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光国祭  作者: GT
2/16

 気がつくと、周囲は薄暗くなっていた。寝たのが昼過ぎのはずだから、かれこれ6時間以上は寝てたのか?と考えていたが、なにか違和感を覚える。単純に夜の暗さというよりも、何処か閉鎖された部屋のような?


 そんなことを考えていると、不意にガサリ、という音が耳に飛び込む。

 母親か?と思い、ゆっくりと瞼を開いていく。それと共に視界に入ってくる景色に、あぁ、僕はまだ夢でも見てるのかもしれない、と思った。


 広さ的には学校の教室を三つくらい繫ぎ合わせたような無駄に広い空間。天井はそれほど高くなく、壁も床も全て石作りの部屋。入り口と思われるドアは木製で、其のほかに窓などの開口部は存在していない。そんな暗い部屋を照らしているのはいかにも前時代的な火の揺らめき。ランプではなく松明のような篝火であった。


 そして、そんな部屋には僕の他にもかなりの人数が居た。が、そこにいる人全員は意識を失っているかのように体を横たえたまま動く気配も無い。キョロキョロと視線を彷徨わせ、顔や体つきを確認してみるも、知ってる人など誰もいなかった。はて?これは本当に夢なのだろうか?とも考えてみたが、それ以外にこんな場所に自分が居る理由がない。あんな拷問のような帰省を体験した後なのだ。こんな不思議な夢を見てもおかしくないのだろう。そんなことを考えて僕は無理やりに納得しようとしてみた。


 何時になったら目が覚めるのだろう?とやることもなくぼーとしていた。それが打ち切られたのは、僕の他にも体を起こし呻っている人の声が聞こえた時だった。ぱっと見た感じの印象は好青年、歳は僕より上だろう、二十台中盤か後半。ゆっくりと頭を振りつつ、僕が体を起こしたときにした行動と同じことをしていた。と、その視線がふいに止まる。理由は簡単。其の視線の先では、僕がそちらを見ていた為。視線が交差する。


「ここは・・・・・・夢か何かか?」


 そんなことを目の前の青年は話しかけてきた。やはりそれ以外考えられないだろう。うんうん、と僕は腕を組み、自分の考えは間違っていないことに感慨深げに頷いた。そんな僕を目の前の青年は、何か胡散臭い物でも見るような視線で見つつ、「まぁ、夢だしな」とぼそりと呟いた。あれ?ちょっと胸が痛い。


「君は誰だ?俺と何処かで会った事あるのか?」


「いやぁ、僕はここに居る全員見覚えないんだよね。夢だとしても、そんなことあるのかなぁ?」


「他の・・・・・・。俺も誰一人わからんな。なんだこれ。変な夢だな。ちなみに君の名前は?」


「僕?僕は―――あれ?名前思い出せねぇ。どーなってんだ?ちなみにそっちの名前は?」


「名前が思い出せねぇって・・・・・・、いやいやいや。なんだこれ。俺も自分の名前がわからんぞ?」


 どーなってるんだ?と二人で顔を見合わせる。と、其の話し声が思いのほか大きかったのか、周囲ではまた何人かが体を起こし始め、また僕が最初に行ったように周囲をキョロキョロと見回し始めていた。


「なぁ、こいつらも俺らみてぇに自分の名前わかんねえのかな?」


「うーん、僕たちだけ、てことはないんじゃない?これが夢だとして、誰一人見覚えないし」


 そんなことを僕と二人で、やや声音を控えて話している間にも、一人、また一人と意識を取り戻し始めていた。気がついた時にはその場に居た半数近くの人が体を起こし、何処か呆然とした表情で周囲を見回している。と、ふいに目の前の青年が立ち上がる。


「なぁ、こん中で俺のこと知ってるやつ居るか?なんでかしらねぇけど、俺自分の名前も思い出せねぇんだよ。できれば俺も、皆の名前を聞いてみたい。覚えてる名前もあるかもしれねぇし」


 ふむ、と僕は頷いて視線を巡らせる。其のやや大きな声に反応するかのように、また一人、という具合に次々と体を起こし始める人が居る中で、すでに意識を戻し、今の言葉を聞いていた人達は青年に顔を向けると、不思議そうな顔で見つめた後には、そのほぼ全員が困惑したような表情に変わった。


「私はあなたを知らないわ。てか、なんで?自分の名前が・・・・・・」「ワシも見覚えが無いのう」「おじさん誰ー?」「いやいや、お兄さんだ。お に い さ ん。な、まだ若いだろ?おじさんじゃないだろ?さわやかだろ?」「何気にしてんだ?てか、なんだここ?名前?どーなってんだ?」「私も面識ありませんねぇ」「フヒヒ、カオスカオス」「名前・・・・・・」「てか、あんただれだよ。俺は・・・・・・?はぁ?どーなってんだ?」


 徐々に収集がつかないほどの喧騒に発展し始め、それと共に意識を取り戻して体を起こし始める者の速度も上昇を開始。ちょっとした騒ぎが始まって二分もしない内に、ここに居るであろう全ての人が体を起こし、辺りに聞こえる会話を耳にしてか、自分もと考えるような仕草をしたと思うと、やはり全員が困惑の表情を浮かべていた。


「だぁ!一回ストップ!落ち着け!整理しよう整理!そこのガキ!何だうっさいおじさんってのは!心に響くんだよ!やめてよ!いや、やめろよ!なんだよ!隣の姉ちゃんまで!地味に痛いんだよその言葉!いや今はそれはいいよ、うん。ギリギリ我慢できるし。それよりまずは整理しよう!」


