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光国祭  作者: GT
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 物音一つしない、静まり返った空間。今現在39名の人間がいるこの食堂は、先ほどまでの喧騒が嘘の様に静まり返り、声の一つも、物音の一つも発することなくただただ静寂を漂わせている。

 その中にあって唯一の変化は壁一面に映し出される光景。其処に映し出されているのは自分達と似た風体の八人。

 中央に躍り出ている一人を囲むように動き出した五人の人影が、また動き出そうとしたところで静寂が破られる。ゴクリ、と何かを飲み込むような音に、その後の光景を既に予想していたかのような、そして正に其の通りの結果を見ても、誰一人としてその表情を変えることはなかった。


「・・・・・・ありえない、だろ。これは」


 そんな言葉が隣から聞こえたと思い、視線をチラリと移せば、あの青年が何時も間にか隣に居た。どうやら僕はそんな事にも気がつかないほどに画面に見入っていたのだろう。いや、僕だけではない。ここにいる全員が似た状態だろう。ひょっとすると、この画面の中の一人を除いて・・・・・・。






 ゴングの鐘の音を戸惑いと同時に其れを合図と捉えて動き出そうとする者が多いなかで、一人だけは待っていましたとばかりに即時行動を開始していた。その一言を持って。


「都庁」


 其の言葉が紡がれると同時に其の人物の周囲に薄い緑色の膜のような物が纏わりはじめ、其れの発行と同時に変化が起きた。

 足元に直径十メートルほどの魔方陣らしきものが展開し、そこかの立ち上るように線状の発光が迸ると共に、半透明の『何か』が徐々に浮き上がるように姿を現し始める。熱を伴わないような無骨な灰色をした、まるで高層ビルの様な形容のそれが、未だとどまることを知らずグングンと天を目指してその様相を顕にする。其の高さも、人間の身長よりも優に五倍以上はあるだろう。その動きが収まると、其の中心に居た人物は、何かを納得したような表情に変えた後


「変形!」


 と叫ぶと同時に右手を握る。と同時に其処に呼び出されたそれが、そう動くことが自然であるかのようにその形容を変化させ始める。まるでプラモデルにあるようなロボットの変形と同じように、離れては折り畳まれ、内に収納されてあるパーツが伸びることで接合するように、精密な動作でパズルのごとく汲み上げられて行く。其の動作が終息に向けるにつれ、それを行った人物の顔には満面の笑みが浮かぶ。

 そして、更に言葉を重ねるように其の人物は声を張り上げる。


「《東京》タワー!」


 其の声に反応して中空に一つ魔方陣が踊る。その中心から何かが引き出されるかのようにズズズッ、という音がしそうな速度で赤い物が顔を表す。

 円柱のようなそれを、変形の終わったであろう先程のロボットにしかみえない元『都庁』は、右腕を伸ばすと其れを掴み、一息に引き抜くように腕を後ろに引き抜く。ズルリ、と取り出された其れは、形状から見ても槍にしか見えない。それもそのロボットが持つに相応しい大きさの槍、という大きさで。それが引き抜き終わったと同時に、其のロボットは何故か『決めポーズ』をしていた。


「成程、こいつの動きは俺に連動するのか。こいつはいいな。よろしい、ならば」


 と其の人物は周囲を見る。唖然として事態を見ているしか出来ずにいた一人を見つけ、ニヤリと笑みを浮かべながらに其方に体の向きを変えると左足を踏み出し右腕を突き出すように前で振る。


「ぎゃふん」


 という声と共にそこに居た人物が座り込み始める。その結果に満足そうに頷くと、次はと視線を移す。キョロリと視線を移した相手は、其の人物と視線がぶつかったと同時に硬直した。其の様子は宛ら蛇に睨まれた蛙。しかし其の蛇は舌を出して威嚇することはせず、それ以上の恐怖を体現しながら笑みを浮かべているだけ。そしてまた右腕が振られると同時に「ぎゃふん」という声が上がる。

 それは誰が見たところで圧倒的な光景だった。

 未だ開始して数秒。まだ一分すら経過していない。であるのにこれだけの結果を築き上げてのけたのだ。

 そして、其の人物は顔に貼り付けた笑みを絶やさぬままに次の獲物を求める狩人として、再び行動を再開し始めていた。









「瞬殺!これぞ『最強都市』!!ご覧ください!その名の通り圧倒的な結果となりました!このまま一方的な展開となるのでしょうか!?」


「素晴らしいですね。開始と同時の発動。そして見てください。今。二人目の青年は土下座しながらぎゃふんと言っています。心躍る光景です。え?そんな感想は聞いてない?

 しかし今年の『最強都市』の選手ですが、これまでの選手よりも判断と行動の早さが違いますね」


「これはひょっとすると『最強都市』一人で他の選手全員を相手取る、という試合になりそうですが、ディストさんの考えはどうですか?」


「そうなるでしょうね。他の選手が勝ちあがるには手を組んででもまず『最強都市』を落としたいところでしょう。現在見られるあれは召還によるゴーレムでしょうか。それとゴーレムが手にする武装も召還でしょう。複合での魔法行使を容易くこなしている辺り、底が見えません」


「おぉっと!『最強都市』が動きました!追い詰められた相手は未だ動きが見られません!これは決まるか!」


「・・・・・・いえ、これは状況が変わりそうですね」 



『鷲宮神社!』

『西郷四郎!』

 


「アァァァアアアアっと!ここで動きがありました!」


「一人が槍を、一人がゴーレムを。攻撃動作に入り標的を固定した一瞬の硬直、正にそこを突くように狙いすました結果でしたね。しかし・・・・・・」


「そうです!!それでも動くのが早かったのは『最強都市』!!これで単独撃破三名!!そしてご覧ください!! 構図から見ても『最強都市』対残り四選手という形でしょう!

