幕間 誰がためについた嘘
翔視点の幕間です。
その嘘は誰のためについたのか……
アパートに帰り着いた俺はカバンを乱暴にベッドに放り投げる。自分自身にイライラして仕方がなかった。そしてそれが何の解決にもならないこともわかっているから、終わりのない自己嫌悪に陥る。
何故、俺はあの時正直に言わなかった?俺は既にあの本を読み終わっている。それも一度だけではない。他にヒントはあるんじゃないか、見落としがあるんじゃないか、そしてアイツを救える方法が何かあるんじゃないのか。そんなありもしない可能性にかけて、本を全ページ読み返した回数はゆうに十回を超えていた。だけど、何度読んだところでそこに書かれている内容が変わるわけがない。読み終わる度に俺の心に訪れたのは、受け入れ難い事実と、深い絶望だけだった。
壁に背を預け、そのまま床に崩れ落ちるように座り込む。頭では全て理解している。あぁそうさ、わかっている。あの場で嘘をついたところで、あの場の誰にも、なんのメリットもなかった。情報を開示せず、俺一人で抱えこんで考えたところで何かが変わるわけではない。真実を告げることで、先輩と海月ちゃんの顔を曇らせたくなかった。アイツの……陽太にこれ以上過酷な運命を知らせたくなかった。いや、違う。それらは全て、結局のところ俺のエゴだ。そんなことを思いながら部室に行ったところで、皆にどんな顔をしたらいい?なんて声をかけたらいい?もう何が正解なのかわからなくなってしまい、気づいたら俺はほとんど何も発することなく時間だけが過ぎていってしまった。
「俺は一体………………何がしたいと言うんだ。」
独り自室で呟いた俺は、髪をグシャグシャと掻き毟る。その言葉は、誰に聞かれるわけでもなく薄暗い部屋の静寂に溶け込んでいき、残ったのは抱えきれない罪悪感と救いようのない虚しさだけだった。




