第23話:恋の行方〜春の場合〜
春がどう答えればよいか迷っていると、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
(何だよ、こんな時に!)
舌打ちをし、その声の方に顔を向けると春はその場で硬直してしまった。
(キャー! 何で!)
その声の主は、彼だった。
春が言葉を失っていると、向こうから話しかけてきた。
「春、来てくれたんだ。ありがとう」
そう言って笑った彼の笑顔に春は余計に言葉を失う。
「春ちゃん?」
そんな二人の様子を見ていた梨佳が春の服の裾をひっぱる。
「あっ、梨佳ちゃん。彼が太田 剣。剣、こちらがあたしの親友の松本 梨佳ちゃん」
春の紹介に剣は、大きく反応する。
「君が梨佳ちゃん? はじめまして」
「…はじめまして」
太田という人は、春ちゃんより少し背の高い短髪の笑うと目尻が下がる優しそうな人だった。
「芝居楽しんで貰えたんだったらいいんだけど」
「良かったです」
反応の薄い春の背中を太田から見えないように軽く小突く。
「春ちゃん、私そろそろ帰らないと。あとは二人でゆっくり話してね。太田さん」
「何かな?」
梨佳はニッコリ笑いながらこう言った。
「春ちゃんをこれ以上傷つけたら許しませんから。それじゃあ、失礼します」
梨佳は、軽くお辞儀をして春に手を振るとその場から立ち去る。
「まいったな。……でも友達思いな子だね」
「うん。梨佳ちゃんと夏樹がいなきゃ今のあたしはないもの」
「話さないといけないことがあるんだ。俺が春と会った頃、俺は無気力状態だったんだ」
「何故?」
「数年前に当時の恋人を亡くしたんだ。芝居に対する情熱も無くなった。ただ、フラフラと生きてた。そんな時に春と会った」
太田は、春の横に座り、手を組みながら話し続ける。
「春は、何にでも一生懸命で輝いてた。その光に惹かれた。隣にいると昔の自分を思い出せた。そしたら、今の自分に苛立ちを覚えんだ。このままじゃ、俺も春も駄目になると思った。だから、離れて胸を張って春の横にいられるように頑張ろうって」
「剣」
「今さらかな?」
「ううん。あたしこそ、また二人で一緒にいられたらって」
二人は、笑いあい手をつなぐ。
「ねぇ…、人は、大切な人をなくしてもまた歩けるのか、その強さがもてるかって聞かれたらどうする?」
太田は、目を見張ったが、こう答えた。
「俺はもてると思う。その強さの源は、その人との思い出や今、自分の側にいる人達からの思いやりの心だと思う。誰に聞かれたの?」
「梨佳ちゃん」
「じゃあ、彼女も大切な人を亡くしたのかも」
(お父さんのことかしら。一人で帰して大丈夫だったかしら?)
春は、梨佳が去って行った方向を心配気に見つめた。




