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第九話

「はい、出来たよー。」

由実子が湯気の出る料理を持って、テーブルに向かいながら俺に話しかけている

「おう、今いく。」

なるべく元気な声を装う

というか、今のうちは全て忘れてしまえ

そう思うことにする

テーブルの上には、ナポリタンのパスタ

オレンジ色から湯気がたくさん出て、いい匂いがする

席に着くと、二人分の用意がすでにできていた

「いただきます。」

手を合わせると、由実子も続いた

暑い日に熱いものを食べると、汗の量も尋常ではない

しきりに汗を拭いながら食べた

「おいしい?」

いつもの質問がまた来る

「おいしい、おいしい。」

何もなかったかのように時間が流れた

二人共、食べ終えてもう時間は十二時半になっている

由実子が片付けを終え、慌てた声を出した

「もう、こんな時間なの?これじゃ、間に合わないわ。これからお化粧もしなきゃいけないし服も用意しなきゃ・・。」

「そうだな、時間を遅らせてもらえないのか?」

俺も由実子も、まるで親戚のおじさんにでも会いにいくかのような感じだ

誰もこの状態を見て、今から彼女の浮気相手と話しにいくだなんて修羅場を予想したりしないだろう

「そうね・・。電話して言っておこうかな。ごめん、先に用意してて。」

由実子は走って台所の隅の方へ行って電話をかけるようだった

俺に少しは遠慮でもしてくれたのかもしれない

その間に俺は寝室へ行って服を着替えることにした

別に何をするわけでもないのだから、そんなにいい服を着ていくことなんてないだろうと思い、いつもの休日そのままの格好にした

下はジーンズで、上は青のチェックの半そでシャツという軽装だ

そのあとに少し洗面所へ行って、少しだけ髪にワックスをつけた

トイレへ行って、時計をはめ・・

全ての用意が終わって出てくると、由実子の姿はなかった

寝室で着替え始めているのだろうかと思い、戸の外から声を掛ける

「おい、由実子いるのか?」

「なにー?」

急いでいるのが息遣いで感じられる

「時間、どうだった?」

「遅らせてもらったわ。あと三十分くらいあとでもいいって。」

「そうか。」

何だか、今頃になってその男の存在が大きく頭の中を占めてきた

必ず、きちんと話をつけてやるのだという気が沸いてきた

由実子はまだ時間がかかりそうだからソファに座って待つ

テレビをつけてみるが、あまりちゃんと見れていない

変な緊張が頭の中を駆け巡り、嫌な冷や汗が顔を伝った

さっきからドタドタと急いだ音が聞こえる

由実子は化粧をしているようだった

そのままぼーっとしていれば時間が経ち、二人とも準備が出来た

由実子を見れば、薄いベージュのスカートに上はピンクの薄いカーディガンのようなものを着ている

急いだとはいえ、化粧はきちんと出来ていた

他の男に会いに行くにも今まで、こうやってちゃんと化粧をして服を迷いながら選んだりしていたのかと思うと少し苛立つ

「さぁ、行きましょう。」

由実子が俺を見上げて言う

「ああ、そうしよう。」

ふと、腕時計を見れば一時十分程度

時間は三十分遅れで間に合うようだ

一緒に歩いて駅前の喫茶店「カトウ」へ向かう

手は繋がなかった

緊張を悟られたくなたっかのと、俺の気持ちが全ていつのものままに戻っているのではなかったからだった

日差しはそんなに強くなく、なるべく急ぎ足で行った



ついに会いに行くときがきた。由実子の浮気相手とは一体、どんな男なのか・・。緊張に負けてしまいそうだが、必ずこれから話をつけるのだ。

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