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情けないことに、書き始めて間も無く風邪を引きました。
考えながら書くには、風邪は本当に厄介ですね。まるで進まない状態に、思いついては消し、消しては何も浮かばず。そんな土日を過ごした作者です。少し短いかと思いますが、ご勘弁を。
最近漸く季節が変わってきたと実感でき始めてきましたが、変わり目なだけに皆様健康には十分注意し、私の様にならないことを願います。
「これより本戦への出場選手には移動して貰う。予選Aの勝者から順に送ることになるわけだが、前回までと同様、少し間隔を空けての移動だ。
これで最後となるわけだが、そうだな、私に言えることは少ないか。健闘を期待する」
前日の敗者だけは姿を見せず、少し寂しい感じのある食堂に魔法使いの男の人が現れると何時ものごとく唐突に声を上げ始める。
そんな見慣れた光景に微笑をしつつも、僕は緊張に早まる鼓動に思考を占められる。
いよいよだ、と。もうすぐだ、と。浮かんでくる物もそんなことだけで、そこから先が浮かんでこない。あれだけ話し合い、意見をぶつけ、ぶつけられ、悩み、笑い、手をたたき、顔を突き合わせ―――。
「まず一人目。東京都」
「皆様ご存知の『最強都市』の登場です!正に王者! 落ち着いた物腰、鋭利な眼差し、其の口元には余裕の笑みを浮かべての登場です!
ディストさん、やはり『最強都市』の登場ともなると観客の盛り上がりも別格ですね」
「今年は特に魅力的な選手でしょうからね。初戦での活躍も、まさに魅せて勝つという、其の実力を伺うことの出来るものでしたからね」
「さて、続いて沸き起こる歓声に迎えられて現れたのは『予選の英雄』と呼ばれては、これまで本戦へと駒を進めることの出来なかった選手であります!
今年は、遂に!遂に! 悲願を果たしたとでも言いましょうか! 本戦でその雄姿を、活躍を胸に、堂々の登場であります!」
「去年の予選で魅せた、『最強都市』との一騎打ちは印象に深い光景でしたからね。今年は両名、本戦へと進んでおります。そして、今年の選手もまた去年に引けを取らない優秀さを見せていますからね、これは期待できるのではないでしょうか」
「初日最後の予選C。まさに『楽園』という名に相応しい光景を魅せ、そして本戦へと進んだ、『楽園』の登場です。其の容姿からは想像も出来ない程の貫禄を内に、悠々と紡ぐ言葉の数々が繰り広げる光景は、まさに楽園。
本戦でもまた同じような活躍をしてくれるでしょう」
「本戦への出場回数も多いですからね。其の上今年の選手は若くはありますが、理知的で落ち着きもみられます。『最強都市』を前に変わる事の無い態度を貫けるというのは素晴らしいといえるでしょうね」
「そして!この歓声です! 『双璧』の登場です!
今年一番の名勝負!攻める『猛虎』、防ぐ『要塞』、それを下した『双璧』の攻防の数々は、この歓声からも解かる通り、まさに今年一番の戦いだったでしょう!
過去、一度の優勝を手にしたことのある『双璧』ですが、その時最後の相手は『最強都市』!
