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光国祭  作者: GT
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眼が覚めると、体が悲鳴を上げるようにあちこちからの痛みが襲い、原因はと考えるのも馬鹿らしいほどに、硬いフローリングに横たえてある体を起こす。確かに寝相が悪いと言われることはあるのだけれど、しかしベッドから落ちて床にというのは初めてで、それを思うだけで心に遣る瀬無い気持ちがわきあがり始める。

 それでも何とか立ち上がり、しかし何をする気力も湧くはずもなく、考えることすら面倒だとまたその体を横たえる。そこは勿論先程までと同じ場所ではなく、起き上がるまでそこに居たと思っていたベッドの上に。

 十分な睡眠を経ての目覚めというよりも、むしろ体の痛みに眼が覚めただけとでもいうように、横たえた体は睡眠を求めるようにゆっくりと睡魔を迎え入れている。それにこのまま沈みこもうとしている微睡の中、思い出すように浮かび上がる景色に、そういえばそんな夢を見ていた気がするなと、また見れるといいなと、そんなことを思いつつ、ゆっくりと睡魔は意識を奪い―――

 

 


 

 朝を迎え、ポカポカというよりはジリジリと炙るような朝の日差しに眼を覚まし、十分な睡眠に疲れの癒えた体を伸ばし、それと同時に詰めていた息をふぅと吐き出しゆっくりと起き上がる。

 さて今日は何をしようかと、帰省後の初日だし、ノンビリと家でだらけようかなぁ等と考え始める。

 立ち上がり、のそのそとパソコンを据えている机まで歩き、電源を入れると椅子に座る。

 お気に入りの一覧を眺め、一番下にある項目に、こんなページ登録したっけ?と首を捻りつつも、それがどんなサイトだろうかとアクセスするべくマウスを操作しポインタを走らせる。

 画面に現われたのは、シンプルなデザインに纏められた文字数の少ない簡素なデザイン。

 その中央にある文字は、お気に入りに登録されていた文字であり、その文字はリンクが張られていることを示され、とりあえずこれをクリックとその文字へとポインタを走らせる。

 クリック後現われたのは、メッセンジャーに似たタイプの集合チャットの画面。

 そして、参加者の名前の欄には在籍者を示す、五名の名前が見て取れた。其の名前もハンドルネームだとは思うのだけれど、まるで自分の所在地を示すかのようにその参加者の欄に見られる名前は都道府県の名前が並んでいた。


 青森

 沖縄

 神奈川

 東京

 宮城


 そこで自分が名前の入力もなく青森として参加していることに気がつき、次いでどこかでこんな名前の並びに見覚えがあるように感じ、次いで現われた文字に、ゆっくりと記憶が浮かび上がってくる。


神奈川 「よう、準優勝おめでとう」


 見知らぬ部屋で目覚め、気を失う人々に困惑していた時、一人だけ置き上がるとそこで初めて話をした男の姿。


宮城 「久しぶり、でいいかな。まだあっちでの事はハッキリと思い出せてないでしょ?」


 それからその青年とは行動を共にする機会が増え、そんな僕達の中に加わることとなった一人の女性。その青年との数日に渡る数々の遣り取りが浮かび上がって来ては笑いを誘い、または哀れみを誘い。


沖縄 「こちらでは始めましてですね」


 どこか通じる部分を感じる少年と、それまで感じてきた胃の辛さを忘れるように色々話していた場面が浮かび上がり、画面に浮かぶ言葉にすら、何処か優しい気持ちになれる気がした。


