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Study after School  作者: お伽話し
5年生編
8/18

八時間目

 バレンタイン前日。

 クラスメートたちは男子も女子もそわそわしている。


(みんなばかみたい)


 そんなふうに思ってしまうのは、やはり――、

 真琴は授業中、ささくれ立った気持ちにさせる犯人をこっそり盗み見た。

 視線の先には眼鏡をかけた親友、美咲がノートにペンを走らせている。

 こちらの視線に気付いたのか、ペンを動かす手を止め、美咲が真琴のほうを見た。


(やばっ)


 慌てて教科書で顔を隠す。


(……なにやってんだろあたし)


 佳奈子の件でケンカして、いまだに仲直りできていない。

 いつもはすぐに美咲から謝ってきてくれるのに。

 たしかに強引に電話を切っちゃったのは悪かったと思う。

 でも、と真琴は唇を噛む。


(それだって結局、美咲のせいよ)


 夕吾のことは嫌いではない。けれど、百歩譲ったとしても「仲のいい友達」だ。手作りのチョコをあげるとか、そういった関係ではないのだ。

 それなのに、美咲はことあるごとに自分と夕吾をくっつけようとする。善意なのかもしれないけど、いい迷惑なのだ。

 ハッキリとした好意を彼に抱く佳奈子を応援して、どこがいけないというのだ。

 だから、美咲のほうから謝ってくるまで絶対許してやるもんか、と真琴は思った。



***



 放課後。

 ひとりで帰宅した真琴は宿題を済ませ、夕食を済ませ、お風呂を済ませた。

 自室に戻ってカーテンを開けると、もう外は真っ暗だった。


(あーあ。明日ほんとに休んじゃおうかな)


 どうせ行ってもつまんないし。

 真琴は思う。このまま美咲と一生仲直りできなかったらどうしよう。

 同じことを、もう百回以上思った。

 学校が楽しくないのだ。美咲と話せないだけで。

 イライラしてしまい、そのせいで恭子やユキも怖がって話しかけてきてくれないのだ。薄情者め。

 もうこうなったら奥の手だ。

 風邪だと偽り学校を休めば、美咲が心配して見舞いにきてくれるかもしれない。

 そこで仲直りできるかもしれない。

 うん、そうだ、きっとそう。

 本当に風邪を引ければ儲けものだし、今夜は夜更かししてしまおう。


(なにかヒマつぶしないかな)


 ベッドに横になり、ウサギのぬいぐるみを抱きながら適当に携帯をいじる。

 さっそくヒマつぶしを発見した。


(あのバカ、こんなに書いてたんだ)


 夕吾の登録しているオンライン小説サイト「小説家になろ?」に飛び、彼のページを開く。

 真琴が読んだ時より20話くらい進んでいた。


(これなら相当時間つぶせそうね)


 真琴は「小説を読む?」ボタンを押した。



***



 深夜。

 さすがに目が疲れてきた。

 毛布をかけないままでいたのでちょっと寒気もする。計画は順調だ。


(やっと読み終わった……)


 そろそろ寝ようかなと思い、ページを閉じたその時だ。

 「お気に入り」の小説が更新されましたというお知らせメールが届いた。別に他意はない。夕吾の小説はヒマつぶしになるのでお気に入り登録しただけだ。

 まあせっかくだから読んでやろうと再びサイトに飛び、ページを開く。

 最新話のサブタイトルは『愛とマコトのらぶらぶ☆バレンタイン』だった。

 真琴の頬がひくついた。





『愛とマコトのらぶらぶ☆バレンタイン』



 いつもは溢れんばかりの元気で周囲を絶望の渦に突き落とすマコト番長がしょんぼりしていた。

 ユーゴは優しいのでほがらかにマコト番長に挨拶した。


「オッハー!おいおい、どうしたんだよマコト。朝っぱらから元気ないぞ?明るくいこうぜっ」


 グーパンが飛んできた。

 ラウンド開始5秒でマットに沈んだ彼にマコト番長は言った。


「……誰のせいだと思ってんのよ、バカ」


 なぜかそこだけ女言葉だった。

 ワケを聞くと、どうやらマコト番長はミサキとケンカ中らしい。

 いつもはミサキから謝ってきれくれるのに、今回はどういうわけか謝ってきてくれないそうだ。

 ユーゴは激怒した。


「ばかやろう!マコトから謝れよ!」

「やかましい!プライドの高い俺様がそんな情けないマネできるか!」

「そうやっていつもミサキに甘えてんのか!プライドで腹はふくれないぞマコト!そんなに甘いのが好きなら家庭科実習でカスタードプリンでも食ってろ!ユーゴ様が真心込めて作ってやる!」


 死闘を繰り広げ、放課後になったので「また明日」といってふたりは別れた。

 マコト番長はカランコロンと下駄を鳴らして夕暮れに染まる土手を歩いていた。


(ミサキ、すまん。俺様はプライドが高くて不器用だから、口にだして「ごめん」と言えないのだ。本当は俺様が悪いとわかっている。いや、毎回俺様が悪いのだ。なのにミサキ、おまえはそんな俺様を責めたりせず、自分から謝ってくれていたのにな)


 「番」と書かれた帽子を目深にかぶり、情けないことになっている顔を晒さないようにして歩く。

 そんなマコト番長をやさしく包み込むような人影が、前方に佇んでいた。


「ム、刺客か!」

「はずれ」


 その声は――ミサキ!


「まったく、マコっちゃんは私がいないとだめなんだから。はい、ハンカチ」

「よ、余計なマネを……ビー」


 鼻をかみ、こっそり涙も拭いた。

 土手道をふたりでゆっくり歩く。

 ややあってから、ミサキが口を開いた。


「ねえ、マコっちゃん、ご――」


 手でミサキの口をおさえ、マコト番長は言ったのだった。


「すまん。俺様が悪かった。これからはもうお前に謝らせたりしないぞ。覚悟しておけ」



***



 バレンタイン関係なかった。

 イラッとしたり恥ずかしくなったりしたが、胸に響いた。


(なによ。アイツ心配してくれてるんだ) 


 そうだ。バレンタインに気をとられて大事なことを見失うところだった。

 美咲は、親友なのだ。


(謝ろう。あたしからごめんなさいって。美咲、許してくれるよね?)


 肩の荷が下りたように、真琴はぐっすり眠った。

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