第4章 暴かれた嘘
第2幕でついた嘘がついに暴かれる。
今日は、なんと言うか…………怒涛の一日だった。先輩の運転で遠出をして、先輩と一緒に観光地をまわって、老舗旅館に先輩と泊まってと、目まぐるしくイベントが過ぎ去っていった。まぁ、さすがに先輩と相部屋というのは、健全な大学生男子にとっては刺激が強すぎるけど。夕飯を食べている間は気にならなかったけど、二人とも大浴場で風呂にも入っているし、先輩も僕も浴衣姿だから、普段と違って薄着になっている先輩をどうしても意識してしまう。僕はこれ以上邪な気持ちを持たないよう、先輩に背を向けて布団に横になっていた。というか、普通にまだドキドキと心臓がうるさくて寝られそうにない。
改めて思い返すと、久しぶりに“純粋に楽しい”と思えた気がする。そして、2泊3日の旅行ということは、この楽しい時間が少なくとも後2日はあるってことだ。この旅行が終わった時、果たして僕はいつもの無味無臭の生活に戻れるのだろうか。そんなことを考えていた時だった。
「ねぇ、陽ちゃんまだ起きてる?」
背後の先輩から声をかけられた。お互い布団に入ってまだ15分くらいしか経っていないけど、先輩もまだ眠れないらしい。
「起きてますよ。どうしたんですか?」
「…………あのね、どうしても聞きたいことがあるの。もしかしたら、陽ちゃん嫌な気持ちになっちゃうかも……。」
一体なんだろう?僕が嫌な気持ちになるかもしれないって?考えてみたけどどんなことか検討もつかない。
「どんなことがあっても、僕が先輩のことを嫌いになるはずがないですよ。それだけは自信を持って言えます。」
「…………ありがとう。ごめんね。じゃあ、単刀直入に聞くね。」
背後から先輩が布団から起き上がる音がする。しばらくして、先輩は大きく深呼吸をしてから僕に疑問を投げかけてくる。
「陽ちゃん……もしかしてなんだけど、陽ちゃんは今、痛みを感じられなくなってるよね?」
その言葉を聞いた瞬間、僕は頭が真っ白になり、一瞬息ができなくなった。セレクターを使った時のような不自然な呼吸困難とは違う。これは、感情からくる息のしづらさだった。
え、何で!?痛みを、感じられ……なってるよねって、先輩にバレた!?どこで?何をやってしまった?見落としていた?いや、そもそもこれだけ一緒にいたんだ。気が抜けてしまった一瞬を見られた!?
目まぐるしく思考だけはフル回転していく。だけど、言葉が中々口から出てこない。何とか言葉を口に出そうとしたが、結局動揺が抑えきれずに吃るように話すことしかできない。
「え、な、ななな何で……!?」
「最初はほんの少しの違和感。甘味処で陽ちゃんがかき氷を食べてる時かな。私が頭がキーンとするよって言った時、陽ちゃん、そういえばそうだったみたいな反応したでしょ?その後も、私が数回躓いた時に庇ってくれたよね。でも、1回だけ陽ちゃん頭をぶつけてすごい音がしたのに、全く痛がる素振り見せなかったから。最初は、人前だから強がってるのかなって思ったけど…………陽ちゃんの表情が少しも歪んでなかったから。その時にほとんど確信した感じかな。もしかして痛みがわからないんじゃないかなって。」
完全に油断していた。これは僕の落ち度だ。この2ヶ月ちょっとの間、何をしても全く痛みを感じることができなくなったから、こういった時に出てくる条件反射みたいな反応が鈍くなっていたらしい。
「一つ違和感を覚えたら、何となくだけど過去の出来事にも、色々と不自然なことに気がついていく。これは私の予想でしかないんだけど、多分その眼帯の下にある右目も、油の怪我じゃないんじゃないかなって。だってよく考えたら、油が跳ねたんなら、目の周りがもっと火傷を負ってないとおかしくないかなって。」
あぁ…………………………………………もうダメだ。予想とは言ってるけど、先輩には確信があるからこそ、このタイミングで話してきたのだろう。もう、これ以上嘘で隠し通すことはできない。きっと何を言ってもボロが出る。そう思った僕は、今日ばかりは寝る時も付けていた眼帯を外して右目を顕にし、体を起き上がらせながら先輩の方を見た。先輩は微動だにせず、僕の顔を真剣な眼差しで見ている。あの翔ですら初見時は驚いた顔をしていたのに、僕の白濁に濁った瞳を見ても動揺している素振りはなかった。まっすぐ見つめてくる先輩とは裏腹に、僕は両手で顔を覆うようにして言葉を発する。それはまるで懺悔のようだった。
「…………先輩、今まで嘘をついてて……ご、ごめんなさい。僕は、先輩を騙そうとしていたとか、……そういうつもりじゃな、なくて…………でも、やっぱりこうなった原因はどうしても言えなくて…………それに、この目だって気持ち悪いですよね。こんなに白く濁ってしまって。醜いものを見せてしまって………………本当に……本当にごめんなさい……!」
耐えきれなくなった僕は、先輩に背を向け立ち上がろうとする。これ以上、この人に合わせる顔がない。大切な人に嘘をついて、あまつさえそれを見破られるなんて…………今すぐ消えてしまいたいと思った。その時だった。
「陽ちゃん待って!」
そう言って先輩は僕の腕を掴み、僕の身体を自身に向けて引っ張ってくる。そのまま僕は先輩の布団に倒れ込む形になった。倒れ込んできた僕を、先輩は壊れ物を取り扱うように、胸元で僕の頭を優しく抱きしめる。突然のことに脳がまたフリーズした僕の口からは、気の抜けた言葉しか出なかった。
「…………………………………………ぇ?」




