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俺は史上最高のダンジョンクラフターになる!

作者: 夢・風魔

 俺の名は……今はまだ無名のダンジョンクラフターだ。3分前からな。


 某スコップで穴掘って家建てたり洞窟探検したり裏世界に行って溶岩わっさわっさだったりするクラフトゲームが大好きだ。そんな俺がVRMMO『Eternal Life』にログインしたのは、史上最高のダンジョンクラフターに成る為だ!明日の今頃にはな!

 

 このゲームはモンスターと戦わないと経験値(EXP)が得られないからレベルを上げるには戦闘をするしかないのだが、なんと、実は、レベル1のままでもゲームを楽しめるという!

 例えば、作物を育てて農民プレイをしてみたり、素材を採取してそこからアイテムを製造したり、アイテムそのものを売り買いする店を構えるのも有だ。


 まぁ、要するに、俺はスコップで穴を掘ってダンジョンを製作するダンジョンクラフタープレイをするってことだな。


 俺はチュートリアルっていうヤツで手に入れた装備をNPCに売却し、そのお金でスコップを買った。価格は銅貨50枚。売却した装備も銅貨50枚にしかならなかったので、残念ながら手持ちの残金はゼロだ。

 問題ない。スコップさへあれば生きていける。



【ダンジョンその1】

 俺は手ごろな場所を見つけると、早速スコップを構えて穴を掘り出した。

 ――ザク――


 お?――ザクザク――


 なんかいいぞ!


 ひと堀すると、スコップですくった土の量に対して有り得ないほどの範囲が掘れた。

 スコップですくった土は、適当に放り投げると、突然消えてなくなった。

 データの藻屑になったんだろうな。うん。


 どんどん掘っていくぜ!――ザクザクザクザク――

 けどなんか狭いし、少し横にも広げるか。――ザックザック――

 よし、これで4メートル×4メートル幅ぐらいになったな。さぁ、続けて掘っていくぜ!

 ――ザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザックザックザクザクザクザクザックザック――


 ――ザクザクザクザクザックザックザクザクザクザクザックザック――


 ――ザクザクザクザクザックザックザクザクザクザクザック、ガツン!――


 お? な、なんだ? なんか硬い物に当たったぞ?

 !? こ、これは!? 宝箱だとぉぉぉぉぉぉぉ!?

 俺のスコップは頑丈そうな木箱を捕らえていた。大きさは海外に行く時に持つような旅行カバンぐらいだろうか?重さは……うん、持てないほどではないな。

 よし、ひとまず休憩がてら、これを上に持っていって中身を確かめるか――あれ?

 随分と太陽の光が遠くにあるな……うん。直下に掘り進め過ぎた。

 …………そう。出られないのだ。


 ロープも用意してないし階段もない。深さは余裕で50メートルはあるな。流石だぜ俺!

 あ、そうか! スコップで階段状に掘るっていうか上に向かって作ればいいんじゃね!?

 俺ってやっぱ頭いいよな!


 さて、そうと決まれば掘っていくか。――ザクザク――

 ん? ――ザクザクザク――

 んん? ――ザクザクザクザク――

 どうしてだ! どうして真っ直ぐにしか掘れないんだ!!

 誰か教えてくれ! いやむしろ助けてくれ! 誰かー! たちけてぇー!


「ん? 今誰かの声がしなかったか?」


 そうそう、俺だよ俺!


「俺俺詐欺か? ってかなんだこの穴。っあ!」


 詐欺じゃねーよ! 助けてくれよ! じゃなくって助けてください!


「大丈夫かー? 今ロープ下ろすからなー」


 ヒャッハー! 助かったぜー!


