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光国祭  作者: GT
8/16

 改めて見回してみると、この闘技場はかなり広い。

 僕達が居る場所は観客席より一段低く、そこの広さだけでも小学校の校庭くらいには広いと思う。

そこから同心円状に一段、また一段と上へ上るように観客席が連なり、その面積も含めるとしたらそれこそ何千平方メートルという感じ。

 場違いな考えだな。切り替え切り替え。

 まず見るべきは僕以外の八人の性別と、年齢かな。


「予選Bの選手が揃いました。いよいよ始まるわけですが、やはり先ほどの試合の衝撃が残っているのでしょう、観客席の熱気も恐ろしいまでに上昇しているようです。もう間も無く開始されますので暫くお待ちください」


 其の声と同時に、最後の一人が現れた。最後は、うーん、高齢な人が来たなぁ。ともかくこれで八人か。

 もうすぐ成人式な僕、見た目的には三十代な熊さん、中学生位の少年、中学か高校かって感じの少女、大学生っぽい青年が二人、三十路はいってそうな女性、最後に壮年という感じの男性。

 ということは、若い世代が知っていそうな、興味を持ちそうな物で考えるのがいいのかな?

 

「これで八人。揃ったところで少し説明をしてから予選を開始する。君達の魔法が観客席に影響を及ぼさないように結界が張られているが、これは絶対の強度を誇る、という程のものでもない。君達が手を組み一点集中してとなると流石に防ぎきることはできないだろう」


 僕達八人が隣人との三十メートル間隔で円状に立つ中心に立つ魔法使いの男性が口を開く。その右側奥には、熊さんの姿が見える。


「だからといって試そうとはしないで欲しい。そうなると私は君達を国敵と見做さないとならなくなるからな。君達の魔法は他人の命を如何こうはできないのだが、私の魔法はそれとは違うのだと覚えておいてくれ」


 つまりは、そんなことをしたら命の補償はしませんよ、ってことね。まぁ、誰もそんなことしないだろうけど。過去にそんなことがあったのかな?

 ふと視界に映る景色に動きがあるのが見えた。ピントが合ってなかったその位置に視線を集中する。

 熊さんが、左腕を軽く動かし、其の手を握ると人差し指を一本だけ立てた。





『まず、最初に何処を狙うか決めよう。隣りあわせで動くにしろ、挟み撃ちを狙うにしろ、背中を見せるのはまずいだろう』


『そうですね。じゃぁ、合図でも決めましょうか。横一列に並ぶのか、縦一列に並ぶのか。あのコロシアムは円形だったから円状に並ぶかな?』


『公平にって考えりゃ円状ってのが妥当じゃねぇか?縦一列だと最後尾が一番有利だろ?横だとしても真ん中に居るやつはどうしても不利じゃねぇか?』


 自分の分の蕎麦を食べ終えたところで本腰を入れて、という感じに秘密会議が始まった。作戦会議と呼びたいところだけど、自分達に何ができるのかわからない以上、今から決めておけることは少ない上に、其れすらも予想してからの、こうじゃないかなということに対しての取り決め。

 男二人で息を潜め、小心者が都会の喧騒を歩くが如く、周囲をチラリチラリと確認しながら行われる其れは、もはや会議にとすら呼べないかもしれないけれど。


『とりあえずは自分に来るやつの対処は各自、余裕があるなら狙い撃ちって感じか?』


『くらいしかないでしょうね。それを如何相手に伝えるかですね。あいつを狙おうって思っても、伝える手段がなきゃ出来ないし』


『そうだな、指差すとかすりゃ警戒されるし、手を組んでるってのがすぐバレルだろうな。偶然を装いつつってのが一番だろうが・・・・・・なんかあるか?』


『うーん。んー、とりあえず。あぁ、こうしますか。横並びの状態か円状に並んだ場合を前提でってことになるけど、まぁ高確率でその立ち位置だろうから使えると思う。

 自分から見て左隣の人を狙う場合は左手を握って、こう指を一本立てる。逆に右側に一人目だったら右手で。それを相手が確認したら、相手も自分から見て同じようにする。それで相手に意思確認が伝わったこともわかるし、自分の標的の再確認もできる。もし自分が狙われてる、すぐ対処できないって時は返事は無し。普通に自分で考えての行動ってことにする。これでいけそうじゃない?』


