第3章 友の違和感
「…………じゃあ改めて、各自持ってる情報を共有しましょうか。」
30分ほどかけてようやく先輩と海月が落ち着いた。ここまでこぎつけるのに、やたらと体力を消耗したような気がするけど、やっと本題に入れる。今日は全然だったけど、翔はいつも僕と先輩の悪ノリをもっと短く治めることができて、改めてすごいやつだなと痛感した。…………今後は僕ももうちょっと自重することにしよう。
「じゃあ、まずは僕から。先輩と翔にも先に少し伝えたけど、一週間前にセレクターが発動して左手の存在感……って言っていいのかな?が今回の代償でした。目で見たらちゃんとあることは理解できるし、動かして物を掴むこともできる。でも、自分の体だと思えない感じで、例えるなら動作の一つ一つがマジックハンドを動かしているみたいに感じる。だから、ノールックで何かをしたりするっていうことが、以前の痛覚が無くなったのと併せて、危ないから基本的にできなくなったって感じかな。ちなみに、二人から見て僕の左手はどう感じる?僕の体だと思える?」
そう言って僕は二人の意見を聞いてみることにした。今のところ、海月も僕の左手を僕の体の一部としてそこにあると認識できなくなっている。果たしてこれが、海月がセレクター関係を知覚できるようになったからなのか否か、二人の意見を聞けば答え合わせになる。
「うーん、私にはよくわからないかな。ちゃんとその左手も含めて“そこに陽ちゃんがいる!”って感じるよ。特に左手だけそこにないとか、その部分だけに違和感を感じるってことはないかな〜。カケルっちはどう思う?」
「……………………俺も、同意見です。」
二人の意見を聞いてこの“僕の左手を見ることができるのに、あることがわからない感覚”を持ってるのは、僕と海月だけってことが確定した。薄々予想はしていたけどね。
「やっぱりそうなんだ。…………そこで、二人に改めて相談したいのは、今のことにも関係あるんだけど、海月のことなんだ。今回セレクターが発動した時に、今までとは違って二枚目のボードが出た。そこには“警告”って書かれてて…………今後僕が選択して変えた世界を、海月だけ知覚することができるようになるって書いていた。僕以外で左手を認識できないのが海月だけなのも、それが原因だよ。」
「………………………………!」
翔が一瞬反応したように見えた。その反応の仕方に少し違和感を感じたけど、今は構わず話を続けることにする。
「一度は海月に家に帰るよう伝えたけど、改めてセレクターの中にある悪意を考えると、多分、離れていても世界が変わる瞬間を知覚することができるんじゃないかなと思うんだ。それに、どこまでこの影響があるのかもわからないし、僕の目の届かないところで海月が巻き込まれたら、悔やんでも悔やみきれない。だから話し合った上で、僕と一緒に生活することになったんだけど、僕が講義に出ている間は、海月を部室に居させてもいいかな?やっぱりアパートにいる時に何かあっても!直ぐに駆けつけられないのは怖いから。」
「そういう事なら私は全然問題ないよ。元よりオカ研の責任者は私なんだし、私がいいと言えばモーマンタイ!海月ちゃん、後で部室のスペアキー渡しとくから、この部屋を自分の部屋だと思って使っていいからね♪」
「…………ぁ、ありがとう…………ごごごじぇます。」
とりあえず海月の問題は何とか解決したようだ。これで僕も明日から安心して復学することができる。
「じゃあ次は私かな。だいぶ前に陽ちゃんに話したギフテッドのことが書かれてた本なんだけど、もう1回市民図書館に行って調べてみたんだ。似たような本も何冊かあって読んだんだけど……ごめんね、似たり寄ったりなことしか書いてなくて、新しい情報はなかったよ。特に陽ちゃんに関係ありそうな野良の悪魔に関してはほとんど情報がなくてね〜。唯一わかったのは、日本でそれらしきギフテッドが最後に観測されたのは、約200年前ってことぐらいかな〜。」
「え、それがわかっただけでも十分凄いじゃないですか。何冊の本を読んだんです?」
「う〜ん、大体40冊いかないくらいかな?」
さすが、先輩はこの手の情報を調べあげる嗅覚が鋭いな。それに40冊も読んで正確に情報を読み取れるとは。伊達にオカ研部長の座を引き継いでいないということか。
「……………………………………。」
「翔は?」
「え?」
「翔も僕の代わりに商店街に行って古本屋に行ってくれたんだろ?あの本、僕は以前途中で怖くなって最後まで見なかったけど、何か新しい情報は書いていた?」
「あぁ…………いや、悪い。ちょっとバタバタしていて……まだ全部読み切れてないんだ。」
「そっか…………まぁ、急いでるわけでもないし、焦んなくていいからさ。また何かわかったら教えてよ。」
「…………………………おう。」
さっきから翔の反応に少し違和感を覚える。いくらなんでも、さすがに今日は様子がおかしすぎる気がする。海月と先輩がいるし、とりあえず今は触れないけど、後日改めて個人的に聞いてみることにしよう。
「じゃあもういい時間だし、今日はこの辺でお開きにしようか!…………ねぇ陽ちゃん、最後にお願いがあるんだけど…………海月ちゃんのこと、抱きしめてもいい?」
「僕は別にいいですけど、海月は?」
「ぅぅぅ………………嫌っ!」
「えぇ〜、なんで〜!?そんな殺生な〜。」
しばらく海月と先輩の問答は続いたけど、とりあえず、海月は(主に先輩に)受け入れられたようだし、今日のところは良しとすることにしよう。僕達はオカ研の部室を後にし、それぞれの帰路についた。友への違和感を残したまま。