東京 「さっき聞いたんだが、野生の孔明はお前だって?」


 最強の名で呼ばれ、その名の通りの圧倒感を誇り、ただ在るだけで脅威という一人の男の姿。


 そして僕は、いまだ次々と浮かび上がる記憶に様々な感情を抱きつつも、その場に居る僕以外の人へと言葉を返すべくキーを叩いた。


青森 「おはよう。久しぶりって言うより、ただいまって感じ」






東京  「それで優勝の賞品に何を望んだんだ?」


神奈川 「世界平和」


宮城  「氏ね」


青森  「死んで詫びろ」


沖縄  「嘘ですね」


神奈川 「皆ひどくない?」


宮城  「似合わないってよりも、ありえないわね」


青森  「ほんとそれ」


東京  「勿体無い」


宮城  「それにしても、こっちに戻って記憶が残るとは思ってなかったわ」


青森  「あぁ、確かに。あっちで五日も過ごしたしねえ」


神奈川 「あぁ、それ俺のおかげ。褒めてもいいよ」


青森  「てーと?あぁ、賞品か。てことはやっぱあっちでのことは記憶に残らない

    ようになってたの?」


神奈川 「らしい。つっても媒体を経由してって条件が付いたけど。ここのサイト

    辿りつければ思い出すって感じにするのが限界っぽい」


沖縄  「願いを叶えるにしても、其の全てに対応できる程魔法とは万能では無いと

    いうことですか」


東京  「もしや、俺の願いも無理だったのか?」


神奈川 「いや、それくらいは余裕でできるっぽいぞ。それ聞いた王様が嬉しそうに

    笑ってたってさ」


宮城  「・・・・・・あの国は滅びるべきだと思う」


東京  「それにしては、敗者への罰則とかあるんだが。あれ系の呪縛的な方が魔法

    は向いてるってことか?」


神奈川 「ぶっちゃけあれ嘘だってさ。なんてーの? モチベーションってーか、

    やる気にさせる為?」


東京  「mjd?」


宮城  「え、それ本当?」


青森  「言わされただけらしいよね。ほんとあの人苦労人だよね」


神奈川 「待て。ちょっと待て」


青森  「ん?」


神奈川 「お前それ何時から知ってた?」


青森  「あぁ、予選前?」


神奈川 「言えよ!聞いたすぐ後に俺にも教えろよ!何で黙ってんだよ!」


青森  「そうなりそうだからだよ。例えばだよ? 予選前に優勝優勝言ってやるき

    漲らせてた欲望の塊みたいな男が、そんな罰則があるにも係わらず急に余裕

    そうな態度で「あーやられちゃったー」とか言って負けて清々したみたいな

    ことになってごらんよ。何かあると思うでしょ?」


宮城  「うん、無いね。確かにそんなの見たら色々疑いたくなるわね」


沖縄  「罰則はブラフ、下手をすれば褒賞ですらもと思いますね」


神奈川 「何これ、何この空気。もしかして俺あやまらないといけない流れ?」


東京  「死んで詫びるべきだと思う」


宮城  「東京がいいこと言った」


青森  「もう一度、あっちに行って同じことを出来るとしたら、皆はどうする?」


神奈川 「あー、どうだろ。確かにあれは楽しいっちゃー楽しいんだけど、また知ら

    ない奴ばっかに囲まれるってのもなぁ」


宮城  「うーん、私はあんまり行きたいって気にはならないなぁ」


東京  「今度こそは優勝する」


沖縄  「まず無理な話なんでしょうけど、もう一度行けるのだとしたら、また行き

    たいとは思いますね」


青森  「色々裏事情というか、知られて無い方がいいこと知っちゃってるしね。

    でも行けるとしたら、僕も行きたいね。あれは、楽しい。でもだからこそ、

    僕以外の誰かにもあれを体験して欲しい」


神奈川 「あー、それは解る。ほんと最後のあれ時間を忘れてたって感じだったし」


宮城  「ほんとちゃっちゃと終わらせて欲しかったわ」


東京  「上に同じ」


神奈川 「いい事言ったのに。青森がいい事言ったのに」


青森  「フヒヒ」


東京  「フヒヒ」


宮城  「フヒヒ」


沖縄  「乗りませんよ」


神奈川 「何この無駄な流れ」


青森  「まぁ。とりあえず僕は今日暇だけど、皆はこの後どーするの?」


神奈川 「俺も特に予定はないな」


宮城  「私は昼過ぎには出かける」


東京  「外せない用事があります」


沖縄  「もうそろそろ学校に行かないといけません」


青森  「それじゃあ時間の許す限り、色々話しよう」


 カタカタと鳴るキーを叩く音。時折聞こえる笑い声や、相槌を打つように間延びした声、驚きを示すやや大きめな声や突っ込みを入れるようにそれは無いという言葉を発しては、またキーを打つ。

 それは一人減っては一人増え、また一人、二人と増えては一人消えと繰り返しつつも昼を過ぎ、夕暮れの日差しも消え去り、夜を迎えてもまだ続けられていた。


 ふと気が付くと、もう間も無く日付が変わるという時間を示す時計に、ほぼ一日中こうしていたのかと驚くと同時、それ程の時間話ても未だ話したいことの多さに改めてあちらで過ごした数日の事を思い描く。

 それでも明日は朝早くから約束があり、これ以上はと考え、今日はこれまでという言葉をキーを叩いて入力し、それに応える言葉を数秒見つめてから退室にポインタを重ねる。

 再び現われた簡素なデザインのページ。


 其の中央、先ほどまで居たチャットルームへと飛ばすリンクの張られた一つの文字。

 それは、あちらで体験した一つの祭りを指し示す、思い出深い名前。



『光国祭』



 それに数秒視線を留め。

 名残惜しそうに微笑みつつも、画面を滑るポインタはパソコンの電源を切るべく左下へと動く。

 シャットダウンという文字にポインタが重なり、その数秒後にブラックアウトした画面を確認した僕は、さて明日に備えて寝ようかなと、ゆったりとした足取りでベッドまで歩き始めた。




 

 これにて光国祭の完結です。


 今作が私の処女作なのですが、その、拙い部分が多々目に付いたかと思います。

 このサイトを知り、様々な物語を読み、それに影響を受け自分でもと思い挑戦してはみたのですが、なかなかに頭に思い描く情景や背景、光景や状況を言語化するというのは難しく、さらに単調にならないように語彙を選ぶというのにも四苦八苦し、それでも出来る限り良くしようとは頑張ってみたのですが、どうもこれが現状私の限界っぽいです。

 

 別作にも着手しているのですが、あちらはガラリと雰囲気を変えて頑張ってみてます。何処までの物を綴れるか、おっかなびっくりという心境ですが。


 これまで拙作をお読み頂きありがとうございました。

 今後も何処かで出会えましたら、また物語の終わりまでのお付き合いを。

 



 

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