずだよ」
――うわぁ……おるこちゃん、デンちゃん、エザちゃん、トベちゃん、茫然自失しながらボクの話を聞いてるし! ちょっと、少し、かなり、とっても失礼な態度だし!
「恥ずかしい話さ、まだまだ応用レベルまではワカンナイことだらけなボクだけどさ……中学一年の基礎からひっくり返して復習しまくりでエレメンタリーちょこざいなレベルのボクだけどさ」
――あれ? おでんのメンバーのみんなさ、ちゃんと呼吸してる? 加えて、みんなさ、ちゃんと瞬きもしようよ……
そう、生徒会役員の四人、瞬きもしないでボクを凝視しながらボクの話を聞いていたりする。
「まあ、どんなに頑張っても得意不得意は隠せないけど……でも、せめて平均点以下は卒業しなきゃって、ボクは頑張ってるよ!」
――おーい? おでんのみんな、ちゃんと呼吸してるか?
「まだまだ優等生には程遠いボクだけどさ、地道に頑張ってるよ! だってさ、頑張んなきゃマニフェストは果たせないから……」
唐突に卜部さんが右手を高く上げて、
「浅間生徒会長? どうして朝間生徒会長は劣等生を卒業しないとマニフェストを果たせないのですか?」
と、ボクに質問を投げ掛けてきた。
「うん。それはね、イジメってやつはね、イジメられる方にも原因があるからなんだよ」
ボクの返答を聞くや、生徒会役員の四人の面々は目が点になってしまった。
「ボクがイジメられた原因、その一つには全然勉強ができないバカ丸出しだったことがアリアリなんだよ」
――だからさ、みんなさ、ちゃんと瞬きしようよ! ドライアイになっちゃうよ!
「いや、あの、だからね……あんまりにも勉強ができない劣等感からさ、ボクはヒガミ根性丸出しだったんだよ。基本的に根暗な性格のボク……劣等感からさ、その根暗さに拍車をかけていたわけ」
「その話、俺様はリアルに解るぞ。イジメられてた頃の浅間君は根暗中の根暗でさ、一種キモイ、とっても、とてつもなく残念な存在だったぞ」
「エザちゃん、ナイスコメントだよ。劣等感を抱えたならさ、一種キモイ根暗オーラを振り撒きまくりなんだよ」
「んだなや。確かにイジメられてた頃の浅間君は根暗オーラ炸裂させてたがや。根暗ちゃん炸裂だったから、行動は根暗そのものだったし……ってか、根暗炸裂ちゃんに有りがちな、もはや、何考えてんだかメチャクチャ解り辛い有り様だったがや」
「デンちゃん、手厳しいコメントだけどさ、でもね、ナイスコメントだよ」
「でも、そっか……浅間君は根暗炸裂させた劣等感振り撒きまくる行動から脱皮できたから、だから、朝間君本来のカリスマオーラ放つようになれたのね?」
「うーん……残念ながらさ、トベちゃん、ボクはボクがカリスマオーラを放ってるんだかはワカンナイ」
「は!? マジで!? 今の朝間君ってさあ、神憑り的カリスマ系オーラ炸裂させまくりなくせにさあ……ついでに、誰にも真似できない美少年女装男子美少女カリスマオーラをキラキラ炸裂させてんのにさ、浅間君は自分自身のカリスマオーラを自覚出来てないのか!?」
「うん。エザちゃん、ボクは自覚出来ていないよ」
「エザちゃん、そうなのよ。秋ちゃんったら、キラキラ美少年女装男子美少女に拍車をかける、勝利の女神様が味方してくれてる、その自覚がカラッキシないのよ」
「うーん……おるこちゃんが言う勝利の女神様、ボクにはワカンナイや」
「朝間君、嘘でしょ? 鈍感なわたしでも判る勝利の女神様の御加護が自覚出来ていない浅間君、何て勿体無いの?」
「あたしゃ霊感とかないから、薫子とかエザちゃんにトベちゃんとかが言ってる勝利の女神様の御加護とか感じることできないけど、神様とかワカンナイけど……でも、浅間君のカリスマオーラは人間離れしてるから……確かに、神様の御加護とかなかったら説明つかないカリスマオーラだぎゃ」
――うわぁ……生徒会役員の四人、訳ワカンナイ方向に話を持って行っちゃったし!
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「っていうか、おでん生徒会役員の皆さん、ボクたち『おでん生徒会』はイジメ撲滅がマニフェストなんだよ。そのイジメ撲滅なんてさ、もう、生半可な根性じゃ達成できやしないんだよ」
「秋ちゃん、ごめんなさい。あたし、秋ちゃんをイジメたこと、激鬼バリ後悔してるし、日本海溝より深く反省してるし……」
「俺様も浅間君をイジメたことさあ、土下座しても許されないなって位に猛省してるぞ」
「おるこちゃんにエザちゃん、大丈夫だよ。ボクは我が校からイジメ撲滅するボクの願いを叶えてくれたなら、ボクにイジメをやらかした全ての生徒の皆さんを許しちゃうし」
「うっしゃ!! 朝間生徒会長のためならエンヤコラだ!! 朝間生徒会長のためなら、力の限り、気力の限り、俺様はロケットスタートかましまくるぜ!!」
「エザちゃん、抜け駆けとか、いやん! あたしだってイジメ撲滅に向けてロケットスタートするもん!」
「うん、河鹿さん! わたしもロケットスタートする!」
「うんうん。トベちゃん、もちろんだがや! あたしもロケットスタートするがや!」
「エザちゃん、おるこちゃん、トベちゃん、デンちゃん、ありがとう! ボクは心強い生徒会役員四人の心意気に涙が出そうだよ!」
気がつけば、ボクたち生徒会役員五人全員は椅子から立ち上がっていた。
――んでさ、ボクたち五人は気合いに満ち満ちたガッツポーズをかまし合っているみたいな……
イジメをした者とイジメをされた者、その両方の立場の人間が居る我が生徒会。
――イジメをする側とイジメをされた側の両側面からイジメ撲滅に向けてロケットスタートできるなんて、そんなあまりあるの幸運をゲットできちゃったボク、その類い稀なるゴールデンラッキーに喜び勇んでいるなんてことは内緒ばなしだよ……
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