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死罪基準審議官

作者: とりのささみ

この話はノリで書かれた物ですのでノリで読んでください。

ある国にこんな法律がある

”ファビエントを殺害した者を死罪とする”

物騒な一文ではあるが何もこの法律だけが例外という訳ではなく、あらゆる罪がこの国では死罪となる。

罪を犯せば必ず死罪になる、彼はそんな国の中で平凡に暮らしているファビエントの1人である

正確には1羽であるが、黄色い丸いフォルムにオレンジの丸い口。

彼は通常のそれの数倍の巨体を持つひよこの様な生き物だった。

ファビエントというのは突然変異で生まれた人語を用いる動物達の事である。

様々な喋る動物がこの国にはおり、それらはファビエントと名付けられて手厚く保護されていた。

彼はそんな国の南端にある村の老婆の家で暮らしている。

今は日課の木の実を集めた帰り道で、彼の短い羽にはたくさんの木の実が詰まったカゴが乗っている

「今日はたくさん採れたなぁ、おばあさんもきっとよろこぶぞ」と彼は言いながら

木の実を落とさないように慎重に歩いている


いつもの日常のはずだった。

いつもの帰り道

いつもの家で

今日も優しい老婆が待っているはずだった。


そのはずだったのだ。


「先生…先生……起きてください」という声が彼の頭に響く

彼の目の前には助手のハルが不安そうに彼の顔をのぞく

そこはまるで鉄格子のない刑務所のような一室である。鉄の塊を真四角にくりぬいてドアを付けただけの様な

無機質な部屋の中央にはやはり鋼鉄で出来た無機質な机が配置されており、その一角で彼とハルは会話を始める

「そうか寝てしまっていたのか」先生と呼ばれた彼の風貌は異様で

大きな筒の様な体にちょこんと赤い鶏冠が乗っている、彼は鶏のファビエントだった。

「最近立て続けに事件が起きていましたし、お疲れの所大変恐縮ですが、次の案件です」

助手のハルは短髪で女性にも男性にも見える風貌で、上下黒い制服を着用している。

「そうか、では準備を頼むよハル君」と鶏が答えると

「わかりました、では失礼いたします」とハルもそれに応え

鶏の頭にヘッドギアの様な装置を被せる。

「では、私が部屋を出た後に、犯罪者がやってきますので」

「あぁ、わかった」

というやりとりを最後にハルは鋼鉄の真四角から出て行く。


どれくらいの時間が経ったろう

数秒、数分、取り残され視界を封じられた鶏の耳に足音が聞こえてくる。

見えない相手に「やぁ初めまして」と鶏が声をかけるが返事はない

「まぁリラックスして向かいの席に座ってくれないか」と着席を促し次に説明を始める

「今かぶっているコレは君を客観的に判断しないように視覚情報を遮る為の器具だ

あぁ自己紹介が遅れたね、僕は死罪基準審議官だ、この国では罪を犯すとまず死罪になる

その死罪が適当であるのか否かを僕が判断する事になっている。少々辛いとは思うが

君の罪を問う為にしばしお時間を頂きたいと思う。まぁ、これは前置きなので

そんなに緊張しないでほしい、君の人権は保障する」

ここまで一息で言うと鶏はヘッドギアの横にあるスイッチの様な物を押す。

すると機械音を上げて彼の頭部が動きはじめる

「さぁ始めよう、君の事件を」


彼の目の前には事件の現場が広がっている

目の前の死刑囚にも同じヘッドディスプレイがセットされており

二人の視界には同じ風景が映っている。

「なるほど事件現場はここか日付は7年前、のどかな村だ」

そこは国の南端に位置するのどかな村だった

風土としては決して豊かとは言えないが石造りの家々が点々と並び

人々が幸せに暮らしているであろう風景が方々に見て取れる

「確かこの付近でファビエントの連続失踪事件が発生した事があったが

そんな事件とは無縁ののどかさだなぁ」二人の視点はゆったりとした歩調で現場に自動で向かっている

道中に人々は一切いない、これは供述と事実が一致したものを立体視で見せる装置だからだ

やがて視点の流動が止まり目の前には一件の民家がある

「なるほどここか、では入ってみよう」

鶏の言葉を合図にドアが自動で開くとそこに広がる光景は凄惨な物だった

「なるほどこりゃ酷い、これを君が?」相変わらず死刑囚の返事はない

のどかな村の風景に溶け込んだ一軒家のドアを開けると

まず飛び込んできたのは鉄さびのような匂い、そこから鮮烈に映る床や壁のペンキで塗ったような朱の色

血だまりの中に格好からして老婆らしい遺体が転がっている

遺体にはタグの様な物が付いていて