『・・・・・・今考えたのか?それ?』


 キョトンという感じが似合わない熊さん。ポカーンとした、何処か間の抜けた表情で此方を見たままボソリとつぶやかれた言葉に、そうだよ、と答えるも、その反応は変わらない。そんな驚くことでも無い気がするけど・・・・・・でも反対する気配はないし、別案を考える必要はない、かな?


『いいじゃねぇか。それでいこうぜ』


 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた熊さんに、やっぱりこの人はこんな顔がよく似合うなぁと思った。それに頷くことで返事を返し、チラリと視線を走らせると此方に誰かが歩いてきているのが見えた。

 その方向を見たまま動かなくなった僕を見て、熊さんは「ここまでだな」と丼を持って席を立ち上がった。時間的にも最早早朝というには遅く、夏休みだったらラジオ体操に行った帰りの、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる時間。


『予選、最後まで残るのは俺達だ。いいな、相棒』


 歩き出す背中。そこから聞こえる声に僕は、声を掛けることはせず心の中で返事を返す。

 了解、相棒。

  


 

 

「―――には注意することだ。それと、敗者の処置だが、試合が終わるまではここから移動できない。これは知名度の影響と考えて貰っていい。試合が終わるまで、その八人にとっての知名度であるという状況の維持の為だ。

 本当は一対一の状況ではその当事者のみ残し、敗者には退場して貰ったほうがいいのだが、そうなると派手さが減衰する。此方の都合でそうなっている訳で恐縮だが。その場に放置するということはないから、その点は安心して貰ってもいい。

 以上で説明を終える。私が消えたあと間も無くゴングが鳴るだろう」


 健闘を期待する、という言葉で締めると、その言葉通りにその姿が消える。

 入れ替わるように聞こえてくるアナウンサーの大音声を聞き流しながら、僕は右隣に居る人物を確認する。

 大学生という感じの青年。僕より上に見えるけど、それほど大差ないだろう。きっと二十代前半。

 ゆっくりと右手を握り、人差し指を立てる。僕と熊さんの間に居るのはこの人だけ。開始と同時に攻略できれば、かなり状況を好転できる。右側からの攻撃は気にせず、左と前方だけの対処で良くなる。


「開始の準備が終わった模様です。皆様お待たせしました!間も無く予選Bの試合が開始されます!

この試合の勝者は一体誰になるのか!今!ゴングが鳴らされます!!」



―――― カァーーーーン







「《津軽》海峡」

「襟裳岬」


 先ずは様子見。とはいえある程度は知名度のありそうな物で。

 ゴングと同時に叫ぶ声は、想像道理に重なるように響く。

 言葉を紡ぐと同時に奇妙な感覚が僕の中に浮かび上がる。

 僕が口にした言葉に対してのイメージが浮かんできた後、それに溶け込むように異物が押し寄せては形を変えていく。その変化が終わると、今度はそれをどの様に扱うかという感じに。

 僕が口にした『津軽海峡』という言葉に秘められる力は五人分らしい。

 そしてその効果。雪の吹き荒れる凍てつく海に、荒れ狂うように暴れる波が押し寄せるが如く。対象を一人に選ぶ場合は効果が薄れるようだけど、それでも今はそれでいい。一人で対処しなくてもいいのだから。


 対象を一人に、と念じるように頭に思い描き、次の瞬間には右隣へ向けその力を具現化させる。

 目の前に現れる魔方陣に右手を触れると、眼を開けるのも辛い程の吹雪が視界を埋める。それに遅れてザブン、という音と共に現れたのが高さにして3メートルは在るだろう水の壁。

 弧を描くように聳え立つその壁は、まるで進むべき方向にある物を飲み込むが如く大きく口を開けた獰猛な獣を思わせる動きで、僕が指定した人物へ向けて迫り寄る。

 

