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Study after School  作者: お伽話し
5年生編
1/18

一時間目

 春。

 入学式。

 これから過ごす6年間の門出の日。

 朝野夕吾あさのゆうごは担任の先生から声をかけられた。


「それじゃ、間もなく入学式が始まりますからね~。となりの女の子と手をつないでね♪」

「うんっ」


 素直に返事をした夕吾少年は、となりに並ぶ女の子をみた。

 可憐だ…などとぴかぴかの1年生が思うわけもなかったが、事実花のような乙女であった。夕吾少年はもじもじしながら、


「手……つなご?」


 と、上目遣いでいった。若干女の子のほうが背が高かったためもある。大の大人がそんなふうに発言したら通報モノだが、そこは小学1年生。心得たものである。いままでこの上目遣いで何人ものお姉さんを鼻血ブーさせてきた。夕吾少年には自信があったのだ。

 予想通り、女の子はニッコリと微笑んだ。天使のような笑顔である。


(素敵な6年間になりそうだぜ)


 そんな予感を感じさせる、まさしく運命の出会いと呼んでも過言ではあるまい。夕吾少年はそっと手を差し伸べ、エスコートを申し出る。そして彼女はいったのだ。


「ヤ」


 夕吾少年の泣き声が盛大に響き渡る中、入学式は滞りなく執り行われた。

 彼女は極めて澄まし顔であった。


 

***



 それから月日は流れ。

 夕吾は5年生になっていた。

 そして、彼女もまた。


「夕吾、サッカーやりいこうぜ」

 

 放課後の教室で、友達が夕吾に声をかけてきた。


「おー。今日こそ2組のやつらをギャフンと言わせ……ッハ!」

「邪魔よバカ。んなとこに突っ立ってたら」


 通路で話していると、いつの間にか彼の背後に仁王立ちしている髪の長い、気の強そうな顔の女子の姿があった。


「真琴……お前の『バカ』は殺傷力が違うね」


 そのまましばしハブとマングースのように睨み合うが、結局夕吾のほうが先に折れて教室を出て行った。背後からくすくす女子の笑い声が聞こえたが、彼はとくに気にもとめなかった。

 

「マコっちゃん、あれじゃ朝野くんがかわいそうだよ~」

「構うこたないわよあんなヤツ」


 中村真琴なかむらまことはふん、と鼻を鳴らした。友達の椎名美咲しいなみさきはなぜかアイツの肩をもつ。べつにどうでもいいけど。


「美咲、それより早く集計済ませるわよ」

「リョーカイ」


 ここ最近、女子の間で密かにブームになっていることがある。

 クラスのカッコイイ男子のランキング投票だ。毎回トップ3は不動であったが、10位までは結構変動したりする。ランキングに入った男子には賞品が出るという、なかなか本格的なイベントだ。勿論高価なものじゃない。携帯ストラップとか、せいぜいそんな程度だ。賞品を買うためのお金は投票に参加する女子が払う決まりで、ひとり百円。集計は2ヶ月に1度。真琴たち5年1組の女子だけでなく、2組の女子とも提携を結んでいる。投票の集計とプレゼンテーターが真琴の仕事だった。ジャンケンで負けたのだ。ちなみに美咲は全く関係ないのだが、真琴に道連れにされたのだった。


「む…」


 集計結果を紙に記していく真琴の手がぴたりと止まった。美咲は可笑しそうに笑う。


「朝野くん、初めてランクインしたね」

「ええと、同票で11位になっちゃったンジョベナくんにあたし投票してもいい?」

「ダメ。同票の場合は出席番号順って決めたでしょ?」

「……国際交流を深めていく意味でも、だめ?」

「ダメダメ。余計にダメでしょ」


 不満たらたらな真琴をなだめ、諭すように美咲はいった。


「認めてあげなよ。朝野くん、最近ほんとにカッコイイもん。それに、優しいしね」 

「なら、美咲が渡してよコレ…」


 なんだかよく分からないキャラクターの携帯ストラップを美咲に押し付けようとするが、彼女は笑顔で首を振った。真琴はがっくりうなだれ、投票用紙を片付けた。



***



 下校途中の楽しみといえば、やはり駄菓子屋さんでの買い食いだろう。

 学校から家に帰る途中にあるので、これで買い食いするなというほうが無理な話しだ。

 夕吾は常連さんだった。違いのわかる常連さんだった。


「おばあちゃん、なんだかこのあんこ玉しょっぱいんだけど」

「賞味期限きれてるからね」


 夕吾は口からぶー!とあんこを吹いた。


「そんなもん置いとくなよ!ちょっと食べちゃったよ!」

「ひ~っひっひ」


 うわーんと泣きながら夕吾は店を出た。まったく、今日は厄日としか言いようがない。しょっぱいあんこ玉食べてしまうわ、学校では真琴に睨まれるわ。

 もう帰ってオンライン小説でも読むしかないと、歩き出したその時だ。

 本日最大の試練が立ちはだかっていた。仁王立ちで。


「買い食い禁止よ。てかなんで泣いてるの?」

「うるさいな。男には色々あるんだ」

「よくわかんないけど……まあいいか」


 いつものクセでつい身構えてしまう夕吾であったが、真琴は別に攻撃してくる様子もなく、カバンから小さな袋を取り出して彼に手渡した。


「あげる」

「?」


 きょとんとする夕吾に真琴は面倒くさそうに説明を加えた。


「月ランの賞品よ。おめでと」

「おお、マジで!もらっていいの?」

「うん」


 ひゃっほーいと喜ぶ彼が、どうもに面白くなかった。


「ねえ、知りたい?誰が投票したか」

「え!そ、そりゃ知りたいけど……」


 本当はすべて匿名で投票されるので、誰が夕吾に投票したかなど知る由もない。だけど男子はそのことを知らないのである。

 真琴はふふ、と微笑み夕吾に歩み寄った。入学式でみせたあの笑顔だ。彼は彼女にその笑顔をむけられると、どきどきしてしまう。


「あ、あの、その」

「ん……」


 息のかかりそうな距離。いまは夕吾のほうが背が高い。真琴は甘い声を出し、とろんとした上目遣いで彼をみつめた。


「夕吾に投票したのは、あたし……」

「ツンデレキター!」

「でないことだけは確かね」

「うわーん!」


 相当ショックだったらしく、夕吾は泣きながら走り去っていった。

 真琴はしてやったりという顔をした。


(あースッキリした♪)


 絶対いつか泣かしてやろう…夕吾はそう心に誓うのだった。

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