「エト・シーケンス 82歳」という表記がある。

「なるほど身元も分かっている、これは……何度も殴られた跡か、ひどいもんだ」

そのまま遺体の周りを鶏は様々な角度から調べている。

大体調べ終わったのか、鶏が隣の部屋に行こうとした時、急に画面がブラックアウトした

まるでその空間だけ隔離されたようにただ真っ黒な空間が漠然と存在している。

「なるほど」と一言呟き鶏は一息置いてから続けて

「この部屋に何かがあった、だけど君は証言を拒んだんだね、ここに君の守りたい何かがある訳か」と言った。


それからも探索が続き一方的な問答は続くが死刑囚は黙ったままである。

それでも鶏は続ける

「実は推理という物があまり得意ではない、しかしこの被害者のエトさん、随分派手に殴られたものだ」

と言いながら遺体の顔に目を向ける、それはもう文字通り何度も殴打したような跡が見て取れる

顔の形がはっきりと残っていない、それだけの回数殴打されたのだ。

「このような状態である場合の犯人の心理は大よそ2つに分かれる、一つは怨恨。強い恨みを持った場合

あるいはもう一つ、何かを隠す為に傷を付けたかのどちらかだ」

一方的な不得意な推理は続く

「家の外観からして間取りは2部屋、こちらは生活空間だとするとこちらは調理場になるわけだが」

鶏の視線には黒い塊で隔離されたような隣の部屋に移っている。

「さて、何故調理場の事を黙秘しているんだろう、もう少し言い方を変えると

一体君は隣の部屋で何を見たというのだろう」

まくしたてるように喋った鶏は一呼吸置いて仮想空間では見えない対話相手に

「あるいは君自身がここから逃げた、というのはどうだろう?」と疑問を投げかける。


二人の視界は仮想現実の犯行現場から薄暗い中に緑の光点がぼんやりと浮かぶヘッドセットの画面に切り替わる

尚も鶏は不得意な推理を続ける

「さて、本来僕には君の素性を暴くなどと言う権利も権限も持ち合わせてはいないが、今回は少し特殊なケースである

このままでは何しろ刑務の審議に差し支える、かと言って僕は必要以上に君への詮索を固く禁じられているからね。

そこで一方的に一つだけ言い当てて見せよう、そう」


「君はファビエントだろ?」その鶏の言葉を皮切りに

「どうして……」と狼狽した声が彼の耳にはっきり聞いて取れる。

「いやなに、推理は苦手だが直観は鋭いのさ」と淡々とした口調で鶏は彼の結論を述べ始める

「まず第一に部屋に入って違和感を感じたのは壁にかかった血の量だ

あの血の量は明らかにおかしい、あれは人間を殴打したら飛散する血の量ではない。しかし空間に記述がなかった以上

彼女自身の血なんだろう、それなら何故彼女の血は壁にかかったんだろう?考えられる事は犯人が何かを隠す為に

彼女の血を壁に塗る事を選択したという事だと思う。

そして第二に感じたのはあの家の調理場のブラックアウト、君は調理場に関しての事を黙秘している

だが調理場の空間はそれだけならそのまま入れるはずなんだ、あの空間は君の記憶と実際の家屋から作られた疑似空間だ。

君の証言が無いだけなら実際の調理場を再現すればいい。

この矛盾は君が調理場の事を何か隠しているのは間違いないが、調理場からは何も出てこなかったという事を示すんだよ。

何の物的証拠も出てこなかったのに頑なに君が調理場を拒む理由は僕にはこれしか思い浮かばない

君は調理場に捕えられていてそこから逃げようとした。

それに気付いたエト・シーケンスが生活空間の方の部屋で君に襲い掛かる、壁にかかったのは君の血だ」

少し短い沈黙が鋼鉄を抉ったような部屋を包む、一瞬、いや数秒だったろうか

その場にいたらもっと数分、あるいは数時間にも感じたかもしれない沈黙を破り鶏は告げる。

「被害者エト・シーケンス、彼女はこの一帯で起こったファビエント失踪事件の犯人だ。

しかもただ殺すだけじゃない、ファビエントを……食っていたんだな。」と。


それなりに突拍子もない憶測を口にした鶏は妙なヘルメットを被ったまま業務を続ける。

「さて、それで確かこの殺人事件は7年前に起きた筈だが、証拠を隠滅して何故逃亡した君が7年も経った今

死罪を覚悟して自首をしてきたのかという事にとても奇妙な関心を持ってるんだ僕は。

立体映像には特に現れていなかったがエト・シーケンスには養子のファビエントであるヒヨコがいた筈だ。

さてファビエントキラーであるエトは恐らくファビエントを殺した後、食おうとしていた。

そして彼女が育てていた雛も例外では無いんだろう。そこから容易にそのヒヨコを救おうとした事が伺える

ところでだ、壁の血痕を消したのはまだ君の血痕を隠す為に合点が行くんだが、顔を潰したのは何故なんだい?」

