教会バザーの準備と旦那様の同行
「司祭様、来週の教会のバザー催しの準備はいかがですか?」
「はい、皆張り切っています。
ハンカチの刺繍も目標より多めに仕上がりそうです」
「そうですか、良かったです。無理はしていませんよね?」
「ええ、大丈夫です。ちゃんといつも通りの時間に寝かせています。
あの、本当にありがとうございます。経営状態も持ち直しておりまして、
国からの補助金だけでは補えなかった所も、本当に助かっております。
お陰様で、支援や寄付の申し出も多数あり、老朽化した孤児院施設の
修理も出来ます」
「そういうのは、どんどん甘えましょう。
貴族は裕福ですし、彼らの外面の矜恃も保てるでしょう」
「はははっ、そうですね。思いの外、農業の手伝いが楽しかったようで、
将来農夫になりたい子が多くいて、農家の方々も感謝しておりました」
「まあ、では農作物や土質作りついても授業を増やしましょうか?
農夫の方に、教師役でご享受いただいて…」
「おお、それはいいですね!でも、益々お忙しくなるのでは?」
「1つや2つ増えた所で変わりませんわ」
慈善事業で資金を集うバザーは、教会にとっても大事な収入源だった。
そこで、毎回私のレース編みアクセサリーも売り出すことにした。
最近は、レースにカラフルなビーズを編み込んで、
少し豪華な物も増やしている。
一時の流行に怠惰にならず、飽きられないよう工夫をし続けなくては。
* * * * * * *
「アーディヴェルテ侯爵夫人、お帰りですか?」
司祭との打ち合わせを終え、教会内を歩いていると
後ろから声をかけられ振り向くと、無料教室の教諭の一人、
アレックス・フォスナー先生。
明るい茶髪で、濃いグレーの瞳の人当たりの良い好青年だ。
「フォスナー先生、ご機嫌よう。
ええ、バザーの打ち合わせでしたの」
「そうですか、相変わらずお忙しそうですね」
「そうでもないわ。楽しいもの。今日は授業ですの?」
「はい、先ほど終わりました」
「ご苦労様です。先生の授業、子供たちに評判ですのよ。
すごく分かりやすいって」
「それは…光栄です。教諭の資格を得た甲斐がありました」
「あなたのような優秀な方が、来てくれて幸運でした。
感謝しているのは、こちらですわ」
ふんわり笑う彼女の笑顔にドキリとする。
ああ、彼女の夫が羨ましい。
浅ましくも内心で、顔も知らぬ侯爵に嫉妬してしまう。
面接で初めて会った時から、彼女に好感を持っていた。
貴族らしくない、誰にでも平等で気さくな彼女に、会うたびに惹かれていった。
自分には不相応すぎて、いくら伸ばしても手の届かない女性だというのに。
* * * * * * *
「明日は教会のバザーだったね?」
「はい。明日は早く出るので、朝食はご一緒できません」
「ああ、それだけど、私も同行する」
「……お忙しいのでは?」
「午前中だけ休みを貰った。
それに領主として、バザーの様子に立ち会いたくてね」
「左様ですか。では、私は準備があり早く出るので、
旦那様は、後からゆっくりいらっしゃってください」
「いや、一緒に行こう」
「……ぇ………はい、わかりました」
ああ、息苦しい。
使用人の前で断りにくい中、仕方なく了承する。
何の心境の変化なのか、最近距離を縮めようとしてくるのだ。
領地経営を私が積極的にこなしているのが、好感触だったのだろうか。
その後は、いつも通り会話も弾まず、
黙々と味のしない朝食を口に運んだ。




