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可能性の選択  作者: 桃鍋
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第5章 リカバリー

第2幕はこれにて閉幕となります。

 あれから僕は、翔がくれた眼帯を毎日着けていた。さすがにアパートにいる時は外しているけど、外に出るときは必ず着けている。ちなみに、バイトの時はどうしているかと言うと、店長には申し訳ないけど少し前に辞めたんだ。やっぱり右目が見えない状態で飲食店で働くのはリスクが大きすぎる。今は在宅でできるデータ入力のバイトをしている。今日も引き受けた入力作業をしていて、顔を上げた時に、ふとカレンダーが目に止まった。

「…………そうか。ちょうど今日で1ヶ月か。」

 そう、僕が右目の視力を失ってちょうど1ヶ月が経過していた。あれからセレクターの力は使ってない、というかボードは出てこなかった。深層意識で嫌だと思ったことに対してボードが出現し、選択肢を選んで世界を変えることができるこの力だが、もしかしたら僕も、大きな代償を払ってからは無意識に深層意識にセーブがかかるようになったのかもしれない。これ以上力を使わないで済むのなら、怪我の功名と言えるかな?

「ちょうどキリのいい所まで入力し終えたし、少し散歩にでも行こうかな。」

 思いっきり伸びをしたら背骨がボキボキと鳴った。思ったより集中して作業をしていたからか、身体が凝り固まっている。眼帯を右目に着け、財布を持ったら扉に手をかける。せっかくだし少し遠出をして、久しぶりに商店街でも行こうかな。どうせだから翔も誘うことにして、僕たちはアーケードの入口で待ち合わせることにした。

――――――――――――――――――――――――

「久しぶりに来ると結構見るものがあって面白いよね。」

「まぁ、普段来ない人間からしたらこの雰囲気は新鮮だよな。」

 合流した僕たちは商店街のアーケードをゆっくりと散策していた。確かに翔の言うとおり、普段商店街に来ない僕たちから見たら目に映るもの全てが新鮮である。

「おっ、あそこのお肉屋さんでコロッケ売ってる。せっかくだし食べようぜ!」

「ちょうど小腹も空いたしいいんじゃないか?値段も一個80円って、このご時世相当安いし。」

 コロッケを買った僕らは近くのベンチに腰掛け、おやつタイムにすることにした。コロッケを食べながら翔が僕に聞いてくる。

「そう言えば、お前の力……セレクターだったっけ?あれから一度も使ってないのか?」

「うん。ハフハフ。あれから全然ボードは出てこないし、使ってないよ。ごくん。もしかしたら片目の視力っていう大きな代償を支払ったから、力自体が無くなったのかもしれないね。」

 まぁ、これは僕がそうであって欲しいと思っているだけの、ほとんど願望に近いものだけど。

「ま、いずれにせよ元々なかった力なんだから、何もないに越したことはないさ。」

 そう言った僕は食べ終わったコロッケの包みをクシャクシャに丸め、ゴミ箱にバスケットボールのように投げる。全然飛距離が足らなくて、ゴミは勢いよく外れてしまった。仕方なくゴミを拾い上げ、ゴミ箱まで近づいて入れる。チクショウメ……。

「気を取り直して、食べ終わったしそろそろ移動しようぜ!」

 ちょうど翔も食べ終わったようだったから、僕たちは再びアーケード街を進んで行った。

――――――――――――――――――――――――

 しばらくアーケードを歩いていると、いかにもって感じの古本屋を見つけた。翔が探している文庫本があるか見たいと言うから、少し寄ってみることにした。と言っても僕はあまり本を見ないから、入ったところで見るものもないんだけど、今日僕の気まぐれに付き合ってくれてる翔が見たいと言ってるんだし、断る理由がない。何か僕でも読めそうな面白い本はないかなと中をブラブラしていると、一冊の黒い本が目に止まった。背表紙には“悪魔の伝承”と書いていて、周りの本と比べて異彩を放っている。ゴクリと生唾を飲み込み、恐る恐る本を手に取り適当にパラパラとページをめくる。あるページで手が止まった。

『古今東西、世界には悪魔の痕跡が多数残されている。その中でも特に恐ろしいのが悪魔の力と呼ばれるものである。悪魔は基本的に召喚した人間と契約を交わし力を与えるが、ごく稀に次元の裂け目から無理矢理人間に力を授けることがある。このような野良の悪魔の契約は拒むことができない。そして、基本的に悪魔の力は授かった人間が死ぬまで…………』

「陽太、俺何冊か本買ったけど、何か面白い本でも見つけたか?」

 翔に声をかけられた僕はパタンと本を閉じ、元あった場所に戻した。翔の方を振り返り、笑顔で言葉を返す。

「ううん、特に何も無かったよ。」

――――――――――――――――――――――――

 本屋を出てからもアーケードを散策し、ボチボチ日も暮れてきたからそろそろ帰ることにした。周囲の行き交う人たちも、その腕に買い物袋をぶら下げている人が増えたように思う。近所の人が夕飯の材料を買いに来てるのかもしれない。昼間とは違った雰囲気になっていて面白い。

 二人で明日の講義のことを話しながら来た道を戻っていると、頭上から何か嫌な音が聞こえてきた。僕たちは足を止めお互いを見る。ピシピシと何かがひび割れていくような音がし、その音はだんだんと大きくなっていく。数秒もしないうちにバリィィィンと甲高い音が鳴り、僕達の十数メートル先にあるアーケードのガラス天板が勢いよく割れ、ガラス片が勢いよく降り注いでいく。突然の出来事に世界がスローモーションに見える。細かいガラス片もあるけど、基本的には鋭利で大きなガラス片が無数に振り注ごうとしている。ガラス片の落下予測地点には目視できるだけでも3人おり、このままでは間違いなく大怪我を負うか、最悪大きなガラス片が刺さって死ぬかもしれない。この距離じゃとてもじゃないけど間に合わない。マズイマズイマズイ!

