第9話:それぞれの恋愛観
ピンポーン。
あたしとなっちゃんは、春ちゃんの部屋の近所のコンビニで買い出しをすると真っ直ぐ部屋に向かった。
「返事ないね〜」
「ったく、仕方ない奴なんだから。毎回、毎回、手が掛かるっ〜の」
そう言うと、夏樹は部屋のドアを叩き始める。
ドン、ドン、ドン。
「春? いるんでしょ? 開けなさい!!」
「なっちゃん、本当に留守なんじゃない?」
梨佳の言葉と同時にドアの内側から足音が聞こえてきた。
ガチャリ!
ドアの鍵が開く音がした瞬間、勢いよくドアが開くと同時に不機嫌な声がした。
「うるせー。しつけーんだよ。新聞なんかいらねぇんだよ!!」
「誰が新聞屋だよ。ドタキャンしといてくだまくんじゃないよ」
春ちゃん以上の不機嫌な声で切り返してなっちゃんは、春ちゃんを黙らせた。
その言葉でなっちゃんを認識した春ちゃん。すると、つり上がった目元が一気に垂れ下がり今にも泣き出しそうな顔になる。
「なつ、梨佳ちゃん。……ごめんね。あたしったら………。でっ、でも、でも…ううっ…」
ついに、春ちゃんは泣き出してしまった。
「分かったから、中に入れてくれない? 話ならたっぷり聞いてあげるから」
そして、春ちゃんの部屋に入るなりその光景に目を疑った。きれい好きでいつも整理整頓されているはずの部屋が荒れ放題だったのだ。
(これは、そうとうかも。あたし何かより、よっぽど深刻だ)
何とか座るスペースを確保したあたし達は、テーブルを囲み床に座った。
そしておもむろに夏樹が切り出した。
「で? 何があったの?」
なっちゃんが問うと春ちゃんは、ゆっくり語りだした。
まとめるとこんな感じ。
春ちゃんと彼の出会いは、春ちゃんがバイトをしているお店でのこと。最初は、店員とお客様。
彼は役者の卵で、劇団に入って頑張ってたらしい。何回か、話すうちに意気投合して、春ちゃんは思い切って告白した。
これはすごく勇気がいることだ。特に彼は、ストレートだったから。
いつもだったら、拒絶されて酷い仕打ちを受けることもしばしば。
でも、その彼はなっちゃんの本質を見て受け入れてくれた。
最初は、すごくうまくいってたらしい。あたし達にも紹介するつもりだったらしいから。でもクリスマスに振られた。
「君は、重いって言われたの」
そこまで話すと春ちゃんは黙り込んでしまった。
「また?」
夏樹は、思わず言葉が出てしまったようで言った後は気まずそうな顔をしていた。
重いという言葉は、春ちゃんにとって半ば禁句だ。
そもそもそう言われる原因は、春ちゃんの恋愛観にある。
春ちゃんの恋愛は基本的に尽くすことにある。
多分、付き合った人達が自分の夢を真っ直ぐに追い求めるタイプの人だから。そして最後は、この二つのパターンに別れる。
前者は、春ちゃんのサポートに甘えきって最後には夢すら忘れるという最悪な人。後者は、いい関係を維持したいけど、自分が駄目になるのが耐えられない人。
今回は、後者のタイプみたい。だからこそ、ここまで落ち込んでいるのだけど。
「春は、恋愛すると100%気持ちがそっちに向くでしょ? それが原因なんだってば」
これも、いつものお決まりのセリフ。恋愛観というのは人それぞれだと思う。
なっちゃんの場合は、お互いの趣味思考などを尊重することを第一に考える。だから、お互いのプライベートを大事にした上での恋愛。
一番、大人だと思う。
春ちゃんは、恋愛まっしぐら。その上、尽くして尽くして尽くしまくる。
でも見ていて可愛いと思う。
あたしは、どうなのかな?
自分では、よく分からない。
「……努力はしたのよ。今回こそは!って…」
ポツリと春ちゃんは言った。
「頑張り過ぎて空回りしちゃったんじゃないの?」
「そうなのかな。梨佳ちゃん達みたく自然体でいられるようになりたい」
「駄目よ、春。梨佳達は、お互い自然過ぎるの、極端すぎ。普通、イブに約束をすっぽかした上に長期の撮影旅行に出るか?」
「嘘!! じゃあ、梨佳ちゃん、待ちぼうけ?」
なっちゃんの言葉は、グサリとあたしの胸に突き刺さった。
「まぁ、元ちゃんがずっと行きたがってたのは知ってたし」
「ひどい! 待ちぼうけにするなんて」
「だから、今日は飲むわよ!」
ドサッ!
夏樹は、そう宣言すると来る前に買ったブツをテーブルに置く。
「もちろん。梨佳ちゃん、ウサを晴らすわよ!」
かくして、女三人(?)の宴は、始まったのだった。