 笑い声と共に指まで指されたり、何か可哀想なものでも見るような視線を向けられたり、どこか神妙な面持ちで現状を推理しているように無視されたりしながら、青年がその場に胡坐を掻いて座ると、すっと指を一本立ててから口を開いた。


「解ったことから確認しよう」


 そう切り出して始まった内容はこんな感じ。


 まず、やはりというか全員が自分の名前が解らない、または思い出せないということ。

 互いに顔見知りという人が居ない。似たような人という感じはあるが、話してみるとやはり知らない人であるとわかるだけで、誰一人として互いに覚えているものは居なかったこと。

 年齢、性別もまちまちで、下は十二歳から上は65歳までと、規則性が見受けられないこと。

 職業的な統一性もないだろうということ。学生がやや多いが、普通科の人がやはり多いというのは問題無いとして、専門科目の人も数人おり、社会人にしても平の人、管理職の人も居り、専門技術職の人も同職の人が居たりと、そこにも規則性は見受けられなかった。社長は何故か居なかった。


「こんくらいか?他なんかあるか?」

 

 そんな感じで、現状解る事を纏めて話した後、他には何かあるかと声を掛ける。

 ふむー、と僕は小さく呻りながら考えてみる。確か盆休みで帰省して。その時の疲れでぐったりしてたから、着替えもせずにベッドに―――

 そういえば、あの時何か違和感感じてなかったっけ?確か模様のような何か・・・・・・


「ちょっと聞いていいかな?えっと僕がこの夢?の世界に来る前、帰省で疲れてベッドにダイブする時にさ、何か変な模様?なんていえばいいのかな?とにかく、その時違和感があったんだ。疲れてて気にするほどでもないかって思ったんだけど、皆はそんなことなかった?」


 そんな僕の言葉に、首を捻る人が大半だったなか、何か思い出そうとしている人が数名いた。それを見てあれが何か関係あるのか?と少し考えてみる。


「ねぇ、それって、なんか丸い、緑色っぽいやつ?」


「ん?あぁ、色は覚えてないけど、確か丸っぽかった気がする。」


「私も見た気がします。ぼやけて見えたけど、緑色で、丸というか・・・・・・うん、丸っぽかったです」


 そんな会話にうなずいている人が何人かいたけど、全員が見た、ということでもないらしい。しかし、それでも偶々ここにいる数名が同じ経験を、と考えるほうがなにか奇跡的体験な気もする。もしくは、考えたくないけど意図的な・・・・・・。


「他なんかあるか?なんでもいいんだ。とりあえず何か意見をくれ」


「・・・・・・出身地は?これはどうも忘れてないようだ。ちなみに私は生まれも育ちも今現在住んでいる場所も福島県だ」


 其の言葉に成程と頷きあい、僕は、私は、俺は、ワシは、オイラは、うちは、と明々好き勝手に話し出す。「フヒヒ、カオスカオス」という呟きが聞こえた気もするが、確かに其の通りな光景だった。


「だぁ!ちょっと待てって!一旦落ち着け!こらガキ!またお前か!お兄さんだ!次おじさんって言ったら泣かすぞ!ちょ、隣のお姉さん、何その二人でアイツ泣かそうかって。ほんと勘弁してください!いやそうじゃなくて!とりあえずここ無駄に広いんだし、地方別に分かれてみよう。東北、関東、関西みたいに」


 それを聞いた皆は最初こそ戸惑いはしたものの、一人が立ち上がり、また一人が、と動き始めるとこっち北陸ー、とか、九州はこっちー、北海道どーすんだ?とか口々に言い合いながら移動を始めた。移動が終わったころ、その小集団ごとに会話をしていたとき、そのうちの何名かは、そこにある規則性に気が付いた。


「・・・・・・もしかして、各都道府県毎に一人づつ、てことか?」


 そんな呟きが誰かの口から漏れた。それは確かに呟きにしか聞こえないような声量。だが、誰一人としてその言葉を聞き漏らしたものはおらず、其の瞬間に今までになかった静寂が生まれた。

 

 そう、そんな時だ。まさにその瞬間を待っていたかの如く、この部屋に一つしかないドアがギイィ、と不気味な音を立てて、ゆっくりと開き始めた。ゴクリ、と誰かの喉が鳴る音が聞こえ、辺りには一瞬で緊張が広がる。


 カッ、カッ、カッ


 と靴を鳴らしながら歩く音が聞こえ始め、そのドアの向こうから明かりが此方に近づいてきているのが目に映る。その明かりは入り口の側まで来たとき、不意に掻き消え、其の数秒後には謎の人物が部屋の中へと入ってきた。其の人物は入り口を潜ると此方に視線を移し、ゆっくりと右腕を持ち上げる。そして、先ほど呟きが聞こえた方を指差す。


「・・・・・・大正解」


 そういうと、再び入り口の方へ体の向きを変え、歩き出すとまた元のようにドアを閉め。


「・・・・・・何だったんだ、今のは?」


 其れに対してその場に居た全員が首をコトリと傾げ、誰一人答えることもできず、そんな謎な対応をするためだけに現れ、其の後すぐ消えていった男が出入りしたドアを見続けていた。





 各都市=都道府県 での変則魔法合戦です。

 次話はルール等の説明に移りますが、奇抜さのみ目立つ為それ魔法でいいのかよ、という意見も出るかと思います。まぁ、うん、僕も思います。

 誤字、脱字のご指摘、感想、意見等ございましたらドンドン送ってください。

泣いて唄って踊って喜びます。

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