 そう思った瞬間、スローモーションに感じていた世界は完全に停止した。隣を見ると僕と同じく身を乗り出そうとしていた翔も止まっている。僕以外の全てが停止しした世界で、頭の中に二度と見たくないと思っていたボードがゆっくりと出現した。

『蜴溷屏繧貞、峨∴縲∽サ」蜆溘r謾ッ謇輔≧縺後>縺 

 A.メンテナンス繧偵@縺ヲ縺翫j、そもそもガラスが割れない世界。

 B.3人が死に、5莠コ縺碁㍾霆ス蛯キを負う世界』

 あの時は絶対にAを選ばせるように、もう片方の選択肢だけがありえないくらい文字化けしていたけど、とうとう全体的に読むことすら困難になっていて、更に悪化していた。だけど、判断をするために必要な部分だけはしっかりと読むことができる。まるで選択を誘導されているようだ。だとしても、Bの選択肢に明確に3人死ぬと書いている以上、どの道僕に迷いはなかった。瞬間、脳を直接鷲掴まれ振られるような不快感と強烈な頭痛が僕を襲う。息ができない。世界が書き換わっていく感覚が嫌でもわかる。

「っ!ハァハァ……!」

 やっと息ができるようになり、僕はその場で膝に手を付き荒い呼吸をしてどうにか空気を取り込んだ。額には大量の脂汗が滲んでいる。

「おい、どうした!?突然息を荒らげて!まさか…………!」

「ハァハァ……うん、セレクターが発動した。ハァハァ……そこのガラス天板が割れて、3人死ぬって書かれてて、それで………………」

「……っ、何を持っていかれた?」

「分からない。あの時は右目だけがすぐブラックアウトしたから分かりやすかったけど、今のところは何も。」

 ただ、あの時は男の子1人の命だったけど、今回は最低でも3人の運命を変えている。薄らと5っていう数字も見えたけど直後が文字化けしていてよくわからない。それ相応の代償を支払っていることは間違いないだろう。

「クソッ!陽太、とりあえず商店街を出るぞ。歩けるか?」

「大丈夫。歩くことはできるみたい。」

 一先ず僕たちは商店街を後にし、近くのファミレスに立ち寄ることにした。

――――――――――――――――――――――――

 ファミレスでドリンクバーを頼んだ僕たちは無言で席で向かい合っていた。だいぶ呼吸が落ち着いた僕は、翔にセレクターが発動した時の状況を説明した。

「とりあえず、お前の説明を聞いてわかったことがある。変えた世界はお前しか知覚することができない。俺にはアーケードのガラス天板が割れて降り注いだ記憶が無いからな。」

「うん、薄々勘づいてはいたけどやっぱりそうみたいだね。」

 だからこそ、翔が僕の見た事を聞いて信じてくれることが、何よりもありがたい。

「代償も今のところわからないんだよな?」

「だね。左目もちゃんと見えてるし色もわかる。耳も左右どちらも聞こえてるし、ジュースを飲んでも味がわかる。もしかしたら今回は五感じゃないのかもしれないね。」

「……ある意味一番タチが悪いじゃねぇか。」

「でも逆に考えると、ここまでわからないってことは、今と同じ生活はできるってことかも……っとごめん。ちょっと僕トイレに行ってくる。」

 そう言って僕は席を立ち、トイレに向かった。用を足し、手を洗いながら鏡を見る。言葉を途切れさせてまでトイレに入ったのは、代償が未だわからないことで胸の奥底からイライラが抑えられなくなりそうだったからだ。

「クソッ!」

 溢れるイライラした気持ちのままに、思わず壁を強めに叩く。ドンッと鈍い音が響いた。翔の前では頑張って抑えようとしていたけど、代償がわからないストレスは、思っていたよりも僕を参らせていたのかもしれない。段々と頭が冷静になってくると、ある違和感に気がついた。

「……僕、今結構強めに壁を殴ったよな?」

 壁に拳が触れているのはわかる。強めに殴ったことを証明するように、触れている面が段々と熱を帯びてきているのもわかる。でも、本来なら最初に感じるはずの、あるはずの感覚がなかった事に気づいてしまった。代償って……こんなものまであるのかよ。僕はフラフラと席に戻り、翔が心配して声をかけてくる。

「陽太、どうした?顔が青ざめているぞ?」

「翔…………代償がわかったよ。…………これじゃ直ぐにわからないはずだよ。」

 翔が息を飲み、目を見開く。僕は両手で顔を覆いながら言葉を続けた。

「痛み………………痛みを感じなくなっていた。」

 痛覚の消失。僕の世界から、永遠に痛みが消えてしまった。

世界はセレクターで修復された。

陽太は永遠に修復不可能な代償を払った。

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