テキーラ・サンライズ
一杯のカクテルの向こうに物語がある
今回は「テキーラサンライズ」です。
それでは、どうぞ!
昔々、メキシコに貧しい男の子がお母さんと2人で暮らしておりました。
家は町外れの高い高い崖のすぐ側に建っていて、
毎日太陽が部屋を真っ赤に染めていました。
あるとき、男の子が町へ出ると、いじめっ子たちが口々に言いました。
「やーい やーい 貧乏人! 金が無いから何にも出来ぬ! 」
男の子は何も言い返せず、涙をポロポロこぼしながらお母さんのところへ帰ってきました。
「いいかい? 」
お母さんは息子を椅子に座らせると、言いました。
「どんなに金を積んでも手に入らないものだってあるんだよ。
たとえば、ホラ。」
お母さんは日の光に水差しをかざしました。
水は太陽の恵みを受け、燃えるような赤やオレンジのグラデーションに染まっています。
「私たちはこの家に住んでるおかげで、毎日太陽が飲める。
太陽の水を飲んでるから、毎日元気でいられるんだよ。
いいかい? コツは金でどうにかするんじゃない。
生きる楽しさを見つける目を研ぎ澄ますことさ。」
男の子は目を丸くして、それからとてつもなく嬉しくなって
水差しを持ったまんま家を飛び出していきました。
「やーい やーい 貧乏人! 金が無いから何にも出来ぬ! 」
町の子供がまた男の子をからかいました。
ところが男の子は胸を張ってこう言いました。
「お金がなんだい。そんなもん無くても僕は太陽が飲めるんだ。」
男の子は一番高くなった太陽に水差しをかざしました。
まるで炎を溶かしたように、水は赤く、ガラスの向こうで美しく揺れています。
それはキラキラと輝いて、町をまぶしく照らしていきました。
いじめっ子たちはしいんとして、まるで神様を目の当たりにしたみたいに
いつまでもぽかんと突っ立っていました。
やがて男の子は大きくなりましたが、
今でもお母さんと一緒にあの崖の側の家に住んでいます。
太陽の水で心を潤しながら、
夜の闇に太陽を灯すべく、今日もシェイカーを振っているのです。
如何でしたでしょうか?
今回は「大人の童話」を目指して書いてみました。
貴方の楽しい気持ちが、この一杯の向こうに見えますように…