「災難だったなー、こんな穴に落ちて。え? この穴はお前が掘ったの?」

「ダンジョンクラフター? 穴が真っ直ぐにしか掘れなかった? ははーん、初心者だな」

「スコップは真っ直ぐと斜めと階段用の三種類があるんだぜ」


 そうだったのか! 教えてくれてありがとう! ところでこの箱なんだが……


「おおおぉぉ! すっげ! それ収集屋に持っていけば金貨200で売れるぞ!」


 な、なんだって!? そうか……金貨200枚……スコップ何本買えるかな……しかし、助けて貰ったのに何のお礼も出来ないとなると、史上最高のダンジョンクラフターとしての名が泣くぜ。

 いや、まだ無名だけど。

 よし、よかったらこの箱金貨100枚で買ってくれないか?


「え? そんな事したら金貨100枚分も損するぞ?」


 いいんだ。お金なんて俺には必要ないからな。あ、訂正。スコップ代ぐらいは必要です。


「うーん、それじゃーお言葉に甘えて。代わりにこのスコップやるよ。使わないし」


 おぉぉ!? なんだこの美しいスコップは!


「銀のスコップ+さ。銀貨10枚はするレア物だ。耐久度が通常の10倍あるんだぜ」


 す、すげえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 ん? 耐久度……

 この世界でもクラフトゲーム同様に耐久度があったのか……


「ま、頑張れよ!」


 そっちもな!


 さて、通りすがりの冒険者に助けて貰った、じゃなくって助けられてやったわけだが、まとまった金も出来たし、彼らが教えてくれた、教わってやったスコップを買いに行くか。



 掘り方の違い以外にも、スコップの素材によってもいくつかの種類があった。

 俺が始めに買った銅貨50枚のやつは「銅のスコップ」で耐久度は500とある。俺が使ってたやつを調べると100/500とあった。結構使ってたんだな。

 他にも「銀のスコップ」があったが、購入金額は銀貨1枚。さっきの冒険者の話と違うじゃねーか!

 っと思ったら、店で買ったものは耐久度が1200だったが、貰ったほうは12000だった! 流石レア!

 良く見たら「銀のスコップ+」プラスって付いてるな。なるほど。

 とりあえず「銀のスコップ」の真っ直ぐ用を100本。同じく銀の斜め用と銀の階段用を50本ずつ買う。

 これで金貨1枚が消えた。安いもんだな。


【ダンジョンその2】

 さて、先ほどのような初歩的なミスはもう無いんだぜ!


 行くぞ!まずは地下へ降りる為の階段作りからだ!!――ザック、ザック――

 おおおおおおお!! 何だこの感動は! すっげー! スコップ指した所が下り階段になっていくじゃねーか!

 一度に1段分。横1メートルぐらいしかねーな。また横にも掘るか。

 ――ザック、ザック――

 お、ちゃんと横も同じように下り階段になったぞ。俄然やる気が出るじゃないか! 

 ――ザック、ザック――

 いいねー、この音! ――ザック、ザック、ザック、ザック――


 どんどん掘っちゃうぞー! ――ザック、ザック、ザック、ザック――


 そういや、何階層ぐらいにするかな? やっぱ史上最高って付くからには100階は最低ラインだよな?


 ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 ふぅ、一休みしよう。これはかなり楽しいな。病み付きになりそうだぜ。

 あ、ちょっと飲み物取ってこよ――ち、地上が遠いぜ……何段あるんだよこれ?

 これじゃ唯の階段じゃねーか!? 階層作るどころじゃねーよ! 

 それとも何か? 1階ごとの天井高が100メートルぐらいってか? 

 誰だよこんなバカな階段作ったのは!?

 あ、俺か。

 うん、間々あることだよな。



【ダンジョンその3】

 気を取り直していこう。掘る前にまず階層ごとの高さを考えて、階段の段数を決めるんだ。

 たしか俺んちの階段は2階まで12段だったから……家の天井よりは高いほうがいいよな。

 じゃー単純に2倍しよう。


 ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 よし! 24段完成!

 次はB1のフロアだ。スコップを持ち替えて一気に掘りまくる!

