第四話
二人の話には沈黙が流れるままー・・
まだ昼間の三時を回ったところだったが、それ以上に会話をすることはなかった
あしたじっくりと三人で話し合うのだから、そのことに関して話す必要はない
なるべく、なかったことにして欲しいというのが一番だった
それよりも何故か実感が乏しいような気もする
その他のことを話そうにも気まずさが走ったし、何より少しだけ苛立ちを感じていたので少しの間、沈黙が走っていた
由実子が浮気をしていたという事実にも、そのことについて謝罪の言葉もないということにも
相手の男がすぐに話し合いを受け入れたというところにも
突き詰めて考えようとしてしまう程に頭に血が上ってしまったかのように頭が熱くなってくる
ちょっと頭を冷やそうと思って、向かい合っていたのを顔を逸らして立ち上がった
「ちょっと、散歩でもしてくる。」
別に言わなくてもよかったけれど、なんとなくいつものように言ってしまった
少しだけ言い方がいつもより冷たかったかもしれない
由実子はそれを聞いて
「いってらっしゃい。」
と普通に言った
背中にかかった声だったが、それは聞く限りはいつも通りの感じだった
スニーカーを突っかけて外へ出る
空を見上げて、目を細めた
まだまだ陽は沈む気配もないから、日差しもきつい
帽子を持ってきたらよかったと玄関を閉めてから思ったけれど、取りに戻るのも何だからそのまま行くことにした
なるべくゆっくりと呼吸をするように心がけて大またで並木道を通り、公園へ行く
並木道は、大きな葉をたくさんつけた木々が日差しをさえぎってくれるので涼しかった
この時間帯、日曜日ということもあって公園で遊んでいる子供やそれを見ている大人たちが多い
それに、ランニングをしている人や犬を散歩させている人達ともよくすれ違う
あまり何も考えないようにして歩こうと思った
考えれば、せっかくゆっくりとしているはずの呼吸もいつの間にか早まってしまう
公園につけば、噴水が勢いよく上へ向かってはね上がっていてその周りの水の中で楽しげに子供たちが遊んでいる
そばの木のベンチが空いていたので、そこへ腰を下ろしてため息をついた
走り回って遊んでいる子供たちや、世間話に花を咲かせているだろう老人たちに目をやりながら考えを巡らせた
まず、最初に思ったのは由実子が浮気なんかをするなんてということだ
やはり、これが一番の疑問だ
いつでも俺を裏切ることなんかしなかったし、本当に信じられない
次には、由実子がもう一人の男の方にはすでに浮気をしているということを告げていたということだ
男は、二股をかけられているというのに由実子へ別れようとは言わなかったのだろうか
それに俺のようにもう一人の男に話をつけるということもしなかったようだ
何もしないで由実子をそのまま変わらずに愛していたということか?
そんなことはできるのだろうか
嫉妬を抱かずにそのままにしておくとは考えられない
もしかするとその男に由実子は騙されていて、男の方はただの遊びのつもりで由実子にはさらさら気なんてなかったのではないだろうかと思った
しかし・・、そうだとすればわざわざ直接俺と会って、話がしたいだなんてことを言い出すだろうか
遊びだけならそんな煩わしいことをしないだろう
問題の相手の男はどんな男なのだろうか
由実子が、俺がいながらでも愛してしまうようなそんな何か特別な何かを持っている男なのか
それなら俺なんかすぐに捨てられてしまってもいいくらいなのに
そういえば元々、由実子は俺の何が好きでこうして毎日一緒に暮らしているんだろう
三年間も一緒にいたというのにはっきりとしたことを聞いたことがなかった
相性だけなのかもしれない
相性が合わないと結婚もしないという人もいれば、相性が良すぎて性格なんかは嫌いであっても別れられないといったケースもよくある
しかし、由実子はそんな女なのだろうか
なんだか、考えているうちにどんどん自身がなくなってきてしまった
ずっと愛されていると思って暮らしていたというのに、他の男ができたのにも気がつかなかった
もしかすると、俺に愛想をつかしたからその男に走ったのではないのか
頭の中に不安な材料が増えてきていた
由実子の本当の気持ちはどうなのだろう?不安になってしまう俺。