第八話
公園から帰ってきて、少し気持ちが落ち着いた。
家に着いて、何も言わずに中へ入る
昼飯の用意でもしているのかと思いきや、由実子は台所にはいなかった
どこに居るのかと少し気にして回りを見てみれば、リビングの隣の部屋で物音がしている
この部屋にまだいるのか?
と思い、戸を開けてみた
すると、やはり由実子はその部屋の中でまだ裁縫を続けていた
縫っていたのは、俺が着ていこうとしていたほこりを被ったジョギング用のウエアだった
突然、声もかけられずに戸が開いたものだからびっくりしたような声で由実子は言う
「あら、どうしたの?お帰り。」
由実子の質問には返事をしないで言った
「まだここで何かしてるのか?」
戸を開けたのだから、何も話さないでそのまま閉めるのは不自然だろうと思ってのことだった
なるべく平常心を心がけ、由実子を今日の朝のように一方的に責めることのないようにと注意して話した
「そうよ。これ、虫に食べらてたみたいで穴が空いてたの。って、もうそんな時間?」
と言いながら、由実子が部屋の中の置時計に目をやるともう十二時を回っていた
「いけないっ、お昼ご飯の準備もしてなかったわ!!」
「いや、別にそんなに慌てなくてもいいよ。」
「ごめんね、つい夢中になっちゃって・・。」
詫びるような表情を俺に向けた
「今から急いで作るわ。あなたもお腹空いてるでしょ?」
「あ、まぁ・・。」
今まで縫っていたウエアを置いて、俺の返事も聞かぬまま部屋を飛び出していった
そんな由実子が愛らしく感じて、少し笑ってしまった
しゃがんで、ウエアを手に取って見てみる
確かに、長い間たんすの中にほったらかして置いたものだから穴が空いていた
そんなに目立つような大きいものはないが、小さな穴がいくつかある
由実子はこのウエアを俺が取り出す前に直していたものあったから、こんなに時間がかかったのだろう
部屋を出て、台所の方に目をやればせっせと準備をする由実子が目に入る
俺が見ていることに気づいて
「本当に今すぐできるからね。ちょっと待ってて。」
そう言っている手が忙しそうだった
それまで、ソファに座って新聞を読むことにした
読み始めてみれば、今日の朝よりも数倍は頭に入りやすかった
日本と中国の外交問題が・・
山を降りて来始めている熊や猿とそれについての人間の対策法・・
今日も、様々なニュースが紙面を賑わせている
なるほど、そうか
と無理にでも頭に詰め込んで、内容を噛み砕いてゆく
いつものようにはいかなくて、ゆっくりと文字を目で追っていかないとさっき読んだことが次には飛んでいってしまう
集中して、いろんなところの記事を読んだ
いつのまにか汗が出てきていた