中央に躍り出ている状態の『最強都市』。其れを囲い込むように動く残りの四名の選手。こうなるとこの先は今までのようには行かないのではないでしょうか?」


「今ので空気が変わりましたね。どの選手も目つきが変わっています。その点で見ても今の二人の行動は結果的に相殺でしかないでしょうが十分な戦果でしょう。楽しみですね」









「圧倒的・・・・・・だな、これは」


 隣から聞こえる声に、僕は声も出せずに頷くしか出来なかった。

 最初こそ周囲の反応が遅れている隙を突いただけであろう。だが、その後に続いた光景は、状況こそ違えど結果は何も変わっていない。唯一人による蹂躙。

 考え方がまるで違う。僕のような地方だと有名だと思えるものが少ない。それこそ小出しに、状況を見て、先を考えて選ぶべき言葉を、其れこそ湯水の様に次々と紡いで行く。そして其の一つ一つが膨大な魔方陣に変わり、そして周囲を飲み込むように脅威を振りまく。

 もはや反撃すらできていない。好くて相殺。そう、好くて起こせる結果がそれだけなのだ。

 減殺しかできない相手が、次の一手を打つ前にその魔法に飲み込まれ、一人、また一人と戦線離脱を始める。そうして、今最後の一人が相殺出来ずに、迫り来る魔法に


『圧勝!!圧倒!!圧巻!!これぞ『最強都市』!!これこそが『最強都市』という言葉を体現した様な光景!!其の中でも今年は過去に例を見ない程異例の強さ!!疲れなど微塵も感じさせない余裕の佇まい。観衆の熱狂もこの試合の凄さを物語っているかのような盛況さ。今年の光国祭は例年にない程盛り上がるのではないでしょうか!!

 それでは解説のディストさん。今回の試合ですが――――』


 

 勝てる、という考えが僕にはどうしても浮かばなかった。それも仕方ないの一言で片付けるのもどうか?とは思われるかもしれないけど、実際これだけの差を見せ付けられた後だと誰だってそう思うんじゃないか?と思う。


「いやぁ、なんつーか。デタラメだな。単独撃破?改めて東京のチートっぷりが浮きだったな」


「それだけじゃないのが、またね。解説の人も言ってたけど、判断が早い。

 確かに東京は知名度高い。でもだからといって無限じゃない。有限である以上短期決戦が勝敗を握るんだろうけど、正に其の通りに事を運んでたし。

 囲まれたから、というより、最も警戒されるってのは言わなくてもね。其の点でみてもあの行動の早さは」


「だな。出し惜しみなく怒涛の連呼。あれじゃぁ、な」


「出来れば予選の内にもう少し手札を減らしてくれてればって思うけど、あれ見ちゃうとどうにもならなかった様な気がする」


 渋いとも苦いとも言えるような表情で、溜息しか出ない口を無理やり開いて、という感じで話し始める。

 考えてもしょうがない。次は僕の出番なんだ。この先考えるのは予選で勝ち残れたらにしよう。

意識せずとも零れそうになる溜息を苦笑に変えて、無理やりにでも思考を切り替える。


 先程の試合を見て少し考える。魔法の発動。

 誰しも最初の時こそやや戸惑いながら、という感じであったが、その言葉を言い終えるや何か納得したような表情に変わっていたこと。使う前は結果がわからずとも、それが魔法となる時には其の効果を把握しているように見えた。

 僕の予想としては、発動と同時に知識の取得もしているんじゃないか?という感じ。

 それともうひとつ。

 地名。これだけでは魔法が発動しなかった。が、変化がないわけでもない。見た感じではブースターのような気がする。

 その土地の特産物、という感じの言葉にすると、明らかに効果が違っていた。そして其の方が『聞く相手』も良く把握できていたような印象があった。

 

 視界に映る映像には、すでに先程まで居た八人の姿が消えていた。

 残されたのは、アナウンサーの顔を赤くして叫ぶマシンガンの様な言葉と、其れとは対照的な空気を纏った解説の男性。そして半狂乱という感じのその他大勢。



「思いのほか早く終わってしまったが、まぁ見ていただろう。君達がこれから行う物がどういうものかというのは、今見たものが全てだ。

 これが『光国祭』。この国一番の宴だな。流石に今のは一方的な結果だったが・・・・・・。

 さて、これより予選Bの試合に移る。選手の八名は此方に来てくれ」


 またもや何時の間にか現れていたその人物の声に、僕はいよいよ始まるんだな、と覚悟を決める。流石にあんなの見た後だとやる気も、ねぇ。優勝は無理だよな。

 

「負けんなよ~」


 という何時の間にか馴染んでしまったその声による投げやりな声援を背中に受けながら、僕はゆっくりと進み始める。歩く途中で誰かが横に並んできたが、其の体格から誰であるのか直ぐに悟ると、其の相手の口元にある笑みを見て、僕も同じような笑みを返す。


「揃ったな。それではこれより予選Bの選手にはコロシアムに移動して貰う。先程も言ったが繰り返し説明する。一人づつ、二分置きに移動して貰う」


 一様に頷く僕らに、軽く答えるように頷いた相手は、暫く目を瞑ったかと思うと、厳かなな声音で次の宣言をした。






「まず一人目。青森県」






 予選開始。


 放送禁止用語とか、どの辺まで大丈夫なんだろうか?と考えると手が止まります。ネズミの国とか、ネズミの国とか。社名とかもまずいのかな?


 誤字脱字、指摘感想、意見や批判、ありましたらよろしくお願いします。

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