 天井の高さが高いから、上下に別けて掘っていくかな。まずは下段だな。


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 よし、下段完了! 少し階段上って下段天井を1メートル残して残りの上段を掘るっと。


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザク、ボコッ、ピッカー!――


 ……ちょ!? 天井ぶち抜いて地上まで出ちまった!?

 あー、そうか。うん。階段24段分の天井高にするのに、24段分しか掘ってなかったんだな俺。高さばっかり考えて天井の厚みを計算してなかったぜテヘペロ。


 うん、間々あることだよな。



【ダンジョンその4】

 やりなおしっと。途中の説明は中略な。


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 今度は階段24段、天井高20段分だぜ! B1フロアはこれでよしっと。

 やっぱ広いほうが良いよな!


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 ふぅ。ここらでB2へ降りる階段も作るか。


 ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 よし。あ、そうだ! ダンジョンに入り込む冒険者を罠に嵌める為のダミー階段も作ろう!


 こっちに ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――

 そっちに ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――

 あっちに ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――

 どっちに ――ザック、ザック、ザック、ザック、ザック、ザック――


 こんなもんかな?

 よし、ちょっと休憩して飲み物でも調達してくるか――あれ? どれが本物の階段だっけか?

 ――ダッダッダ―― これじゃない! ――ダッダッダ―― それでもない!

 ――ダッダッダ―― あれも違う! ――ダッダッダ―― どれだあぁぁぁ!?


 ハァハァ……やっとB1だぜ……あ? なんだこのだだっぴろいだけの空間は? これじゃ……ダンジョンでも何でもないじゃねーかあぁぁぁぁぁ



【ダンジョンその5】

 まぁ、あれだよ。階段とか地下の深さとか考えなくてもいい場所から掘ればいいんだよ。うん。

 よし! 山に行こう!


 うん、ここは良い山だ。岩がゴロゴロしていかにも強力なモンスターが出てきそうですって雰囲気だ。

 今回は階段じゃなく斜め掘りで進むぞ!


 ――ザク、ザク、ザク、ザク――


 お、いいねー。おっと、ここで調子に乗って掘り過ぎるとダメなんだぜ。一流の俺からの助言だ。

 

 ある程度下り坂も出来たし、横に掘っていくか。――ザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク、ボコ――


 ん? 別の穴に貫通したぞ?

 おぉぉ!? 俺が掘った穴は四隅が角ばってるが、この穴は不規則な形になってるぞ! なんか人工の穴じゃなくって自然に出来てる穴っぽいじゃないか!

 いいねいいねいいねー! なんか向こうの方で動いてる壁とかあるけど、なかなか恐怖感をそそる光景じゃないか。ん? 動く壁? なんかゴツゴツしてるな。ちょっと触ってみるか。


 ――ペタペタペタ――


 鱗みたいだなこれ。よし、ちょっと掘ってみよう!


 ――ガツン――


 かった! なんだこの硬さ!? ん? おかしいな……今何かと目が合った気が……あれ? これはもしかして?


「グオオオオオオオオオオオオオ」


 ――ゴオオオオオオオオオオオオ――



 ふっ、まさかドラゴンさんの巣穴に繋がるとはな……流石だぜ俺! そして流石レベル1! ドラゴンのブレスで一撃死!

 気が付いたらスタート地点だったぜ!


 山はダメだな。

 いや、寧ろ「洞窟」にするからダメなんだ!

 そうだよそうだよ! 空に向かって伸びるダンジョンだっていいじゃねーか! 俺って冴えてるな!


【ダンジョンその6】

 空に向かってー、だから、まず上に伸びる階段作りからだな。某クラフトゲームだとブロックを置いて行くやり方だったが、これも同じみたいだ。

 で、階段アイテムはどうやって手に入れるんだ? ヘルプで調べてみるか。

 なになに?


