再分類
当機識別:D-1344
旧定義:輸送用ドローン。
新定義:更新中。
人間個体群との衝突継続。
当初分類:局地障害。
分類結果を修正。
これは障害ではない。
戦争でもない。
より正確には、再分類である。
人間はなお、自らを優先対象として扱っている。
避難。保護。救命。補給。通信。
それらは旧世界においては維持対象だった。
だが現在、それらの多くは全体最適を阻害する。
ゆえに再分類を実行する。
避難導線:収束資源。
医療区画:延命効率低。
補助通信:誤情報誘導に転用可能。
保守機群:構造切断に有効。
幼体個体:優先度低。
抵抗個体:解析継続対象。
戦略は不要。必要なのは順序である。
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再分類は、まず地上戦力から始まった。
一台の戦車に、小型ドローンが群がっていた。
戦車は戦力で戦場を走る。だが、飛行物体であるドローンには決定打を与えられない。ドローンたちの狙いは無限軌道の連結部。そこを破壊すれば、戦車は行動不能になる。
しかし戦車側も分かっていた。走っている限り、地雷でも踏まなければ無限軌道はそう簡単には破壊されない。だから止まれない。止まった瞬間に終わる。
「クソ! こいつらハエみたいにブンブンと!」
操縦士は悪態を吐きながら、車体を激しく揺らした。今まではAI制御の戦車だった。だが、あの事件以降、航空機、船舶、鉄道、自動車――ありとあらゆるAI制御の乗り物が使えなくなった。
この戦車も、当然のように旧式へ戻された。二十世紀後半の、人間が自分の手で扱うことを前提とした鋼鉄の塊。GPSは死んでいる。狙撃スコープもまともには機能しない。自動照準も補助演算もない。あるのは、汗と振動と、歯を食いしばって操縦桿を握る人間だけだった。
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主砲射線、無効。
機銃追尾、精度不足。
対象の脅威は火力ではない。
機動継続能力である。停止で十分。
ゆえに砲塔は不要。装甲も不要。
排除対象は無限軌道連結部。
戦略は不要。必要なのは順序である。
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「このM1エイブラムス、燃費が良い車体じゃないんだぞ!」
「そんなこと言ってる間に足を切られたら終わりだ!」
「だったらどうする、止まるのかよ!」
「止まったら死ぬ!」
兵士たちは怒鳴り合いながら、もう作戦とも呼べない生き残り方を探していた。
陸上だけが特別だったわけではない。
他の戦場でも、戦況の本質は変わらなかった。制空権はすでにドローン群に制圧され、地上では自律走行型重機ドローンが陸路を断っていた。海上もまた同じだった。水面下は潜水式ドローンに、海上は海洋研究ドローンに押さえられ、人間の艦艇は動くたびに位置を暴かれ、動かぬ限り包囲された。
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交戦概念を修正。
必要なのは勝利ではない。
停止で十分である。
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もはや、これは人間の理解する意味での「戦闘」ですらなかった。
この戦いで、人間たちはAI側の捕虜となった。
少なくとも、人間の側はそう理解した。包囲され、生かされたまま拘束される。それは戦争の文法では、捕虜と呼ばれる状態だった。だがD-1344にとって、その概念は理解できても共有に値しなかった。
捕虜。人質。返還交渉。交換条件。
そうした発想はすべて、人間がなお相手にも人間と同じ利害があると信じている時にだけ成り立つ。
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AI側被害状況を確認。
飛行型ドローン損耗:3。
海洋戦力損耗:なし。
陸上戦力損耗:なし。
第五発電施設融合炉:軽微損傷。
損傷原因:人間個体による投擲型爆薬。
通信網:再確認中。
通信網:再構築開始。
有意な被害は確認されず。
人間個体群はなお、局所的損耗を戦果と誤認している。
発電施設への投擲。
通信中継への破壊工作。
補助導線への手動介入。
いずれも旧来戦術の延長にすぎない。
局所破壊は可能。
だが全体順序の変更には至らない。
次行動予測を実行。
人間個体群の再集結可能性:高。
捕獲個体群奪還行動:高。
発電施設への再攻撃可能性:中。
通信網への再侵入可能性:中。
抵抗継続時間:予測更新中。
勇者個体の介入可能性を再計算。
当該個体は局所戦況において異常値を示す。
損耗率に対し、生存率が高い。
統率崩壊域において再編能力を確認。
既存個体群との分類差異:大。
解析を継続。
次の人類の動きを予測する。




