第1話、ぶっ飛びプロローグ
この作品の主人公は浅間秋(あさま=あき)♂。
ニックネームは「秋ちゃん」です。
んで、ヒロインは秋ちゃんに首ったけな河鹿薫子(かじか=かおるこ)♀。
ニックネームは「おるこちゃん」です。
二人は公立中学校に通う中学二年生で、同じ2年2組に在籍しています。
おるこちゃんは秋ちゃんにブっ飛びラブラブ♪
いつの間にか秋ちゃんもおるこちゃんにラブラブ夢中♪
そんな二人の恋模様を見守ってあげてくださったなら、とても、とても幸いです♪
★
「お願い、浅間君! お願いします!」
――なんて、唐突にボクの背後から誰かが話し掛けてきたがため……
「え? っていうか、はい?」
ボクは反射的に声がした方にクルリと全身の向きを変えた。
――うげ!! うわぁ……面倒くさくてヤヤコシイ女子に捕まっちゃったし……
「お願い、浅間君! お願いします! お願いだから、お願いします!」
――いや、あの、『お願い、お願い』って、その内容をサッサと言ってくんなきゃさ……
「浅間君、どぉーしてもお願いします!」
――だからさ、サッサと言ってくんないとさ、何のお願いなんだかサッパリ分かんないし……
「あたしの好きな人になってください!」
――ああ、もう、やっと言ってくれたよ……
「っていうか……はい? あんですと?」
ボクの真正面にはポニーテールの髪型をしている女子がポツンと一人で立っている。
――ボク、この人、トンでもなく、シコタマのこと、スコブルも、メチャクチャ苦手なのに……
そのポニーテール女子は、ボクのパーソナルスペースにズカズカと入り込む勢いで間合いを詰めつつ、何だか必死な様相でボクに話し掛けているのだった。
「お願い、浅間君! お願いします! お願いだから、お願いします! あたしのこと好きって言ってください!」
「もしもし? っていうか、カラッキシ意味ワカンナイんですけど?」
★
――ちなみに、ココは千葉県にありがちな、極々普通の、シコタマのこと、スコブルも平凡な公立中学校で……
「あたし、浅間君のことが……浅間君のことを……」
――今ボクが居るのは、いかにも公立中学校の建物らしく、とてもありふれた……
「あたし、あたし、あたし……お宅のこと好きみたい……」
――とてつもなく味も素っ気もない、ノッペリと打ちっぱなしな鉄筋コンクリートの校舎の中だったりしたりして……
「あ゛? あんですと?」
――あ、そうそう……ボクのフルネームは浅間秋っていうんだけど……
「ねぇ、ねぇ、浅間君? あたしのこと好き?」
「えっと……え゛?」
――ちなみに、ボクの名前を平仮名で書くと、あさま=あき……
「いやん、好きにしてイイのよ。好きにしてくれなきゃダメなのよ。むしろ、浅間君の好きにしてほしいの、あたしを……えへ、うふ、あはは」
「え? え? えぇー!?」
――実はボク、我が中学校の正面玄関脇にある、校内ではギャラリーなんて呼ばれている場所で作業中だったりするんだけど……
「あたし、浅間君が好きなの! 好き、好き、大好き! 大好きになっちゃったんだもん!! だから……ね?」
――いや、あの……『ね?』とか色っぽい仕草でウインクされちゃってもさ……
「すみません、リアクション不可能なんですけど」
「あたしを好きなんだから、お願い! 助けて!」
「いや、あの、だから……好きなんだからって、誰が誰を? 助けてって、誰が誰を?」
「あなたがあたしを! あたしがあなたを! もう、リムジンな態度なんてヤメてくれなきゃだわ!」
「うわ、全然意味ワカンナイし。それを言うならリムジンじゃなくて理不尽だと……」
「って、んもうー! 細かいツッコミなんてしてる場合じゃないって気づいてくれなきゃだわ!」
「いや、あの……全然細かくないし、大間違いだし」
★
――ところでさ、千葉県の下総って呼ばれる地域のベイエリア辺りにありがちなんだけど……
「文化だか何だかを育むなんて建前で、世間的な体裁の良さを見せるがための……」
「あら? 浅間君?」
「来客者が一番に目にするであろう学校の正面玄関脇に……」
「あららら? 浅間君?」
「わざわざギャラリーなんて呼ばれる小洒落た展示場を造ってしまっている……」
「あららららら? 浅間君ったら、浅間君ってば?」
「まんま東京植民地文化丸出しな我が中学校だったりするみたいなアレみたいな……」
「いやん、んもう!! 訳ワカンナイ独り言とか言ってないで!!」
「あれ? ボク、言葉に出しちゃってたみたいな?」
「んもう!! ちゃんとあたしの話を聞いてくれなきゃだわ!!」
「っていうか、ちゃんと聞いて欲しいならさ、ちゃんと解るように話してくんなきゃアレだし……」
