第7話:そして遠恋は始まった
「えっと…誰?」
あたしは、反射的に目の前に立つ男の子に尋ねた。
「あ〜、俺は市川 勇気。元気の弟」
「弟!? 元ちゃんの!? あっ、はじめまして。一応、彼女の松本 梨佳です」
あたしは、勢いよいペコリと頭を下げた。そしてまじまじと彼の顔を見上げてしまった。
(あんまり似てない…。この人の目、黒くて人懐っこい犬みたいな感じ)
「あのー、それで何で弟さんがここに?」
あたしが尋ねると弟さんは、目線をあちこちに向けてあ〜とかう〜とか唸っていて心底困っているみたいだった。
やがて、覚悟を決めたのか頭をガシガシとかきあげ、用件を切り出した。
「ごめん! 兄貴の奴、世話になってるカメラマンにくっついて撮影旅行に出ちまって……」
あたしは、彼の言葉に耳を疑う。
(はぁ? 撮影旅行? こんな日に? いくら元ちゃんでもこれはないでしょ)
だんだんとだが、自分の中でフツフツと怒りがこみ上げてきた。
「それで? いつ帰って来るわけ?」
梨佳の顔色が青から赤に一気に変わるのを見た勇気は、自分に不幸を押し付けた兄を呪った。
(兄貴の奴、何が梨佳は、気にしないだ。めちゃめちゃ、めかしこんで気合い十分じゃんか)
「帰りなんだけど…………年単位になるかも」
「は? 年単位? 撮影旅行でしょ?」
梨佳は、思わず勇気のコートの襟を掴み詰め寄っていた。
「世話になってるカメラマンってさ、自然写真が専門でよく長期的に海外に撮影旅行に行くんだ。次の旅行には絶対着いて行くって言ってたから」
勇気は、自分の襟を掴み、黙りこくってしまった梨佳の手を外し、ポケットから一通の手紙を取り出した。
「これを渡してくれって。あと、メールするからって。この手紙は、例の約束通りにしてくれだって。分かる?」
梨佳が、頷いて手紙を受け取るのを確認すると勇気は去って行った。
「嘘でしょ、元ちゃん…………」
こうしてあたし達の遠恋は、強引にスタートしたのだった。
やっと前半の山を抜けた気がします。
この二人は、どうなるやら…(笑)




