第22話:月明かりの下で
客席の照明が灯り、春は割れんばかりの拍手を送っていたが、ふと隣を見ると驚いた。
何故なら隣に座った梨佳の瞳からは、大粒の涙が流れ落ちていたからだ。
そして懸命に声を押し殺して泣いているのだ。
「梨佳ちゃん、大丈夫?」
「だっ……だい……じょぶ……だよ」
春は急いでハンカチを取り出し、梨佳の涙を優しく拭ってやる。
そしてカーテンコールが終わるのを見計らい、梨佳の手を握り外へと連れ出した。
劇場の向かいにある公園の柵に梨佳を座らせると近くの自販機まで走りお茶を買ってくる。
缶を開けてやり、梨佳の手に握らせてやった。
「飲みなさい、落ち着くから」
梨佳がゆっくりとお茶を飲み始めた姿を見て春はホッとした。
そして、自分も隣に腰を下ろし、お茶を飲む。
(どうしちゃったのかしら?)
春は、舞台のストーリーを反芻しながら、首をひねる。
確かにラストは、感動的で春も目がうっすらと涙で視界が霞んだし、周囲の観客の間でもすすり泣く声が少しだが聞こえた。それでも、梨佳のように号泣する人はいなかったはず。何がここまで梨佳の心の琴線を震わせたのだろうか。
春が梨佳の様子をうかがうこと数分、ずっと下を向いていた梨佳が顔を上げた。
「ごめんね、春ちゃん。びっくりした?」
梨佳は、照れくさそうな表情をしながら、手に持った缶をいじっている。
「びっくりはするわね、隣を見たら泣いてるんだもん。理由を聞いていいかしら?」
春の言葉に梨佳はビクッと体を震わせる。
一瞬、躊躇した後、覚悟を決めたのか顔を上げた。そして、空に浮かぶ月を見つめながらゆっくりと口を開く。
「人は大切な人を失ってもまた歩いていけるのかな?」
「えっ?」
「私にそんな強さがもてるのかな?」
そう呟いた梨佳の顔は月明かりに照らされて、とてもきれいだった。でもそれはどこか危うさを伴ったもので触れれば壊れてしまうような硝子のようだった。