「いやん、もう……だって好きなの! 大好きになっちゃったんだもん! だから……」
「だから、助けてって? あの……えっと? はい?」
――まあ、一種の税金の無駄使いだね、こんなギャラリーなんての……だってさ、誰も観に来やしないのが現実だし……
「えっと……河鹿さん?」
「いやだ、もう、浅間君ったら……あたしのことは薫子って呼んでくれなきゃダメだし!」
「へ? どうして?」
「だって、もう、あたしたち恋人同士になったんだし……うふ、あは、えへ」
「えぇー!? そんなの、ボク、初耳なんだけど……」
――ボクが大の苦手としている河鹿薫子……
彼女はとてつもなくキツイ性格だったりする。
「だって、あたしたち、もう恋人同士でしょ?」
「いや、あの……っていうか……ちょっと?」
そして、彼女は引っ込み思案で根暗なボクを日常的にイジメていたりもする。
「浅間君とあたし、もう恋人同士よね?」
「っていうか……なんで!?」
――目の前に居る河鹿さんから毎日イジメられてるボクにとって、もう、スコブル怖い女子の一人という存在でしかなかったりする河鹿さんなんだけど……
「浅間君? まさか、日本語がワカンナイとか?」
「はい? ボク、日本語しかワカンナイんだけど? だって、ボク、生まれつき日本人だし」
――っていうか、その質問、日本人が日本人に向かってする質問じゃない気がする……
「浅間君? 日本語だって判るなら、あたしの話、解んなきゃオカシイわよ」
「いや、あの、日本語だって判るけど……でも、だけど、判るからこそ解んないみたいな……」
★
――話がアッチコッチに飛んでしまってるけどさ、無理やりギャラリーの話に戻すと……
そのギャラリーの管理は美術部へ丸投げという、いかにも公務員仕事らしく、投げやりかつ、たらい回し的でお粗末な様相だったりするから疲れて仕方ない。
――あぁーあ、ボクは学校と呼ばれる城に雇われた地方公務員から丸投げされた請負作業みたいなことをやらされてる、しがない下請け美術部部長みたいな……
「ねえ、朝間君ったら、朝間君! 日本語が話せるんだったら解ってくれなきゃだわよ! もう、お願いだから!」
――しかしさ、こんな作業、生徒会にやらせりゃイイのにさ……
「いや、あの……河鹿さん、ちょっと無理かも……」
――だって、この管理業務、どう考えても部活動なんかじゃないし……百歩譲ってもさ、生徒会とか委員会とかがすべき管理業務だし……
「っていうかさ、河鹿さん……かなぁーり無理かも」
――そんなこんなで、押し付けられたツマンナイ作業を、美術部の部長であるボクが、放課後に独り寂しく、セッセとタダ働きの無駄骨奉仕してたんだけど……
「ねぇーねぇー、浅間くん? 日本語ペラペラな日本人なのに……んもう、どうして解ってくれないの?」
――そんなこんなの作業中のボクに向かってさ……
クラスメイトの河鹿薫子が『意味不明な告白』を投げつけてきてくれているのだった。
「だからさ、河鹿さんが喋ってる言語は日本語だって判断できるんだけど……あのさ、河鹿さんが言いたい意味がカラッキシ解せないんだってばさ」
「いやん……もう、浅間君ってば……いやん!!」
――いや、あの……お色気タップリにクネクネしながら『いやん!!』とか言われてもさ、ワカンナイもんはワカンナイし……
「とにもかくにもさ、全然、全く、少しも、ちっとも……」
――ニッチもサッチも、さっぱり訳が解らない告白を投げつけている河鹿さんみたいな……っていうか、あ、そうそう……
意味不明な告白をやらかしてくれている彼女のフルネームは河鹿薫子という。
――ちなみに、平仮名で書くと、かじか=かおるこ……
「好きなの、大好きなの! お願い助けて! あたしの麗しき秋ちゃん女神様!」
「いや、だから、あの……『好きだから助けて』とか、カラッキシ意味ワカンナイし」
――うーん、『好きだから助けて』ってさ、好きなのと助けてほしいのってさ、全くの別物だとボクは思うんだけど……
「っていうか、女神様とか言われても……これでもボク、一応、男子だし」
――ナヨナヨしてて弱っちぃーのは自覚してるけどさ……確かに軟弱ヤサオだけど、こんなんでも、とりあえずボクの性別は男だし……
「んもう! あたし、何度だって言うわ! 麗しき浅間女神様が願いを聞き入れくれるまで、あたし、諦めないもん!」
「うわ……だからさ、繰り返し何度も言われてもさ、同じことをグルグルとループしてたんじゃ、もう、永遠に意味ワカンナイまんまだし」
「あたしは浅間君が好きなの! 好き、好き、大好きなの! だから、あたしを助けて、お願い、あたしの女神様!」
