第2章 いつもの日常、小さな違和感
それからの僕は完全に調子に乗っていた。
心の底から嫌だと思うだけで、頭の中に選択肢の書かれたボードが出てくる。選択する時は別に声に出さずとも心で強く思うだけで完了する。他にも、大学の講義中に浮かんできたボードに対して、つい声を出して選択をしてしまい、その場にいた全員から冷ややかな目で見られて赤っ恥をかいたことがあるが、続けてボードが出てきたから慌てて声を出していない世界を心の中で選択し、僕が講義中に急に声を出したという事実は消失していた。どうやら連続の選択もできるなど、この力の自由度はかなり高いらしい。
それからの僕は何かある度に力を使った。それこそ、自販機前の側溝に100円玉が落ちない、カレーうどんの汁が服に飛び散らないなど、気が付けばこの1ヶ月で選択した回数はとうに50回を超えたと思う。余談だが、この力の名前を僕は「セレクター(選択者)」と名付けた。なぜ力に名前をつけたかというと、これだけお世話になっている力なんだから愛着を込めてっていうのが1つと、単純に英語で名前を付けたらカッコよくね?っていう厨二病丸出しな理由だったりする。こうして今日も3回ほどセレクターを使って1日を切り抜けた僕は、キャンパスのベンチで翔とだべっていた。
「何かお前、最近妙に調子いいよな。いつもだったらトチるような場面でもヘマをしなくなったし。」
「フッ……まぁ僕も日々成長しているってことさ。」
「そっかぁ……オツムはまだ弱いままだったかぁ……。」
何か今サラッと失礼なことを言われたような気がするけど、翔の言う通り絶好調の僕は気にしない。気にしてないもん……。そんなやり取りをしていたら僕と翔のスマホが同時に震えた。RAINのメッセージが届いたようだ。
「あっ、明香里先輩からだ。」
翔が言った通り、メッセージの送り主は僕たちの所属しているオカルト研究会の椎名明香里先輩からだった。
「なになに?『今日の親睦会は駅前に新しくできた居酒屋 はなの舞に決定!19:00集合だからね!もし遅れたら……タンスの角に小指をぶつけるおまじないをかけてやる〜♪』……だってさ。いつもこの人はギリギリで店を決めるよな〜。後、遅れたら云々っていう部分、多分このメッセージはほとんどお前宛てだと思うぞ。」
「え?僕ってそんなに信用ないの?」
みんなして僕の扱いが酷いような気がする。とりあえず明香里先輩に返事を返しておかないと。
「えーっと、『了解です!楽しみにしています♪』っと。いや〜、久しぶりの明香里先輩との親睦会楽しみだね〜。」
「親睦会って言っても、オカ研って俺と陽太と明香里先輩の3人しかいないけどな。」
「細かいことはいいんだよ!明香里先輩と飲めるってだけで最高じゃんかよ。」
「そんなに好きならさっさと告ればいいのに。」
そう、僕は明香里先輩に密かに想いを寄せてたりする。大学に入って間もなく、サークルの存続の危機って事で、見ず知らずの明香里先輩に泣きつかれたのが出会いだった。あんまりにも必死だったのと、完全に一目惚れしてしまった僕は二つ返事でオカ研に入ったのだ。ちょうど一緒にサークル見学をしていた翔を巻き込んで。我ながらよく翔は愛想を尽かすこともなく友達をしてくれていると思う。実はコイツ僕のことloveなんじゃね?と思って翔に聞いてみたら、ゴミを見るような目で見られたことがある。
閑話休題。
「ま、まぁその話はおいおいって事で、一旦準備もしなきゃだし帰ろうぜ!」
そう言ってベンチから立ち上がった僕はそのまま躓いてしまい、派手に転んでしまった。
「ぐふ!……っ痛ってぇ!」
「おいおい、だいぶ派手にいったな。大丈夫か?」
「いてて……大丈夫、大丈夫。ここ最近何も無いところで躓く事が多くなってきたんだよねぇ。」
「おじいちゃんかよ。まぁでも、もしかしたら変な病気かもしれないし、一応病院とか行った方がいいんじゃないか?」
「大げさだよ。自分の身体は自分がよくわかってるんだから大丈夫だって!」
「ならいいんだけどさ。じゃっ、とりあえずまた後でな。」
「ハイハーイ。また後で。」
そうして一旦僕はアパートへの帰路についた。……確かによくよく考えたらここ最近足が躓くことが増えたけど、特に身体に違和感はないし大丈夫……だよね?
一抹の不安を抱えながらも、頭の中はすぐに明香里先輩と何を喋ろうかという考えに染まり、すぐにさっきの翔とのやり取りは気にしなくなった。