疑問を投げかけた所で審議官である鶏はヘッドギアを外す。

目の前にはまるで鏡があるかのようにヘッドギアを被った鶏のファビエントがいた。


審議官は静かに言葉を紡ぐ

「やはりそうか、成長の遅い雛形のファビエントが生態になるには5年から10年の歳月が必要だ。

ファビエントキラーに囚われた君が成長するまで自首は控えたという事なんだな。それで何故なんだ、何故彼女の顔を潰した?」


それまで殆ど沈黙を貫いていた死刑囚である鶏がヘッドギアを静かに脱ぎながら審議官の疑問に答える

「あいつ、笑っていたんですよ。俺を殺そうとする時、笑っていたんです、そのまま死んだんで笑ってたんです

だから潰してやろうと思ったんですよ、あの顔をね。それだけですよ」


「なるほどね、なるほど。わかった、概ね僕の話した事を認めるそういう事でいいのかい?」

鋼鉄がくりぬかれた真四角の空間に沈黙が流れる、その沈黙が肯定であるという事は雰囲気でわかった。

「と、なるとだ。君は殺されそうになった所を返り討ちにした、これって正当防衛になるし

最初からちゃんと話しておけば

なんならファビエント連続失踪事件の功労者にだってなれるのになんだってこんな面倒な事をしたんだい?」


死刑囚はゆっくりと話始める

「それを証明できるだけの証拠が無かった、あのイカれた婆さんは死んじまったしね。」


「そこは信用してくれよ国家をさ、まぁいいよ。君は必ず無実にしてみせるさ、何せ借りもあるしね」

「借り?」

「いや、なにこっちの話さ。まぁ君は死刑にはならない、まぁちょっと事件の事を聞くんで

若干の拘束はあるかもしれないがね」と言いながら審議官は死刑囚に笑って見せた。


それから簡単な業務的なやりとりをしてこれから元死刑囚になる彼が部屋を去る時に審議官は神妙な面持ちで声をかける

「なぁ、君は確かに人を殺してしまった。それが正しいだなんて僕には言えないけどさ」

それから軽いトーンで

「まぁ、なんとかなるって、出来るだけここには戻らないでくれよ」と笑って見せた。


程なくして

助手であるハルが戻ってきて審議官に語りかける

「お疲れ様でした。見事な手腕でしたハリル・シーケンス先生」

「全く嫌な案件を持ってくる、もし感情的になったら育ての親の仇として彼を死罪にするところだったよ

本当に酷い国だな、やり方といい憲法といい。」

「そう言わないでください、先生、その為の審議官なのですから、しかしひとつ気になるのですが

彼に借りがあると先生はおっしゃっていましたが、あれはどういう事ですか?」

「知っていたんだ彼はエト婆さんに養子がいた事を。

彼が壁にエト婆さんの血を塗ったのも、最後に笑っていたという顔を潰したのも、

その養子に彼女がファビエントキラーだと思わせないようにする為の偽装だ。

彼が自首をする為の7年だって、その雛鳥が大人になるまで事件が明るみに出るのを待った為だ

雛鳥、つまり僕のね」

「先生は本当に頭が回りますね」

「良く言うよ、どうせ全部理解してる上で審議を聞いてるくせに」

「それで先生、非常に恐縮なのですが次の案件です」

「そうか、では準備を頼むよハル君」と鶏が答えると

「わかりました、では失礼いたします」とハルもそれに応え

鶏の頭にヘッドギアの様な装置を被せる。


どれくらいの時間が経ったろう

数秒、数分、取り残され視界を封じられた鶏の耳に足音が聞こえてくる。

見えない相手に「やぁ初めまして」と鶏が声をかける。

「まぁリラックスして向かいの席に座ってくれないか」と着席を促し次に説明を始める

「今かぶっているコレは君を客観的に判断しないように視覚情報を遮る為の器具だ

あぁ自己紹介が遅れたね、僕は死罪基準審議官だ、この国では罪を犯すとまず死罪になる

その死罪が適当であるのか否かを僕が判断する事になっている。少々辛いとは思うが

君の罪を問う為にしばしお時間を頂きたいと思う。まぁ、これは前置きなので

そんなに緊張しないでほしい、君の人権は保障する」

ここまで一息で言うと鶏はヘッドギアの横にあるスイッチの様な物を押す。

すると機械音を上げて彼の頭部が動きはじめる

「さぁ始めよう、君の事件を」


ある国にこんな法律がある

”ファビエントを殺害した者を死罪とする”

物騒な一文ではあるが何もこの法律だけが例外という訳ではなく、あらゆる罪がこの国では死罪となる。

罪を犯せば必ず死罪になる、彼はそんな国の中でそんな罪と戦うファビエントの1人である。

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