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第18話:残された大切なもの

 それは、朝食の席でのことだった。

 普段、母親の仕事の関係上、二人で一緒に朝食を取ることは少ない。

 でも、めずらしく今朝は、母が朝食の準備をして待っていた。


 「あれ? お母さん、仕事は?」

 「今日は、夜勤だから大丈夫。さぁ、準備したから食べなさい」

 「うん」


 梨佳は、席に座ると用意された朝食に手を伸ばす。

 そんな梨佳の正面の席に座り、母はじっと梨佳のことを見つめている。


 「なっ、何? 何かついてる?」

 「ううん、何でもない。ただ………………」

 「ただ?」

 「最近の梨佳、とっても楽しそうだなと思って」

 「…………楽しいよ」


 (うーん、写真を撮ることが楽しいとは言えないしな…………)


 「そう、楽しいならいいのよ。そうだ、梨佳に相談があるんだけど」

 「相談?」

 「うん。梨佳がこの頃楽しそうに写真を撮っている姿を見てね、お母さん決めたことがあるの」

 「何?」

 「お父さんの写真集をね、自費で作ろうかと思うの」

 「お父さんの? だって、お母さん…………」


 梨佳は、母親に言いにくいのか口に出せなかった。


 (だってお母さんは、お父さんの写真は見たくないって)


 「梨佳の姿を見ててね、お母さんはお父さんの写真にかける純粋さやひたむきさが好きだったって思い出したの」

 「のろけ話?」

 「ふふっ。そうね、のろけ話。もちろん、お父さんの撮る写真も大好きだった。そんな大切な気持ち、お母さん、忘れてしまってた。でも、その大切な気持ちを思い出すことが出来たの、あなたのおかげで。だから、作ることにしたの、あの人が生きた証を」

 「…………生きた証?」

 「そう、だから梨佳にも手伝って欲しいのよ。写真選びを。駄目かしら?」

 「ううん、見たい。お父さんの写真」

 「じゃあ、仕事行く前に押し入れから全部だしておくから見ててちょうだい」

 「うん」


 母親の気持ちの変化にとまどいながらも嬉しかった。父親が亡くなってしまってからの母はどこか寂しげで見ていて時々つらかったから。


 「人は、大事な人を失うとそれ以外に目を向けられくなってしまうものよね。本当はそれ以外の身近にとっても大切な人や思い出が残されているのに。大切な人と築いてきた人の輪や大切な思い出も忘れてしまう、お母さんみたいにね。だから梨佳には残された大切なものを見失わない生き方をして欲しいわ」


 そう言って、母親は微笑んだ。


 (残された大切なものを見失わない生き方か…………)


 母は、長い時間をかけて答えを出したのだろう。じゃあ、私にも同じ答えが出せるのか?


 ………………私にはまだ出来ない。立ち止まってしまったここから動き出す勇気が持てないから。

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