第十一話
本当に由実子はこんな男が好きなのだろうか・・・?
今の由実子の態度は何か萎縮してしまっていてよく分からないし、金目当てでどうするというような女でないことは分かっているのだが・・
俺と由実子は下を向いたままだが、山中はそんなときでも余裕の笑みが見えそうな程に背筋を伸ばして座っている
由実子はずっと何を話すこともなく静かに座っているが、本当に俺と山中を愛しているのかと少し不安になってしまいそうだ
段々と、苛立ちが募る
由実子にはさっきから話にそんなに入らせていなかったというか、二人だけで話をつけようと思ってきていたが、こうなれば全ての原因になっている由実子が決めるなり話すなりしないといけないだろう
「おい、由実子。お前はどう思ってるんだよ?」
隣の由実子に向かって、この場で初めて話しかけたことになる
一気に答えを出して欲しかった
俺を選ぶ、という答えを望んでいた
「あ、あたしはー・・。」
由実子はどもった声を出す
俺の前ではあんなに普通に振舞っていたというのに、こいつの前だとそんなにも緊張するってことなのか?
それとも、俺と一緒にいるときも普通なところを装っていたのか・・
「はっきり言え。」
どうともつかないようなはっきりとしない言い方にまた苛立ち、少しきつい言い方をした
「そんな言い方しなくてもいいでしょう、岡田さん。」
山中がそれを聞いて、やんわりと由実子をかばうようなことを言い始める
それが苛立った俺の気持ちについにスイッチを入れた
「お前なぁ、さっきから偉そうなこと言ってやがるけど、お前がちゃんと行動をわきまえていればこんな事にもならなかったんだろうが!!」
上半身を乗り出して、正面の山中を睨みながら怒鳴った
突然のことに驚いたのか、山中の目が言葉の通り点になってしまっている
しかし、山中はそれにも懲りずに
「まぁ、まぁ、落ち着いて。」
と余計な言葉をかけてくれる
「相手がいる女に手出しといてなんなんだよ、その態度は!!」
また怒鳴った
そろそろ、自分でも感情のコントロールが効かなくなってきている
今まで、自分の父親が怒鳴ってばかりいた人間でそれを子供のときによく見ていたものだから、いつでもあんな人間にはなりたくないと思っていた
だから、普段の生活ではここまで怒鳴ることはないしある程度のことはなるべく平穏に終わらせるように努めてきたつもりだ
しかし、こうやって結果的に怒鳴ってしまっている自分を心の中でかえりみれば、やっぱり俺は間違いなくあの男の血を引いているのだと感じる
自分が子供で、山中が大人だということに嫌でも気付かされてしまう
「岡田さん、落ち着いて話しましょう。由実子さんも驚いていますよ。」
まだ山中は落ち着いたままの声で言う
由実子、由実子と気を遣う風を見せかけてそれで女を釣るのが目的なんだろうが、この男
「だから由実子はどう思ってんだよ、さっさと答えを出せ!!」
隣の由実子に向かって怒鳴る
「どうって言われても・・。」
まだ歯に何かつまったような物言いをする
なんで俺の方がいいと言わないんだ・・
そろそろ焦りが自分自身に見えてくる
「由実子さんに当たるのはやめてくださいよ。」
山中がオロオロとした声で、また由実子をかばっている
「うるさいんだよ!!黙ってろ。」
そう言えば、本当に山中はそのまま黙ってしまった
そしてその代わりのように由実子が口を開く
「あたし、あたしは・・。」
声が震えている
もう答えが出るのだろうと思い、口を挟まずに由実子の言う事を聞いた
その時でも俺は同じ答えを期待していた
どんなことがあったにしろ、最終的には俺を選ぶだろう
絶対的な自信があった
その他の答えがあるはずはない
由実子は、少し間違いをしただけだ
それにようやく気付いたんだ
他のやつのところへ行くようなことはしない
そして由実子はか細い声で、それでもどこか芯のある言い方をした
ついに答えが出た瞬間だった
「あたしは、山中さんと一緒に居たい・・。」
そう言って、由実子はそのままテーブルの上へ突っ伏して泣き出してしまった
山中・・?
俺の頭の中は、それまでの怒りと今の由実子の言葉への衝撃とのギャップの激しさに真っ白になっていて何も考えられなかった
おい、山中って・・?
ふと隣の由実子を見れば、泣き声を大きく上げて、激しく肩を上げ下げしながら泣いている
由実子を抱きしめてやらないと・・
そう思ったら、目の前の山中が立ち上がりすぐに由実子の隣へ行って
「大丈夫?由実子さん。」
と優しい声を出しながら、由実子の肩を抱くところが目に入った
お前、何してんだ・・!!
と声が今にも出そうになったがやめてしまった
そんな体力がもうすでに無くなっている
声を出そうにも、怒鳴ろうにも今はできそうにない
もうこんなところをいつまでも見ていたくないと、ふらつく足取りで席を立ってそのまま外へ飛び出した
俺は予想もつかない出来事に動じて何もできなかった