「比叡山延りゃうわっ―――ぎゃふん」


 それに対応するべく言葉を紡ぎ始めた彼を、強烈な風が背後から襲う。

 僕が作り出した荒波へ向けて迫る風は、彼の体を持ち上げるほどに強いようで、反撃として対処するべく行動を起こした彼に、その言葉を紡ぎ終える時間すら与えてはくれず、無慈悲な牙を背後から突き立てていた。

 その風は僕の荒波へと犠牲者を運び、そのまま荒波にぶつかると、共食いするかのごとくせめぎあった後には、何もなかったかのごとく霧散する。


 幸先好調。熊さんの方へ視線を移すと、楽しそうに笑いながら此方に小さく頷いてくれた。

 予定通りにまず一人。これで此方側の脅威は消えた。視線を移して状況を確認する。さぁ、残りは五人。その後最後に熊さんとのタイマン。それまで僕はどう動こうか?




「開始のゴングと同時に動いたのは『予選の英雄』と『北の番人』!まるで互いを牽制するかのごとく、瞬時に睨み合った二人のその行動は、全く同タイミングでの発動となりました!

 ディストさん。今のをご覧になっての感想はありますか?」


「流石というべきでしょうか。先の試合での『最強都市』もそうですが、今年の開始早々展開が素晴らしいですね。しかし、残念というべきか、その間に立った彼は不幸にもその被害に会った訳ですが」


「この光景こそが開始の合図とでも言うかのように、選手達が動き始めましたね。その二人ですが、今のは挨拶だ、とでも言うんでしょうか。標的を変えるように動き始めた模様です」


「いい判断だと思います。両者共初撃は油断があって、食らってくれたら儲け物という感じでの攻防でしょう。このまま延々周囲を警戒しつつ互いに消耗を繰り返すには、相手が悪いと悟りうる光景でしたから」


「さて、試合ですが、何やら三人で睨み合っているのが見られます」


「残り七名。『予選の英雄』は左にいる少女と対峙し、『北の番人』も右隣の少年と、その奥では三人が相手の隙を伺いつつという感じに見えますね」





 ジリ、と小さく聞こえた音に、僕は左へと体ごと振り向く。そこに居たのは中学生か高校生と見える少女。その少女も、こちらを警戒しつつ周囲を確認している。

 奥に見える三人は、壮年の男性、大学生らしき青年、三十路くらいの女性。こちらや熊さんの方へは軽く警戒しるにとどめ、その三人での探りあいをしているという感じに見える。

 それが少女にもわかったのか、それなら警戒すべきは逆側の、という感じで此方を強く警戒しているのだろう。さて、彼女は何県の人物なのだろうか。そう考えている間に場は動いた。


「毛利元就――ん、あぁ成程。三本の矢」


 その声は少し渋みの感じられる厳格な音色。外見を裏切らない老成された響きに、即座に反応したのは二人同時だった。


「なら僕は西郷隆盛」

「っ!水戸黄門!」


 それに少し遅れて熊さんの方からも声が聞こえた。


「《魚沼》産コシヒカリ」

「ほう!なら俺は《十勝》のじゃがいも」


 その声にそちらを確認しようとした僕は、被せるように呟く声を捕らえた。



「座敷童子」



 少女の足元に広がる畳敷きの座敷。その座敷は八畳まで広がった後、黒ずんだ柱が四隅に立ち上る。その後弓のように反った梁が伸びると、すぅ、っと小柄な少女が姿を現す。

 これの効果は何だ?と僕が考えていたとき、壮年の男性の手元に矢が三本現れる。それ内二本が対峙している青年と女性へと向けられ、そして残りの一本は、僕の前にいる少女に向けられ。

 其れを確認した時には、その矢は既に加速を開始していた。

 その矢の一つは、西郷隆盛の放つ大砲を相殺し、その矢の一つは三つ葉葵の印籠を持つ水戸黄門を容赦なく貫き、その矢の一つは、その少女に届くことすらなく消え去っていた。

 



 その予想以上の結果に、僕は驚愕し、戦慄した。






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