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第21話:彼女が望むもの

 その劇場は、ビルの地下部分にあった。

 50人、入るか入らないかの広さ。

 今日は初日ということだけあって、ほとんどの席が埋まっていた。

 私と春ちゃんの席は、舞台がよく見える中央の真中の列だった。


 「もうすぐだね、春ちゃん」

 「えっ、ええ。何か緊張してきちゃった」

 「大丈夫?でも、けっこう人が入ってるね」

 「彼は、けっこう有名なのよ」

 「へー、そうなんだ。私は、お芝居って初めてだからな…………」


 そうこうしている内に会場の照明が落ちる。そして一瞬の暗闇ののち、音楽と舞台を照らす照明の明かりが周囲を照らしていく。

 そこには、もう別の世界が広がっていた。


 その物語は、大切なものを失った人々の再生の物語。

 失ったものは人それぞれで、それは人であったり、夢であったり、物であったり。

 主人公の男の子が失ったもの、それは恋人。

 彼女を失った彼からは、様々な物が連鎖反応のように失われていく。

 それを止めたのが、彼女が残した思い。

 彼がそれに気付くまでに彼自身を傷つけ、そして周囲の人間をも傷つけた。

 そしてたどり着いた答え。

 それは前を向き、生きていくということ。


 梨佳は、舞台を見ながら知らず知らずのうちに涙を流していた、舞台を食入るように見つめながら。

 そして、答えを見つけた彼に嫉妬した。

 

 これは物語だから答えを見つけられるんだ。現実ではこんな簡単に答えを出せるはずない。出せたら苦労なんてしないもの。


 わたしだってずっと考えた、そして色々な努力だってした。

 でも、答えは見つからないんだよ。


 お母さんは、十数年もかけて答えを出した、わたしにも同じだけの年月が必要なの?

 ううん、私は逃げているだけ、答えは自分の中で出ている。ただ、その現実を受け止める勇気がないだけなんだ。


 きっかけが欲しいだけ。他人から無理やりきっかけを渡されれば人は、嫌でも動きだせるもの。


 わたしはきっとずるい人間なんだと思う。他人まかせで事を進めようとするからいつまでもぐるぐると同じ場所に居つづける。


 ひどい人間だ、そのきっかけを出す人間だって深く傷つくのに。それでも願ってしまうのだ。

 

 『きっかけを下さい』と。

 

 

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