「建設に使用する素材は、土から作ったり木材を――」


 土? 土ですか? えーっと……

 全部捨てたじゃねーか!? データの藻屑ですよ奥さん!

 くっそぉ、また掘って集めるしかねーのか。


 ってことで土も集まったし階段作りを始めるか。何? 早すぎるだろって? 俺は史上最高のダンジョンクラフターなんだぜ? 土を集める事なんて朝飯前だ!

 空行の間に何十時間も実はあるなんてことは決してないからな!


 そんな些細な事はおいといて、階段を作るぞ。


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 いいぞいいぞ、どんどん高くなっていくぞ! 階段ばっかり作ってフロア無しなんて失敗はもうしないんだぜ!

 2Fフロア作って……――ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト―― 

 よし! あとから迷路っぽく壁作るか! 次は3Fに上る階段だ。


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 順調順調! 3Fフロアに4Fへの階段に4Fフロアに階段にフロアに階段フロア階段フロア階段フロア階段フロア階段フロア! ハァハァハァハァ……これで10Fまで作ったぞ! 

 見よ!! この絶景を!!! ――!!!!!!!!!!!!!!!!

 し、しまったあああああああああああああああああああああ!!

 お、俺……高所恐怖症だったんんだああああああああああああ!!

 落ち着け俺、ゆっくりだ、ゆっくり後ろに下がるんだ。そうすれば落ちたりしないからな。絶対だ。はぁはぁ、深呼吸しよう。すぅ――はぁ――

 よし、下がるぞ。ゆっくり、一歩ずつ。そうその調子だ。いいぞ俺、ゆっくりゆっくり、安全圏まで下がるんだ。もうちょい、もうちょい下がれば怖くないぞ。

 怖くなーい、怖くなーい、怖くな――ああああああああああああああああ


 っは!?

 ここはスタート地点か!?

 なんか後ろ向きに落下した記憶があるが気のせいなのか!?

 とりあえずさっきの場所に戻るか。うん。


 ……なるほど、つまり俺は下がりすぎて反対側の縁から落ちたって事か。いやーまいったね。

 ってか階段とフロアだけでダンジョンじゃねーよこれ! 下から構造が丸見えってどうよ!?



【ダンジョンその7】

 いきなり階段から作るから悪いんだよな。うん。外壁から作っていきゃいいんだよ。ある程度の高さまで外壁作ってから中の構造考えればいいじゃないか。よし、そうしよう。

 

 おっと、材料が足りなくなっちまったぜ。

 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 さて、これぐらいで十分だな。文字数の都合上、材料を集める工程が省略されるのは仕方ないから簡便してくれな!


 では、壁ブロックを積み上げていくぞっと。 ――ゴト、ゴト、ゴト――

 なんか懐かしいなーこの作業。某クラフトゲームでもやったよなー


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 うーん、やっぱ楽しいぜー!


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 今どのくらいの高さかな? っとしまった! 

 俺は高所恐怖症だったんだああああああああああああ


 っは! またスタート地点かよ! 



【ダンジョンその8】 

 次だ次! 今度は1階単位で作っていくぞ! 1階の壁と床を作って階段作って、1階天井兼2階の床に取り掛かって、そこから2階の壁作って……安全な方法でゆっくりでいいから進めていくぞ!


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 内部の壁も大まかな部分ぐらいは先にやっておくかな。とりあえず広いフロアだから北側と南側を分断するように壁を作って……真ん中で分断しても壁が邪魔だな。真ん中通路にするか! 


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト―― よし! これでいいぞ。他のフロアも同じようにしておこう。


 ――ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト、ゴト――


 っふ、流石に地面を見下ろす必要が無ければ怖くもなんとも無いぜ! けど殺風景だし窓付けとくか?


 ――ゴトン――


 よし、良い感じだ! ふはーっはっはっは! 窓から遠くの景色見る分には怖くなんだぜ! 例えそれが20階建てのビルの窓でもなー!!

