第3幕 試される時
先輩の運転するスポーツカーは、驚くほど危なげなかった。年式的に案の定というか、完全にMT車だったのだが、先輩のシフトチェンジやクラッチの繋ぎ方はスムーズで、本当に数日前に免許を取ったばかりなのかと思った。
「う〜ん、ずっとパパが運転しているこの車に乗ってたからねぇ。もしかしたら、体が勝手に覚えてるのかもしれないね!」
と先輩は言っていたが、だとしてもスゴすぎる。普通は見ているだけでこんなにスムーズに運転はできません。こんなの先輩にますます惚れてまうやん!というか、逆に考えると、見ていただけでここまで娘に運転を覚えさせた先輩のお父さんって何者!?そんなことを思っている間に、目的地である旅館に到着した。
「着いたよ!ここが今日から三日間、私たちが楽しむための拠点となる“霞荘”だよ!」
そこは“いかにも老舗です”っていう感じの立派な旅館だった。なんと言うか、佇まいからして威厳みたいなものが滲み出ているけど、外壁の所々に薄桃色が入っていて、親しみやすさも感じる。
「まだチェックインまで時間があるね。私フロントで荷物預けられるか聞いてくるね。」
そう言って先輩は旅館の受付に向かっていく。先輩を待っている間に、改めて旅館の外観を眺めようとしたらポケットの中のスマホが震えた。何かの通知かなと思いながら画面を見ると、翔からRAINが届いたみたいだ。
『お前今日先輩と一緒に旅行に行ってるんだろ?お土産とか余計なことは気にしなくていいから、とにかく楽しんでこい。』
どうやら先輩は、翔には今日のことを話していたらしい。僕だけ先輩と二人っきりなことを知らなかったということは、僕へのサプライズだったのかもしれない。心の中で今この場にいない親友に感謝をしていたら、続けてもう一通メッセージが届いた。
『一応言っておくけど、先輩のこと襲うなよ?』
「しないわバカ!!」
思わずツッコミが口に出てしまった。人のことをなんだと思っているのか。そりゃあ確かに、僕も男だし?大好きな先輩と二人っきりだから、ちょっとはそういうことを思ってしまうことは否定できないというかなんというか。とにかく、付き合ってもないんだからそんな不埒なことはしません!
「お待たせ〜。荷物チェックインまで預かってくれるし、車も駐車場に置いてていいって〜!荷物預けたらここら辺歩いて観光しに行こ〜♪……あり?陽ちゃん顔真っ赤だけどどうしたの?」
「うぇあ!?な、ななな何でもないですよ!?うん、何でも!じゃあ荷物預けに行きましょうか!」
翔が変なメッセージを送ってくるから咄嗟にスマホの画面を隠すようにして慌ててしまった。全く、ただでさえかわいい先輩と3日も一緒にいるというのに、翔のせいで変に意識してしまうじゃないか。……果たして僕の理性と心臓は持つのだろうか?心の中の狼に首輪を付けながら、こうして、僕と先輩の観光は幕を開けた。




