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可能性の選択  作者: 桃鍋
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第2章 親友

 翌日、土曜日の昼下がり。僕は翔と公園のベンチで待ち合わせていた。そう、3週間前にセレクターで子供を助けることができたあの公園だ。

「翔は……まだ来てないか。」

 時計を見る。約束の時間まで後30分くらい。いつもなら、翔は先に待ち合わせ場所にいて、「遅せぇよ!」って言われるから、多分「お前が遅刻していないなんて」とか言ってくるんじゃないかな。

「っと、右目ちゃんと人から見えないようになってるよな。」

 そう呟いて少し前髪をいじった。元々長めの前髪を右側に流していたが、この3週間で伸びたことでほぼ完全に右目を覆い隠すことができるようになった。こうすることで、変化のあった右目を見られることもないんじゃないか、という希望もあるんだけど。そうこうしているうちに約束の時間5分前に翔がやってきた。

「……よぅ。」

「久しぶり。悪いね、急に呼び出したりして。」

「別に、お前の行動が急なのは今に始まったことでもないけどな。」

 そう言って翔はフッと笑い肩を竦めた。よかった。3週間ぶりに会ったけど、いつも通りの翔の反応だ。

「それで、話してくれるんだろ?何で3週間も失踪していたのか、その理由を。」

「うん。でもさ、その前に見て欲しいものがあるんだ。」

 そう言って僕は右手で前髪を少しかき上げ、隠れていた右目を見せる。それを見た翔が驚いて息を飲んだ。

「お前、その目!」

「うん、こんなことになっちゃってさ。右目が完全に見えていないんだ。」

 露わになった僕の右目、その瞳部分は白濁していた。昔なにかで写真を見た白内障の瞳のように。

「信じられない話かもしれないけど、聞いてくれないかな。なぜ僕がこうなったのかを……。」

 驚いた表情のまま固まっていた翔だったが、しばらくして歯を食いしばりながら絞り出すように答えた。

「……………………わかった。聞かせてくれ。」

――――――――――――――――――――――――

 僕は翔に全てを話した。路地裏で空間の穴みたいなものを見つけて、突然変な力を手に入れたこと。調子にのって力を本当にどうでもいいことに乱用したこと。力の発動条件。初めて時を遡り、味覚に異常が出たこと。先輩から聞いた本に書かれていたオカルト話。そして、3週間前にこの公園で、男の子を助けるために二度目の時間遡行をし、その瞬間、右目の視界がブラックアウトし、完全に見えなくなったこと。

「…………………………………………。」

 翔は話を聞いている間ずっと黙っていた。しかし、ただ黙っているだけではなく、組まれた両手の拳は固く握りしめられていた。

「まぁそんな感じで、片目でも何とか慣れて普通に生活できるように、死ぬ気で訓練していたってわけ。これが今日までに僕の身に起こった全てだよ。」

「……………………………………………。」

 翔はまだ黙っていた。まぁ、無理もないか。大学に入ってからの仲とはいえ、一番つるんでいるやつがこんな荒唐無稽なことを事実のように言ってきたんだから。多分僕が翔の立場だったら真っ先に頭が大丈夫か疑うだろう。ややあって、翔の重い口が開かれる。

「……にわかには信じられないな。でも、先にお前のその右目を見てしまったからな。お前の作ったフィクションや妄想とも言えなくなってる。だからこそ、一つだけ聞かせてくれ。……なぁ、陽太。お前は力を使って、この公園で子供の命を救ったって言ったよな。……………………後悔……してはないのか?」

「……うん、後悔はしていないよ。あの時選ばずに、男の子を見捨てていた方が、もっと後悔したと思うから。右目のことも……最初はショックだったけど、なってしまったものはしょうがないから。これからは納得して向き合っていくことにしたよ。」

「そうか………………わかった。当事者のお前がそういうんだったら、俺はこれ以上何も言わないよ。言わないようにする。だから……これだけは言わせてくれ。」

 そう言って隣合ってベンチに座っていた翔は立ち上がり、僕から見て左寄りの正面に立った。

「多分お前のことだから、3週間前と似たような状況になったら、迷いなく力を使うだろうな。だから、もしまた何かの代償を支払ってしまったら、真っ先に俺にも言え。」

 ビックリした。てっきり信じてもらえないと思ってたのに、まさか翔がこんな事を言ってくれるなんて。

「…………俺だって、“親友”が一人で抱えて苦しむ姿なんか見たくないんだよ。だから、わかったな!」

 そう言って翔は照れくさそうにそっぽを向きながら右拳を僕に突き出してきた。翔の言った親友が嬉しかったのと、気にかけてくれる言葉が嬉しくてニカッと笑った僕は、出された右拳に対して左拳を突き出し応える。

「おう!約束だ、“親友”!」

 コツンと僕達の拳がぶつかる。ふと空を見上げると、分厚い雲に覆われていた空には、いつしか晴れ間が刺していた。

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