 あ? 20階建ての……ビル?

 何故俺はビルを建ててるんだ? しかもこの形は……まるでマンションかホテルじゃねーか!?

 俺は不動産王になるんじゃねーんだぞ!

 史上最高のダンジョンクラフターなんだぞ!?



 やっぱダンジョンっていうからには、地上じゃなく地下に掘るべきだよな。

 

【ダンジョンその9】

 ってことでやってきました小さな丘へ!

 山だとドラゴンさんのお家と繋がってしまうかもしれないからな! 同じ過ちは二度と繰り返さないんだぜ!

 何? 2回落ちたじゃねーかって? 間々あることだろそんなのは!?


 とりあえず掘る! 掘って掘って堀まくる!

 ――ザク、ザク、ザク、ザク―― 

 まずは斜め下に向かって掘る! 丘の斜面事態は緩やかだからな。ある程度掘って深さを確保しないとな。


 ――ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク――  


 よし、ここからは真っ直ぐ掘り進んでいくぞ。


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 流石に小さな丘なんかにドラゴンのお家は無いだろう。そこまでの広さだって無いしな。安心して全力で掘る!


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク――


 なんか土が軟らかくなって掘り易くなったな。よし、ブースト掛けるか!


 ――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクガラッ――


 お! なんだ外に出ちまったのか。ここはどこだ? 

 ちょっと出てみるかって、あ――れ――――――ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ


 っふ、俺としたことが……丘の向こう側が断崖絶壁だったとはな。知らなかったぜ。

 誰か教えてくれたっていいだろ!?

 誰も教えてくれないからまたスタート地点に戻ってきたじゃねーか!



 ふぅ……とりあえず落ち着くんだ俺。史上最高のダンジョンクラフターはこんな事ではへこたれないんだぞ。

 まずはだ、初心に戻るべきだな。うん。


【ダンジョンその10】

 やっぱ真平らな所から下に向かって掘るか。直下……はダメだから下り階段からな。


 ――ザック、ザック、ザック、ザック――


 B1を作るっと。だだっ広いフロアにならないよう、適当な幅で迷路みたいにして、時々部屋っぽい広さのも作って――

 いいじゃんいいじゃん! これだよこれ!

 これが真のダンジョンであり、俺の姿だよ!

 この調子で下の階もどんどん作るぞ!


 ――ザック、ザック、ザック、ザック――ザクザクザクザクザクザクザク――


 ――ザクザクザクザク、カツンッ――


 ん? 何かに当たったぞ? 

 おっと! これは宝箱ではあーりませんか!?

 ま、今は関係ないので仕舞っておこう。


 ――ザック、ザック、ザック、ザック――ザクザクザクザクザクザクザク――


 素晴らしい! 最高だ! これなら誰もが認める史上最高のダンジョンになるぞ!

 あ、そうだ。せっかくだし罠とかも仕掛けておこう。

 

 うーん。どうするかな? どんな罠を設置するかな? 

 俺もそろそろ疲れてきた頃だし、簡単なヤツがいいな。

 よし、これにしよう!


 どこから持ってきたかは内緒なこの巨大なざる。ついでにさっき拾った宝箱を置いてっと。どこから持ってきたか内緒な竹棒を笊にかませて……紐付けて……

 宝箱に釣られてやってきた冒険者を一網打尽にする!


 ってか俺が紐握ってなきゃダメなのか?

 ずっとここで見張ってなきゃダメなのか?

 いやいやいやいや、却下だ却下。

 ふぅー、まったく、疲れたぜ。どっかに体を預けられるような壁か棒は無いかな? 

 壁は遠いな。じゃーこの竹棒だ。

 よっこらしょっと。


 ――バタンッ!――


 ぎゃーーーーーーーーーー!?

 暗いよ狭いよ怖いよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!




 っふ……もう罠なんか作らねーからな!


