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本戦前半です。
「《鎌倉》鶴岡八幡宮」
「羽田空港」
鐘の音の鳴り止まぬ開始直後。
ワンテンポの差が辛うじて分かる速度で、神奈川の言葉に東京は反応し、即応する。
瞬時に出来上がる直線の道は、東京の男の足元へ伸び、巨大な門構えの如くその間に立ち昇る朱色の鳥居が現れたと思うと、神奈川の青年の足元から寺社仏閣らしき建造物が形作り始めている。
それが形作るそこへ、ジェット音が飛び込むと同時、それらの光景はすべて霧散して行く。
「津軽富士 岩木山」
「東京湾」
海原の如く広がる白い雲を突き抜け、其の威容を誇るように隆起し、聳え始めるその真下。
重なるように展開された魔方陣は、それを飲み込むように水没させる。
「《仙台》 七夕祭り」
「隅田川 花火大会」
視界が広範囲で暗く闇に捉われるように、数メートル先を辛うじて見通す事が出来るというそんな中、中空に光が現れたかと思うと、それは色彩も鮮やかに、豪華絢爛たる極彩色へと彩りを変え始めていた。
それに視線を奪われるように釘付けとなろうかという時に、轟音が轟く。
中空へと向けられた視線、其の先に華が咲く。
その上空に見える華は、中空に浮かぶ極彩色を打ち抜き、其の後に出来た通り道を抜けた物であるらしく、次々と上がる光の筋は、その数を数える気力も暇も無い程に次々とその数を増していた。
「知名度対策をしましょう」
その一言に、昼食を取るべく同じ卓へと腰を据える、本戦出場者であり、東京都以外の四名へと僕は言葉を掛ける。
「それはいいけど、何やるんだ?」
うまそうに焼き上げられた肉にがっつきながら、神奈川の青年が声を発する。
「知名度の判定はその闘技場内の選手に因る。
ある程度知名度が低そうな物は、ここに居る五人で情報を共有させて補完しておけば、魔法の効果が上がるということでしょう」
少年らしいというか、ハンバーガーを片手に、しかしがっつくことはなくゆっくりと咀嚼していた沖縄の少年は、流石というか説明無しに僕の言葉を飲み込み、その先を補ってくれる。
それにほー、と感心している青年には、何故か微妙な物を見るような視線を向けてしまう。いやまぁ、今までの反応もそんな物だったはずなんだけどね。こう、出来る人間を見ちゃうと、なんというか、なるよね。
「東京を出来るだけ早めに落とす予定なんでしょ?
てことは、その対策ってのは、其の先を、ここに居る五人になってからの事を考えて?」
少し納得がいかない様に、僅かに表情を曇らせながら話始めた宮城の女性に、ゆっくりと首を振り、其の間に言葉を纏める。
「東京のそれは、厭くまで予定でしかないんだよね。確定できるほど甘い相手じゃないってのはいうまでも無いだろうけど。
僕が考えているのはその予定が外れた場合の対策、次善策でも代行策でもない、敗走の仕方って感じかな。備えあれば憂いなしって言葉の方が聞こえがいいかな」
その言葉にあぁ、成程と今度は苦い表情で納得を示した。
「取り囲んだとして、そっからはどーすんだ? 一斉攻撃?」
思いつく事を思いついたままに、という感じで話し始める神奈川の青年。
そこが確かに考えどころなんだよなぁ、と考え込んでいた僕は、「誰か意見は無い?」と言葉を周りへ向ける。それに応えたのは宮城の女性。
「一斉攻撃もいいだろうけど、それだと予選と同じ結果になるんじゃない?」
そうなんだよね。一度、そんな場面あったよなぁ、とその光景を思い出す。
予選Aでの試合、囲みこむように東京都の周囲を六人が位置取ったと同時、各々が意志を統一することもなく発した言葉は、ほぼ同時だった。
それに対する東京都は「東京ドーム」の一言を持って、そのすべてを無力化し、次いで発した言葉に捕らえられた一人を打ち破っている。
考えられるのは
「東京ドーム」の効果が切れる前に到達した、それら全てに対して同じ効果をもって反映し、其の全てを相殺した。
「東京ドーム」の効果が、時間防衛であり、時間切れ前に全ての攻撃が到達し終えたがためにその全てを相殺したのか。
前者なら、一斉攻撃にメリットはない。
こちらは五人が結託して対東京用の手札を増やしているのに、それを繰り返すしかないとなると結託して増やした手札も、湯水の如く浪費していく。
後者なら、タイミングをずらす事で解決はするが、その合間がネックとなる。こちらがタイミングを見計らっている間にも、あちらは手を休める理由が無い。そすると後手へ後手へと周り、連携が取り辛くなるだろう。
「立ち位置さえ上手く取れば、時間差が一番いいと思いますが」
沖縄の少年の其の言葉に、僕は視線を向けて先を促す。
「五人、ですから五芒星をイメージして貰って。
その頂点の位置に各々が位置取り、そこから一筆書きの流れで、順番に攻撃をすれば。
前からの攻撃に対処した次は、後ろからの攻撃が始まり、それに対処しようと注意をそちらに向けた後は、また後ろから。その繰り返しで行ければ、悪くは無いと思うのですが」
成程と頷きながら、それが一番良いように思う。これ以上はないと思うほどに。
その僕の満足気な頷きに、少年も誇らしげに表情を緩める。いや、僕が納得したからといって、他の人も納得しているとは・・・・・・思えない訳ないですよね。少年以上に僕の頷きに、これ以上考えなくても良くなって幸せ、ってはっきり顔に出る位安堵しているし。何だろう、僕が決定権を持ってるみたいな空気になってない?失敗したら全部の責任は僕?・・・・・・胃が痛い。
そんな中で、聞き役に徹しているように少し表情の明るい宮崎の男性に、「聞いてて、何か思いつく事は無いですか?」と僕は質問をぶつけてみるも、ゆるりと首を振り、また僕達が会話を再開しても、そのまま聞き役に徹して、相槌を打ったり、少し困った顔を見せるだけで、積極的な参加は見られなかった。
思えば、その時もう少し疑問を持っても良かったのだ。
東京の早期脱落作戦を予定していると話す僕達を優しく見守るような視線に。
自分ではこうしたい、こうすれば等、まるでそれに意識が向いていないように考えを口にしない事に。
試合開始の時、互いに視線を交わして頷き合うその時に、其の視線が向けられていた先が何処へと向けられていたのかを。
「《宮崎》 地鳥」
「《上野》 動物園」
其の言葉を聞いた後、僕は次の人はと沖縄の少年へ視線を向け、其の少年の顔に大きく見開かれた瞳を見、その向けられた先へ瞬時に視線を切り替え、其の先で起こっている出来事に言葉を失った。
宮崎の男性は体を右に向けて言葉を放ち、そうなることが当然の如く体の向きを神奈川に向けている東京の男性。
事態が飲み込めない。思考が追いつかない。何が起こったのか理解できない。
そんな僕の境遇には関係なく時は進む。
僕と同じように油断していたのか、宮城の女性は対処できていなかった。
僕とは違い、焦りを見せつつも「小田原城」と言う青年が、何故か眩しく見えた。
そして、やはりそんな僕を待ってはくれる筈も無く、事態は更に進む。
「シーサー」
其の言葉に反応し、視線を向けた先。
沖縄の少年の体を、こちらを向いていた。
「ぎゃふん」
という言葉がその闘技場内に二つ響き。
先ほどまでの優位を浮かべた表情を翻し、振り返る東京と宮崎の男性の視線がこちらを向くのを感じつつ。僕と女性は崩れるように、その場へと沈み始めていた。