第2章 作戦会議
翔は犠牲になったのだ。
昨日翔に相談したい事があるとRAINでメッセージを送っていたから、僕たちは大学のカフェテリアに集まっていた。ちょうど今日の講義が午前中だけだったからよかった。
先ず僕はセレクターのことを相談することにした。あの時古本屋で、“悪魔の伝承”という本を見たこと、途中まで読んで怖くなったのと、ちょうど翔が会計を終えたタイミングだったから詳細はわからないけど、その本には悪魔の力についても書かれていそうだったことを話した。次にセレクターの発動について、もしかしたら条件が変わってきているかもしれない予想についても……。全てを聞き終えた翔は目を閉じ、次に言うことを少し考えているようだった。
「俺の考えとしては、まず力の発動条件について、あまり考えたくはないが、お前の予想も結構的をえてると思う。実際、先輩に痛覚のことや右目のことがバレた時も発動しなかったんだろ?あの時のお前の精神状態考えてみれば、力が発動してもおかしくなかったのに発動しなかった。つまり、人の生き死にや、大怪我に繋がることじゃないと発動しなくなってる可能性は十分にあると思う。」
「うん。それに、なんて言ったらいいのかな…………上手く言えないんだけど、なんか見えない悪意みたいなものを感じるんだ。ほら、最初の頃僕が調子に乗ってどうでもいいことに力を使ってただろ。その積み重ねで躓くことが増えたんだけど、今になってみると、あれは僕が力を使うことに違和感を覚えないようにするための試運転……みたいな感じだったんじゃないかなって。」
「うーん、………………いずれにせよ、お前が古本屋で見つけた本を全部見てみないことには始まらないかもしれないな。」
そう言って翔は頭をガシガシとかいた。ホント、翔にはいつも迷惑をかけてしまうな。
「それとな、陽太………………これはあくまでも俺の意見でしかないが、そろそろ先輩にも力のことを話してもいいんじゃないか?元々セレクターが悪魔の力だと気がついたのも、先輩がたまたま仕入れたオカルト話だったし、他にも何か似たような話を知ってるかもしれない。それに、二人で旅行に行った時にお前の抱えてたもんを受け入れてくれたんだろ?俺はここら辺が頃合いだと思うんだがな。」
「…………そうだね、翔の言う通りだよ。先輩には返しても返しきれない恩を貰ってしまったし、僕も……そろそろ腹を括るよ。」
「おぅ。まっ、俺もその時は一緒に説明するつもりだからさ。一緒にこの問題を乗り越えていこうぜ。」
「うん、ありがとう。」
そう言って向かい合った席から、翔は右拳を僕に突き出した。僕も左拳を突き出し、コツンとグータッチをする。とりあえずセレクターの調査の件は何とかなりそうだ。
「っと、そういえば今日の話ってこれだけか?確かに大事なことではあったけど、別に緊急事態って程ではないだろ?」
翔が至極真っ当な疑問をぶつけてきた。僕も思い出したかのように目が泳ぎ、冷や汗が止まらなくなる。
「それなんだけど…………実は昨日妹からRAINが来てさ、そういえば今年に入ってから全然連絡取ってなかったんだけど…………………………週末に妹が僕の部屋に泊まりに来ることになりました。」
「…………………………ごめん、何て?よく聞き取れなかったから、もう一回聞いていい?」
「…………………………妹が週末にウチに泊まりに来ることになりました。」
「……………………ちなみにお前、全然連絡取ってなかったって言ってたけど、まさか?」
「…………ハイ、セレクターのことは何も伝えておりません。」
しばらく沈黙が場を包む。滝のように冷や汗を流しながら、翔の次の言葉を待っていた僕だったが、ついに翔の脳が先に限界を迎えてしまったようだ。
「…………………………………………フッ。」
そう乾いた笑いを零した翔は、天を仰ぎながら気を失っていた。イヤイヤイヤ。
「か、翔!ここで気を失わないでくれ!ここからが今日の本題なんだ!ダメだ、いくな!僕を一人にしないでくれ!誰か、助けてくださーい!!」
こうして、理解を拒んで気を失ってしまった翔の肩を揺さぶりながら、まだまだ二人だけの作戦会議は終わりそうになかった。ちなみに、カフェテリアにいた周囲の人達からは、可哀想な人を見るような目で見られていた。