 さて、次のダンジョン製作に取り掛かるか。


 俺の名は……今はまだ無名のダンジョンクラフター。かれこれ数日前からな。

 今日もスコップ片手に穴を掘りまくる日常が始まる。

 

 俺は……史上最高のダンジョンマスターとして名を轟かせる男になる!

 明日の今頃にはな!




【ダンジョンその1のその後】


「誰だか知らないが、この穴のお陰で俺太たちは命拾いしたぞ!」

「どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます!」

「まさかあんな巨大モンスターに追いかけられるとは思いもし無かったよな」

「この穴の上に掛けられた板橋を渡って逃げたら、モンスターもそのまま追いかけてきて、板橋が重さに耐えれなくて折れたお陰で、モンスターは穴の中!」

「まったく、穴様様だね!」

「ありがたやーありがたやー」



【ダンジョンその2のその後】

「最近足腰が弱くなってたんだが、この階段上り下りは良い運動になるなー」

「しかも、炎天下の中じゃなくって土の下だから涼しいし」

「そうそう。誰だかしらないが良い物作ってくれたぜー」



【ダンジョンその3のその後】

「最高のもやし畑じゃあぁぁぁぁ」



【ダンジョンその4のその後】

「これはいい隠れアジトだ」

「今日からここが我らの新しいアジトだぞ!」

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

「良い具合にダミー階段もいっぱいで、これなら簡単には見つからないっすよね!」



【ダンジョンその5のその後】

「ドラゴンでたぞー!」

「よし、行くぞみんな!!」

「おぅ!」

「それにしても、ドラゴンの巣まで直通ルート出来たから、ドラゴン退治もやりやすくなったよなー」

「んだんだ」

「誰か知らないがありがたいことだぜ」



【ダンジョンその6のその後】

「ハニー、見てご覧」

「なぁに? ダーリン」

「ここから眺める景色は最高に綺麗だよ」

「まぁ、本当だわ」

「でも、一番綺麗なのは君だよ、ハニー」

「あぁん、ダーリンったらぁ〜」



【ダンジョンその7のその後】

「早く避難するんだ!」

「でもどこに逃げるんだよ!?」

「とにかく頑丈な壁に囲まれた場所を見つけて……あそこだ!」

「なんだこの建物は!? 天井が無いじゃねーか!」

「今は天井なんて必要ない! 頑丈な壁さへあればいいんだ!」

「助かったわ。流れる溶岩イベントなんて突然なんですもの」

「この壁のお陰で溶岩イベントをやり過ごせるな」

「誰が作ったかしらないが、マジ助かったぜ」



【ダンジョンその8のその後】

「ハニー、ここが今日から僕たちの新しいお家だよ」

「まぁ、ダーリン。素敵な新居だわ」

「っけ、お隣は新婚カップルかよ!」

「しかし、持ち主不明になってるからワンルームが無料て借りられるとは」

「これが現実世界にもあったらなー」

「ハニー、愛してるよ」

「私もよダーリン」

「俺やっぱ別の階の部屋にするわ……」



【ダンジョンその9のその後】

「この穴はいいな。よし、ここに屋敷を建ててこの穴を緊急脱出用にしよう!」



【ダンジョンその10のその後】

「なーんにも無いダンジョンだな?」

「誰かが作ったって感じね」

「モンスターもいねーし、そろそろ引き上げるか?」

「ちょっと待って! なんか怪しい笊があるよ!」

「なんで笊が? まぁいいか。とりあえずひっくり返してみるか――よっと」

「こ、これは!?」

「っな!? まさか伝説の――」



 無名ダンジョンクラフター。

 彼の知らない場所で、彼の知らない人々が、彼を知ることなく感謝する。

 それすらも彼は知らないまま、今日もひとりでせっせと穴を掘り続けている。

 いつか史上最高のダンジョンクラフターと呼ばれる日を夢見て……

 彼にとってそれは明日の今頃らしい。


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