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第五話

とぼとぼと家に帰って来ると、あたりは薄暗くなってきていた

今日はくもりなので、月も星も雲に隠れて見えなくなっている

しかしそんなことを気にとめる余裕もない程に歩く自分のスニーカーを見、俯きながら歩いていた

どうせ空気は重くなるだろうし、帰りたくはなかったが他に行くところもないので仕方がない

何も持っていかなかったのだからお金もなかった

どちらにしろ、今から荷物を取りに帰ってホテルに泊まるのも煩わしい気がした

ここは俺の家なのだ、何も遠慮をする必要なんてないじゃないか

そう励まして、一度深呼吸をしておいて玄関のドアを開けた

スニーカーを脱いで上に上がろうとすると、ドアを開ける音が聞こえたらしく

「おかえり、遅かったわね。」

という由実子のあったかい声がした

「ああ。」

またいつもよりそっけない返事だったろう

上がると、早くもダイニングのテーブルの上には今日の晩御飯が用意されていた

時計を見るれば七時をまわっている

夏だからこんな時間でもまだ明るく感じるのだと何故か初めて思ったような感じがした

晩御飯は、そうめんだった

涼しげにザルの上のそうめんにいくつかの氷がのっている

そのそうめんの中には、何本かだけときたまピンクや緑の麺が入っていて真っ白のそうめんの中にも色がある

そそくさとテレビを点け、テーブルの椅子に座った

いつもはテレビなんかを点けて食べはしないけれど、今日はなんだか二人だけではやり過ごせないような気がした

俺が席につけば、すぐに由実子が立ち上がって準備を始める

茶碗につゆを入れ、箸を持ってきた

はい、と軽く声が聞こえ、俺の前へ茶碗と箸が置かれた

その後に由実子が自分の分の準備をする

もう、俺は食べ始めていた

テレビのニュースを伝える男性の素っ気無い声が聞こえる

しきりにさっきからテロが起こったと繰り返しているようだ

しかしそんなこともどうでもいいように思える

由実子が椅子に座ったのが分かった

食べ始めたのはよかったものの、いつもよりも全く進まなかった

箸はしきりに動かしているけれど、胃の中に入っていかない

どうにか腹八分目あたりまで食べ、箸を置いた

まだ食べていた由実子はそれを見て驚いた声を出した

「あら、それだけでもういいの?いつもはもっと食べるのに。」

俺は返事をしないで席を立った

「じゃあ、あたしもこれで終わろう。」

由実子も席を立って、さっさと片付けの準備を始めた

茶碗や箸を流しにもっていって洗っている

それを横目でちらりと見て、テレビを消して俺は自分の部屋へ行った

まだ八時になったばかりだったけれど、何だか体に力が沸かず布団をひいてその上に大の字になって寝転んだ

目を開けて天井をぼーっと眺める

考えることがたくさんありすぎて頭も痛くなってきた気がしてきた

はぁ、とため息をついたときに部屋の戸が開いた

「ねぇ、お風呂は入らない?」

首だけを起こして返事をする

「ああ、今日はもういい。」

「そう。もう寝るの?」

「そうするよ。」

風呂に入る体力でさえないように感じる

それに、いつものように由実子と一緒に入るという気にはどうしてもなれなかった

由実子はこんな状態だというのに、全く平気なままだ

全てがいつも通りすぎて、何もなかったのではないかという錯覚さえ覚えてしまう

正直、実感が沸きにくかったりもする

俺と別れたとしてももう一人いるからと安心をしてでもいるのだろうか

もしも、由実子が俺を愛していないと言ったとしたら潔く別れようと思う

片思いで続く程、恋愛は甘くないだろう

しかし、由実子は俺を愛していると言う

もしかすると嘘なのかもしれないが、俺にとっては今はそれを信じるしかない

だからあした会う男にちゃんと話をつけよう

そして必ず取り戻してみせる

意気込んでいれば、不安も少しは減ったのか段々と眠くなってきた

布団もきないままでそのまま寝てしまった



由実子は風呂から上がってきて髪を十分に乾かした後、戸締りやら何やらを済ませ、もう寝ることにして寝室の戸を開けた

もうあの人は寝ているだろうと思い、なるべく静かにすることを心がけながら足音も立てずに部屋へ入った

思っていた通りに、もうぐっすりと寝ていた

布団をきていなかったので側にあった掛け布団を掛けてやり、寝顔を見て少し微笑んだ

自分も、もう寝ようと隣に布団をひいた

布団にくるまってあしたの話し合いで何か嫌なことが起こらないようにと願った

この人は素直で正直で、思ったことをすぐに出してしまうだろうから

隣に寝ている男を見ながらそう思った

あしたの話し合いは果たしてどうなるのだろう?

由実子はどちらのものに・・

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