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第三話

このまま話していても、黙っていても何も進まない気がしてきていた

さっきは、今すぐに別れるなら許してやると言ったが、俺はやっぱり由実子を愛しているし、のこのこと他の男に由実子をとられたくない

それに、その男は由実子が二股をかけていることを知らずに愛し合っているわけだから、俺だけがそれを知って別れるなんて納得がいかない

もしも話し合って、由実子と別れさせることができるなら今すぐにでも別れさせたいと思う

「じゃあ、どんなやつか確かめるためにも、そいつと話がしたい。」

徹底抗戦を挑むことにした

さっきまで垂れていた頭を上げ、真っ直ぐに由実子を見て真剣な顔で言った

その言葉には、もちろんのこと由実子が連絡をとるという意味が含まれている

しかし、由実子にしては相手の男は浮気をしているということを知らないのだから、それを教えなくてはならないというのは、確実に由実子にとって不利になる

もしも由実子が出来ないというのなら、今すぐに俺が由実子の携帯から連絡をしようと思っていた

「いいわ。あなたがそんなに話したいなら連絡するわ。」

あっさりと由実子は言った

「じゃあ、今からかけるけど、いいわね?」

俺がずっと両手で握りしめていた携帯をするりと抜き取り、電話をかけるような素振りをしてみせた

「あ、ああ。そうしてくれ。」

嫌がるかと思えばすぐに返事を返されたものだから、それでは俺の方が心の準備が出来ないというものだ

由実子は、片手で手馴れたように短縮ダイヤルからその男の電話番号を探し出し、ボタンを押した。

それを、俺はぼーっと見ていた

何回か呼び出し音が続いて、やっとかかったらしい

「あ、由実子よ。ごめんね、仕事中だった?・・うん、うん。あ、そっか。・・あのね、ナオくんと話したいって人がいるんだけど・・。」

さっき言っていたあの人という呼び方も気になったが、その男のことをナオくんと呼んでいるとは

俺のことなんかはずっと苗字のままで、そのあとからも下の名前に「くん」がつくくらいだったのにと、早くも電話の男に嫉妬をしていた

由実子はさっきからずっと早口気味に話していて、相手が仕事中であるようだから気をつかっているのかと思った

それに、由実子にとっては大問題であるからその緊張感から自然にそうなっているのかもしれない

「今って話せる時間ある?・・うん、うん。じゃあ、話すわね。・・あの、前に言ってたでしょ?もう一人付き合ってる人がいて、前からその人と一緒に住んでるって。・・うん、うん。・・え?そうそう、その人。その人がナオくんと話がしたいって言ってるの。・・うん、うん。今日は出来ない?・・そっか。・・あぁ、そうね。じゃあそうするわ。仕事中なのにごめんね。分かった。じゃあ、バイバイ。」

由実子は電話を切って、携帯をゆっくりと折りたたんだ

俺は、由実子の電話する様子を見て男への親しみが感じ取れてしまい、怒りというよりは深い嫉妬を覚えた

「あのね、あの人は仕事で今日も忙しいから今日のうちは無理だって言ってたわ。それで、あの人が言うには、あしたの午後一時くらいから駅に近い喫茶店かどこかで直接話そうってことなんだけど、あしたは、あなたも休みよね?あたしも一緒に話したいと思うわ。」

由実子は真面目な顔つきだった

電話で話がつくかもしれないと思っていた自分には、直接会って話すというのは少なからず動揺した

しかし、相手の男から言われたのでは行くしかないだろう

その男は俺からの徹底抗戦を受け入れたのだ

「ああ、そいつがそう言ってきたんならそうしよう。場所はどこでもいい、勝手に決めてくれ。」

少し投げやりに視線をそらした

「そう、分かったわ。じゃあね・・、カトウっていう喫茶店にしましょう。あそこならあの人の仕事場にも近いわ。」

独り言のように言っておいた後に、いいわね?と目で訴えかけてきたので、声には出さずに一度だけ頷いた

由実子はそれを見て、また携帯を取り出して今度は両手でメールを打ちだした

送信をしたようで携帯を閉じると、その後すぐにバイブレーションが鳴った

きていたメールはきっと、あの男からだろう

それを由実子は確認して、頷いていた

「さっきメールで場所と時間を送ったら、それでいいって返信が来たわ。あしたの午後一時に、駅前の喫茶店のカトウよ。」

もう一度、確認をとるように俺にそう言った

また無言で頷いた


三人で会って話す約束をした俺と由実子とその浮気相手。俺と由実子は気まずくなってー・・

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