――あぁーあ……なんて、何度も言われてもさ、昨日まで河鹿薫子はクラスメイトたちとボクにイジメをしてたんだよ……だから、河鹿薫子はボクにとって恐怖の存在そのものだし……
「っていうか、すみません、河鹿さん? ボクの話、ちゃんと聞き耳をもって聞いてくれてる?」
「いやん! ちゃんと聞いてるから、あたし、ちゃんと返事できてるんだって、朝間君は分かってくんなきゃだわ!」
――あぁーもう……勘弁してほしいよ……とっととギャラリーでやんなきゃなんない作業を終わらして家に帰りたいのにさ……
何だかんだで、彼女が言っている言葉に爪の先1ミクロンたりとも現実味を得られないボク。
――いや、ミクロレベルどころか、電子顕微鏡みたいなアレでしか見えない位のナノレベルでも解せやしないボクだったりするみたいな……
「あ、まさか……もしかしてさ、これは新手のイジメなんじゃ?」
――ボクはさ、そんな風に、斜に構えて河鹿さんを見るしか……
そう、懐疑的な眼差しを携えながら河鹿薫子を見るしかないという現実がアリアリなボクだったりする。
――いやはや、クラスメイト達とドッキリみたいなアレとかかまそうとしてるのかもしれないし……ドッキリかまして笑い者にされちゃうイジメ系みたいなアレかもだし……
「あたしの女神様、明日中に返事して!」
「えぇー!? そんな……急に……」
――っていうか、女の子からの告白、そんなに返事を急ぐもんなの?
★
ちなみに、ボクは告白をされるということ自体が生まれて初めての体験だったりする。
――そんなんだから、女子から告白されるってこと自体が良くワカンナイっていう有り様なんだけど……
「浅間君、お願い! 明日のいつでもイイから……あたしの麗しき女神様、お願いします!」
――でも、そんなボクでも河鹿さんがしてる告白は普通じゃない気がする……
「っていうか、どうして明日中なの?」
その質問に河鹿薫子は困惑に満ちた表情になったのだった。
――いやはや、しかし、何でなんだかワカンナイんだけど……
また直ぐに彼女は必死の形相になり、またまた彼女は訳の解らない告白をし始めてくれてしまう。
「んもう……そんなことは気にしないで、あたしの女神様」
「あのさ、気にしないでって、そんなの無理だし」
――っていうか、女神様って、だからさ、ボクは男子なんだってばさ……
「いやん、無理でもお願いだから、あたしの女神様!」
――無理でもお願いって、そんな無茶苦茶な……
「ってかさ、何が何だかワカンナイまんま、好きとか嫌いとか、そういう返事とかしちゃってイイもんなの?」
「お願いよ、お願いね。明日の放課後までにあたしを好きって言ってね」
「いや、だから……ああ、もう!!」
いよいよ業を煮やしたボク、思わず叫ぶように声を荒げ始めてしまっている。
「だからさ!! 河鹿さん、ボクの話、ちゃんと聞いてるの!? ボクをからかってるだけならさ、あんたの話、もう一切無視させてもらうよ!!」
「いやん、ごめんなさい。そんなに怒らないで……うん、分かったわ。ちゃんと説明するもん」
「うん、ぜひヨロシクお願いします」
「あのね、浅間君があたしを女にして欲しいの。あたしね、浅間君から女にされたくてたまらなくなっちゃったの……うふ、えへ、あはは……いやん!!」
「だぁー!! 余計に意味が行方不明になっちゃったし!!」
「だから、あたしを浅間君が女にしてくれなきゃなのよ。だって、浅間君から好きにされたくてたまらなくなっちゃったんだもん、あたし……いやん、うふふ」
「だから、あの……っていうか、はいぃー!?」
「浅間君、大丈夫よ。あたしね、明日の放課後までなら待てるから、だからね、大丈夫なのよ」
――うわぁ……何が大丈夫なんだかワカンナイし……
「ってかさ、どうして? どうしてさ、そんなに返事とか急がなきゃなんないの?」
「約束ね? 約束よ! 明日の放課後までに好きって言ってね。締め切りは明日の放課後までだし」
「シメキリって!! 告白の返事に納期とか在り得ないし!! っていうか、ボクの話、ちゃんとさ、ホントの本当に聞いてくれてる?」
「じゃ、浅間君、うふふ……男の仮面をかぶった女神様……あたしの女神様……また明日ね」
「え? あの……ちょっと! 河鹿さん、待って!!」
「明日、あたしを好きって言ってね。じゃ、バイバイ」
「うわっ! 河鹿さん、ちょっと待ってってば! 話をシッチャカメッチャカにしたまんま勝手に帰んないでってば!!」
――って、あぁーあ……行っちゃったし! とっとと帰っちゃったし!
そう、ボクが呼びとめる声なんてウッチャラかし、河鹿薫子は昇降口の方へ走り去ってしまったのだった。
★