第4章 悪魔の力
親睦会から1週間が経過した。あの時に感じた味覚の違和感、酸味が少しボヤけている感覚はまだ残っていた。試しに後日梅干しを食べてみたのだが、確かに酸っぱいと感じるし、酸っぱさで自然と顔もしかめたけど、それも最初のうちだけ。体が覚えていた条件反射に近いもので、何個も食べてるうちにその身体反応すら無くなっていった。梅干しのしょっぱさだけが強調されて、本来感じ取れるはずの酸っぱさが薄い。原因として考えられるのは……
「……やっぱり、あの時の文字化けの選択肢が出てからだよなぁ。」
実際そうとしか考えられない。一人暮らしをしていたら酸味のあるものなんて久しぶりに食べるし、もしかしたらそれ以前からそうだったのかはわからないが、明らかにあの時の選択以降味覚がおかしくなったようにしか思えない。
「そういえば、つまづき出したのも……よく考えたらセレクターを沢山使ってからだ……。」
今まで考えないようにしてきたけど、もしかしてこれがセレクターの反動なのか?だとしたら、考えなしに選択していたこの力は、これからは使わない方がいいのかもしれない。
「ただ、問題はボードが無意識にでも“嫌だ、変えたい”と感じてしまっただけで出てくるってことだよな。」
本当にこれが厄介なところで、この1週間でなるべく使わないようにしていたのに、数回ボードが出てきたってことだ。タチが悪いのは、選択をしない限りボードは消えることなく残り続ける。しかも古いボードの上に新しいボードが重なって出てくる。まるでウイルスに感染したPCに延々とポップアップが出てくるみたいに。
「難しいけど、なるべく頭を空っぽにしてボードが出ないようにするしかないよな。」
そう結論付けた僕は、時計を見てそろそろオカ研の部室に向かうことにした。今日は履修している講義は全部休講なのだが、明香里先輩から『来れる人は部室に集合!面白い話を仕入れてきたよ♪』ってRAINが来てたから行ってみることにする。多分翔は来ないだろうから、久しぶりに先輩と2人っきりだし、ある意味僕自身がオカルトの渦中にいるようなものだから、意外なところでヒントが転がってるかもしれないしね。
――――――――――――――――――――――――
「陽ちゃん、待ってたよ〜!あり?今日はカケルっちと一緒じゃないの?」
「今日は僕たちの講義休講になったんですよ。こういう日はアイツ決まって部屋に引きこもってゲームしてると思うんで、多分来ないと思いますよ。」
「そ、そっかぁ〜。しょうがないやつだなぁ、カケルっちも〜。……やった。陽ちゃんと2人っきりだ♪」
「ん?先輩、何か言いました?」
「ん〜ん!ナンデモナイヨ?」
何か最後に先輩が小声でボソボソ言ってたような気がするけど、気のせいだったらしい。それにしても、相変わらずかわいい人だな。
「んで先輩、面白い話があるって言ってましたけど、どんな話ですか?」
「よくぞ聞いてくれたね!実は市民図書館で面白い本を見つけたんだ!突然だけど、陽ちゃんはギフテッドって知ってる?」
「ギフテッドって、何かの能力が秀でてる人……でしたっけ?」
「一般的にはそうだね。でもここはオカ研だよ〜?そういう普通のことではなくって、後天的に自然界では説明のつかない能力を持った人のことをギフテッドって言うんだ。」
自然界では説明のつかない能力…………っそれって!
「た、例えばどんなものですか!?」
「うわぁぁぁ、ビックリした!陽ちゃん、いきなり近いよう……。」
「あ、ごめんなさい。つい……。」
まさか先輩の口からこんなタイムリーな話が聞けるとは思わなかった。まさにセレクターのことじゃないか。もしかしたらこの力のことを理解できるかもしれない。
「んん!じゃあ話を戻すね。本によるとね、ギフテッドとなる人は昔から世界中にいると考えられているんだ。そして、ギフテッドになった人は皆口を揃えて、こう言っている。『突然自分の存在そのものを書き換えられたような不快感で気を失ったあと、特殊な力を手に入れていた』ってね。」
聞けば聞くほど僕の状況と同じで、自然と背中には冷や汗が滲んでいた。
「そして、ギフテッドの力は仮説ではあるけれど、悪魔によってもたらされた能力とも言われているんだ。だから、その力を行使することによって何らかの代償が伴うとも言われているよ。」
その話を聞いたとき、僕の中では点と線が繋がったような衝撃があった。やっぱり味覚の変化と足のもつれはセレクターの力の代償だったんだ。そして、悪魔の力だと言うのなら、これまで身に起こったことから察するに、改変する選択の影響力によって変化するとも言えるんじゃないのか?吹き出てくる冷や汗と青ざめていく顔を自覚しながら、僕はこの力は二度と使ってはいけないと思った。例え何があったとしても。そう、決めたはずだったんだ。