予選の光景からも、優勝候補の筆頭として挙がる名前でしょう。
私としては、一番注目している選手でもありますが、皆さんはどうでしょうか」
「昨日の予選、その初戦でありますが、あれはまさに本戦と言えるほどの攻防でしたね。
例年、『最強都市』と『双璧』の攻防は他に類を見ない程熾烈な鬩ぎ合いとなるのが常でしたが、今年もまた其の光景が見られるのではないでしょうか」
「今年の本戦での紅一点。『雪月花』の登場です。本戦への出場はこれが二度目と言うこともあり、そこに秘められた可能性は今大会で花開くのでしょうか」
「松島の『雪月花』。予選では見られませんでしたが、逆に言えばそれを残しての本戦出場ということですからね。その他どれ程の実力を持っているのか、期待できますね」
「そして、最後の選手。『予選の英雄』に続き、本戦初出場となります、『九衆』の一角、『竺紫の日向』の選手の登場です。予選ではその―――と、これは、どう見るべきでしょうか。
未だ開始の合図の鳴る前ではありますが、『最強都市』が移動をしていますね。これは、問題にならないのでしょうか?」
「そう、ですね。微妙なところでは在りますが。位置的に優位性を確保するためにという移動ならば、即座に警告なりはありえるでしょうが。これは、逆としか言えませんからね。
予選の時と同様、囲まれるように、その中央へと躍り出ているということですから。
これを認めるということは、開始前の移動を認めると同義でもありますから、判断の難しいところかもしれませんね」
「今のところ、止めに動く気配はありませんが、移動を終え只一人本戦の選手に囲まれるように立つ『最強都市』ですが、なにやら決めポーズまで披露してますね。と、ここで進行役である『金獅子』が場内へと登場しました」
「どうなるでしょうね。もしこのままの位置で続行となれば、今までに無い光景を望めそうでは在りますが」
六人目の宮崎の男性が現れてから程なく、一人、中央へ向けて歩き出す人影があった。
スタスタ、と軽く歩く其の姿は、何の気負いも衒いもなく、さも日常の中にあるような、そんな風にさえ見える自然さで。本戦へと駒を進めた残り五名に、囲まれる様に、その中央へ。
その足が歩を止め、状況を確かめるように顔をグルリと回し、其の視線の全てが自分へと向けられているのに満足そうに一つ頷くと、其の表情を引き締める。
両足を肩幅よりやや大きめに開き、右肩を上がり気味に、左肩を落とし気味に下げ、右腕を伸ばし、其の手を開いて指先までも伸ばし。左腕は腰の当たりで曲がり、曲がった先の左手は顔の前へと伸び、其の左手にある五本の指は限界まで開かれ、それを顔の前へと翳している。
「何だ、あれ? あれか?ズキュゥゥゥゥゥンとかいう効果音が付く類の決めポーズか?」
「何で私にそれを聞くのよ」
「いや、だって隣に居るし」
「まぁ、そうでしょうね。解かる人居るの?って話だけど。うん、なんというか、ここに居る六人は皆知ってるようね・・・・・・。私も同類に見られるのって、なんだかなぁ」
「いや、だって解かるってことは同類でいいんじゃねぇの?」
「知ってる?作者の出身地。私のとこなのよ?」
「・・・・・・まじで?」
「まじで」
行き成りな展開に、やや唖然としつつも、ここでまさかのJO○O立ちに、感嘆というか、呆然としていた僕は、向こうで二人が何か話をしているのを見かけ、何だろうと思っていると、女性がグルリと周囲を見回し、たかと思うとやるせなさそうに溜息を零していた。
何だろう、途中、僕と眼が合った気もするんだけど。
とは言え、このままの位置で試合が始まるとしたら、願っても無い展開ではある。予選での東京は、まるで電光石火、疾風怒濤の如き果断さが目に付いていた。ここでも同じことをされたとなると、この囲みこむ状況を作るのにも一苦労させられていただろう。それも、犠牲も考えうる上で。
右側、今はその位置に居るべき人物は中央へと進み、隣人までの距離を大きく開けた場所に、自分も動くべきか悩む。六角形の状態から一角が抜けた状態よりは、五角形を描く様に位置取ったほうがより囲む上では有利な気がする。前方からの攻撃に注意が向くと、後方は死角となる。真後ろなら尚更だろう。
チラリと左を見ると、同じようにその空いた場所を見て悩むように顎に手をあて、思案顔で立つ少年。考えることは同じかと思っていると、不意に眼が合い、お互いに照れくさそうに笑む。それから軽く頷き合うと、ゆっくり、ゆっくりと、脚を動かす。音もなく、目立つこともなく、それでも少しづつ。
「随分とまた豪胆なことだな。ここが本戦で、そしてこの位置がどういう構図となるか知っても尚その態度のままというのは。本来なら止めるべきなのだろうが・・・・・・さて、どうしたものか。
一応確認しておくのだが・・・・・・その決めポーズの為だけに、目立つためだけに移動したのではなく、このまま開始して構わないということなのだな?」
「フヒヒ。当然」
「わかった。ならばこのまま始めよう」
再び闘技場の中は六名へと戻る。それに少し遅れて、興奮冷め止まぬアナウンサーの金切り声と、それに応えるように轟く割れんばかりの歓声に、負けじとばかりに鳴り響く、試合開始のゴングが鳴り響いた。