幕間その1 救えるのは俺じゃない
翔視点の幕間です。
「急に相談したいことがある、って言われて来たけど、どうしたの?」
今日は土曜日で大学は休講日だ。でも、大学のカフェテリアは年中利用できるため、俺は先輩に相談したいことがあるといい時間を作ってもらった。普段なら柔らかい雰囲気で笑顔の絶えない人ではあるが、この時ばかりは俺の雰囲気を読み取ってか真剣な表情で、真面目に話を聞いてくれようとしていた。
「……単刀直入に聞きます。先輩、最近のあいつ…………陽太についてどう思いますか?」
「…………。いつも通りだよ、って言いたいけど、最近は何だか無理をしているような気がするな。笑顔もどこかぎこちない感じがするしね。」
やはり、先輩もアイツの様子がおかしいことに薄々勘付いていたようだ。言ってないから当然だけど、先輩は陽太の代償を一切知らない。アイツが先輩には言わないと決めた以上、俺の口から言うことは決してないし、先輩もあえて聞かないようにしているのは薄々俺もわかっている。しかし、先輩は普段の言動とは裏腹に、周囲の人をよく見ている人だ。だからこそ、今の陽太が無理をしていることに気がついたのだろう。だったら、あの時公園でアイツをサポートすると決めた俺が取れる行動は一つだけだ。
「先輩、すごく失礼なことは承知の上で頼みがあります。何も言わずにアイツの……、陽太の心を救ってくれませんか。」
「…………カケルっちは、なんで陽ちゃんが無理をしているのか理由を知ってるんだよね?その理由は聞かせてくれないのかな?」
「アイツが無理をしている理由は…………言えません。それは、俺の口から先輩に言うことではないと思うからです。」
「……一つ、一年だけとはいえ年上として、先輩として少し厳しいことを言うね。さっきカケルっちが自分で言ったとおり、助けてあげてほしい、でも理由は言えない。これはね、お願いをする人としてはとても失礼なことだよ。それがわかっているのに、私にお願いするの?」
「……先輩の言うとおりです。筋が通らないことをしてるのはわかっています。本当なら俺が、自分でアイツの助けになりたい。でも、俺はアイツに寄り添う理解者にはなれるかもしれないけど、救うことはできないんです。だけど、陽太のことを好きでよく見ている先輩なら、アイツを救うことができる救済者になれるんです。だからお願いします。アイツを……陽太を助けてあげてください。」
そう言って俺は先輩に頭を下げた。先輩の言うとおり、俺はお願いする立場としてすごく失礼なことをしている。例え断られたとしても、俺は何も言えないし、言える立場ですらない。
どれくらい頭を下げていただろうか。しばらくすると先輩の口からフフッと微かな笑い声が聞こえ、視線を先輩に向ける。
「頭を上げてカケルっち。陽ちゃんのことなら断るわけないし、そもそも他ならぬカワイイ後輩がこんなに必死に頼み込んでるのに、断る理由がないよ。」
先輩の顔には、優しい笑みが浮かんでいた。まるで全てを受け入れるかのように。
「私だって、今の陽ちゃんは見てられないもん。カケルっちに頼まれなくたって何かしようとしてたんだよ?だから安心して。私も、何とか頑張ってみるから。それと、さっき私が陽ちゃんのことを好きでって言ってたけどそれは違うよ。」
一拍おいた後、先輩は満面の笑みでこう答えた。
「陽ちゃんのことが好きなんじゃなくて、大好きなんだ!」
やっぱりこの人に頼んでよかった。今の陽太は分厚い雲に覆われているような状況だ。強烈な太陽みたいなこの人なら、何とかしてくれるはずだ。
「大丈夫!お姉さんにまかせて!それに……ちょうどタイミングがよかったよ。フフフ…………我に秘策ありってね!」
先輩はその場に勢いよく立ち上がりながらガッツポーズを取る。最後はいつもの先輩だった。でも、そのいつもの姿が何だか頼もしい年上に見えた。




